【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
結果をまず伝えよう。
彼らは間に合った。全員を載せたバギーはギリギリのタッチダウンを決め、カルデアにレイシフトで帰還した。
「今度こそ、本当に死ぬかと思ったわ……」
「ハハハ、私もです。いえもう死んでますが」
「その寒い冗談は持ちネタか? いい加減控えることを忠告してやるよ」
カルデアの所長室で繰り広げられる緊張の会話はオルガマリーを中心にした三人のもの。豪華な執務椅子に腰かけながらも机にぐったりと力なく横たわるオルガマリーは言葉通り精も根も尽き果てていた。
「なのに……なのに! 戻って早々仕事が私を襲うの!? こんなのってないじゃない!? 私、本当に頑張ったのよ!!」
だが世界は滂沱の涙を流すオルガマリーを放っておいてくれなかった。
人理焼却からの人理修復に伴う混乱を受け、世界中の組織からカルデアに問い合わせが殺到している。人理継続保障機関フィニス・カルデアとはそういう組織なのだから。
脱力して机に頬を突く姿からは仮にも英霊の軍勢へ号令をかけた威厳を欠片も感じ取れなかった。
「だらしがない、それでも僕の姉か。ここで間抜けな姿を見せるくらいならいっそ藤丸達に付いていけばよかったものを。……人理修復の報酬としては悪くなかったんじゃないか?」
年中を雪の嵐に襲われるカルデアは年に数度、晴れ渡った蒼穹が顔を見せる瞬間がある。
人理修復直後、奇跡的な確率でその天候を引いたことを知ったカルデアスタッフが適当な任務を口実に藤丸とマシュに見に行かせたのだ。マシュが『この時代の』青空を切望していたことを知る故に。
皮肉気に話しながら言葉の裏には気遣いがあった。キングゥなりにオルガマリーを思っての言葉だった。
「あの二人の間に割り込むのも野暮だし、こんな有り様じゃ素直に喜べないし。いいじゃない、あなた達の前でくらい気を抜いても。それに……みんなから貰ったもので私は十分よ」
数時間前の光景を思い出し、オルガマリーがこの上なく柔らかく微笑む。
レイシフトから帰還した彼らを出迎えたのは温かい祝福と涙、抱擁に拍手。最早家族も同然の共同体となったカルデアスタッフからの精いっぱいの心尽くしだった。
あまりにも愛おしい彼女の
「オルガ……」
カルデアを思い、そっと微笑むオルガマリーに言い知れぬ尊さを感じ霊基を電球の如くピカーッと光らせる《名も亡きガルラ霊》。折角のシリアスが台無しである。微笑んでいたオルガマリーも目を丸くしている。
「お前、お前本当に……ああくそ! そこを動くなよ、ちなみに拒否権はない」
その光景に苦虫を嚙み潰したような顔をしたキングゥが渋々と《名も亡きガルラ霊》に触る。するとその躯体が淡く輝いた。輝きは《名も亡きガルラ霊》をも覆い、次の瞬間には人間としての姿を取り戻した彼が立っていた。
「おおっ」
「僕の躯体から5%くれてやった。尤も劣化品の一部だ、スペックは人間並みだけどな」
見かけだけならアーチャーの頃と変わりないが、キングゥの言う通り蔵する力は見る影もない程衰えている。だが当の本人は気にした様子もなくケラケラと笑っていた。
「重畳、重畳。冠位を失い宝具は使えず残った本体はクソザコナメクジ。見かけだけでも取り繕えれば十二分」
「お前、プライドとかないのか? いや、お前なら叩き売って必要なものを工面する程度はやるか」
「必要ならな! 元より一介のガルラ霊に過ぎなかった身に余計なプライドは要らんのさ」
深刻な気配を全くなしに深刻な話をしている《名も亡きガルラ霊》を呆れたように見るキングゥ。ライダー霊基、《名も亡きガルラ霊》として現界した彼はアーチャー霊基と比べて三割増しで砕けた性格なのだ。
「それにしても一応は冠位だったんだろう? 本当に見かけ通りの見掛け倒しなのか?」
「ゲーティアを討つためだけに性能を特化しすぎて汎用性が欠片もないんだ。まともに運用しようと思えば最低でも聖杯は必須という本末転倒な代物でな?」
「……聖杯戦争の概念に真っ向から喧嘩を売ってるような代物だな。はっきり言うが兵器としては三流以下だろ」
カルデアに全力で肩入れして全ての力を振るったことで《名も亡きガルラ霊》から冠位の資格は失われた。加えて魔力消費が莫大すぎる対人理宝具は聖杯や世界からのバックアップがなければロクに使えない。元より呼び出される英霊達が応えなければ何の意味もない。故に実質的にここにいるのはただのガルラ霊だ。
その発言を聞いたオルガマリーが不意に呟く。
「ふぅん、そう……そうなんだ」
不意に
原因不明の怖気が《名も亡きガルラ霊》の背筋を走った。加えてキングゥが姉に背を向け、速やかに部屋から撤退する。
「――ああ、急用を思い出した。僕は他所へ行く。後は自由にするといい」
「ええ、そうするわ。ありがとう、キングゥ」
部屋を出るキングゥを笑顔で見送り手を振るオルガマリー。その横で何故か《名も亡きガルラ霊》は手ひどい裏切りに遭ったような顔をしていた。
「あの……オルガ? あの、何故そのような満面の笑みを浮かべているので……?」
「なんでだと思う?」
「ヒエッ……」
言い知れぬ迫力に追い詰められたガルラ霊が恐る恐る問いかけるとゴリッとした迫力のある笑顔が返る。
「丁度仕事もひと段落ついたところだし……ちょっと場所を変えましょうか」
女心の分からない鈍感男と、別離の果てに恋を知った少女の最後の戦いが始まる。