【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 そっと目を開ける。

 新たな(ニトクリス)は頭が冴え、心が醒めている。

 過剰供給されたアヌビス神の魔力で霊気が崩れかけるのを包帯で巻き留めるが、その端々から霊光が漏れている。が、よい。これもまた女王の威光。アヌビス神からの加護の証。

 

「私こそ冥府神アヌビスの顕現(ネフェルウ・スエン・アヌビス)。冥界の女王でありながら天空にも座すファラオ。女王ニトクリス、その異霊である」

 

 カマソッソが見る。

 カルデアが見る。

 新しい私、第四冥界の主人となった私を。

 

「契約により第四冥界は我が版図となった。故に新たな掟を敷く」

 

 私は彼女(マスター)に賭け、勝った。ならば遠慮なく代価は頂く。

 

「掟? カマソッソを縛るだと!?」

「ええ。あなた自身の言葉だ。違えさせはしない」

 

 故に。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これこそがあなたを糾す罰。唯一の勝機。私があなたに与えられるもの。

 

「戦いだ、蝙蝠の王」

 

 私こそニトクリス・オルタ。

 断罪の具現にして砂漠の暗夜に凍てつく風が如きモノ。天空神ホルスの化身でありながら冥府を統べるファラオが反転し、冥府神『アヌビス』の顕現として冥界の女王でありながら天空にも座すファラオなる者。

 

「砂漠の暗き夜は此処に――太陽に別れを告げよ」

 

 宝具解放。

 ここが私の決戦。私がミクトランに来た理由――あなたを倒そう、カマソッソ。

 

 ◆

 

  推奨bgm:最後の勇者――これは、偉大なる勇者王へ捧げる鎮魂歌。

 

 ◆

 

  二度目の、そして最後の戦いが始まった。

 

「忘却を禁じる…!? 忘れることを許さぬ、だとォ……!? ッはァァ……!うあぁぁ…グアアアアアアアッ!!

 

 ――――戦った。強かった。恐ろしかった。

 

「戦士達よ…市民達よ! 命を捧げるほどの王だったのか…? 家族を捧げるほどの国だったのか!? であれば───であるのならばァァァッ!!」

 

 ――――男は悲しい程に英雄だった。

 

「オレは光なきカーンの王――墜ちろ、冥府の太陽。日輪拝めぬ斬首鎌(ロストサン・シバルバー)!!」

 

 この戦いよりも前に異霊化を三度も行い、少なからず魔力を使い果たしていたこと。

 新たなる冥府の掟で呼び起こされた600万年に及ぶ孤独の記憶による致命的な自死衝動(デストルドー)

 そして――対峙する敵手が(カマソッソ)と同じヒトだったこと。

 

「うおっ!!? ぐおぉ……!? おおおあああぁぁぁ……!!」 

 

 その全てが奇跡的に噛み合い――カルデアは、ミクトランに生まれた最初で最後のビーストに勝利した。

 

「ッ……限界、ですか……ですが、これで――」

 

 だが戦闘中滞空し、カマソッソのスキルを跳ね除け続けていたニトクリスの異霊化が解ける。気を失った彼女は空中へ投げ出され、切り立った山脈の谷底へと落ちていく。

 

「ニトクリス――!」

「マズイんだわ! みんな余力が――」

「誰か動ける人――」

 

 ビーストとの死闘に誰もかれもが満身創痍。咄嗟に手を伸ばせたのは僅かだった。

 

「私が!」

「ルーラー、お願い――って、えぇ!?」

 

 だから動けたのは辛うじて余裕があったルーラーと……()()()()()()()()()()()()()()

 それぞれビットによる噴射推進(ブースト)、翼による音速飛行を駆使してニトクリスを追い、暗闇が蟠る谷底へ身を投げ出し、加速した。

 

 ◆

 

「――生きているか。地の底を照らす光よ」

「無論。この通り彼女は無事ですとも」

 

 剣山じみた鋭さの岩肌が続く冥界の深奥。谷底の更に深い奥底へ墜ちた二人はニトクリスを落下の衝撃から庇うようにダイブ。その肉体で衝撃を受け止めながら、なんとか生きていた。

 ニトクリスは気絶し衰弱していたが、しっかりと呼吸していた。

 

「そうか」

 

 その姿を見た半死半生のカマソッソが返したのはただ一言だけ。それ以上頷くことも、視線を送ることもなく。

 だがルーラーには僅かに満足げなように見えた。

 

「――――」

 

 その姿にルーラーが何かを言おうとして、

 

 ()()()

 

 カマソッソの身体が崩れていく。霊基崩壊(オーバーロード)の前兆だ。元より限界を迎えていたところに無理を重ねた、当然の結末だった。

 たとえニトクリスがその事実を知らないままだったとしても、カマソッソは満足だった。

 

「王よ……」

「――地の底を照らす光よ。お前は言ったな。偉大なるカーン、と」

 

 言葉もない、という風に呟くルーラーに頓着せずカマソッソは末期の言葉を交わす。

 

「確かに。偽りなく、この上なく。この事実は私が英霊の座に帰れば人の歴史が途切れるまで記録され続けるでしょう」

「……そうか。そう、か。カーンがあったことが、オレ達が為したことが、遺るのか」

 

 たとえこの異聞帯(セカイ)が消え去ろうと、カーン王国が為した偉業は残る。人理が続く限り。

 誰かが自分達を覚えていてくれる。カーン王国が在ったことを証明し続ける。異邦の獣は地底の太陽でも、冥府神の断罪でもなく、その事実にこそ討たれたのだ。

 

勇者(カルデア)には栄光が必要だ。(カマソッソ)を討った戦士には褒章が必要だ。故に(オレ)はお前に褒美をくれてやろう」

 

 ならばその偉業に相応しい報いがあらねばならない。

 褒美。思いもよらぬ申し出に戸惑うルーラーへカマソッソはただ一言を与えた。

 

「――()()

「それは……」

「貴様が欲しかったのはこれだろう? オレが許そう。カーン王国最後の王、カマソッソが許そう。存分に振るい、奮うがいい」

「――ハッ! 最上の光栄。感謝の極み!」

 

 胸に拳を当て、深く一礼。最敬礼を以てルーラーは最後の勇者へ感謝と別れを告げた。

 だが今まさに冥府への道行きを辿らんとするカマソッソの瞳には最早ルーラーは映っていなかった。

 

「……ああ、しかし。思い出せる、とは、いい事だ。過ぎ去った時間が目の前にある。失ったものが何度でも何度でも、美しく蘇る。

 なるほど。永劫とはいかないが────過ぎた後も生き続けるとは、こういう事か」

 

 その言葉を最後に半ば崩れかけていたカマソッソの肉体が原形を留めぬまでに(ほど)けて逝く。

 救いはなく、しかし600万年の報いを受け取った勇者王の最後をルーラーは静かに看取る。

 自分達が確かにここにいた証を誰かが覚えてくれる幸福を胸に、カマソッソは逝った。

 

 




 【新作紹介】
 カクヨムで新作の投稿を開始しました。

 文明崩壊ダンジョンライバーズ!
 ※タイトルをクリックすれば直接作品ページへ飛べます。

 今回はシンプルに一言で。
 エレちゃん第一部ラスト、ネルガル神撃退戦相当の燃え尽きるようなカタルシスを味わいたい人に超オススメです。
 
 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()。そういう物語に仕上げました。

 この言葉の意味は第一章ラスト(全体16万文字執筆済み)まで読んで頂ければ分かると思います。
 読んでっっっ!!!!!!
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