【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 ――星の終わりが現れた。

 アーキタイプ、ORT(ORT)

 はるか昔、この異聞帯で生き続けた星喰らい。目覚めればこの星そのものを砕くと言われた究極の一(アルテミット・ワン)

 

「――――」

 

 ()()がいま、目の前にいる。

 勝てない。勝ち目の欠片も見つからない。極めて単純に突き抜けたスペック。そして弱点が存在しない無欠性。

 究極にして無窮。

 持てる限りの力を尽くし、ORTの甲殻を貫いた――そう思った時こそが絶望の始まりだった。

 貫いた甲殻が自壊する。破砕された体組織の再生、分裂、強化が瞬く間に行われる。即座にORTは活動を再開した。私達の渾身は一秒たりともORTを止められず、注意を引くことすらできなかった。

 

「即時撤退! みんな、急いで!!」

 

 勝てない。少なくとも今この場では。いや、退いて準備万端整えても勝ち目が見出せるかすら怪しいが、ともかく今は退く。

 

『  ――    ――    ――    ――  』

「ッ!? 耳が……ッ」

 

 ORTが()いた。いや、ORTに発声器官があるかは知らないが、ともかく硝子を砕くような、金属を軋るような。耳慣れぬ甲高い不快感に耳を抑える。

 その哭き声を合図に水晶の蜘蛛が動き出す。

 地を揺るがす駆動音を響かせながらORTが地上、浅層へ向けて進撃する。その新路上に――チチェン・イツァー、いやストームボーダーがあった。

 その巨大さ、異質さがORTの目を引いたのか。恐ろしい程の速度で真っ直ぐに向かっていく。

 

「ま――」

 

 血の気が引いた。

 ダメだ。どうにもならない。それが分かった。止められないと分かっても諦めきれず、叫ぶ。引き留めるように伸ばした手が虚しく宙を搔く。

 テスカトリポカが蟻に見える絶望の権化。かの悪神が弱いのではなく、ただORTが突き抜けすぎている。

 そして、

 

「まあ落ち着けよ。これは絶望の”体験版”だ――だから今日のところはここまでだ」

 

 唐突に、現れた時と同じようにORTは掻き消えた。破壊され、燃え盛る光景も元通りだ。まるで一瞬の白昼夢だったかのように。

 

(夢……? ううん、そんなわけない)

 

 くらりと立ち眩みに襲われるが首をブンブンと振って追い払う。

 くっきりと心に刻み込まれた絶望感。魔力を失い虚脱した肉体。全てが現実にあったことだと語っていた。

 

「テスカトリポカ……今のは一体」

「俺はこの異聞帯で起こりうることを自由に引き寄せる。今のは未来と現在の入れ替え。つまりあの光景は放っておけば確実に起こる未来だ」

 

 因果律操作にも近い、まさに神の御業。たとえ自分の庭たる異聞帯でのみだったとしても流石は主神の片割れと言うべきか。

 

「それって……」

「そうだ。俺達はORTを目覚めさせる」

「なんで?! あなたも見たでしょ!? ()()()()誰にもどうしようもない!!」

「馬鹿かお前は。()()()()()()()()()()()

 

 私の糾弾にニヤニヤと笑みさえ浮かべているテスカトリポカ。理解不能な言葉に二の句を失う。まさに神。人間には理解できない視点からの言い草だった。

 

「俺は闘争を司る神。本来なら誰にも肩入れはしないんだが……賭けた時の当たりはデイビットが一番デカい。面白い」

「……それが星を砕く滅びの未来だとしてもか? 黒きテスカトリポカ」

「だからどうした? そっちの世界(テクスチャ)は知らんが俺達のところじゃ世界の滅亡なぞ()()()()()でな。珍しい事じゃないのさ」

 

 言葉を失った私に代わって前に出たのはルーラー。さっきの戦闘でも無意味に終わったとはいえORTの甲殻を貫いた私達の最大戦力だった。

 テスカトリポカも興味深そうに眦を細めてルーラーに視線と……()()を向けた。

 

「お前が噂の異邦から来た地底の太陽か。ORTの甲殻を貫いたのは見事だった。こいつは挨拶代わりだ」

 

 甲高い発砲音が三つ。銃口から同じ数の硝煙が立ち昇る。

 

「銃弾が歓迎の証とは穏やかじゃないな」

「自慢の玩具を見せびらかしたくなったんだ。それくらい良いだろ?」

 

 銃弾はルーラーが張った太陽の障壁に遮られ、ドロドロに溶けて落ちた。ルーラーも平然としているが……軌道を見る限り別に防がなくても当たらなかったんじゃ。さてはクソエイムだなこいつ???

 

「……そんな目で見るな、カルデアの神官。自覚はある」

 

 ちょっと悲しそうな目をしているのが面白かったが、すぐに真顔に戻る。

 

「さておきだ。いや、本気で驚いたぞ。お前らまだアレと戦う気だな? 目に光がある。戦士の目だ」

「当たり前でしょ。戦う前から諦められるもんか」

 

 実験用ラットを見る研究者のような、むしろ興味深そうな目で私達を見るテスカトリポカ。

 ……ああ、そうだ。私達はまだ諦めてなんかいない。

 どれだけの苦境を乗り越えた。どれだけの絶望を踏み越えた。どれだけの屍を踏みにじったんだ。そんな私が、私達が今更()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――!!

 

「痛々しくすらある見事な覚悟だな。賞賛に値する……これは本心だぜ」

「……ありがとう」

 

 テスカトリポカ。破壊と混沌を司る戦士の神。

 思うところがあったのか、茶化すことはなく真摯な口調でそう告げる神に私はただ頷いた。

 

「にしても」

 

 グルリと首を回して視線を私達の間で一巡りさせる。

 

「随分と面白い面子が揃ったもんだ。特に異星の神、お前だよ。どの面下げてこいつらの横に並んでるんだ?」

「何? 何の話だ?」

「……おいおい。何時か食らう獲物相手に手と手を取っての友情ごっこか。いくら悪趣味でもそれはない。俺でもやらんぞ」

「何、を……私は。私はU-オルガマリー。この星を総べるべく呼び出された者だ!」

「そう。お前は異星の神。人理漂白の首謀者。カルデアの敵だ。だってのに何故そこにいる?」

「――ッ!」

 

 多分テスカトリポカは無意識だろうけどUの心の脆い部分を突いてしまった。

 強いのに、凄いのに、そんなことと関係なく自分に自信がないUはいつも()()()()()()()()()()()()()を探している。

 これまでは私やマシュとの友情が、戦力としての期待が彼女の心をカルデアに繋ぎ止めていた。

 

「何かおかしいと思えば……記憶喪失にでもなったのか? 異星の神が? これは傑作だな! 事実は小説よりも奇なりと他所では言ったらしいがまさに言い得て妙ってやつだ!」

 

 だけどテスカトリポカがその裂け目を突いた。腹を抱えて高笑いをするテスカトリポカとは正反対に、私とUの顔は青ざめていく。

 

「カルデアも大したものだ。承知の上で不発弾を利用とは随分となりふり構わないな。いや、俺好みだぜ? 自分が燃え尽きても戦う戦士は歓迎する」

 

 くつくつと上機嫌に笑うテスカトリポカ。だが私とUの間の空気は反比例するように冷え込んでいった。

 

「藤丸……ねぇ、どういうこと? あいつが言っていたのは本当なの? ……………………まさか、知ってたの?」

 

 青ざめた顔での問いかけに私は言い返す言葉もなく俯いた。

 U-オルガマリーの記憶喪失を都合よく利用していたと言われれば……否定はできない。

 

「その(イロ)は……嘘」

「知らないはずがないだろう。お前らは何度か交戦しているはずだ。因縁の敵って奴だな」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 でも私にはどうすることもできずただ沈黙するしかなくて、

 

「――そう。その上で彼女達は手を取り合ったのです。煙吐く鏡よ」

 

 だから私とU-オルガマリーを繋いだのはルーラーだった。テスカトリポカと私達の視線を遮るように一歩前に踏み込み、力強く私達には言えない言葉を紡いでくれた。

 

「あなたが言う通り隠し事はあった。だが嘘はなかった。争いながらも互いを思うことはある。故あれば手を取り合うことも。それはどこにでもある、ごく普通のことだ」

「ルーラー……? どういうことだ。まさか貴様も――」

 

 止まらない疑惑と猜疑。自身にも向けられる不信感に溢れた視線。だがルーラーは堂々と胸を張り、言った。

 

「閣下、思い出してください。他ならぬあなた自身が見た光景(イロ)を」

「私、自身が……見た光景(イロ)?」

「はい」

 

 揺れる視線にルーラーが力強く頷けば心なしかUの震えも収まった気がした。

 

「美しかったでしょう? その(イロ)に何一つ嘘はなかったのです」

 

 私にはよく分からないルーラーの言葉にU₋オルガマリーが数秒瞑目し、すぐに目を見開いて私を見た。私もUを見た。私と彼女は()()かもしれない……でも確かに通じ合う物があった。

 ――あなたを信じている。だってあなたのことが好きだから。

 

「…………言いたいことは色々あるが――」

 

 数秒の沈黙の後、U-オルガマリーが口を開く。そこにはいつもの彼女らしい笑みがあった。

 

「行くぞ藤丸! 話はあの気に食わない悪神をボコボコにしてからだ!!」

「ほう? まだ仲良しごっこを続けるのか、異星の神」

 

 意外なものを見たように問うテスカトリポカへ傲然と笑い、戦意を猛らせるU-オルガマリー。その隣に私も立つ。目配せを一つ、頷きあった。

 

「そもそも異星の神だのなんだのと関係なく貴様には不意を突かれて襲われた借りがあるからな。細かいことは貴様をぶちのめしてから考える!」

「流石は閣下! 思い切りがいい」

「そう褒めるな。あと貴様らが私に隠し事をした件は忘れず追求するので脳みそに刻み込んでおけ」

 

 最後にキッチリ落ちまでつけて、テスカトリポカとの戦いの火蓋が切られた。

 

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