【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 推奨BGM:Thanks(癒月)




「まだだっ!!」

 

 ”山の翁”一刀で全能の源を斬り破られ、追い詰められたゲーティアが咆哮する。

 今も秒単位で力が削がれながらゲーティアはまだカルデアを滅殺して余りある暴力を有していた。

 

「大偉業は終わらない。終わってたまるものか! 貴様らを完膚なきまでに殲滅し、光帯を回すのだ。我が全能が失われる前に! 我らならばそれが叶う!」

(その通りだ、ゲーティア。お前はまだ僕らよりもはるかに強い)

 

 ”山の翁”の一刀はゲーティアの不死性に罅を入れ、未来を取り戻す道を文字通り斬り拓いた。まさに冠位に相応しい役割を果たしてくれた。

 だがソロモンの真なる第一宝具、訣別の時きたれり、其は世界を手放すもの(アルス・ノヴァ)ほど致命的な損傷ではなかった。

 

(僕の第一宝具。君が、君達がいなければきっと僕は()()していたんだろう)

 

 アーチャーが友と呼んでくれた。

 オルガマリーはソロモンの正体を知りながら皆で旅の終わりを見るのだと叱咤してくれた。*1

 だからソロモン……カルデア職員、ロマニ・アーキマンは薄っすらと見える勝ち筋をなんとか手繰り寄せようと必死に足掻いている。

 

「ハハッ、ここまで来てまだ分からないのか、ゲーティア。いつまでも学習しないポンコツ術式め」

 

 状況は依然苦しいまま。だが敢えて笑う。彼らは苦境の時だって笑っていたのだから。

 

「笑わせるな。冠位でもない貴様如き十秒あれば――」

僕達(カルデア)はここからがしぶといぞ。お前もよく知ってるだろ?」

「――」

 

 ソロモンが浮かべたふてぶてしい笑みに今度はゲーティアが口をつぐんだ。

 ゲーティアの演算は未だ自身の優勢を弾き出している。だが目の前の現実は演算結果を裏切っている。その事実がゲーティアを黙らせた。

 

「ならば我が全霊で貴様らを消去しよう。最早一片の油断も許すまい。消滅し(きえ)ろ、カルデアァッ!!」

 

 一呼吸分の沈黙を挟み、ゲーティアが言葉通り油断の欠片もなく全力を振るい始める。

 時間神殿に侵食した全ての魔神柱が蠢き、地響きを立てて全方位から襲い来る。()()()()()()()()()()()()。ウルクの大杯からのバックアップを受けているとはいえそう長く保つまい。

 

「ハハハハハッ! 怒ったか、これはマズイなあっ!」

「ちょっとロマニ! 無駄に怒らせてどうするのよ!?

「ドクター! あれだけ煽ったんだから切り札はあるんだよね!?」

 

 障壁越しに振るわれる暴力の嵐に自棄っぱちで笑うソロモン。障壁内部で身を寄せ合いながらオルガマリーが怒鳴る。僅かな時間に様々な出来事が起こりすぎ、一時的に喪失から持ち直したらしい。

 

「もちろんだとも。君達も知ってる通り僕は気弱でヘタレでチキンな男だからね。勝てる勝負しかしないのさ」

「なら今すぐ!」

 

 勢い込むオルガマリーに微笑んで押し留め、ソロモンはそっと人差し指をオルガマリーに向けた。

 

「……なに? 私がどうしたの」

「君だ、君だよマリー。今、ここに君がいる。その事実こそが勝利の鍵だ」

「私? 何言ってるの、今はそんな冗談――」

「冗談じゃないんだなこれが――”彼”を召喚する。力を貸してくれ、マリー」

「”彼”……それこそ冗談にも程があるわ! 怒るわよ、ロマニ!」

 

 二度と再召喚できないほど徹底的に縁を断たれたアーチャー、キガル・メスラムタエアを召喚()ぶとソロモンは言う。オルガマリーは思わず馬鹿なと叫んだ。

 何よりキガル・メスラムタエアではゲーティアに勝ち目がない。彼が弱いのではなくゲーティアが強すぎる。それがオルガマリーの偽りない感覚だ。

 

「いいや、逆だ。()()()()()()()()()。説明している時間はない、僕を信じてくれ」

 

 だがソロモンの見解は違う。オルガマリーが知らない因縁を、彼の特性を知るが故に。

 キガル・メスラムタエアこそソロモンの第一宝具に匹敵するゲーティアの”天敵”なのだ。

 

「……でも私とアーチャーは縁を絶たれて」

「ここにいるのが誰で、私が持っているモノを忘れたのかな?」

 

 魔術王ソロモン。即ち、人類史最高の召喚術師がここにあり、ウルクの大杯がそれを支える。()()()()()()()、ねじ伏せて踏み倒してやると不敵に笑う。

 

「術式はこっちで受け持つ。君はただ想いを言葉に込めて彼を呼ぶんだ。綺麗な感情(モノ)も、汚い感情(モノ)も、ありのままの有りったけを」

「想いを、言葉に籠める」

 

 正直色々ありすぎて訳が分からないことだらけだ。だがソロモンではなく、ロマニ・アーキマンが信じろと言うなら素直に信じようと思えたから。

 胸に渦巻く思いを確かめるために目を閉じる。瞼の裏にいつもそばにいてくれた”彼”の姿が幾つも浮かんでは消えていく。

 

(もっと、ずっとあなたと一緒にいたかった。話したかった。胸に秘めたこの想いをあなたにちゃんと伝えたかった)

 

 未練が、悔いがあった。伝えたいことは幾らでもあった。それをぶちまけることでもう一度”彼”に会えると言うのなら……いいだろう、いくらだって思いの丈を吐き出そう。

 オルガマリーはカッと目を見開き、キガル・メスラムタエアを呼ぶ詠唱(ラブコール)を紡ぎ始めた。

 

閉じよ/みたせ(馬鹿)閉じよ/みたせ(鈍感)閉じよ/みたせ。閉じよ/みたせ(甲斐性なしの女ったらし)閉じよ/みたせ(でも好き)

 繰り返すつどに五度(何度も何度も私は思う)――ただ、満たされる刻を破却する(あなたに会いたい)

 

 紡がれるは英霊召喚術式に用いられる定型の文言。カルデアの所長として最早意識せずとも口に出せるほど繰り返した言霊だ。

 

「――――告げる(お願い)

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に(あなたの力が必要です)

 聖杯の寄る辺に従い、人理の轍より応えよ(聞こえたのなら応えて欲しい)

 

 そこに言葉にできないありったけの思いを籠める。

 

誓いを此処に(誓いを此処に)

 我は常世総ての善と成る者(私をあげる)

 我は常世総ての悪を敷く者(あなたが欲しい)

 

 ここに彼と最も深く絆を結んだマスターが、”彼”から受け継いだ万態の泥が、英霊が集う円卓の盾がある。

 

汝、星見の言霊を纏う七天(カルデアから私が恋い願う)

 奔り、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ(早く来て、ここに来て、私のあなた)――!」

 

 ”彼”を呼び起こすのに十二分な触媒が揃い、召喚を執り行うのは召喚術師の最高峰(ソロモン)。そしてなにより最も深く絆を結んだマスターからの呼びかけに、彼が応えぬはずがない!

 

 円卓の盾に魔力が渦を巻く。

 

 円卓の盾を中心に幾つもの円環状の光が重なり、輝き、回転する。その中心に翁が遺した残滓、冠位霊基の欠片が取り込まれ、光の円環が虹色の輝きを宿した。

 降霊儀式・英霊召喚は霊長の世を救う為の決戦魔術に起源を持つ。そしてここにはまさに世界を滅ぼさんとする人類悪がいる。

 であるならば――英霊の頂点たる七つの最高峰、冠位英霊(グランドサーヴァント)が顕れるのは最早必然だ。そして候補が複数いる場合、その時代の超克対象によって最終決定される。

 呼び出されるはビーストⅠ、ゲーティアの”天敵”。

 刮目せよ。

 ここに『最強』の冠位騎兵(グランドライダー)、《名も亡きガルラ霊》が顕現する。

 

*1
オルガマリー「え?」

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