【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
身に纏うウールの羊毛に見慣れた羊頭。最早隠す気もないドゥムジにキレながらもその背に付いていこうとした矢先、
「その必要はないのだわ」
天より声が降る。見上げればそこに
「我が天鳴神殿の一脚を粉砕した輩、わざわざ踏み潰しに来てあげたわ。こうべを垂れ、拝領せよ」
「……エレシュキガル」
広大な星の砂漠。嵐と熱砂、そして真空と無重力で地獄と化した第三冥界の主が私の呼びかけに冷たく笑う。
「否、私は最早エレシュキガルにあらず。カルデアにあった頃の慈悲は最早ない。より完璧な女神として新生した新しき我である」
エレシュキガルの名を否と拒む女神が新しい名を高らかに告げた。
「――ニンキガルの名を知りなさい。私こそ神話に語られる残忍・冷酷・傲慢な女神の姿と心得よ」
エレシュキガル・オルタ改めニンキガル。
普段の透けるような白とは対照的な褐色の肌。纏う魔力の質は刺々しく、冷たい。漲る魔力はかつて第七特異点で冥界の主人としてあった頃と遜色ない規模。つまり、とても勝ち目がない。
彼女もまたカマソッソによって
……しかし。
「ちなみに神話通りだとえー、『淫蕩』とも言われてるけど?」
「そ、それはもっと親密になってから見せるものでしょう? いきなりだなんてはしたないじゃない」
ややイケない気持ちになりつつ気になったところを指摘すると頬を赤く染めてテレテレと照れていた。
エッチなのはメッ、って返されたあたりやっぱりいつものエレシュキガルだ。イメチェンしたのは認めるけどキャラはあまり変わってないね。もしかして日焼けサロン行ってきた?
「なにやら不敬な視線を感じるのだわ……不本意なのだわ」
「気のせいだよ、ウン」
私はジト目でこちらを見るエレシュキガルもといニンキガルから目を逸らした。
「ところでもの凄く気になってるんだけどさぁ…………なにをさも当然のような顔をしてニンキガルの隣にいるんだルーラー! 貴様、(やはり)裏切ったなっ!!
そう、ニンキガルの隣には当たり前のような顔でルーラーが佇んでいた。砂嵐ではぐれたはずがこんなところで再会するとは思ってなかったなぁ!
ごめん嘘、薄々こうなるんじゃないかって思ってた。
「誤解です。そして裏切って当然のように思われていたのがとても悲しい……」
「だったら少しは申し訳ない顔をしろぉっ! ニンキガルもニンキガルだよ、なんで出会って数時間の不審人物を昔からの古馴染みみたいな空気で控えさせてるの!?」
ニンキガルの隣に自然体で立つルーラーに思わず怒髪天を突く。二人が並び立つ絵があまりに自然過ぎて、違和感が仕事をしていなかったのだ。
初めて見る組み合わせなのに違和感がなくて逆にビックリだよ! なんなら老年まで連れ添った熟練夫婦って言われても信じちゃうよ!
見ろ、隣のU-オルガマリーの顔が怒り心頭だったり不安そうだったり感情のジェットコースターになってるじゃないか!
「な、なんのことかしら……? だって私は地球大統領。地球大統領は慌てない」
声が震えてるよ、U。頬もヒクヒクしてるし。そもそも台詞からして大分おかしいよね?
一方のニンキガルはやや不思議そうに、だが少ししてからルーラーを見、得意そうな顔でこちらを見た。
「この男のこと? ええ、私の部下よ。私が従えるまでもなく自分から仕えたいと言ってきたの。知らぬ間に魅了していただなんて流石は私ね!」
「フフフ。ニンキガル様、間違いではありませんが誤解を生む言動はお止めください。死にます。主に私が」
「大丈夫よ。だってここは私の冥界だもの。文字通り
「ヒエッ」
「うーん、
「そうね。被告人に厳罰を所望するわ」
「そんな、何故!?」
鏡を見たら理由が分かるんじゃないかな? むしろ自覚がないのか。ビビり倒している癖に嬉しそうという矛盾した顔を見たこっちの身にもなってみろ。
そして我らが地球大統領も度重なる部下の失態 (?)に怒りの方が勝ってきたらしい。パリパリと静電気に似た音を立てながら暴発寸前の魔力が渦を巻いている。
「何故だと? いいだろう、死んだ方がマシと思える程痛めつけてやる! この私を裏切った罪をその身で贖うが良い!」
見事なまでに額に浮いた青筋をピクピクと震わせながらUがキレた。あまりにも残当すぎる。
「誤解です、閣下! 私は決して閣下を裏切ったのではなくただ少しニンキガル様をお助けしたいという欲求に抗えなかっただけなのです!!」
心の底から全力で他意はないと叫ぶルーラーだが……ごめん正気か???
何故自分から地雷を踏みにいくんだ。挙句導火線に火を着けてガソリンまでぶちまけるなんて焼身自殺の準備は万端とかアピールしなくていいんだよ? こっちも困るから。
「不毛の冥府を
「え、やだ。急にそんな褒めないでよ。照れるでしょ!」
恥ずかしげもなく愛を語るルーラーの言葉にあせあせと訳もなく恥ずかしそうに、嬉しそうにするニンキガル。視線をそこかしこに送って動揺しているのがバレバレだが悪い気はしていないらしい。
ちょっとニンキガル? そんな嬉しそうな照れ顔私ですら見たことないんだけど? もしかして満更じゃないの? U-オルガマリーに飽き足らず出会って数時間のニンキガルまで……どこまで手が早いんだ、この男は。
「申し訳ありません。しかし全て本心です。私はただ貴女に僅かでも幸をもたらしたかった」
「そ、そう? でもなんで縁もゆかりもないあなたが……」
「誰かのために頑張る者に報われて欲しい。それはとても当たり前の思いでしょう?」
「ルーラー……あなた」
互いに見つめあっていい雰囲気だね、二人とも。
ところで私の隣を見なよ、一周回ってオルガマリーの顔が見たこともないほど穏やかだ。作り物の能面みたいだね!
「ルーラー」
「はっ。私がけして裏切った訳ではないこと、お分かり頂けましたでしょうか、閣下」
なんでこの流れでこの台詞が出るのかもう私には分からないな(諦念)
「よく分かったわ。貴様の言葉を聞いて気が変わった」
「おお!」
「七割殺しで済ませるつもりだったが全殺しに変更する! 手伝え、藤丸!」
「オッケー」
私まで巻き込まれたが元々参加するつもりだったので親指を立ててOKサインをだす。一応乙女の端くれとしてこれは流石に許してはいけないと思うんだよね。
「そんな……何故? 藤丸まで」
ところでショックを受けた顔をしているルーラー、一言いいかな。
「――それはこっちのセリフだ」
私の隣でここまで沈黙していたマシュが深々と頷きながら盾を構えた。多分このミクトランに来てから一番しょーもない理由の戦闘が始まった。