【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
数日前、チチェン・イツァーのテペウ邸で。
ふわふわとした掴めない笑みを見せるサーヴァントへ、私は視線を鋭くして問いかけた。
「冥府、太陽の権能、発熱神殿。つまりはエレシュキガルと争ったメソポタミアの太陽神、ネルガル。それがあなたの真名――違う?」
「中らずと
私なりに決死の意を込めて踏み込み、しかし微かな称賛で彩られた笑みで受け流される。
徹頭徹尾敵意がない。どころか親し気で、好意的。
「義兄? ネルガルに義兄弟なんていたっけ」
そして思わぬ新情報が飛び出すら、ネルガルの義弟との言葉に頭の中で検索をかけるが、ヒットせずに首を傾げた。
「いませんな。あの方、癖が強すぎて他の神々から基本ハブられてたそうですから」
わ、わぁ……。結構言うね、ルーラー。義兄弟というだけあって遠慮のない関係らしい。伝聞調なのが若干気になるが。
というかですね、二言目に矛盾する台詞吐くの止めてくれない?
「結局どういうこと? 義兄弟なの? 違うの?」
「この編纂事象ではいない、が正しい。あなた方の世界線とは僅かに異なる世界から呼び出された英霊と出会ったことは?」
「そんな英霊――いないことはない、かな。カルデアにも結構います」
咄嗟に否定しかけた言葉をさらに否定する。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンや美遊・エーデルフェルト。メルトリリスやパッションリップ。宇津見エリセ。なんならヒロインXとか
「……人理の危機とはいえカルデアも大概節操がない。いえ、ある意味とても
「誉め言葉と思っておくね。なにせ自慢の仲間達だから」
あきれ顔を見せたルーラーへドヤ顔ダブルピースをキメると更に深々とため息を吐かれた。とはいえ実際口調に悪感情は籠っていなかったから悪口ではないのだろう。
「と、いうことはルーラーは……」
「こことは異なる世界線で英霊の座に登録されたサーヴァントです。そして――あなたとは異なるカルデアに召喚されたサーヴァントでもありました」
「それって……」
異なるカルデア。異なる世界。私達とは別に人理修復を戦い抜いた人たちがいた――。驚きだ。
「そして我がマスターの名はオルガマリー・アニムスフィア」
「!?」
そしてその十倍は驚いた。
助けたかった、助けられなかった。友達になれたと思った瞬間に逝ってしまったオルガマリー所長。
悔しくて、やるせなくて大きい方のダ・ヴィンチちゃんに聞いたことがある――彼女が生きてカルデアへ戻る可能性はあったのか。
答えは否。残酷なまでにはっきりと断じられた。
「それ、ほんと?」
問いかける声は震えていたと思う。
嘘だったら許さない。その想いを込めて驚きの百倍の強さで睨みつける。
「魂だけの所長が生きられる可能性はない。ダ・ヴィンチちゃんがそう言ってたのに?」
「我が司る権能は太陽――そして冥府と鎮魂。器無き魂に土塊から作り出した肉体を与えることもあった。簡単ではなくとも可能だったのです」
「そっか。……そっかぁ~~~」
脱力して背から倒れ込む前に両手を地面に突き、夜空を見上げた。私の視界にはありえなかったはずの未来が映っていた。ありえたかもしれない、所長と一緒に歩む人理修復の旅路を。
とても嬉しい。ここと違う世界でもオルガマリー所長が生きてくれていたから。
とても悲しい。何故
「…………………………。ねぇ、ルーラー」
「はい」
「そっちの所長は、どうだった?」
長い長い沈黙を挟んでから私自身ふわっとしていると思う問いかけを投げる。だけどルーラーはその問いにこれまで以上に優しい笑みを浮かべた。
「カルデアを、あなたではない藤丸やマシュ、そして私とともに歩んだ旅路を宝物と言っていました。そしてそれは私も同じ」
「そっか」
「善き旅で、善き人々でした。彼女の弓として力を尽くしたことは私の誇りです」
「弓?」
「実のところ私の適性クラスはアーチャーなのですよ。このルーラーの霊基は私自身予期せぬ不慮の事故というやつで」
「ふーん……」
「詳しいことはご容赦を。信義に悖るので」
きまり悪そうに頬を搔くルーラーにこれ以上の追及は勘弁してあげることにした。
「納得した。だからルーラーはUに肩入れしていたんだね」
「ええ。彼女は私の
「たとえ
「
……少し、羨ましいな。
「そうはならない、とも思っていますが」
「……信じてるんだね。彼女を」
無言で微笑む。
このなんともあやふやで爆弾を抱えたようなシチュエーションでそう笑えることが彼と彼女が積み重ねた
「ちなみにオルガマリー所長が異星の神になったことについて、ルーラーは何か知ってる?」
「……申し訳ありません。私は異星の神についてほとんど知らない。いえ、
「そうなの? いや、私もそうだと思ってたけど」
「はっきり聞いたことはありませんが、そんな大それたことを隠し通せる人ではありません。まず間違いないでしょう」
互いに分かるだろうと頷きあう。うん、異論はない。
となると怪しいのは……カルデアかぁ。信じたくはないけど、そうなってしまう。まあ、結局私は新参者だ。
「人理漂白そのものは?」
「……そもそもこちらでは人理漂白とレムナントオーダーそのものが発生していないのです。故に私達にこの異常事態について知る術がありませんでした」
「そうなの?」
驚きに目を丸くする私へルーラーが重苦しい顔でそう告げる。
「ええ、恐らく私達は何らかの
「その一つがオルガマリー所長?」
「状況から恐らくは。本当に何が起こり、
不意に冷ややかな風が吹く。地の底に繋がる洞窟の暗闇から吹き込んできたような冷気。その寒々しい風は私の隣から来ていた。
「……ゴメンね。私がオルガマリー所長を助けられなかったから」
「ッ! いえ、こちらこそ失礼を。決してそういうつもりではなかったのです」
ルーラーは私を見てハッとしたように気まずげな顔をした。そんなにもひどい顔をしていただろうか。
重くなった振り切るようにルーラーは話を切り上げにかかる。
「さて、私から話せるのはこれくらいでしょうか。ご満足頂けましたか?」
「満足はしていないけど収穫はあったよ。ボーダーへの土産話が増えたね。みんなで仲良く頭を抱えようと思う」
「ハッハッハッ! なるほど、それは少し申し訳ない気分ですな」
嘘つけ、ここまで見たこともないほど開けっぴろげで楽しそうな顔をしやがって。そんなに私が困る顔を見て楽しいか。
「あ、ごめん。最後にもう一ついいかな?」
「構いませんよ。まだ何か?」
「
「……なるほど。それはフェアで、望ましい申し出ですね」
私からの提案に、ルーラーもまた得たりと頷く。私が冬木の特異点を話すと、ルーラーもまた彼自身の旅路を語る。特異点ごとにそれを繰り返した。
私とルーラーはその日、夜更かしをした。
お陰で寝坊してしまってマシュには怒られ、Uからは何故かジットリとした視線を向けられた。…………何故???
ラストまで執筆済みなのであとはノンストップで更新します。
下記の新作もバチクソに盛り上がるよう書き上げた自信作です。どうぞご照覧あれ。
【新作紹介】
カクヨムで新作の投稿を開始しました。
文明崩壊ダンジョンライバーズ!
※タイトルをクリックすれば直接作品ページへ飛べます。
迷宮災害で滅びゆく現代ダンジョン世界に生まれた最強な”だけ”の主人公がヒロインの厄ネタを暴力とダンジョン配信で殴り倒してハッピーエンドを掴む人間讃歌の物語。
こんな人におススメです!
・今にも滅びそうな現代ダンジョン世界を明るく楽しくちょっとイビツに楽しむ 非日常の冒険を読みたい人。
・障害を乗り越えて掴むハッピーエンドが好きな人。
・厄ネタ薄幸ヒロインが幸せになるのを見たい人。
・掲示板、配信要素多め。
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・『エレちゃん』が好きな人(作品の根底に流れるエッセンスは非常に近いです)