【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 七つの座を停止させ、こじ開けた入り口から空間断層を潜り抜け、玉座の間へ至る途上にて。

 オルガマリー達はロマニの推測を聞いた。すなわちソロモン王を騙る()()の正体。ソロモン王を名乗りながらソロモン王ならばありえない所業。キングゥの同類、ソロモン王の遺体に巣食った何者か。それこそが玉座に待ち受ける者の正体だと。

 全ては玉座の間で明らかになるだろうとの言葉を最後に、カルデアとの通信は切れた。

 

 ◆

 

 ソロモンが座す玉座、特異点の中心部にあたる空間。

 そこは天に輝く光帯が白亜の玉座を照らす静謐な世界だった。静寂に包まれた世界でただ一人高みに創られた玉座に佇む王は侵入者であるカルデアを睨みつけた。

 

「ようやく会えたわね。魔術王を騙るナニカ」

「…………」

 

 オルガマリーからの呼びかけに魔術王はただ心底から不快そうにジロリと目を細めた。

 

「よくぞ来た、などと言うまい。来なくて結構。特異点の片隅で躯を晒せばいいものを。流石元とはいえあの男のマスターだ。私を不快にさせる才能は勝るとも劣らぬ」

「……前も言っていたわね。あなたは何故アーチャーにこだわるの?」

「思い出すのも不愉快な過去を何故敢えて語らねばならない? 最後の慈悲だ。この世界から消え失せろ、カルデア」

「もちろん断るわ」

「そうか。予想通りの答えをありがとう。実に不愉快だ」

 

 予定調和の如きやり取りを終える。ソロモンは玉座に座ったままだが、渦巻く魔力の胎動は一層強まった。ビリビリと世界を震わせる程の、途轍もない魔力だ。

 

「ではわが手にかかり速やかに死に給え。それ以上君達に用はない」

 

 玉座に座ったまま片手を上げる。ただそれだけで空間が鳴動する程の魔力が蠢いた。

 その背後から莫大な霊的質量を備えた魔神柱が出現しようとする。恐らくはかつてロンドンで使役してみせた御使いの四柱か。

 

「その前に聞きたいわ。あなたの目的は何? 人類史を燃やし尽くして生み出したその光帯で何をするつもりなの?」

 

 このまま戦ってはダメだとの予感に従い機先を制して問いを投げる。そしてその問いは王が手を止めるだけの興味を引くだけのものがあった。

 

「……なるほど。腐ってもアニムスフィアの才女か。我が光帯の正体を見透かすとは」

「計算上地上に存在しえない熱量(エネルギー)。そんな代物の出所を考えれば答えは一つしかない。それだけよ」

 

 ほんの少しだけ、気のせいかと思えるほどわずかな時間感心の色が視線に宿る。オルガマリーはその視線に毅然と胸を張った。

 一方話についていけない藤丸が訝し気に問いかける。

 

「所長、どういうことなの?」

()()()()()()()。人類史を燃やすために光帯を生み出したんじゃない。人類史を燃やして光帯を構成するエネルギーを確保した。つまり人理焼却は彼の計画に必要なプロセスの一部に過ぎない」

「然り。光帯とは人類が営々と積み上げ続けた生命活動と文明を焼き尽くし、一滴残らず絞り出した熱量に等しい。つまりは惑星の情熱、人類(オマエタチ)そのものだ」

 

 ニィ、と獣じみた乱杭歯を剥き出しにして王が笑う。

 これこそ人類史を最も有効に悪用した大災害の裏側。魔術王の企みの表層だ。

 

「我が偽りの名を暴いたこと。そして光帯の正体を見破ったこと。いずれも評価に値する」

「……永遠を目指すと、かつてあなたは言ったわね。答えて。あなたの目的を」

「その問いに答える前に、君の慧眼に褒美を取らせよう――我が真体拝謁の栄誉を与える。この鬱陶しい皮を脱ぎ捨てるのに丁度いい頃合いだったのでね」

 

 ソロモンが、否、ソロモンを騙る何者かが玉座からゆっくりと立ち上がり……崩れ落ちた。否、無用の抜け殻を剝ぐように()()()と中身が抜けだしたのだ。

 その莫大な魔力を宿した不定形の霊体はやがてソロモンと全く異なる姿へ受肉しようとしていた。

 

「光帯よ、玉座を照らせ。我が真体を知らしめ、大偉業の始まりを寿ごう」

 

 理知的な声だった。深みのある、落ち着いた声音。だがその裏側には世に倦み、失望した者の怒りが込められている。

 空間が鳴動する。

 静謐と秩序に満ちた白亜の玉座を擁する空間が魔神柱に侵食されていく。晴天は暗黒に覆われ、光帯が禍々しい光を宿し、世界を照らした。

 

「顕現せよ、祝福せよ。ここに災害の獣、人類悪の一つを為さん」

「やっぱり人類悪――ビースト!?」

 

 ティアマトの同類にして別種。人類が生み出す淀みから生まれる自業自得の自滅機構(アポトーシス)。人類が滅ぼすべき悪。

 その一つ、原初のⅠが顕現する。

 

「カルデアの長よ。お前は私をソロモンを騙る者と呼んだな。それは正しくも誤りだと訂正しておこう。

 私はソロモンの影。魔術王の分身であり、魔術王が創り出した機構であり、おまえたち魔術師の基盤として創り出された最初の使い魔。

 ソロモンと共に国を統べるも、ソロモンの死をもって置いていかれた原初の呪い。

 ソロモンの遺体を巣とし、その内部で受肉を果たした“召喚式”。

 我が名は──」

 

 魔力が(こご)る。

 莫大な霊的質量を備えた魔神柱同士が絡まり合い、縺れ合い、捏ね合わさって無理やり一つのカタチへと収束していく。

 

「魔術王の名は捨てよう。もう騙る必要はない。私に名はなかったが、称えるのならこう称えよ。真の叡智に至るもの。その為に望まれたもの。貴様らを糧に極点に旅立ち、新たな星を作るもの。七十二の呪いを束ね、一切の歴史を燃やすもの」

 

 今カタチを取らんとする存在の強大さよ。

 疑う余地なき、倒すべき敵である。それでも偉大としか言えないその威容を、カルデアは絶句とともに仰ぎ見た。

 

「即ち、人理焼却式──魔神王、ゲーティアである」

 

 人型のシルエット。だがその姿を見て人と見紛う者はいるまい。筋骨隆々とした白と黄金の肉体を持ち、陥没するように裂けた胸部から赤く大きな眼球が覗く。頭部には枝のように伸びる無数の黄金の角を有した、恐ろしくも神々しい姿の怪物がそこにいた。

 




 ソロモン戦はダレるので省略。
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