【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 未来の前借りによるORT出現、痛み分けに終わったテスカトリポカとの戦いから色々とあった。

 ククルカンがボーダーを文字通り担いでチチェン・イツァー付近まで運んだり(とんでもない怪力だ)。

 破損の酷いボーダーを修復するためにスタッフ一丸となり、さらにはディノスのみんなにも手伝ってもらったり。

 

「あ、U! ちょっといい――」

「悪いわね、藤丸。いまは忙しいの……本当よ」

 

 ただ――U-オルガマリーとは微妙にすれ違いが続いている。

 嫌ったり、嫌われた訳ではないと思う。今も気まずそうに視線を逸らしている上にすぐに嘘とバレる念押しまでしているあたり自覚もあるらしい。

 あの時語った追求云々もうやむやになっているし。私から動くのも躊躇われ、結果なんともいえないもやもやが私達を包んでいた。

 

「おぉーい、オルガぁ! 今晩ちょっと時間をくれねぇかぁ!? 見せたいもんがあるんだぁ」

「……見せたいもの? それ、なに?」

「おう、いいもんだぜぇ! オルガに見て欲しいんだぁ!」

「質問にはハッキリ回答しなさい! ……まあ、いいけど」

 

 大口を開けて豪快に笑うワクチャン。その細かいところを気にしないタチを叱責しているが、なんだかんだで受け入れた。

 そして最後に気まずそうに私の方をチラリと見てからワクチャンと一緒に行ってしまった。

 ううむ。ワクチャンがU-オルガマリーの気分を変えてくれるのを期待するしかないか。

 その日はそのままU-オルガマリーと別れ、やがて私もボーダー修復に汗を流す内にこの出来事はすっかり頭から消え去っていた。

 

 ◆

 

 チチェン・イツァー、夜。

 私はワクチャンに連れられて彼が一番好きだという光景を見に来ていた。都市の端、珠海との境界線にある高台。チチェン・イツァーを一望出来るスポットだ。

 

「……ここがあなたのオススメの場所?」

 

 地球大統領としての責務と関係ない、私事。私は何故ワクチャンの申し出を受けたのか。受けていいのか。そんな思いが自然と私の口を重くした。

 

「おうよ! 俺はこの光景が好きなんだなぁ。なんというかよ、親父が生きていた頃を思い出すって言うのかぁ?」

 

 夜の闇を火が照らす。影が躍り、ディノス達の生命活動を映し出す。その全てが生命の輝きを示すバロメーター。争いはなく、穏やかな平和を象徴する光景。

 この光景をこそ好きだと語るワクチャン。

 あれほどの力を持ちながら決して力に振り回されない、ある種完成された戦士の理想形と言うべきだろうか。彼はあくまでその身に秘める力を手段としか思っていないのだ。

 

()()()()()

 

 だからこそ身に染みる感情(モノ)がある。

 この異聞帯(セカイ)は私が理想とする社会に限りなく近い。ヒト型生物のそれとは一線を画する知性と倫理の高さ、優れた身体機能の数々。個として完結した生命機能は他者と争う必要性をディノスに与えなかった。

 彼らはその自覚がないほどに高潔でありながら自然だった。ワクチャンがこの静かな営みこそを好きと呼んだことがその証明。

 それなのに、

 

(私はここにいていいの……?)

 

 自分の居場所はここにはないと思ってしまう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分と彼ら……ワクチャンや藤丸達とは違う生き物なのだとその無邪気さに胸を突かれてしまう。

 

「……何故」

「おう、どうしたぁ?」

「何故私をここに?」

「そりゃあオレの好きなモノをオルガに見せたかったからだなぁ!」

 

 好きなモノを好きな人と共有したいのだと、無邪気にワクチャンは笑った。また一つ、重いモノを飲み込んだ気がした。

 

「そりゃあ確かにオルガの(イロ)は俺達とは違うけどよぉ、オレは気にしないぜ。大事なのは中身だ。心の(イロ)がキレイなことだ!」

 

 視界が揺れる。血の気が引くのを自覚した。

 

「オルガの(イロ)はガキの頃に天文台で見た星にそっくりだ!」

 

 星。

 人では手が届かない彼方。寒々しい夜空にひとりぼっちで輝く孤独な光。

 

「キラキラで、トゲトゲで。そう、なんて言うか、()()()()()()()()()()()()!!」

「――――」

 

 ワクチャンに悪気はない。そんなこと私にも分かっていた。

 

「――だ」

「オルガ? どうしたぁ?」

「もうたくさんだ! 失せろ、トカゲめ!!」

 

 それでも我慢できなかった。

 

「お、おい。どうした、俺、なんかやっちまったかぁ?」

「何かだと? 馬鹿め、最初からだ! 最初から噛み合っていなかった。最初から違っていたのだ。だから……だから消えろ、今すぐに!」

 

 オタオタとたじろぐワクチャン。その姿に理不尽と知っても攻撃的な苛立ちが滲んでしまう。

 

「ゴメンなぁ、オルガ。悪かったぁ」

 

 力なく俯きながらトボトボとした足取りで去っていくワクチャンを見て、自分で自分に吐き気がする。

 咎のないワクチャンへ当たり散らした負い目で機能が低下している。

 

「誰か、助けて――」

 

 誰にも届かない小さな声で、喘ぐように助けを求めた。

 藤丸達と私の間にある(イロ)を確かめ、葛藤を乗り越えたと思っていた。

 だけどダメだ。一度落ち着いてしまえば次から次と考えが浮かんでしまう。どんどんどんどん悪い方へ傾く負の螺旋を私は止めることが出来ない。

 

「私が……『異星の神』。カルデアの敵」

 

 全てを思い出せてはいない。だがその事実は確信していた。

 藤丸は本当に私をトモダチと思っている。心の(イロ)を見ればそれが分かる。

 だけど私は異星の神。藤丸達の……敵。私は私のトモダチの――敵だった。

 

「どうすれば……どうするのがいいの?」

 

 彼らはありふれた善良さの持ち主であり、好ましい人だった。私は私が善いと思ったものを好み、判断基準に加え、彼らに肩入れしてしまった。

 

(だけどそれは本当に()()()のか……?)

 

 いっそ彼らとは離れるべきではないのか。一緒に世界を救うという約束など最初から果たせなかったのだから。

 膝から力が抜ける。足裏の付いた大地がミシリと軋む。感情の乱れに重力場の制御が弱まっている証拠だった。

 さらに力が抜け、近くの壁に背を預けた。気を付けていたはずだが僅かに壁が軋む音を立てた。自己の不完全さにますます嫌な気分になり、俯いた。

 

(ひとりぼっち……いつも私はひとりぼっちだ。いつだってそう。上手く行きそうな時だっていつも私自身が台無しにする)

 

 思い出せない記憶がチクチクと心の傷を突く。ジクジクと重たく、鉛を飲むような感覚に気分が悪くなる。今にも口から何かを吐き出しそうで吐き出せない。それがひどくキモチワルイ。

 藤丸達といた時は感じなかった孤独が、今は隣にある。忌々しい隣人がニタニタした顔で私に寄り添っていた。

 

(助けて、なんて……どの口が)

 

 ワクチャンを罵った口でなんて恥知らずなのか。

 分かっていただろう、オルガマリー・アニムスフィア。

 この一幕こそお前の人生そのもの。いつもいつも失敗ばかり。色々なことに手を付けて、一つだってやり遂げられない――誰もお前を愛したりしないのだ。

 

 ズキン、と頭痛が走る。

 

 記憶に靄がかかる。思い出しかけていた光景が消え去っていく。

 でも微かに、微かに。()()、と聞こえた気がした。

 

「お悩みですか、閣下」

「ルー、ラー……」

 

 かけられた声に顔を上げれば、当たり前のようにその男は立っていた。愛おしむような、慈しむような眼差しがあった。私は居心地が悪くなって顔を背けた。

 今思えばこの男も謎が多い。どんなに遡っても、どれだけあやふやでも私の記憶にこの男はいない。()()()()()()()()()()

 なのにこの男はこんなにも優しい目で私を見る。私にそんな価値はないのに。

 

「……何の用だ。私は忙しい。急ぎでなければ失せろ」

 

 カラッポなプライドが仮面を創る。不信が猜疑となって声にトゲを含ませた。

 理由のない好意が怖い。不信と自嘲が湧き上がる。なにもかもが億劫で、八当たりの的を見つけてまた荒々しい気持ちが湧き立つ。自分で自分が嫌になった。

 

「どうかご容赦を。主を支え、助けるのが従者(サーヴァント)の役割なれば」

「……何が主だ! どうせ貴様も何も知らない私を嘲笑っていたのだろう!? 滑稽だったか、自らの”敵”を助けて支持者獲得だと騒ぐ私は!?」

「閣下。それ以上はお止めください」

 

 困ったような顔で私を諫めるルーラーがこれ以上なく癪に障った。

 思わずカッとなり、頭に血が上る。視界が赤く染まった。

 胸の奥からこみ上げるドロドロとした激情を吐き出す的へ向け、八つ当たりも込めて思いきり重力場を叩きつけた。

 

「――五月蠅(うるさ)い、消えろ!!」

 

 手加減は、しなかった。

 私が振るう重力場は容赦なくルーラーへ激突し、見えない巨人が思い切り殴り付けたようにその身体が地面と平行に吹き飛んでいく。そのまま勢いを殺さずに樹海を構成する巨大な樹木の一本に激突し、ズルズルと力なく崩れ落ちた。

 

「ッ!? 馬鹿、なにやってるの!? あなたならこの程度どうにでもなったでしょう!?」

 

 口調を取り繕うのも忘れ、地面に倒れたルーラーへ急いで駆け寄る。その(イロ)を見れば赤と黄に輝く肉体、精神活動は穏やかな緑。ダメージで肉体が驚いているようだが、異常はない。思わずホッと息を吐いた。

 

()ッ……流石は閣下。八つ当たりでこの威力とは」

「なにをっ! 馬鹿が。いや大馬鹿ね、あなた!? わざわざ当たる必要もない癇癪に付き合うなんて何を考えてるの!?」

 

 耐久には自信があったのですが、と戯言を零すルーラー。今も痛みに顔を歪めている馬鹿な男に私は怒鳴りつけた。

 

「ですが少しはスッキリしたでしょう?」

「ッ……こ、この――」

 

 だが続く言葉に私の口から飛び出しかけた言葉を噛み潰した。そうしなければこの男に更なる重力場で叩き潰しかねなかった。

 なんて不合理で、不条理な男なのか。怒りで先ほどまでの苦悩が飛び去ってしまうほどに、私は怒った。

 

「……二度は許しません。やれば今度こそ私はあなたを殺すでしょう」

「申し訳ありません」

 

 殊勝に頭を下げながらもやらないとは言わない男へ、私はそれ以上何も言わなかった。

 さっきまでの鬱々とした気分は消えていた。代わりに沸々と湧き上がる怒りがあった。

 

「閣下」

「……なによ」

「少しだけ、話せるだけでいい。どうか貴女の悩みを私にも分けて頂けませんか」

 

 もうどうにでもなればいい。

 半ばヤケになった私はポツリ、ポツリと胸の内に蟠る思いを言葉にし始めた。

 

 ◆

 

 そして全てを語り終えた後、ルーラーは――微笑(わら)った。

 私を見て、私を知って、それが嬉しいと微笑んだのだ。

 その顔に……何故か、ほんの少しだけだが、一人じゃなくなった気がした。

 

「やはり貴女は優しい女性(ヒト)だ」

「優しい…? あなた、馬鹿なの。私のどこを見たら優しいなんて――」

「だって貴女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 嗚呼(ああ)……何故この男はこんなにも――。

 私は、トモダチに嫌われるのが怖い。自分の居場所がなくなってしまうのが怖い。だけどそれ以上に……私が私自身の手でトモダチを傷つけねばならない未来が来るのが怖かった。

 

「なによ、分かったような口を利いて……なんなのよ、あなた」

 

 苦し紛れの悪態に困ったような微笑が返る。

 

「申し訳ありません。ですが、いいのですよ。もしも、を夢見ても」

「……夢は、空想(ユメ)よ。現実にはならない」

 

 形にならない空想に何の意味がある。いいや、むしろ甘い空想と厳しい現実の落差に傷つくだけではないか。

 そう非難を込めて睨みつける。だがルーラーの立ち姿は揺るがなかった。

 

「そうならない、”かも”しれません」

「かも、でしょう」

「そう。”かも”、です。しかし未来はまだ誰の手にも渡っていない」

 

 余りにか細い希望をこの男は騙らずして語った。

 

「微かな可能性です。しかし同じ状況に置かれた藤丸は諦めなかった。当たり前にあるはずだった未来を奪われながらそれでもまだ空を睨んだ」

「それは――」

 

 人理修復。グランドオーダー。未来を取り戻す物語を、知識だけだが私は知っていた。

 人として当たり前で、尊い旅路を、ほんの僅かにだけ。

 

「閣下。あなたは迷いながら決断を下さなかった。それは……決断を下すための情報が不足しているからではありませんか?」

「……そうよ」

 

 ルーラーの指摘に短く頷く。

 確かに私に与えられた情報はあまりに少ない。地球白紙化現象、ORTの簒奪、カルデアへの敵視。その全てが闇の中だ。地球大統領としての使命に沿い、遂行している事業の()()だが……同時に小さな可能性も捨てきれない。

 

(”前”の私は私の嗜好(人類への嫌悪)に沿って手段を選り好みしていた……?)

 

 十分にありえることだ。皮肉なことに私自身の行動がそれを証明している。

 そう考えれば藤丸達と敵対しない可能性もあるように思えるが。

 

(なんとも今の人格(ワタシ)に都合のいい空想、ね……)

 

 とはいえ結局のところ確証はない。今考えているのは出目さえ確定しない黒塗りの賽を振る行為だ。蓋を開ければ望む未来は一筋もなかったなんてことは十分にありうる。

 私の脳裏に、私自身の手が藤丸の血で濡れている光景が過ぎる。恐ろしい、あまりにも恐ろしく、十分に起こりうる未来だ。

 

(だけど藤丸は、迷わなかった……)

 

 不確定な勝算に懸けて己自身を賭け(ベットし)た。怖くないはずがない。それでも自分と仲間を信じて、身を投じるために踏み出す一歩――つまりは『小さな勇気』だ。

 

「私、は……」

 

 迷う。

 私はトモダチに誇れる私でありたいと思う。でもどうしようもなく……怖かった。

 だから私の背中を押したのは……

 

「閣下。あなたは……どう()()()()ですか?」

 

 どう()()()、ではなく。あなたがやりたいようにやっていいのだとこの男は私を許した。

 嗚呼(ああ)、まったく。

 

「――決まっているでしょう。私は地球大統領、U-オルガマリー。この惑星を統べる者」

 

 なんて、タチの悪い男だ。

 想われている。()()を全身で、全霊で、これでもかとまっすぐにぶつけてくる。

 

「地球人類の監督もその責務! 藤丸達が間違っていたら改心させる!! そうでないなら、手を貸してもいい。一応は私の――支持者(トモダチ)だからな」

「まさに、それでこそ」

 

 莞爾と笑う男を見て確信した。この男は自覚のない悪人だ。それもとびきりの。だって”女”にこんなカオを向ける”男”が悪人でないはずがない。

 果たして何人の”女”を泣かせてきたのか。だが今、この”男”の視界に映るのは私だけだ。

 

「手伝いなさい、ルーラー。私は私の地球大統領(みち)を行く」

「お仕え致します。我が誇りに懸けて」

 

 恭しく跪くルーラーへ私は決意を告げる。

 そして胸の内だけでこう呟く――逃がさない、と。

 

 

 

 

 

 




 ■あとがき
 原作から明確にルートが分岐し、ここからの道行きにU-オルガマリーも同行します。
 それと折々で新作を紹介することお許しください。
 本作第一部(ネルガル神討伐戦)レベルまでバチクソに盛り上がるよう書き上げました。
 リンク先のカクヨムで是非ご一読・ご評価頂けますとめちゃくちゃ嬉しいです。!


 【新作紹介】
 カクヨムで新作の投稿を開始しました。

 文明崩壊ダンジョンライバーズ!
 ※タイトルをクリックすれば直接作品ページへ飛べます。

 迷宮災害で滅びゆく現代ダンジョン世界に生まれた最強な”だけ”の主人公がヒロインの厄ネタを暴力とダンジョン配信で殴り倒してハッピーエンドを掴む人間讃歌の物語。

 こんな人におススメです!
 ・今にも滅びそうな現代ダンジョン世界を明るく楽しくちょっとイビツに楽しむ 非日常の冒険を読みたい人。
 ・障害を乗り越えて掴むハッピーエンドが好きな人。
 ・厄ネタ薄幸ヒロインが幸せになるのを見たい人。
 ・掲示板、配信要素多め。
 ・一風変わったダンジョン配信モノを読みたい人。
 ・『エレちゃん』が好きな人(作品の根底に流れるエッセンスは非常に近いです)
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