【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
そして今。カマソッソを退けた私達はミクトランの深奥を目指して第三の冥界行へ挑んでいた。
話は少し過去に遡る。
カマソッソを撃退した後、チチェンイツァーではちょっとしたお祭り騒ぎになった。それだけカマソッソがディノスから恐れられているのだろう。
私達……特にルーラーとニトクリスが大人気だったのは言うまでもない。さらにノリがいい恐竜王は私達との交流を公に許し、大勢のディノス達と友達になった。
時にディノスと
『やはり現状で一番現実的な案はORTを目覚めさせようとするデイビットの排除だろう』
その後、ボーダーでは対応方針そのものを見直し、一番勝算が高いのがデイビットの無力化だろうと結論した。ORTと戦うのに比べればどんな難行だろうとマシだろうとは私も思う。
そのための情報を求め、私達はまず人類の足で到達できる最終地点、第七層を目指すことにした。
『天文台、メツィティトラン。ミクトラン成立時から現在に至るまで存続し続けた
そうククルカンからもお墨付きを頂いた以上第七層の天文台を目指すのが現状取れるベターな選択肢だろう。
ただ少し気になるのは。
『今思えば異星の神はデイビット様を無視していました。どうでもいい、ではなく
『それは……』
『そう……むしろ対等な者と見做す振る舞いです。異星の神が、一介の人間を相手に』
出発前にコヤンスカヤが零した言葉だろう。デイビットの異質さがうっすらと肌に纏わりつくように感じさせた。
(しかも一人で
挙句の果てにチチェンイツァーでデイビット本人と遭遇してしまった。おまけに色々な物資を押し付けられたし。その時の問答も奇妙に達観した口ぶりと言うか、普通とは違う視点からの言葉と言うか……
間違いなく異聞帯攻略の鍵を握るキーパーソンだ。まずはそのデイビットについて知るべきだろうとなったのも当然の成り行きだろう。
そうして再び私達の冥界行が始まった。
◆
そうしてやってきた第三冥界たる星の砂漠、ソソアウワキもまたこれまでの冥界に劣らぬ地獄だった。
砂嵐、超高温、乱れる重力場、上空の真空。人間の生を拒む極限環境のオンパレードだ。流石の私も礼装込みでも降参しかけた。
「ウウキル・アブナルの赤瓜があれば体温は一定に保てるのですが……」
ってククルカンやテペウは嘆いていたけど、デイビットに押し付けられた物品を探してみれば……あったよ、ウウキル・アブナルの赤瓜!
リンゴとブドウとモモとミカン、あらゆる果物をミックスして極上に仕立て上げたような甘味でした。うまうま。
……いや、本当に怖いな。ここまで見越していたこともそうだが、私達にわざわざ塩を送った意味が分からない。
「まあ考えても仕方ないか!」
考えても分からないことは考えすぎない。これも今までの旅路で学んだことだ。
重要なのはこのまま先を目指せること。さあ、出発進行だ。
それからも大量の大型砂虫が襲い掛かってきたり、冥界なのに私の簡易召喚が使えないことが判明。ニトクリスを酷使無双してなんとか凌いでいた。
「ふむ、この気配は。懐かしくも愛おしく、ちょっとうっかりでポンコツな女神がいるような……気のせいか」
なお道中の過酷さに頭をやられたらしいルーラーはそんなトンチキ発言を零していた。気のせいであって欲しいと思った。
かくしてなんとかかんとか苦労しつつも足を進めていたところに遭遇した敵の姿は……色々な意味で予想外な代物だった。この冥界も大概トンチキが過ぎるな?
「なんですか! なんなのでしょうか、あの巨大な脚は――!?」
「うん、まあ、もう言わずもがなというか。
アレは間違いなくグガランナの”脚”。かつてのデッドヒート・サマーレースでも見た天の牡牛のごく一部だ。大分苦労したものの普通に倒せたのはちょっと拍子抜けしたが。
本来はイシュタルが使役する神獣だけど、片割れの方とも縁があったはず。
となるとルーラーがどう動くか若干読めないな。
砂嵐が収まりつつあるとはいえ視界が悪い中、件のサーヴァントを探したところ。
「って、ルーラーは?」
「……あれ? 砂嵐に巻き込まれるまでは一緒だったのですが」
「ってことは、はぐれちゃった?」
ちょっとちょっと。本格的に状況が読めなくなってきたな。
ルーラーがどう動くかでかなり事態が変わるぞ。あの男、理性的に見せかけて実はかなりトンチキな変人だってこれまでの経験が語りかけてくるのだから。
◆
そして少し時間が過ぎ……。
ルーラーとはぐれ、彼や冥界行の手掛かりを探す内に出会ったのは一人の青年。金の羊毛で仕立てた衣服を纏い、魚が死んだような目をした独特な雰囲気を持つ金髪の男だった。
どことなく既視感があるような……。というかその正体を半ば確信していた。
「ルーラーなる男 (とてもどうでもよさそうな口ぶり)は知りません。ですがこの冥界の主ならば知っています」
「ほんと? それじゃあ」
「何故なら私の上司です。私はそんなとても恐ろしい女神から逃げていました」
「……そっかー」
微妙に警戒度が上がる発言を物凄くシレッと零された。こんな時なんて返せばいいか分からないな。
恐ろしいだの逃げていただの言葉もどこまで真に受けていいものか。存在そのものが胡散臭いって相手にする身としては困るんだよな。
「天鳴神殿の一柱を倒したのがあなた達だったとは。とても驚きました。Good job。しかし私の仕事は増えるでしょう」
とても特徴的な胡散臭さというか、信用したら痛い目に遭いそうな典型というか。こう、記憶にないけど見覚えがありすぎるキャラクターに私達全員が微妙な顔をした。
「ところであなた、もしかしてドゥ――」
「ノン。私はそんな名前の知的で素敵な羊飼いではありません。敢えて言うならそう、ドゥーム
「その苦しい言い訳って誰向けなのかな?」
ピキピキと額に青筋が浮かぶのを自覚しながら詰め寄る。相変わらずナチュラルに人の気を逆撫でするキャラだなぁ!
「時に
「なんか適当にポエムっぽいことを言って誤魔化せると思うなよ! なにやってんだドゥムジぃ――!?」
私をふわふわのマスターと呼ぶ相手なんてお前と三代目サンタしかいないだろうがっ!?
「大変素晴らしい発音です。パチパチ」
隠す気もない特有の呼びかけ。胡乱を擬人化したようなキャラ付けを見間違えるはずないだろう。
突き抜けたマイペースさで拍手する推定ドゥムジに私は溜息を吐いた。
マイペース過ぎる男に悩まされつつ、なんとかこの第三冥界とその主について話を聞き出していく。
例えば彼がエレシュキガルに呼び出され、緑を広げ羊が遊ぶ冥界へ育てるよう命じられたこと。
「私はとても頑張りました。とても。不毛の砂漠に花畑を広げ、羊は無理だったので砂虫にたっぷり栄養を与えて大型化し――」
「いや、それは……なんでもない、続けて」
ツッコミを入れようとして踏み止まる。キリがないからだ。多分この冥界の主もこの男のこういうところに怒ったんだろうなぁ。
私は酷い目に遭ったと棒読みで語る男よりむしろ主の方に同情した。
その後も話は続く。
「
「素晴らしい。話が早いのはいいことです。どちらも答えはYes。恐ろしい女神はもっと恐ろしい女神になってしまいました」
冥府の全てを厳しくも優しい慈愛で満たそうとした女神は消え、いまや冥界は女神の領域を除いて砂漠化し、さらに巨大な砂虫が、天鳴神殿グガランナが闊歩する地獄になったと語る優男。
「……いや待って? よく聞かなくても地獄になった原因の1/3はドゥムジじゃない?」
「Oh、私の完璧な詐術がバレてしまいました。残念。とても残念。ですが次のドゥムジはきっと上手くやるでしょう」
次? ないよ、そんなの。
絶妙な
殴ってもいい? いいよね? よし、殴ろう (決意)
「落ち着いてください、先輩! 気持ちは分かりますが。気持ちはとてもよく分かりますが!」
拳を握った私を押し留めるマシュの手にも力がない。二度も繰り返したあたりこれはもう合意ということなのでは?
「ドゥムジさん、私達を冥界の主まで案内してくれないでしょうかっ? この要求が聞き入れられない場合、我々には荒ぶる先輩を解き放つ用意があります!」
「Non、私はドゥムジではなくドゥーム
先輩を使って脅迫とはマシュも成長したなぁ、としみじみ思う。トンチキ空間に揉まれて適応したんだね。
「では私の背中に付いてきて、さあ」
私達を先導するべくクルリと振り向いた背中には――ふわふわの羊毛の中にあの極限までデフォルメされた黄金羊の顔!
やっぱりドゥムジじゃないか!? 最早隠す気ないな貴様っ!!