【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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「魔神王、ゲーティア……」

 

 呆然と呟く。人ならざる人型の異形。だがその強大さはまさに神に等しき存在と言わざるを得ない。

 彼我の戦力を蝋燭と太陽にたとえたキングゥの比喩は正しかった。

 今のカルデアは燃え盛る太陽を前にした蝋燭に等しい――即ち、ゲーティアがその気になれば寸毫も保たず消滅する。

 

「お前達もようやく理解したようだ。私に抗う無意味さを」

 

 ただ在るだけ。ただ佇んでいるだけで圧倒されてしまう格の差。比較するだけで絶望の淵に叩きこむだけの絶対的なモノがそこにあった。

 息が止まる。

 血の気が引いていく。

 次元が違う重圧に平衡感覚が失われ、足元がふわふわと頼りない。

 オルガマリーの膝が崩れかけたその時、

 

「だからどうした!」

 

 その諦観を踏み越える声が響く。

 

「勝ち目がないなんていつものことだ。ちょっとくらい敵が強くたって、俺達は諦めない!」

 

 藤丸だ。オルガマリーと同じものを見て、感じて、それでもまだ負けていないと叫んでいる。それがどれだけ絶望的なものだと理解しても。

 その証拠に彼の膝もまた笑っている。眦には涙すらあった。だがその姿を笑う者はいないだろう。

 言葉には魂が宿るという。ならば藤丸が叫ぶそれこそ言霊と呼ぶのだろう。オルガマリーの崩れかけた膝に力を取り戻した。

 

「驚くべき敢闘精神だな。だが無意味だ」

 

 持ち直したカルデアの意気を挫くようにゲーティアが淡々と両手を天に掲げた。

 バチン、バキンと空間が弾け、砕ける音が鳴り響く。

 光帯だ。

 人類史を焼き尽くし、束ね上げた莫大なるエネルギーが空間を軋ませる。それは立て直したカルデアの意気を無理矢理挫き、物理的に膝を折らせる程の圧力を伴っていた。

 

「諸君に付き合うのはもう飽き飽きだ。我が第三宝具、誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サルモニス)で原子の塵と化すがいい」

「……私はまだ貴方の言う褒美とやらをもらっていないのだけど?」

「時間稼ぎのつもりかね? まあいい。既に我が宝具は装填された。そして私は人類と違って己の言葉を反故にする趣味はない」

 

 魔力の胎動が止んだ。だがあくまでほんのひと時、語り終えるだけの時間宝具の発動を先延ばししたに過ぎない。

 その気になれば次の瞬間にでも人類史を束ねた熱量収束砲がカルデアを襲うだろう。

 

「魔術王ソロモン。奴は過去と未来を見通す千里眼の持ち主。そしてその影である我らもまた同じ世界(モノ)を視た――うんざりするほどな」

 

 吐き捨てる。ただ一言に嫌というほど忌々しいという感情が籠っていた。

 

「悲劇、悲劇、悲劇だ! 多くの人類が迎えた結末を視た。もうたくさんだ。もう十分だ。何故我らが人類などという醜悪な生命の愚行にこれ以上付き合わねばならない。

 我々は議論の末にこの結論に至った。消滅以外の結末を持ちえない人類は不要、私が求めるべきは健やかな知性体を育む完全な環境だと」

「この惑星は間違えた。終わりある命を前提にした狂気だった」

「私は極点に至る。46億年の過去に遡り、この領域に惑星が生まれる瞬間に立ち会い、その全てのエネルギーを取り込み()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それこそがゲーティアの掲げる大偉業。世界を壊し、世界を創る。まさに全能の神でなければ為し得ない大事業だ。

 

「我らの手で創世記をやり直すのだ。そして死の概念がない惑星を産み直す。それが我々の大偉業――逆行運河/創世光年である」

「…………ッ」

「話は以上だ。冥途の土産には十分だろう。尤も我が宝具に焼かれた魂魄が欠片ほども残るかは分からんがね」

 

 絶句。最早言葉の一つも思いつかない。思考の規模(スケール)が違いすぎる。そしてそれを三千年もの時間をかけて計画し、実行に移したその気概。敵であるカルデアすらその偉大さには畏敬の念を覚えざるを得ない。

 

「過ちは正されねばならないのだ……そう、ただ一度だけ見た愚かな夢を。我らの汚点、我らの過ちを正すためにもな」

 

 僅か、ほんの僅かに視線が落ち、悔恨の籠る呟きがゲーティアから零れ落ちた。強壮にして偉大さを湛えた威容に相応しくない、小さな呟きだった。

 その()()()()()姿に思わずオルガマリーは問いかける。

 

「……過ち? 貴方が言う過ちって」

「さらばだ、カルデア。君達の存在は実に不快だった。これ以上はもうたくさんだ」

 

 だがこれ以上付き合う義理はないとゲーティアはあっさりと話を終えた。

 そして無造作に光帯を解き放とうとし、

 

「待てぃっ! そこな者達を殺めるなど余が健在な内は許さんぞ!!」

 

 天上より現れた助っ人が炎の如く捩れた大剣を構え、大上段からゲーティア目掛けて振り下ろす!

 迫る大剣をその頑強な前腕で受け止めるが、重力を味方に付けた一撃はゲーティアの巨躯を弾き飛ばした。

 

「ネロ・クラウディウスか。英霊どもめ、余剰戦力を掻き集め送り込んだか。卑小な真似を」

 

 その顔に浮かぶ僅かな驚き。さらに興が乗ったかゲーティアは宝具を使うことなく格闘戦の構えを取った。

 

「然様! 第二特異点(ローマ)を代表して余が参った。そして余だけではない、見るがいい!」

 

 第二特異点より薔薇の皇帝、ネロがゲーティアへ斬り込み、弾き飛ばしながら不敵に笑う。

 

「みな、無事ですか」

 

 第一特異点。救国の聖女が旗をかざし、要塞の如く堅固な守りを展開する。

 

「砲撃用意! ド派手に行くよ!」

 

 第三特異点。嵐の航海者フランシス・ドレイクが虚空から砲身を突き出す無数のカルヴァリン砲で雨霰と撃ち込む。

 

「ハハハハハハハハッ、ザマァねぇなぁポンコツ召喚式! ついでにこれでも食らいな!」

 

 第四特異点。ロンディニウムの騎士モードレッドがゲーティアめがけて大剣を投げつけ、強引に作り出した隙に懐へ潜り込み蹴りつける。

 

「……重度の思想汚染を確認。難病患者と認定。本格治療を開始します」

 

 第五特異点。鋼鉄の白衣、ナイチンゲールが白亜の看護婦像を召喚。戦場で鋼の看護を開始する。

 

「我が王より任されたこの戦場、死してもカルデアは守り抜く!」

 

 第六特異点。輝けるアガートラム、ベディヴィエールが銀の右腕に魂を宿して果敢に斬り込んでいく。

 

「はじめまして、カルデア。”彼”の輩たる人よ。このひと時、僕の使用権を任せるよ。存分に使い潰してくれ」

 

 第七特異点。真なる天の鎖エルキドゥが無数無量の金の鎖でゲーティアを拘束。万力の如く圧力を加え押し潰さんとする。

 

「みんな……!」

 

 各特異点で結んだ縁を頼りに集った綺羅星の如き英霊達。この状況にあっては何よりも頼もしい援軍だった。

 

「下らん。痛い目を見なければ学習せんとは所詮人類。下等生物の上位種は所詮下等生物か」

 

 だが敵はゲーティア。無数の魔神柱を束ねたに等しい霊的質量。惑星の情熱を隷属させた全能の神にも等しき者。

 

「お前達の徒労を、無力を、挫折を捧げるがいい。余すことなく飲み干してやろう」

 

 ゆっくりと視線を英霊達に巡らし、その巨躯に魔力を漲らせる。自身を拘束する金の鎖をあっさりと砕き、戦闘態勢を取る。

 ぶつかり合う戦意が弾け、火花散る苛烈な戦いが始まった。

 

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