【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
人王ゲーティア。
最後の最後に現れた、己の道を阻む障害にオルガマリーは苦笑した。もうこれ以上はお腹いっぱいだというのに。とはいえゲーティアもきっと同じことを思っただろうが。
「アーチャー」
「はっ」
「キングゥ」
『ああ』
「ロマニ」
「うん」
「あなた達には悪いけど、最後まで付き合ってもらうわよ」
「『「もちろん」』」
スパルタクス達ほかの英霊はゲーティアや魔神柱に痛打を与えた代償に限界を迎え、退去した。
限界の更に先を超えた奮闘であり、故にここから先はオルガマリー達こそが力を振り絞らねばならない場面だ。とはいえオルガマリー自身の疲弊もかなり激しい。
(藤丸は英霊の一騎に頼んで避難済み……あとは人王さえ倒せば)
マシュを喪った藤丸を場に残す意味はなく、心情的にも……。それ故の判断であり――いざという時は自分達に構わずカルデアごと退避するよう告げてある。
つまり後はゲーティアさえ倒せば、否、倒さずとも人理修復は成る。無論死ぬ気は欠片もないが。
「……まあ、あなた達と一緒ならどんな場所が最期でも悪くないわね」
「いやいや。僕はこんなところで終わるのは御免だ。なにせ僕の人生はこれからなんだからね! 十年分の過重労働を取り返すために僕は全ての有給休暇を使う用意がある!」
「ハハハ、ロマンらしいことだ。ならば俺も役に立たねばな」
緊張感をほぐすようにソロモンが軽口を叩き、《名も亡きガルラ霊》がそれに乗る。姿は変われどカルデアにいた時と変わらない空気にオルガマリーの頬も思わず緩んだ。
『軽口はそこまでだ馬鹿ども――来るぞ』
そんな緩んだ空気を引き締めるようにピシャリとキングゥが言い放ち、対面の敵がアルカイックスマイルを浮かべながら魔力を滾らせる。
「多くの魔神は燃え尽き、神殿は崩壊した。我が消滅を以て大偉業も消滅する。最早この勝負に意味はない。だが勝ち/価値はある。故にカルデア、我が運命の怨敵よ――さあ、戦おう」
それは魔神王であった頃にはあり得ない選択。
だが人王はそんな自分を不思議に思いながら迷いなく全霊を尽くしていた。
「シンプルに行きましょう。私は生きたい、あなたは勝ちたい。だから互いを起き上がれなくなるまで殴り倒す。どうかしら?」
「ようやく共通の見解が持てたな。異存はない。では、始めようか」
あまりに逞しく男気溢れる宣言だった。ある意味これもオルガマリーの成長だったかもしれない。
ゲーティアもどこか苦笑の色を強めたアルカイックスマイルとともに頷き、最後の戦いの火蓋が切られた。
「あと少し、付き合ってもらうぞ」
「決着を付けましょう、ゲーティア」
一瞬、敬意とともに視線が交差し――次の瞬間にはただ全霊でぶつかり合っていた。
ゲーティアを囲う幾つもの光輪から無数の閃光が放たれ、黄金の鎖とぶつかり合う。千々に裂かれた光は大地を蹂躙し、鎖の破片が大地に深く埋め込まれていく。
「まったく、野蛮な格闘戦とか柄じゃないのだけど――!」
『モーションはこっちでサポートする。四の五の言わずに殴り合え』
「悪くはない。付き合おう」
閃光と鎖がぶつかり、弾け合い、ぽっかりと空いた空間に両者が踏み込む。
オルガマリーが、ゲーティアが拳と拳を振りかぶった。
魔力の籠る拳同士がぶつかり合う。均衡は一瞬、周囲に撒き散らされたエネルギーにどちらも弾き飛ばされ、互いに距離を取った。
「これが戦い、か。はは、心が震える――!」
ゲーティアが総身に走る痛みに善しと頷き、格闘戦が続く。
キングゥと同化したオルガマリーが前衛として前に立つ。英霊に比べれば決して強くはないが、遺憾ながら彼女が最も前衛向きの人員だった。
だがゲーティアもまたボロボロの
「楽しいな……!」
「
賢者の智慧/愚者の智慧。賢王の残滓、そして人の資質。それぞれ攻防のバフがかかり、戦闘力を底上げする。
ゲーティアを何かを握り潰すように拳を作る。
その動きに呼応してオルガマリーを囲うように巨大な指輪のような光輪が幾つも展開され、収縮する。光輪の圧力がオルガマリーを押し潰さんとし、その躯体が軋む。
「悪いね、うちの所長はやらせない」
圧力に潰されていくオルガマリーを助けるべくソロモンが魔術で干渉し、その光の輪を
「ロマニ、ナイス!」
「いやいや、ここで終わっちゃ片手落ちってね!」
光輪から解放されたオルガマリーは痛む体を引きずり前へ前へと走る。
迎撃せんとするゲーティアをソロモンの手繰る光の輪が一瞬前の鏡合わせのように捉え、抑え込む。
「いい加減、落ちて!」
「見事だ……!」
絶好の好機。
鎖を纏ったオルガマリーの右拳がゲーティアの真芯を捉える。ゲーティアの肉体がくの字に折れ、その顔が苦痛に歪む。
「ここまでか……。いいや、ここからだ……!」
痛烈な打撃が不安定な霊基に響き、崩れ落ちそうになるのを意思の力で踏み止まる。
強い意志を宿した目に危機感を刺激され、飛びずさるが既にゲーティアの射程に収まっていた。
『主よ、生命の歓びを』
己の内側に溜め込んだ魔力を一気に爆発・収束させた魔力の奔流が一筋の閃光となってオルガマリーを狙った。
一歩深く踏み込んだからこそゲーティアに痛打を与えた一方、その踏み込みこそがオルガマリーを
故に
「ハハ……どうした、これは読めなかったか? ゲーティア」
動けたのはオルガマリーを庇い、傷の痛みを押し殺しながら笑う《名も亡きガルラ霊》のみ。
オルガマリーとゲーティアの双方をよく知る彼だからこそここまでの手筋を読み通せたのだ。それでも間に合うかはギリギリだったが。
「アーチャー!?」
「掠り傷です。いえ、
相応の魔力が籠っていたとはいえただ一撃で《名も亡きガルラ霊》は死に体だった。
冠位霊基でありながら本体性能はほぼ素のガルラ霊と変わらない脆弱さ。凶悪過ぎる宝具の代償であり、恐ろしくピーキーな霊基なのだ。
「なるほど。
アルカイックスマイルとともにその変わらない在り方を称賛するゲーティアも動かない……否、動けない。
元々限界を超えて動いていたところになけなしの魔力を爆発させたのだ。つまりは本当に限界だった。
「これで――終わりよ!」
「
この機を逃さじと瞬く間に距離を詰め、黄金の光を宿した手刀がゲーティアの胸を貫いた。
息がかかる程の至近距離で二人の視線が絡み合った。
「「――――」」
憎い訳ではない。むしろ尊敬すらしていた。だが殺し合うのに迷いはない。そんな関係の二人は――片割れが笑い、もう片方が泣いていた。
勝者と敗者と見間違いそうな二人。ボロボロだった
「実に素晴らしい……生命だった」
三千年の時の果てに、ようやく
その呆気なくも清々しく、穏やかな最期だった。