【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 絶望が目の間にあった。

 無数の眼球が埋め込まれた肉の柱が無数に蠢く。地盤に根を張り、悍ましい視線をオルガマリーへ向けた。

 

「……ダメ、勝てない。手が足りない、勝ち筋がない!?」

 

 詰みだ。どうしようもなく。

 物理的に手が足りない。圧倒的に戦力が足りない。七十二柱の魔神を同時に相手取るだけの基盤がないのだ。

 

「だとしても諦めない!」

「……戦います。たとえ勝機が見えずとも!」

 

 眼光、炯眼。光が閃く。文字通りの()()がカルデアを襲った。

 絶望に抗うため気炎を上げる藤丸とマシュ。盾を構えたマシュが前に出、魔神柱の蠢く眼球から放たれる光線から藤丸とオルガマリーを守った。

 マシュの奮闘でまだ時間は稼げている。だがそう長く保つまい。

 

(なんとか、なんとかマシュが稼いでくれる時間を使って手を考えなきゃ――)

 

 考えて、考えて、考えて――何も思いつかない。思いつくはずがない。

 

(無い! そんな都合のいい手、あるはずがない!)

 

 当たり前の話だ。オルガマリーは天才でも、英雄でもない凡人だ。彼女の本領は地味でつまらない作業でも淡々と、腐らずに、真摯に積み上げられるその誠実さ。窮地に追い込まれた程度で、逆転の秘策を閃く才人ではない。

 

()()()! 誰か、誰でもいい、お願いだから――!」

 

 だから彼女は当たり前にできることをした。

 諦めなかった。

 抵抗の意思を示した。

 ”誰か”に助けを求めたのだ。

 

「なんという無様、なんと目障りな。己を識り、消え失せろ。それが私の与えるせめてもの慈悲だ」

 

 情報室の魔神柱を統御するレフがその姿を嘲り笑う。同時に胎動する魔力が際限なく高まっていく。

 

(だとしても今の私にはこれくらいしか思いつかない……っ)

 

 無駄に終わるかもしれない。だが無意味ではない。

 助力を求める叫びは天へ向かって振り上げられた拳、まだ諦めていない意思の証明なのだから。

 

「塵芥と化せ。貴様の不愉快な顔もこれで見納めと思えば心が晴れる」

 

 凝視、まばたき。

 無数の眼球が焦点を合わせて放たれる極大の熱線がオルガマリーを狙う。サーヴァントだろうと焼き尽くす熱量の放射が業火の雨と化して降り注いだ。

 

「姉さん、逃げ――」

 

 キングゥが咄嗟にその破壊から逃がそうと足掻くが、時既に遅し。

 辛うじて張られた金色の鎖による障壁は薄紙のように破られ、カルデアを蒸発させるだろう。

 

「――助けてと、あなたは言いましたね」

 

 瞬く間に迫る滅びの光にも目を逸らさず立ち続けるオルガマリーに声が届く。

 優しい声はその背中をそっと押し、聖なる輝きで彼女を守る。

 

「ええ、ええ。もちろんです。オルガマリー、カルデアの長。先に生き、先に死んだ私達が、最新の人類であるあなた達にどうして手を貸さない道理があるでしょうか」

 

 その輝きの名は我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)

 ごく自然な足取りで彼女の前に出て旗を掲げる英霊の名はジャンヌ・ダルク。第一特異点にてカルデアに助力した救国の聖女だった。

 

「ジャン、ヌ……?」

「はい。ルーラー、ジャンヌ・ダルク。カルデアへ助力するために罷り越しました。ふふ、大きくなったあなたと出会うのは初めてですが……やはりあなたはオルガマリーですね。それだけははっきりと分かります」

 

 懐かしい聖女の声。彼女は怯える幼女形態(オルガリリィ)の彼女へ何度となく気遣いの声をかけてくれた。

 優しく、そのくせ頑固な聖女が要塞のようにゆるぎなく笑っていた。

 信じられない光景に幻覚かと目をこするオルガマリーが思わず彼女へ問いかける。

 

「そんな、どうやってここに……?」

「呼んだのはあなたでしょう? そして私だけではありません。いいえ、あなた達カルデアと縁を紡いだ英霊がみなこの地に集って来ています!」

『……奇跡だ。ジャンヌだけじゃない。特異点各地で無数の召喚術式が起動している! 触媒も召喚者もなく、ただ一度巡り合っただけの細い縁を辿って彼らは助けに来てくれたんだ!!』

 

 ロマニが驚愕を叫ぶ。彼が叫んだ通りいま特異点のあらゆる場所で英霊が集い、戦っていた。

 だがこれはけして奇跡ではない。必然だ。

 繰り返そう、オルガマリーは天才ならざる凡人であり、その本領は腐らず、焦らず、真摯に積み上げられるその誠実さ。ならば七つの特異点を踏破する中で積み上げてきた絆が――英霊達がその呼びかけに応えないはずがない!

 

『霊基反応、十、二十、三十――まだ増える! 凄いぞ、全ての座で魔神柱達を抑え込んでいる。どころか圧倒している! これなら――』

「玉座まで辿り着ける!」

「行きましょう、所長! 今度こそ魔術王と決着を付ける時です!」

「ええ! 藤丸、最高速度でかっ飛ばして!!」

「了解です!」

 

 万軍よりも心強く、頼もしい援軍にカルデアも士気を盛り返す。

 

(いる訳……ないわよね)

 

 一瞬。ほんの少し。本物の奇跡を期待してしまった己を恥じ、オルガマリーは前を向いた。

 破壊を免れた多目的バギーに乗り込み、再び玉座へ続く道を駆け始める。最後に大きく手を振りながら去っていく彼らを見てジャンヌもまた笑うと魔神柱に向き直った。

 その隣には元帥が、王妃が、音楽家が、処刑人が、守護聖人が、黒騎士が、吸血鬼が……第一特異点で肩を並べ、矛を向け合ったサーヴァント達が並んでいる。その威容、なんと頼もしい事か。

 

「行きなさい、そして生きなさい。私達も人類ではなく、あなた達の未来を守るために戦いましょう」

 

 人類の未来を取り戻すため、そしてそれ以上に大きな縁を紡いだ者達の祈りに応えるべく英雄達は決戦の地に集う。 死の苦痛を知りながら、そしてもう一度死ぬことが不可避の苦境と知っていても。

 極天の流星雨が降り注ぐ。七つの特異点を駆け抜けた果てに紡いだ絆がいまカルデアを玉座へと送り届けた。

 




 なお誰にも聞かれてない裏話。
 このお話では元々カルデアが各特異点の英霊達達からエールを受けて玉座へ走り去った後、エレシュキガルとその槍が会話する場面が予定されてた。

 その槍の名はキガル・メスラムタエア。カルデアのアーチャーとしての記憶を持たない、だが確かに冥府の副王の意識を宿した槍である。

 なお展開をスムーズかつスリムにするため出番カット(無慈悲)。
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