【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
ゲーティアが倒れたことで冠位時間神殿は本格的な崩壊を始めた。
時間神殿を所狭しと暴れまわっていた英霊たちも全て退去し、後に残ったのはオルガマリー達カルデア残留組だけだ。
「今度こそ終わったのね……さよなら、ゲーティア」
ゲーティアの残滓が風ともに消え去っていくのを感慨とともに一言だけ別れを告げる。みなも言葉少なにただ頷く。それ程に大きな一戦だった。
「行きましょう」
それ以上の時間を割く余裕はなくオルガマリーは踵を返してカルデアへの帰還を急いだ。残る者達もその背に続く。
全員がボロボロだった。
戦闘続行で辛うじて生き延びている《名も亡きガルラ霊》。
オルガマリーにかかる負荷を引き受け、繊細な調整を続けたツケを払うキングゥはその姉の背に負ぶわれ、半ば気絶している。
ソロモンは多少マシだがゲーティアの攻撃を何度か食らったお陰で見かけほど無事ではない。
オルガマリーもまた適性のない前衛を無理やり張ったダメージが全身に来ている。
「……間に合うと思う?」
「死にかけばかりが四人。流石にキツいかと」
「だよねぇ。ゲーティアの奴容赦なくやってくれたもんだよ。お陰でこっちはボロボロだ」
敢えて軽い口調でなんでもないことのように言葉を交わし合う彼らの足取りは反比例するかのように重かった。気力はあっても負傷が深すぎるのだ。
「だからって諦める気はないわ」
「ああ」
「ですな」
頷く二人だが同時に、こうも思う。
((全員が共倒れになるくらいなら――))
この中では《名も亡きガルラ霊》の足が一番遅い。そしてソロモンは多少だが魔力を残していた。
「まあ、仕方ないか」
「ああ、仕方ないだろう」
ソロモンと《名も亡きガルラ霊》。大人を自負し、格好つけたがりな二人が横に並び、視線を交わし合った。
「オルガ」
「マリー、ちょっといいかい」
「うるさい。歩いて」
二人の口調からその意を悟ったオルガマリーは歯を食い縛り、ただ前を向いて歩く。取り付く島もないと背中で示す彼女に二人は覚悟を込めた献策を告げた。
「私を置いて先に。多少は足が早まりましょう」
「ありったけの魔力で回復する。ここから先は君達だけで――」
「うるさい黙れ」
「「はい」」
格好つけた男どもの戯言に一瞬も迷わず切って捨てる。ドスの利いた低い脅しにしょげる大人二人は大変格好悪かった。
愚かと言われようがオルガマリーはもう何一つ取り零す気はなかった。
「しかしこのままでは」
「打開策がない。マリー、ここはやはり」
「
なおも言い募る二人の進言をキッパリと退ける。
「私はあなた達を見捨てて成功率を0.1%から0.2%に上げるより、みんなで助かる可能性の方に賭けるわ。所長命令です」
「……なるほど」
「所長命令と言われれば拒否も出来ないね」
揺ぎ無い芯が通った言葉に苦笑が零れる。
損得を考えた上で損得を捨てた決断をオルガマリーが下したのなら、従わないという選択肢はない。危地のただなかで奇妙に穏やかな沈黙が落ちた。
「……おい、何か聞こえないか?」
沈黙を破ったのはオルガマリーに負ぶわれたキングゥだった。口を開くのも億劫な彼の言葉に全員が咄嗟に口を閉じ、耳を澄ませた。
「――これは!?」
聞こえる。特異点崩壊の地響きとは異なる、つんざくように甲高く機械的な駆動音が。
しかも駆動音の出所はどんどんこちらに近づいてくる。
「アレってダ・ヴィンチのバギー!? それに――」
そうだ。ダ・ヴィンチ自身が言っていたではないか。あのバギーは
運転席にはカルデアに帰したはずの藤丸。だがもっと驚くべき人がその隣に乗っている。
「マシュ!? 一体何が――」
ゲーティアの宝具を耐えきり、蒸発したはずの親友を目にして叫ぶ。だがすぐに驚きは涙に変わった。
マシュが生きている。その一点こそ重要で、理由などどうでもよかった。
「先輩、もうほとんど時間が――!」
「分かってる! 振り回すけどなんとか捕まえてくれ、マシュ!」
「お任せください、マスター!」
一方バギーを全速力で駆る藤丸達にも余裕がない。ダ・ヴィンチに示された特異点崩壊のリミットがすぐそこに迫っている。まともに停車して彼らを乗り込ませる時間すら惜しい程に。
「「所長!!」」
呼びかけ、そしてアイコンタクト。
旅路の中で紡いだ絆はただそれだけで意思疎通を完了させ、オルガマリーに指示を下させた。
「全員、手を繋いで! 急ぐ!」
その指示に遅滞なく全員が従い、それぞれが手を繋ぎ、一塊となる。キングゥはオルガマリーの首に強く抱きついた。
それを視た藤丸が頷き、更にスピードを上げた。
「先輩!」
「このまま突っ込む。マシュ、確保頼む!」
ハンドルを超旋回的に
ムニエルに鍛えられた藤丸のドライビングテクニックはオルガマリー達をバギーの鼻先でかすめるかのような至近距離、かつ急角度のスピンターンを決めた。
一瞬、オルガマリー達とバギーが接触して見えた。それほどギリギリの距離だった。
「オルガマリー所長!」
「マシュ!」
自分達を中心に高速で周囲を回るバギーから身を乗り出したマシュがその手を伸ばす。
オルガマリーもまた迷わずに手を伸ばし、二人の手が重なり、強く強く握り合った。ただ一瞬タイミングがズレていれば叶わなかっただろう、二人の絆が為し得た刹那の交錯だった。
「よい――しょっ!」
「ナイス、マシュ!」
マシュがそのままオルガマリーの手に繋がる全員をまとめて
「申し訳ありません、マスター! バランスが……!」
「大丈夫。俺の方で何とかする!!」
スピンターン中に都合四人分の重量が加わり、狂った車体バランスを遠心力が強烈に引っ張る。横転しかける車体を神がかり的な運とドライビングテクニックでなんとか立て直しにかかった。
「こん――のおおおおおおおおおおぉぉぉッ! 戻れええええええええええええええぇぇぇ――!!」
片側のタイヤが地面から離れる。車体が傾き、横転まで秒読みの体勢に入った。一秒、二秒と更に車体の角度が酷くなり――絶妙なハンドル捌きと
「いよぉしッ! 持ち直した!!」
四つのタイヤが大地にしっかりと接地する。がりがりと大地に食い込み、力強い疾走を取り戻した。
神業的なスピンターンを成功させた藤丸はそのままアクセルを全開。崩れ行く冠位時間神殿を疾走する。
「マシュ!?」
「はい! スピードを落とさずに最後まで走りきればなんとか――」
タイムリミットまであと僅か。
だが彼らの顔に絶望はなく、ただ明日だけを見据えていた。
「藤丸、所長命令よ! 私達は気にしなくていいからとにかく最速でカルデアに戻って!」
「了解です!」
「生きて帰るわよ、みんなで! 私、これから一生分の恋をしてやる予定なんだからあああああぁぁ――!!」
「あの、オルガ。……オルガ? 何故笑顔で私を見ているので?」
ハッピーエンドの立役者達が
賑やかに、騒々しく、ちょっと情けなく。それはとても彼ららしいいつもの一幕だった。
悲報。エピローグ執筆中に書き溜めが尽きる。