【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 そして辿り着いたカーン王国跡地。

 そこはチチェン・イツァーに似た様式の、より古く朽ちた建築物が残る遺構だった。また少し違和感を感じる。チチェン・イツァーもそうだ。どうして二つの都市はディノスに合わせた都市設計になっていない……?

 

「よくぞ来た、カルデアの神官よ。人類最後のマスターよ。カマソッソは歓迎する。自ら血を捧げに来たお前を歓迎する」

 

 だがそんな疑問は音もなく降り立ったカマソッソの登場で消える。

 相変わらず狂気を宿した目に異様にお腹が引っ込んだ身体、全身に刻まれた夥しい数の入れ墨。刃にも似た翼、形の手足、背中から伸びる巨大な鎌。以前出会った時と全く変わらない異様な雰囲気を漂わせた蝙蝠の神がそこにいた。

 

「別にあなたのために来た訳じゃないんですけど! というか死霊をけしかけるの迷惑だから今すぐやめて!」

 

 飲まれちゃダメだととにかく腹の底から声を張る。大体こういうのは雰囲気勝負。ハッタリが意外なほど重要なのだとこれまでの旅路で学んでいた。

 

「止める? カマソッソが何故サルの声を聞かねばならぬ?」

「――であれば異邦の冥府を差配する者の言葉は如何でしょうか。偉大なる王よ」

 

 薄ら笑いとともに私の言葉を退けるカマソッソ。

 まあそうだろうと緊張とともに身体に力を込めた私の肩に手を置き、変わって前に出たのはルーラー。

 

「お初にお目にかかります、偉大にして強大なるカマソッソ王。私はルーラー、キガル・メスラムタエア。拝謁の栄に浴し、光栄の至り。この出会いに幸いあれ」

「……なんだ、お前は。その火はなんだ。忌々しい気配だ。カマソッソの気に障る命知らずがいるようだ」

 

 腰を低くし、丁重に話しかけるルーラー。だが飛翔しながらその姿を睨みつけるカマソッソの顔は不快感に歪んでいる。

 これまでカルデアへ向けていた悪戯心に似た悪意とは異なる、明確な敵意と殺意だった。

 

「その(カラダ)をを引き裂いてやろう。首から流れる血を啜ってやろう。それが冥界の王に相応しい振る舞いだ」

 

 さらに加えて食欲までも向けられる。()()()と伸びた長い舌が蛇のように唇を舐めた。横にいる私ですら悍ましさに寒気がする。だがルーラーはカマソッソの威圧に応じることなく、むしろ恥じ入る様に身を縮め、謝罪した。

 

「……ご不快に触れたこと、まこと申し訳なく。なれど迷い苦しむ魂を前に我が鎮魂の炎を振るわざるは我が職責に背く行いなれば。どうかご容赦を」

 

 戦場らしからぬ、奇妙なほど腰の低い振る舞いだった。

 カマソッソですら思わず威圧を収め、珍奇な生き物を見る目で見ていた。

 

「我が呼びかけに応えた戦士を鎮めたか。カマソッソの声が聞こえぬ深き眠りの底に落としたか」

「然り」

「そうか。……オレの知らぬ業を持つ者よ。異邦の冥府を差配する者よ。奇妙なことだ。お前の光は忌々しい。だが少しだけ、温かい」

 

 飛翔するカマソッソと静かに構えるルーラーが静かに見つめ合う奇妙なひと時。敵対しているはずなのにどこか穏やかな時間だった。

 

「――それだけに貴様の血は美味そうだ。食ってやろう、平らげてやろう。その身に秘めた炎を食らい、俺はお前になろう。異邦の神よ」

 

 そんな一瞬の交錯が嘘だったかのように牙を剥きだしにして笑うカマソッソ。一瞬前までの穏やかで思慮深そうな顔が消え失せていた。

 血を求めて彷徨う狂った神がそこにいた。

 

「お待ちあれ、王よ! 私は御身の敵にあらず。ただ偉大なるカマソッソの偉業についてお話ししたく――」

「偉業などオレは知らん。興味がない。現在(イマ)を飛び回るカマソッソと過去を語りたければ第四冥界ヤヤウキへ挑むがいい。そこに我が住処――『恐怖の館』がある」

 

 そしてそれ以上の興味を失ったかのように呼び止めるルーラーから視線を外した。

 互いの意思が完全にすれ違った。そう思わせるに十分な間が空いた。私は再び戦いが始まるかと息を詰め、指示を出そうとした。

 

「ていっ! ファラオが参上しましたよ、歓喜の声で出迎えなさい!!」

「ニトクリス!?」

 

 そこに愛用の杖を振るい、死霊に死霊をぶつけるニトクリスが参戦する。

 報せが届いたボーダーから援軍に来てくれたのか!

 

「またサルが来たか。適当に薙ぎ払え、我が兵達よ」

 

 その参戦をキッカケにカマソッソも動く。一声かければ都市のあちこちからカタカタと骨が軋む音とともに骸骨兵が起き上がる。

 再びの死霊の濁流が私達を襲った。

 

「ふふんっ! カマソッソとやら、どうやら死霊魔術においては素人であるようですね! この私が直々に思い知らせてあげましょう! ふふんっ!」

 

 だがここでニトクリスが活躍した。

 なにせ彼女もまた冥界の主。死霊魔術の達人。ルーラーとは異なる魔術を手繰り、時に自らの臣下たる死霊をけしかけ、時に敵の死霊を鎮めていく。その功績に免じて二度もふふんって言ったのは見逃してあげよう。

 

「勇士達よ、御無礼仕る!」

 

 さらに気を取り直したルーラーもそれに続いた。

 

「死せる者は我が声を聴け。暗黒の鏡を見よ!」

 

 太陽が死霊の魂を温め、ニトクリスの言霊が鎮めていく。

 二人の活躍で未練と恐怖から解き放たれた死霊が凄まじい速度で昇天していく。手勢が減らされたカマソッソの様子を窺うと、

 

「――なんだ、()()は」

 

 激情に顔を歪ませ、怒りを滲ませていた。異常なほどに、異様なほどに。

 手勢を減らされたことではない。彼の目はただニトクリス一人にだけ向けられていた。

 

「女」

「む、あなたがこの騒動を起こした犯人ですね。大人しく投降して――」

「ニトクリス、危ない!」

 

 今のカマソッソには暢気すぎる投降の呼びかけ。

 杖を構え、死霊を揃え、当たり前のように戦闘態勢を取るニトクリスを前にカマソッソが動く。

 

「ッ、早い――!?」

「オレの問いに疾く答えろ」

 

 刹那の時も挟まずにカマソッソが距離を詰める。まさに瞬きの間に二人は額と額がぶつかり合うような至近距離で睨み合っていた。

 ニトクリスの両腕を掴み、食い入るように見つめるカマソッソ。その姿には鬼気迫る迫力が宿っていた。

 

「覚えているのか」

「……なんですって?」

「貴様が操る死霊。その全ての名を――()()()()()()()()()()()()()と訊いている!」

 

 ニトクリスが全力を込めてピクリとも動かない膂力。その気になれば即座に彼女の四肢をねじ切りかねない状況に緊張が走った。

 

「――当然です。彼らはファラオに仕える臣民。死してなお私に忠義を尽くす者達を何故主たる私が忘れられるのでしょう」

 

 互いの息遣いを感じる程の至近距離で、ニトクリスはそう断言した。

 ファラオらしくあるために尊大さを演じる程生真面目な彼女らしい言葉だった。

 だがそれが何故かカマソッソにはクリティカルだったらしい。

 

「おお――おおおおおぉっ――!! なんと愚かな女だ、なんと分を弁えぬ女だ。これはカマソッソの手に負えぬ。手に負えぬ者は関わらぬに限る。カマソッソは賢いのだから」

 

 狂乱したカマソッソが叫ぶ。

 理解できないと、あるいは()()()()()()と畏れるようにそっとニトクリスの両腕を離した。

 そのまま地を蹴って天高く飛び上がり、飛翔する。

 

「カマソッソは暗闇に戻る。我が住処へ戻る。理解できぬ女、貴様は来るな。決して来るな。カマソッソの命である」

 

 高みからニトクリスを見下ろしながらカマソッソはそう告げた。厭うように、どこか願うように。

 そのまま背を向けて去っていこうとした瞬間、振り向く。

 

「そして地の底を照らす光よ。カマソッソの声を聴け。そして忘れるな」

 

 振り向いた顔の眼球だけが()()()と巡り、ルーラーを捉える。異様な形相のまま睨みつけ、言った。

 

「――オレは強大だが偉大ではない。二度の間違いをカマソッソは許さない」

 

 その言葉を最後にカマソッソは翼を羽撃かせて空の彼方へ去っていた。

 




 二部七章トリビア。
 勇者王は間違いなく偉大だが、(本編を流し読みした範囲では)偉大なるカマソッソと自賛したことはない。



 【新作紹介】
 カクヨムで新作の投稿を開始しました。

 文明崩壊ダンジョンライバーズ!
 ※タイトルをクリックすれば直接作品ページへ飛べます。

 迷宮災害で滅びゆく現代ダンジョン世界に生まれた最強な”だけ”の主人公がヒロインの厄ネタを暴力とダンジョン配信で殴り倒してハッピーエンドを掴む人間讃歌の物語。

 こんな人におススメです!
 ・今にも滅びそうな現代ダンジョン世界を明るく楽しくちょっとイビツに楽しむ 非日常の冒険を読みたい人。
 ・障害を乗り越えて掴むハッピーエンドが好きな人。
 ・厄ネタ薄幸ヒロインが幸せになるのを見たい人。
 ・掲示板、配信要素多め。
 ・一風変わったダンジョン配信モノを読みたい人。
 ・『エレちゃん』が好きな人(作品の根底に流れるエッセンスは非常に近いです)
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