【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 戦いの火蓋が切られ、ニンキガルが笑う。彼女には珍しい冷たくて獰猛な笑みだ。

 

「ふうん、やるんだ。いいでしょう。女神に逆らう愚者に己の分を教えてあげるわ!」

「貴様が如き木っ端女神に教わることなどあるものか! 私は地球大統領だぞっ!」

 

 その余裕綽々な上から目線にU-オルガマリーが噛みつく。だがニンキガルはむしろ余裕の笑みを深めた。

 

「来なさい、私の眷属達! 女神に逆らう恐ろしさを教えてやるのだわ!!」

 

 宣戦布告とともにニンキガルの魔力が胎動する。

 大地が揺れ、砂嵐が巻き起こる。砂塵の奥に途轍もない圧力が潜んでいるのを感じ取る。これは――ヤバい!

 

「「「「「「 」」」」」」

 

 現れた光景に全員が口を開けて、絶句。言葉を失うという言葉があるならまさに()()()()だ。

 私達の眼前にはニンキガルを守る様にズラリと並ぶ大量のグガランナの”脚”。胴体部分はなく、ただ直立する”脚”のみが幾つも独立して立ち並ぶ。

 女神曰くコストパフォーマンスを考えた合理的で隙のない布陣であり……同時に見る者全てを呆れさせる恐ろしく頭の悪い光景だった。

 

「恐ろしさに声も出ない? 無理もないわね。この天鳴神殿を見ては!」

 

 得意満面に胸を張るニンキガル。いや、驚いてはいるけど方向性が斜め上というか……。おいたわしや。異霊(オルタ)化したせいで感性がイシュタルに寄っちゃったんだね。

 

「ふふふ、これより振るわれるはその不敬な目線へのお仕置きと心得るのだわ――やりなさい、我が眷属達よ! でもまあ、少しは優しくね」

 

 最後に手加減を付け加えるあたり本気ではないのだろうが……それでも洒落にならない圧力と冗談にしか思えない光景に私達は顔をひきつらせた。

 

 ◆

 

 ――強い。否、勝負にならない。

 どれだけふざけた絵面だろうがニンキガルが率いる戦力は圧倒的だった。一本でも厄介だったグガランナの”脚”が文字通り足並みを揃えて前進するだけでこちらはその圧力に屈する程に。

 

「そろそろ諦めたらどうかしら? 自ら降った者はちょっとした懲役で済ませてあげるわ。私の冥界を栄えさせるの。素敵でしょう?」

 

 得意げに胸を張るニンキガルの降伏勧告。強がりたいが、ちょっと難しいな。それくらい劣勢だ。

 チラリと横目で見ると、U-オルガマリーや異聞帯の王であるククルカンですら攻めあぐねている。いや、彼女の場合どこまで本気でやるか測りかねている感じか?

 

「そんなのお断りよ。私達が用があるのははこの先なんだから! ついでに部下も返して貰うわ、利子付きでね!!」

「随分とルーラーにこだわっているのね。少し意外だわ」

 

 ニンキガルと、U-オルガマリー。二人がルーラーを巡って舌戦を交わす。痴話喧嘩と言うには二人の間に温度差があるけど、ともかく渦中のルーラーは始終困ったような顔でこの戦いを見詰めていた。

 立場的に片方に肩入れできないのだろうが、流石に本気でピンチになった時はフォローに入ってくれると信じたい。

 

「うるさいっ! その男は私の部下(モノ)だ! 実力で取り戻して何が悪い!」

「ああ、なるほど? ふうん、()()()()()わね」

「……知ったような口を」

 

 敵意の籠った強烈な視線をぶつけられながらむしろ不思議そうに首を傾げるニンキガル。

 

「だって私とあなた、少しだけ似ているもの。もし部下が自らの意思で私の下から去ろうというのなら……私なら引き止めないわ」

「っ……!」

 

 恬淡と語るニンキガルに悔しそうに口籠るU。図星だったのだろうか。

 ニンキガルの言葉も嘘じゃないだろう。笑顔で見送る胸の内でこっそり涙を流すのが彼女の意地だから。

 

「でも貴女はそうしない。それは……()()()()()()()()()()()()()ではないかしら?」

 

 その言葉がU-オルガマリーの地雷を踏みぬいたことに気付く。

 

「――――」

 

 Uの顔から表情が消える。胎動していた魔力が止み、不気味なほどの沈黙が場を覆い尽くした。

 嵐の前の静けさ。それも最大級(カテゴリー5)の。

 あ、マズイ。これは本気でマズイ。汗が背筋を伝うのが嫌に冷たく感じた。Uが見たことのない顔で()()ている。ここから先、本気の殺し合いになりかねない。

 が、

 

「――こ、これが汎人類史でのみ見られる痴話喧嘩という文化でしょうか!? ディノスにはない文化で興味深い。とても興味深いです。身体が熱くなって胸がソワソワしますね。もっと継続的に観察したいです」

 

 張り詰めた殺し合いの空気に100%天然箱入りお嬢様ボイスが無邪気に、容赦なく水を差した。ククルカンがものすごくウキウキと楽しそうにしている。

 神様ではなく、異聞帯の王でもなく。アレはそう、恋バナを楽しむオンナノコの顔だ。

 

「「――」」

 

 U-オルガマリーとニンキガル。互いが互いを睨み合う張り詰めた一秒の沈黙から一転して()()()、と異様な勢いで首を振った二人がククルカンを睨む。

 明らかに空気と敵意のベクトルが270°くらい捻じ曲がったのだが、ククルカン一人だけ気付いていない。

 

「さあ、続きをどうぞ! もちろん戦いは手加減などせず全力を尽くします。ただ第三者として二人の痴話喧嘩をじっくりと観察したいだけですので!!」

 

 最高にエキサイティングなゲームを前にした無垢な子供のような満面の笑み。

 やる気満々でファイティングポーズを構える彼女だが、渦中の二人からジトリとした眼差しを向けられていることにようやく気付く。

 あ、向こうでルーラーがすごい困った顔をしている。

 

「あら? あらあらあら? あの、私なにかやっちゃいました?」

 

 タラリ、と額から汗が一筋流れる。彼女もようやく空気が変わったことに気付いたらしい。あせあせと周囲を見渡しながら気まずそうにそう問いかけた。

 

「とりあえず一度ぶちのめすわ」

「そうね。一時休戦といきましょう」

「む、むむむ……。正直意図がよく分からないのですが、つまり物質干渉による意思疎通。肉体言語というやつですね! 分かりました、これも貴重な経験ということでイッテゴキョージュお願いします!」

 

 二人の狙いが己に変わったことに首を傾げつつ、それはそれとしてククルカンが楽しそうに受け入れる。

 荒れ狂う重力場、前進制圧する天鳴神殿(グガランナ)。そしてそれを身一つで迎え撃つククルカン。私を含むそれ以外の面子はさりげなく遠く離れた場所へ避難を始めた。

 あ、その場から離れられないルーラーが戦いの余波に巻き込まれてる。

 一言言わせてもらうね――ザマァっ!!!

 

 




 【新作紹介】
 カクヨムで新作の投稿を開始しました。

 文明崩壊ダンジョンライバーズ!
 ※タイトルをクリックすれば直接作品ページへ飛べます。

 迷宮災害で滅びゆく現代ダンジョン世界に生まれた最強な”だけ”の主人公がヒロインの厄ネタを暴力とダンジョン配信で殴り倒してハッピーエンドを掴む人間讃歌の物語。

 こんな人におススメです!
 ・今にも滅びそうな現代ダンジョン世界を明るく楽しくちょっとイビツに楽しむ 非日常の冒険を読みたい人。
 ・障害を乗り越えて掴むハッピーエンドが好きな人。
 ・厄ネタ薄幸ヒロインが幸せになるのを見たい人。
 ・掲示板、配信要素多め。
 ・一風変わったダンジョン配信モノを読みたい人。
 ・『エレちゃん』が好きな人(作品の根底に流れるエッセンスは非常に近いです)
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