【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
善戦したと、果たして言えたか。
各特異点から集った英霊達は強かった。嵐のような暴虐を受けながらゲーティアに幾度となく痛撃を与えた。カルデアと力を合わせ、その片腕を両断すらしてのけたのだ。尤も、傷口から這いずり出た魔神柱が捩れ絡まり即座に復活してしまったが。
「飽きた」
だがその一言で全てが終わった。
満身創痍、だがもう一戦ならば……そんな覚悟を決めた英霊達が決死の特攻に及ぼうとしたその瞬間に、その霊基は魔力の光に変わった。
全く唐突に、前触れもなく英霊達が退去させられたのだ。
「――ッ!? なに? 一体なに、が」
「言わなかったかな? それとも聞き流したか? 私は言ったぞ、遊んでやるとな」
あまりにも呆気ない、予想外の幕切れに絶句するオルガマリーへ当然のように言い放つ。
遊び。英霊達が決死の思いで挑んだ戦いをゲーティアは遊びと言い切った。
「ネガ・サモン。人類が生み出した最高峰の召喚式たる私に英霊が挑む無意味さを知っておくべきだったな」
英霊の現界を維持する召喚術式そのものを破却する、ゲーティアだけが持つ特別なスキルだ。ゲーティアが言う通り英霊が彼に勝利できる道理はない――たった
「退去したのはこの場にいた七騎だけではない。この特異点
ひたひたと身に染みてくる絶望を一層強調するためか、丁寧に丁寧に希望をへし折ってくる。
「貴様らの全てが浅慮だったのだよ、人類最悪の愚者ども。貴様らには私の腹立ちを僅かに癒やす程度の価値しかなかった。
そうでもなければ釣り合いが取れまい? 光帯の起動計算完了までのたった五分を貴様らは何故待つことが出来なかったのだ?」
容赦なく腹の底を焼く苛立ちをぶちまけるゲーティア。
「ではお見せしよう。貴様等の旅の終わり。この星をやり直す、人類史の終焉。我が大業成就の瞬間を。
第三宝具、展開。 誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの――さぁ、芥のように燃え尽きよ」
原罪のⅠ。人類の終わりを告げる光帯が加速し、回転し、臨界に達する。
人類の情熱とも言える生命と文明から搾り上げた無尽蔵の熱量が解放を求めて暴れ狂い、ゲーティアは容赦なくその矛先をカルデアへ向けた。
「
トリガーを引く真名解放の声音は重厚でいっそ穏やかですらあった。
極光。
美しくも禍々しい純白が視界全てを塗り潰す。あらゆる物質を原子の塵へ還す極光が襲い来る。
「いいえ、まだですっ。
「マシュ……?」
「――ごめんなさい、オルガマリー所長。約束、守れないかもしれません」
約束。旅の終わりをみんなで見る、あの約束。
その言葉の意味を悟るや否や、オルガマリーと藤丸は声を張り上げて制止した。
「マシュッ、止めて。お願いだから!」
「ダメだ、マシュ!」
その声に込められたマシュを想う心に、今にも震え出しそうなマシュの両足に力が入る。
力強く一歩を踏み出し、そっと微笑んだ。
「それは全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷───顕現せよ、
それは一瞬を永遠に切り取ったような光景だった。
全てを純白に塗り潰す滅びの熱量に雪花の如く儚い
「あ、あああ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁッッッ――――!!」
叫ぶ。抗うために、守るために、心が裂けるかと思うほどに絶叫する。
人類史から無尽に搾り上げた光帯の熱量を防ぐ物質はこの地上に存在しない。だがマシュの宝具は精神の護り。彼女の心が揺るがず、歪まず、穢れない限り――雪花の盾は彼女の
「良かった……これならなんとかなりそうです」
マシュは思い返し、思い描く。
彼女がいたこれまでの旅と、彼女がいないこれからの旅を。
「悔いはありません。私は生きた。ここで、この時、みんなと」
素晴らしい旅路だった。素晴らしい時間だった。
カルデアの無菌室しか知らなかった己が初めて見た青空は言葉にならない程美しかった。そして特異点で繰り広げられる歴史の綾模様はそれ以上に美しくも醜かった。
マシュ・キリエライトはグランドオーダーを通じて”人間”を知った。”人間”になった。最後の最後で、彼女は己が生きた意味を見出した。
「ちゃんと生きた。人として! それが私の誇り、私の選んだ道です!」
「それが君の選択か」
少しだけ残念そうにゲーティアは呟き――光帯から搾り上げた倍する熱量を容赦なく叩きつける。
「……ッ! どんなに偉大で、強大でも! ただ
最後の力を振り絞る。崩れかけた膝に活を入れ、前を向いた。
白亜の城は軋みを上げ、砕け散りながら……遂に、彼女が守るべきモノと定めた大切な人達に一片の傷すら負わせなかった。
「――見事だ、マシュ・キリエライト。守るべき存在を誤った。その一点を除いて君に過ちなどなかったとこの私が認めよう」
星を貫く熱量を耐え抜いた果てにその肉体は消滅した。
元よりマシュの宝具は彼女が守りたいモノを守り抜く宝具。言い換えれば宝具を支えるマシュ自身への加護は薄く、限界を超えた反動は全てマシュへ還る。その果てに彼女は己の死を受け入れたのだ。
故にその言葉はゲーティアからマシュへの決別であり、惜別だった。
「……ッ。ゲーティアァッ!」
「少しはマシな顔になったな、藤丸立香。それが”痛み”だ。生ある限り避けられず、耐えられないものだ」
心臓をもぎ取られたような痛み。あまりにも大切なものを失った痛みがかえって藤丸の足に立ち上がる力を与えた。怒りで顔を歪ませ、無力と知りながらも拳を握り締めた。
そしてオルガマリーは――、
「マ、シュ……?」
力なく崩れ落ち、地面に膝を突いてただ涙を流していた。
親友であり罪の象徴であるマシュを
「所長? ダメです、所長! 立って、戦わなきゃ!」
第七特異点でアーチャーを犠牲にすることを決断し、傷ついた心を癒やす暇もなくここまで来た。無理を重ねて戦場へ立ち続けた。
元よりオルガマリーは英雄ではない。その資質もない。揺らげば折れる凡人程度の器の持ち主に過ぎない。カルデア所長という義務感の仮面で心を鎧った代償が、最も苦しい時に噴き出した。
「…………」
言葉はない。
助けてと叫んでも助けは来ない。この世で最も会いたいヒトは、二度と巡り合うことはない。
オルガマリーはこれ以上立ち上がることができなかった。