【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
光帯が加速し、回転し、臨界に達する。
アレこそが人類の命の収束。無限に重ねた人類史そのもの。光帯を前にして人に属する者に勝算はない。
「霊基の一欠けらすら残すまい。冠位の力量を発揮する前に原子の塵と化せ!」
「そんな結末断固お断りだ。俺が何故冠位の霊基で呼ばれたか、教えてやる!!」
「今更貴様如きに何ができると言う!? 我が光帯に抗えるものなら抗ってみよ、力の差も理解できぬ愚昧が!」
確かに今の《名も亡きガルラ霊》の霊基は通常規格とは一線を画する。だが光帯の熱量を前に冠位
そしてそれを知った上で《名も亡きガルラ霊》はニヤリと笑った。
その瞬間、
比喩ではない。魔神柱に浸食された冠位時間神殿が一瞬にして暗く、寒く、しかし荘厳にして美しいメソポタミアの冥府へと塗り替えられた。
「これってまさか――
知識のみで知る光景にオルガマリーがもしや叫ぶ。これなるは魔術の奥義、最も魔法に近い魔術。
世界を塗り替えるは《名も亡きガルラ霊》が心に抱き続けた心象風景。数多の同胞と心象風景を共有したが故に得た限りなく魔法に近い大魔術。
「――
「そうだ、見覚えがあるだろう? かつて俺達が
これこそ
通常の霊基規格の場合己の内側に展開した固有結界からグガランナを含む冥府の同胞を召喚する大宝具だが、冠位騎兵として召喚されるにあたり大幅に改変・強化されている。
「だからどうした!? 今更このちっぽけな世界一つで我が光帯を飲み込めるとでも!?」
あまりにも正しい無慈悲な戦力差を告げながら、どこから薄ら寒い危機感がゲーティアの背筋を撫でる。その咆哮は半ば威嚇に強かった。
「飲み込む? まさか。これはただの前準備。俺の本領は
(繋げる。何を? ここが冥界だろうと何も――何、も……ッ!?)
自問と自答がゲーティアの中で繰り返されて脳裏を過ぎったある連想。それはゲーティアをして背筋が総毛立つほどに恐ろしい想像だった。思わず血相を変え、叫ぶ。
「――貴様、まさか。まさか、我が光帯を!?」
「そのまさかだ!
ここに、目の前に光帯はある。光帯と化した人類はここにいる。ならば《名も亡きガルラ霊》の呼びかけが届かぬはずがない!!
その宝具の名は『
《名も亡きガルラ霊》が、キガル・メスラムタエアが、オルガマリーが手を携えて歩んできた旅路の結実。カルデアのサーヴァントたる彼の誇りそのものだ。
「止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろぉぉぉ――――ッッッ!! 我が三千年を、我が大偉業を、我らが積み上げた研鑽を無為と化すなあああああぁぁッ!!」
絶叫とともに光帯へ干渉し、必死にその発動を押し留めようとするが一手遅い。
回り続けていた光帯が停止……否、逆転を開始する! 光帯の回転が生み出す重力に囚われ続けていた人類の魂が拓かれた道に沿って冠位時間神殿へ怒涛のように流れ込み始める!
淡い黄金の波紋が、冠位時間神殿を照らすかのように幾つも幾つも現れ始めた。
対照的に光帯の輝きはどんどんと弱く、小さく、儚くなっていく。光帯を構成する熱量が急速に失われている証左だった。
門を潜り抜けて現れた魂達が陰々と、陽々と言葉にならない叫びを上げる。青白い魂のほむらが躍る。幻霊未満の形なき魂がその力を振るう術を持たず叫び続ける。
その行き場のない巨大な力に方向性を与えることこそが《名も亡きガルラ霊》が為すべき大仕事。そのために冠位霊基の容量の大半をその宝具に割いただけはあり、冥府の副王はその機能を十全に稼働させる。
「聞け、この領域に集いし戦う力を持たぬ者達よ! この星に生まれ、死んでいった者達よ! 隣を見よ、己を見よ! 交わらずとも、相容れずとも、今この時だけは肩を並べることを善しと容れる者達よ!
死してなお、滅びてなお人類の未来を繋がんとするならば我より冥府の加護を授けよう。汝らの代表者へ叫び、呼びかけ、飛び込むがいい!!」
ここに
あらゆる時代、あらゆる歴史を紡いだ人類の魂が縁となって彼らの代表となる英霊を呼び込んでいく!
それは超新星爆発と流星群を一緒くたにしたような混沌とした光景だった。
光帯が爆ぜ、四散した光の一つ一つが
冠位時間神殿へまさに無数と言っていい程の英霊が立ち上がり、武器を掲げ、ゲーティアの打倒を叫んだ。
カルデアが超えた七つの特異点で出会った英霊が再び立ち上がる。
ここではないどこか、今ではない未来で出会うはずの英霊がいる。
本来交わらぬはずの
数多の世界を放浪する女剣豪がいる。
ありえざる英霊の軍勢がただカルデアを助けるために虚空を漂う冠位時間神殿に集結する!
「笑わせるなっ! いくら集まろうが所詮は英霊、我が敵足りえんわ!!」
英霊召喚術式そのものを破却するゲーティア固有スキル、ネガ・サモン。
全ての前提を否定するスキルにカルデア側も血相を変えるが、ただ一人《名も亡きガルラ霊》だけは平静を保っていた。
ゲーティアはその両腕に力を籠め、大気を押し出すように前へと振りかぶる。無形の波動が冠位時間神殿を走り抜けた。
「――何故消えぬ! 破却されない、だと!? この私が、英霊如きを何故――!?」
だが、何も起こらない。
英霊にとって致命の波動は何の影響も及ぼさず虚空へ消えた。
「全てを冥府に塗り替える俺の固有結界を忘れたか? そして冥府に
「なっ……」
あまりにも無茶苦茶な屁理屈。だがこの種の概念マウントは通ってさえしまえば無敵の鎧すら剥ぐ蟻の一穴となりうる。
グランドライダー、《名も亡きガルラ霊》はゲーティアの”天敵”である。その意味をゲーティアは痛い程に噛みしめていた。
「まだだ、まだ! 貴様さえ殺せば――!!」
召喚の起点となる《名も亡きガルラ霊》さえ消滅させれば連鎖的に英霊達も消え去る。
瞬間移動に等しい高速移動からの
「――圧制者よ、無意味なり」
いつの間にか現れ、その
「ッ! 邪魔だ、まとめて肉塊にしてくれる!?」
「フハハハハ、おお、愛を感じる! これこそが我が叛逆――!!」
オルガマリーと《名も亡きガルラ霊》の前に飛び出し、一歩も引かずに痛打を受けきる偉大なる叛逆者の名は――、
「スパルタクス!? ああ、本当にスパルタクスなのっ!」
「然り。見違える程に大きく、強くなったな。
第二特異点でオルガマリーを立ち直らせたスパルタクスとの再会。オルガマリーとの再会を万感を込めて喜ぶ呼びかけに思わず涙が一筋零れ落ちた。
「剣闘士スパルタクス!? おお、この悍ましき狂人め!! 忌々しい!」
レフの記憶を参照しているのか嫌悪すら浮かべ吐き捨てる。幾らラッシュを受けても揺るがず、笑みすら浮かべて立ち続ける不屈の男。自身の目で見て改めて痛感する。なんという忌々しさか。
その男はまさに
「ならば数で押し潰してくれるわ、英霊ども!」
魔神柱が蠢く。機能損壊、停止にすら至る魔神がいる中強引に攻め立てる。
特異点そのものに浸食した膨大な物量が再び英霊達の前に立ち塞がる。光帯を喪いながらまだ惑星級の魔力量を誇るゲーティアを前に英霊の軍勢ですら決して優位ではない。
個々の英霊が即席で連携を組み、手近な魔神柱と戦い始めた。大半の戦力はそちらに割かれている。
「こっちに来るわよ!」
「心配無用ぅ。我らには、
だがこの本丸に集うは当然スパルタクス一騎だけではない。不屈の英雄がその逞しい腕で指示した先に男達が立っていた。
「守り、か。実はそちらの方が得意だ。全力を尽くそう」
最強の竜殺し、ジークフリートが。
「■■■■■■■――……!!」
万夫不当の大英雄、ヘラクレスが。
「聖杯の魔力は空っ欠だが……僕ももう少し気張るとしようか」
苦笑を浮かべたソロモンことロマニ・アーキマンが。
「……殺す」
ケルトの狂王、クー・フーリン・オルタが。
「太陽がなくとも我が武勇に些かの陰りなし。今度こそ人理を守る誉れを共に」
忠義を貫いた太陽の騎士ガウェインが。
『……来るのが遅いんだよ。嬉し涙じゃなきゃ百回は殺してるぞ、亡霊が』
天の鎖の裔、キングゥが。
「みんな……」
七つの特異点でオルガマリーと特に深く絆を結んだ者達がここに集う。
「オルガ、号令を」
「うん……えっと、アーチャーって呼んでいい?」
「最早弓兵ではありませんが、どうかお好きなように」
「そうするわ。
その呼びかけに
「お願い、みんな――力を貸して!」
『応!』
言葉は違えど心を一つにし、彼女の下でその力を結集する。頼れる彼らが、何より傍らに”彼”がいる――負ける気がしなかった。