【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
主人公のクラスを『アーチャー』から『ルーラー』へ変更。
これまでのメンバーと新たに加わったルーラー、キガル・メスラムタエアによるキングプロテア解放戦は短くも濃密に始まり、終わった。
大河に点在する巨大な飛び石に立つ私達(主にU-オルガマリーの重力波)が彼女の巨体を抑え込んだ隙にルーラーがその力を振るった。
「権能、
轟々と炎が躍る。
彼そのものが太陽になったような眩い輝きと熱は一瞬、更にその勢いを増した。視界が白く焼ける程眩い光は一帯を照らし――キングプロテアを縛る何かを
「先輩。あの炎はただの炎ではなく、恐らく権能クラスの何かです」
「分かってる。ありがとう、マシュ」
ルーラーの炎はキングプロテアを焼かず、ただカマソッソがかけた呪縛だけを焼き滅ぼした。明らかにただの物理現象としての炎ではない。それも出力が通常のサーヴァントとは桁が違う。
彼は冥府の太陽と言っていた。冥府……ミクトラン、地底世界。地底に輝く太陽。連想できるキーワードは幾つかあるけどピースが足りてない。そんな気がする。
なら無駄に考えるのは休むに似たりだ。
「――よし! 細かいことは気にしない。プロテアは助かってとっても頼りになるサーヴァントが仲間になった。ラッキーだね、マシュ!!」
「先輩……。そうですね、今はプロテアさんを助けられたことを喜びましょう」
私は胸を張って笑い飛ばす。つまりは開き直ることにした。マシュもそんな私を見て苦笑しているが、反対ではないようだ。
そんなマシュがチラリと視線を向けた彼はプロテアを抑え込み続けたU-オルガマリーの功績を全力でヨイショし、ヨイショされた彼女は楽しそうに高笑いしていた。とてもほんわかする光景だった。
「藤丸、こいつはいい支持者ね! 私の部下として使うことにしたわ!!」
「光栄。どうか患うことなくこの身を使い潰してください」
「あなた馬鹿? 使い潰したらそこまでじゃない! 私は部下を効率的に使うため福利厚生をしっかり考える大統領です。愚かな地球人類とは違うのよ!」
「フフフ。まさに仰る通りかと。御身こそ人の上に立つに相応しい器の持ち主と愚見致します」
「当然よ!」
ルーラーのヨイショにフンスと鼻息荒く答えているがその顔には満面の笑み。
さっきまで全力で怪しんでいたのがコロリと絆されている。凄く所長らしかった。うーん、チョロい。
「……なにかおかしな
Uが酷く不本意そうというか形容しがたいジト目でこちらを見た。私は誤魔化すように先を急ごうとみんなを促した。
◆
それから私達は冥府の番人として縛られたプロテアを置いてさらにミクトランの奥地へ進んだ。
「ルーラー、強いねー」
「はい。神霊級……いえ、さらに強力です。ルーラーさんが本気を見せていないことを考慮すれば異聞帯の王や機神に匹敵するかもしれません」
「頼りになるねぇ」
「はい……。ですがそれは――いえ、なんでもありません」
「大丈夫だよ、マシュ。分かってる」
その道中ではルーラーが直接戦力として大活躍だった。
本人は露払いと笑ってたけど、本当にすごい。無知性ディノスだろうがオセロトルの集団だろうが質も数も関係なく
もし敵だったら、なんて想像をしたくないくらいだ。二重の意味で。
なおU-オルガマリーは最初自分の
「幸いなことにルーラーさんは極めて理性的です。大平原のディノスにも無暗な戦闘は挑みませんでした」
「うん。職分に従って行動する者を悪戯に殺めたくないって、そう言ってくれたもんね」
大平原を超えようとしたところ、私達は闘士職のディノス達に道行きを阻まれた。ルーラーなら強引に蹴散らすことも可能だったが、他ならぬ彼こそが強硬案に反対し、皆も同調。私達はディノスの都市チチェン・イツァーに向かうことにした。
ディノスの指導者である恐竜王という人(?)に大平原の通行許可を貰うためだ。
幸いテペウは元々ここの神官だったとかでそのツテを頼って恐竜王への謁見を願い出たのだが、
「ダメだったね」
「はい、取り付く島もありませんでした」
翼竜のディノス、神官長ヴクブ。
謁見を願い出たテペウをチチェン・イツァーのNo.2とも言える彼は強烈に罵倒し、追い返してしまったのだ。
「ハハハ、そう言えばヴクブは私を蛇蝎のように嫌っていたことを思い出しました。彼が神官長にまで出世したのは喜ばしいのですが、そのお陰で少々困ったことになったようです」
笑顔のままお手上げとばかりに両の掌を天に向けるテペウ。多分人間で言えばテヘペロに近いニュアンスの動作だ。
悲報。テペウのツテがボロボロのロープだったことが判明する。
うーん、凄いな。賢いし物知りで実は結構強い
「心から本気でそれを言えるあなたが不思議で、少し羨ましいですな。テペウ殿」
「ちょっと? 羨ましがってる場合? 現状じゃ八方塞がりじゃない」
何やら感じ入ったようにテペウを見るルーラーとさらにそれをジト目で見るU。
Uとマリーン、ルーラーには謁見を願い出る間街の外で待機してもらっていたのだが、こうなっては意味もないということで来てもらったのだ。
今はチチェン・イツァーにあるテペウが以前使っていた住処に間借り中だ。
地底の太陽も地平線の彼方、ミクトランのより奥地へ消えてチチェン・イツァーは夜に包まれている。
「今日は色々なことがあり過ぎました。今晩は体を休め、また明日から動きましょう。如何?」
「そうだね、そうしよう」
「私もそれで構わないわよ」
途方に暮れた感のある私達をルーラーが見渡し、とりあえずの先送りを提案してきた。
実はまあまあ身体に疲労が溜まっていたのでこの提案はありがたい。みんなも同じだったのか次々と頷く。
話はまとまり、その場は解散となった。
みんなでワイワイと集まった作った焼きとうもろこしの夕食をお腹いっぱい食べてしばらくゆっくりと休む。
「あ、ごめんねU。ちょっといいかな」
そうして気力と体力が戻ってから私は動き出した。さて、もうひと頑張りだ。
まず手始めにU-オルガマリーに声をかけた。
「あなたさりげなく略称に呼び捨て……まあいいわ。その図太さに免じて話くらいは聞いてやりましょう。地球大統領なので」
(いまの話地球大統領と関係あったっけ?)
首を傾げたがすぐに気を取り直して本題に入る。
私は彼女にルーラーについて一つ
「……………………。まあ、いいけど」
決して短くはない沈黙の後、彼女は不承不承頷いてくれた。
ありがとう、それにごめんね。
心の中だけでそう呟き、私はルーラーを探しに足を向けた。
「……あいつなら屋根の上にいるわよ」
背中にかけられた声に手を振って答え、そのまま外に向かう。
外から住居をぐるりと一巡りして屋根の上を探すと……いた。これまでの冒険で培った身の軽さを生かし、ひょいひょいと屋根の上まで登っていく。
うん、建物は頑丈だし足場もとっかかりもある。登るのは簡単だった。
「ルーラー、いる?」
「藤丸。ええ、いますよ」
ひょいと屋根の縁に手をかけ、顔を出した私をルーラーは驚いた表情で迎えた。やったね、ワンポイント先取だ。
住居の屋根に座り、夜のチチェン・イツァーを見据えるルーラー。その目に油断の欠片もない。誰に言うでもなく見張りを買って出てくれたらしい。
私はその隣に腰を下ろした。ルーラーは感心しないという風に眦を立てたけど何も言わない。
「遊びに来たよ。嘘。ちょっと話に来たんだ」
「あまり夜更かしはしないように。サーヴァントと違って人間には睡眠が必要です。特にここ数日は無理を重ねていたのだから」
「はーい。……ふふ、懐かしいなぁ」
「懐かしい?」
その柔らかなお説教に感じた懐かしさに思わず頬が緩んだ。
そんな私を訝しんだのか首を傾げて問いかけてくると、
「うん。前にもね、ルーラーと同じよう注意してくれた人が
「……そうですか」
もうこの世のどこにもいないドクターの影を追って夜の空を見上げた。
本当に、ズルいよ。ドクター・ロマンティック。もっと、あなたと話したかったのに。あなたに立派になった私を見て欲しかったな。
私の言葉にルーラーは何故か寂しげで、愛し気な顔をした。いつも正体のつかめない笑みを浮かべた謎めいたサーヴァントが、その瞬間はとても身近に思えた。
「では僭越ながらミクトランでは私が代理として貴女を気に掛けるとしましょう。無論、貴女への思いはそやつには及ばぬでしょうが」
そやつ。さて、いつも丁寧口調で低調な態度のルーラーには珍しいぞんざいな呼びかけだった。
「気が済んだら早く戻りなさい。マシュが心配していますよ」
「んふふ。ルーラーも心配してくれる?」
「もちろん。旅の仲間で、
「……Uのこと、オルガって呼ぶんだ?」
はてさて、はて?
そんな呼びかけ、これまでの道中で一度も聞いたことないんだけどな。どういうこと、ルーラー?
謎めいたサーヴァントの謎が更に深まった気がした。
「おっと。これは失言でした。どうか彼女には黙っていただければありがたい」
でもうっかり口を滑らせたにしては随分と態度が軽い。あまりルーラーにとって重要じゃないのかな?
まあいいや。それよりも、本題に入ろう。
「ねえ、キガル・メスラムタエア」
「? はい、私が何か――」
クラスではなく彼が名乗った名で呼びかける。少し不思議そうな顔でこちらを見たルーラーを鋭く視線で射抜くと、彼もまた顔つきを真剣なものに改めた。
さあ、本題に入ろうか。
「
これでもカルデアの、人類最後のマスターだ。
特異点や異聞帯を巡る備えとして主要な神話や伝承の知識は一通り頭の中に入れている。私よりもそうしたことに詳しいマシュもいる。だけど二人で話し合ってもルーラーの名に聞き覚えはなかった。これほど強力な霊基を持つサーヴァントが。
明らかにおかしい。だから私達はその名乗りを偽名か、関わりのある別名と考えた。
「……フフフ。そうですな。この世界に我が名を知る者は限りなく少ない。そう言っていいでしょう」
面白がるように笑い、私の方を見るルーラー。その余裕に押されないよう私は強く声を張った。
分かってたけど私はホームズになれないな。いつも出たとこ勝負で行き当たりばったりだ。組み立てた仮説を穴だらけと知りながら虚勢を張って声に出していく。
(でもこれは必要だ。ルーラーの正体は早めにはっきりさせておきたい)
「だから一度は探るのを諦めた。けど冥府と太陽、この組み合わせで思い出した。『発熱神殿 キガル・メスラムタエア』――エレシュキガルが持つ槍の名前を*1」
その槍はある神様からエレシュキガルへ譲られた太陽の権能の現身。
正直まだ違和感はある。だけどこれ以上考えてもどうしようもないなら――
「冥府、太陽の権能、発熱神殿。つまりはエレシュキガルと争ったメソポタミアの太陽神、ネルガル。それがあなたの真名――違う?」
ふわふわとした掴めない笑みを見せるサーヴァントへ、私は視線を鋭くして問いかけた。
外伝 黄金空想紀行ですが、評判がいいので続きを書こうと思います。
でも新作やらと並行してなんでまたしばらく書き溜め期間を開けますのでご了承下さい。
追記
なお、キガル・メスラムタエアの権能に鎮魂はあっても解呪や治癒、魔術破りの類はない。