【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
カマソッソを倒した。私達はその最期を見れなかったが、ルーラーがこう言った。
「彼がミクトランの空を翔けることは二度とないでしょう」
悲しみと充足を同量混ぜたような不思議な顔だった。ニトクリスも似たような顔をしていた。
少しだけわかる気がする。多分カマソッソは笑って逝ったのだ。
そして第四冥界を乗り越え、私達は前へ進む。ミクトラン最深層、恐怖の地シバルバーへ。
「あの樹はブリテンの時と同じ……」
「ああ、枯れている」
枯れ落ち、
死んでいた。もうこの大樹に異聞帯を維持する機能はない。だからこそ不可解な、ミクトランが存続しているという現実。
「なら空想樹の機能を代替する何かがあるはずだ」
というのがダ・ヴィンチちゃんの推測。
「ORT」
これは私の直感。だけど外れてないと思う。
「……ここに来て異聞帯切除の難易度が向上するとはね」
「第四冥界の上があるとは思わなかったなぁ」
カマソッソが可愛く見えるって地獄でも生温いよね。まあ、やるけど。
そした私達は先へ進んだ。カーン王国が遺した遺構、地熱を利用する思想の建築様式を見ながらオルトが眠る心奥へと。
途中、壁画に描かれたミクトランの歴史。カマソッソが、本当に偉大な王だった真実を読み解きながら。
「溶岩の中に神殿が見える……凄い建築様式だね」
「実に興味深い。汎人類史にもこのような建物はあるのですか?」
「無茶を言わないでください、たとえ神代でもこんな住居は存在しません。また、どのような理由があっても溶岩の海を泳ぐなど以ての外。マシュも気を付けるように」
「そうですね。清姫さんにお伝えしておきます」
ここにいない清姫にものすごいキラーパスを投げるマシュ。
溶岩水泳部、きよひー……うっ、頭が……。
その後、カマソッソに襲われたあと行方不明になっていたトラロックが上層から落下。当然と言うべきか、戦闘になった。
ニトクリスが再びの異霊化することで消耗は最小限で済んだが……代償としてニトクリスは退去した。敢えてトラロックを倒し切らず、どこか満足げに。
「馬鹿な。トラロック神が貴様らに負けるなど……!」
イスカリ。オセロトルの王、一年テスカトリポカ。神になるべくして育てられ、最後には神にその身を捧げる者。
そしてテスカトリポカ。戦士の神。全能神。気紛れに絶滅と遊ぶ者。
戦い、倒し、遮られ、背き、
「――ORTを目覚めさせる必要など、ないではありませんか。汎人類史は滅ぼす。後に残るのはオセロトル達だ。世界の滅亡と新生はそれで成り立つではありませんか!?」
ORTの目覚めを拒否したイスカリ――いいや、アステカ終焉の王モテクソマがテスカトリポカに背く。
神に従う儘だった王が、初めて激情を露わにした瞬間だった。
「なるほど、道理だ。なにより
「では――――!!」
「ああ。
銃声が鳴る。血飛沫が舞った。
……イスカリが倒れた。血が、流れ出していく。
「な、ぜ……」
「神に意見するなら命を使え。それがルールだ」
銃口から煙を上げる拳銃を掲げ、テスカトリポカが厳然たる神の理屈を口にする。
そしてそれ以上の興味はないと、物騒な視線をこちらに向けた。
「さて。悪いが見ての通り納品予定の商品が使い物にならなくなってな。代用品を探してる」
「他所をあたって欲しいかなぁ。こっちに言われても困るよ」
「そう言うなよ。六つの異聞帯を切除した魔術師。六度世界を滅ぼした人類最後の戦士の心臓。悪くないと俺は思うんだ」
「お断り……って言っても聞かないよね?」
「ああ。では藤丸立香、戦士の試練を超えてみろ」
煙吐く鏡、テスカトリポカ。
存在確率操作、運命改変にも似た大権能の持ち主。あるはずがなく、ないはずがある。存在をあやふやにし、結果をひっくり返す権能に私達は苦戦を強いられ――、
「生憎だな、全能神。その権能の穴をご存じか?」
なかった。
「箱に隠したダイスの目を自由に入れ替える。それがあなたの権能だ。故に箱を見透かし、
「おいおい。ここに来て
煙の陰に隠れる現実を観測した瞬間、テスカトリポカが生み出す虚構は崩れ去る。
ルーラーの背負う大いなる太陽の”眼”が煙吐く鏡の真実を暴き、私達の全力攻撃がテスカトリポカを襲った。
「……やれやれだ。オレの計画は失敗か。このままORTを起こしたところで『星を滅ぼす』オーダーは与えられない。中途半端に食い荒らしてそこで終わり。割に合わんな」
その身に幾つも傷を負ったテスカトリポカが魔力の光を発する。
元々幾つも無茶をしてその臓器を潰していたというから、限界は近かったのかもしれない。
「ではな、カルデア。オレはここで消える――だから後はオマエの案だ、デイビット。死後の楽園でまた会おう」
その言葉を最後にテスカトリポカは退去した。不吉なバトンを遺して。
コツコツと、足音がする。迷いなく、一定のリズムを刻む音。
振り返れば――、
「デイビット・ゼム・ヴォイド」
「冥界行ならばこちらが先輩だと驕っていたようだ。流石はカルデアのマスター。歴戦だな」
サーヴァントを無くし、たった一人となった男が平然とした顔で私達と向かい合っていた。