【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 そして私はルーラーと交わした会話を語り終えた。彼がオルガマリーとともに駆け抜けた旅路も、簡潔にだが語った。……信じられないような奇跡の果てに辿り着いた、誰の犠牲もないハッピーエンドまでの全てを。

 

(善かった……)

 

 本当にそう思ってから、少しだけルーラーがいる世界の藤丸立香(ワタシ)を羨み、安堵した。彼 (なんと男だった)は私のような思いをせずに済んだのだ。

 語り明かした日の夜、一人部屋に戻った私はもう世界のどこにもいない人を思って泣いた。マシュに涙の跡を気付かれなかったかだけが心配だ。

 

「……うーむ。俄には信じられん。我々ではないカルデア、似ていながら異なる結末へ辿り着いた人理修復の旅路か」

「まさに驚天動地という奴だね。だが納得がいったよ。これまでしっくりこなかった違和感がピタリとハマる。しかしオルガマリー・アニムスフィアの生存か。前の私が手を上げた難問をどう解決したのやら」

 

 短い時間でその全てを語ることはできず、あくまで概要までしか伝えられなかった。だがゴルドルフ所長やダ・ヴィンチちゃんが驚くには十分だった。所長は驚きに目を見開き、ダ・ヴィンチちゃんは口元に手を当ててブツブツと呟いている。新たな可能性を発掘して興奮しているらしい。

 

「いや興味深い! ルーラーには是非じっくり話を聞かせて欲しいなっ!!」

「ダ・ヴィンチちゃんになら喜んで話してくれると思うよ。違うけど、同じカルデアなんだから」

 

 私が零した何の気なしの発言に、ピョンピョンと跳ね回るダ・ヴィンチちゃんがピタリと止まった。さらにゴルドルフ所長と真顔になって視線を目配せし合う。

 なんだいなんだいその反応は。

 

「……むぅ。その件だが。技術顧問、今の話を聞いてどう思った? 率直な意見を頼みたい」

「限りなく白に近い黒、だね。奇妙な表現だが、これまでで最も友好的な敵と言うべきだろう」

「敵って……ダ・ヴィンチちゃん」

 

 非難するような言い方になってしまっただろうか。だが彼女は残念そうにしながら首を振り、己の言葉を取り下げなかった。

 

「私の率直な感想だ。カルデアが異星の神と敵対関係にある以上最終的にぶつかり合う可能性は高い。もちろん互いに望んでのことじゃないけどね」

「……シビアに考えるならそうもなろう。他のスタッフも心情複雑だ。向こうが友好的だからと即座に胸襟は開けまい。薄氷一枚踏み抜けば崩れる関係ならばなおのこと」

「…………」

 

 感情と理屈の両面から組み立てられた言葉に私は反論できない。

 短くても濃い時間をUと過ごした私の心は違うと叫びたがっていたけど……カルデアのみんなの気持ちも分かった。

 

「今の話は警告とともにスタッフへ共有しておく。その上で時間を置き、カルデアが取るべきスタンスの決を取る。……だが!」

 

 分かってはいたがやはり厳しめの裁定になるか。俯いたまま重々しく方針を告げる所長の声を聞く。

 

「藤丸立香が彼らの友好を保証した。そのことも付け加えておこう。実際に交友関係を築いた者の所感は貴重だからな」

 

 そのわざとらしい顰めっ面で付け加えられた言葉に思わず顔を上げる。隣のダ・ヴィンチちゃんはそれを見て呆れつつも微笑ましそうに笑っていた。

 知らず、思わず私はパッと笑っていた。やっぱり私のカルデアは最高だ!

 

「全くもう、ゴルドルフ君ってばさ〜! これじゃ私だけが悪者じゃないか」

「何のことかね? 私は所長として取るべき方針を述べたに過ぎないが?」

「ホームズにシオンまでいなくなったから私だけでもシビアに言おうと思ったらこれだよ。やっぱり私には向いてないかな~」

「――シオン? そうだ、シオンは!?」

 

 そうだ、あの理知的でピンチの時は頼りになるあの人の姿がない。てっきり半壊したボーダーの修復に当たっていたと思っていたけれど。

 

「うむ……U-オルガマリーの存在故にまずそちらから話してもらったが次は私達の状況を話すべきだろう」

「そうだね。まず現状を率直に伝えよう――シオンとネモがテスカトリポカ率いる勢力に攫われた。彼らの儀式に捧げる生贄、彼らを強化する武器としてね」

 

 一難去ってまた一難。

 ボーダーに合流して一安心とはいかないようだ。まあいつものことなんだけどね。

 

 ◆

 

 現状把握を済ませ、シオンとネモが現在進行形で大ピンチなのを知った私達。

 ボーダーの防衛はカドックとニトクリスに任せ、シオン達の救出に向かうべくオセロトルの拠点、メヒコシティへ向かった。

 

「あれ、お義兄様じゃないですか〜。ちょっとぶりです、お元気でした?」

 

 そしてルーラーが無垢な箱入りお嬢様に義兄呼びさせていることを知った。

 彼女の太陽のような明るい笑みの横で私がルーラーへ向ける視線は氷点下を下回っていたと思う。

 

「…………………………………………」

 

 なお私の隣で青筋を浮かべて()()()()()表情(カオ)をしたU-オルガマリーについて私は見なかったふりをした。

 これでも無数の修羅場を潜り抜けてきた経験があるけど、こういう類の修羅場は管轄外なんだ。

 頑張れ、ルーラー。遠くから応援してるぞ。だから私を巻き込まないでね?

 

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