【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 花の戦争。神に捧げる生贄を求めて行われる略奪戦争。

 それが勃発したと、ボーダーからの通信で知った。

 私達が第七層目指して冥界行を行っている最中、手薄になったチチェン・イツァーをオセロトルの大軍が襲撃した。

 ディノスの心臓、そしてチチェン・イツァーの太陽遍歴を求めて押し寄せるオセロトル。

 神官ヴクブによる闘士職への偽布告で戦力が大幅低下したこともあり、彼らの奇襲作戦は成功した。

 

「まあ大胆♡ 素晴らしい奇襲作戦です。でも攻めるばかりではツマラナイ。愛らしい兎に狩られる気持ちを味わってみませんか?」

「不愉快だ、全能神(テスカトリポカ)。今度こそ貴様の命を以て報復を果たす。覚悟しろ!」

 

 それでも珍しく優良顧客を守る投資と嘯いて最大火力を振るったコヤンスカヤ。

 そして超速でチチェン・イツァーに舞い戻り、テスカトリポカと一騎打ちしたU-オルガマリーの奮闘でなんとか都市の原形は残った。

 

「とはいえ犠牲は大きいな……」

 

 ゴルドルフ所長が零す苦渋の声は正しい。

 チチェン・イツァーのディノス達に大きな犠牲を出し、恐竜王こと青のテスカトリポカもオセロトルの首魁イスカリによって銃撃。体中に弾丸を撃ち込まれ半死半生。

 太陽遍歴もまた奪われた。ミクトランの覇権はオセロトルのものとなったと言っていい。そこにどれほどの意味があるかはさておき。

 

「それでも前に進まなきゃ」

 

 襲撃は乗り切った。

 同胞を多数失いながらも淡白すぎるディノス達に私達の方が悲しくなりながらも、前へ進むことを選んだ。

 作戦目標は二つだ。

 一つ、デイビットの襲撃及び無効化。

 二つ、空想樹の切除。

 どちらも『ORTを目覚めさせる前に終わらせる』ことを前提に置いた作戦だ。

 デイビット襲撃作戦はカドック、ゴルドルフ所長。そしてコヤンスカヤが。

 空想樹切除作戦は引き続き私達が請け負うことになった。

 そして私達が担当する空想樹の切除。伐採すべき空想樹があると目されるのはミクトラン最下層、第九層シバルバー。恐怖の地。宇宙樹セイバが根ざすと伝わる場所。

 私達はそこへ向けて最後の冥界行に挑んでいた。

 

 ◆

 

 太陽なき地底山脈、第四冥界黒い線(ヤヤウキ)。カマソッソの棲み処、『恐怖の館』がある最後の冥界。

 一見すると巨大な山脈。だがその内部にはさらに山脈が蔵されているという。

 要するに洞窟だが、もちろんただの洞窟じゃなかった。

 洞窟の暗闇から星々が輝く宇宙空間じみた光景が覗く奇妙な空間だ。足元があるような、ないような。重力が弱くなっているのか。さらに実際に宇宙線まで飛び交っているようで、もちろん人体には有害である。

 そしてここでもデイビットに押し付けられた透明な雨合羽もどきが宇宙服の代わりとして機能してくれた。

 だがこの第四冥界最大の障害は環境ではない。

 

「みんなも分かってるだろうけど、カマソッソからは出来るだけ隠れる。戦わない」

「はい。現状我々は直接的な利害をカマソッソと有していません。可能な限り戦闘は避けるべきかと」

 

 みんなを異霊(オルタ)化したことは一言いってやりたいけど、それは今じゃなくてもできることだ。

 私の言葉にマシュを筆頭に皆が頷く。いや、ただ一人ルーラーが何か考え込んでいるようだ。以前カマソッソに出会った時も何かあるようだったし、念のため釘を刺しておくか。

 

「ルーラー? 分かった?」

「……ええ。承知しています。まずはこの冥界を抜けることが先決かと」

 

 よし、懸念材料だったルーラーが頷いた。かれなら自分の言葉を反故にすることはないだろう。

 

「それじゃORT目指して出発進行!」

「なんだ、貴様らが知りたいのはORTまでの道か? オレは話が分かるカマソッソ。オマエ達の目的がORTであるのならオレは邪魔しない。近道も教えてやろう」

「ありがたいぜぇ! オレの後ろにいるカマソッソもそう言ってるぜぇ!」

 

 知ってた(百戦錬磨)。ヌルッと会話に入ってくるなよな。

 ニヤニヤと嘲笑うカマソッソが暗闇に溶け込むようにワクチャンの背後、私達の最後尾にいつのまにか立っていた。

 

「アハハ、それは助かるなぁ。ありがとね、カマソッソ」

 

 まあね、こういう時はね。大体思う通りにいかないんだよね。さっきの言葉は100%本気だけど半分くらいフラグと思ってたよ。

 全員が戦闘態勢を取る中、私とカマソッソだけが見せかけの笑顔を張り付けていた。

 

「どういたしまして、だ。カルデアの神官……このやり取りは随分と久しぶりだ。いや、違う。カマソッソに思い出すべき過去はないのだから」

「……」

 

 ブツブツと自分で自分の言葉を否定するカマソッソに少しだけ彼の過去を思ってしまう。文字通り全てを犠牲にただ一人生き残り、生き続ける。文字通り()()()()()()()。それは……それは、なんて――。

 首を振る。感傷を振り切り、同時にカマソッソも振り切ろうと声を上げた。

 

「それじゃ話も済んだし私達はここで失礼して――」

「まあ、待て。カマソッソはまだ用がある。取引をしよう、カルデアの神官」

 

 まあ、ですよね。知ってた (数分ぶり二度目)。

 

「……どんな取引なのか?」

「カマソッソはORTまでの近道を教えよう。敵はなく、障害はなく、貴様らは速やかにデイビットへ追いつくだろう」

「代償は?」

 

 願ってもない話だが、私が受けるかは結局そこ次第だよ、カマソッソ。

 

「代わりにオレはその女を貰う。それがカマソッソの取り分だ」

 

 カマソッソが細くねじれ曲がった指先が指し示した先には、

 

「私、ですか?」

「そうだ、褐色の女よ。オレはお前に用がある。貴様を差し出すならオレはオマエ達を見逃そう」

 

 不思議そうに首を傾げるニトクリスがいた。

 まさかの、ではないか。以前に出会った時も随分と彼女の言葉に衝撃を受けていたようだ。何が彼の琴線に触れたかは分からないが、

 ニトクリス自身は不本意と疑念を分かりやすく示していたが、すぐに覚悟を決めたようにキッと顔を上げた。

 

「……。分かり――」

「ダメ、ありえない、却下で」

 

 ニトクリスの言葉に被せるようにNoと答える。有無は言わせない。

 うん、分かってるよ。客観的に見てこれが()()()()取引だってことは。それに多分カマソッソ自身もどこかニトクリスを気遣っている気配がある。意外と悪いことにはならないかもしれない。()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、却下だ。

 

「それが貴様の選択か、カルデアの神官」

「うん」

 

 無感情なガラス玉のような目で見られながらの問いかけに迷いなく頷く。カマソッソが自身の流儀と言うなら私もカルデアの流儀を押し通させてもらう。これでお互い対等だ、でしょう?

 

「……」

 

 押し潰すようなプレッシャーを押し返すように精一杯胸を張る。ハッタリも込みだが、無いよりはマシだ。睨み合う私とカマソッソとの間でしばしの沈黙が漂った。

 

「――残念だ。だがカマソッソは言葉を違えない。此度は見逃そう。故に次の機会を狙おう。カマソッソは狩人でもあるのだから」

 

 気紛れか、計算か。ともあれカマソッソは私達との衝突を回避した、してくれた。たとえ諦めないぞというネバーギブアップがセットでも正直ありがたい。

 まさかORTと対峙してるところで横入りしないよね……するかも。イヤだなぁ。

 

「では消えろ、サルども。カマソッソは塒へ戻る。我が眠りを妨げるべからずだ」

「……ねえ、聞いてもいいかな?」

「なんだ、オレの好きな色か? 闇のような紫。そして闇のような赤、即ち褐色だが」

 

 いや、別に色の好みとか聞いてないが?(真顔) 

 そして何故妙に詩的な例えなんだ。でもカマソッソは褐色好きか、納得(ある方向を見ながら)

 

「そ、その視線はなんですか同盟者よ。不敬ですよ!」

「いや、ニトクリスは罪作りだなって」

 

 よくよく見てみるとカマソッソの顔立ちってめちゃめちゃ整ってるんだよね。そんなイケメンのターゲットになって羨まし……くはないな別に。

 

「違うのか。では疾く問うがいい。カマソッソは機嫌がいい」

「本当にORTを――」

「お待ちあれ、藤丸。それ以上はいけません」

 

 あの真正の怪物。()()()()()()()()星喰らいをどうやって――ヒントを求めての問いかけはそっとルーラーに遮られる。

 それで我に返った。危うく最低の侮辱を投げつけるところだった。同じことを言われれば私も怒っただろう。

 

「……良い判断だ、地底の太陽よ。暴言には暴力で応えるのがカマソッソの流儀だ」

「彼女も悪意ではなく、むしろ心底から驚愕あっての言葉。どうかご容赦あれ」

「何のことだ。カマソッソは過去を顧みない。故に、取るに足らぬことはすぐ忘れるのだ」

 

 ルーラーが見せる本物の敬意が籠った恭しい一礼を鷹揚に頷いて受け取るカマソッソ。元とはいえ王様らしい余裕のある態度だった。

 

「ごめんなさい、カマソッソ」

「オレは知らぬと言った」

 

 謝罪の意を込めて私も頭を下げる。カマソッソはやはり気にした様子もなく流した。器が大きい。

 

「感謝を。偉大なる王よ」

「――おい」

 

 だがルーラーの何気ない一言でその空気が微塵に砕け散る。()()()と噴き出す怒気、戦意に漲る魔力。本能がけたたましく警鐘を鳴らし、私の身体が勝手に構えを取った。

 

「……サルが。オレの言葉を忘れたか。オレは過去は忘れるが決断は忘れないカマソッソ。故に決めた、オマエを殺そう」

「ちょっ!? なんで――」

「オレはオレを偉大と呼ぶことを禁じた。オレの警告を踏み躙った輩には罰を与える」

 

 あまりにも突然の殺害宣言がルーラーに向けられる。私は思わず何故と叫ぶが、返ってきた言葉にそういえばと思い出す。

 飄然とした物言いとは裏腹にその視線は鋭すぎる殺意に鋭く研がれ、ルーラーを切り裂くように睨みつけていた。

 

「ッ!? ルーラー!!」

「申し訳ありません、藤丸。地雷を踏んだようです」

「そんなことはいいから! 逃げるか、謝るか。すぐ決めて!」

「逃げる訳にはいかない。私は彼に用があるのだから。そして後者はもっと()()

 

 何故なら、とルーラーは告げる。

 

「偉業には賛辞を捧げるのが道理。ましてはそれが星を救う大偉業、ORTの討伐なれば。カーンの王国には万雷の喝采をもってまだ足りますまい。ならば」

 

 大きく一息、吸い込んで。

  

「――偉大なる王国の王を、偉大と呼んで何が悪い!! まさかあなた自身が異を唱えるか、カーンの聖君主(クーフル・カン・アハウ―ブ)!!」

 

 どこまでも堂々と、己の言葉を曲げぬとルーラーは叫んだ。カマソッソとカーン王国の名誉のために。とうに廃れた、呼ばれることのない美称まで添えて。

 ()()()、とカマソッソが揺れる。身体ではない、ルーラーの言葉がその心の根っこを揺さぶった。

 

「――オレを、王と呼んだな。ならば我がもう一つの名も知るがいい。

 カーンの勇者。蜘蛛殺しの蝙蝠。王冠を捨てし王。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あまりにも悲しい言葉とともにカマソッソの肉体から加速度的に圧力が膨らむ。無数の蝙蝠が飛び立ち、闇を更に深くする。カマソッソの姿が暗闇の暗幕に隠れた。

 全身から冷や汗が流れ、総毛立つほどの迫力。覚えのある空気だ。これまで何度も向き合った人類種の天敵――ビーストの気配!?

 

「なんだこれ!? 複数の霊基を持つ、どころの話じゃない……!カマソッソの中には、一億以上の霊基が混濁している!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが青ざめた顔で叫ぶ。

 一億。霊基。混濁――まさか、カーン王国の民はまだカマソッソの中で生き続けている? いや、どう見てもそんなまともな状態じゃない!

 

「いざ試せ、カマソッソの鮮血を! カーンの民が身を投げた地獄の底(シバルバー)、その恐怖の神髄をな!!」

 

 ゴリゴリと、メキメキと。骨が捩れ、血肉が膨れ上がる生々しい音が響いた。

 やがて蝙蝠の群れが飛び去っていく。蝙蝠の暗幕が晴れ、一応はヒト型を保っていたカマソッソの肉体が崩れていく。

 

「なんという、威容か……」

 

 感嘆の声を漏らしたのはルーラー。

 竜と蝙蝠をデタラメに捏ね合わせたような異形の怪物。首元ではイソギンチャクにも似た肉の触手が無数に蠢いている。

 

「ビースト……カマソッソが」

 

 これこそ南米異聞帯における人類悪。クラス・ビースト。人類愛を以て世界を救い、人類を滅ぼした悪がいま牙を剥いて迫っていた。

 

 

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