【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
ORT迎撃のため甲板へ向かう藤丸の生体波動でキャッチしたU-オルガマリーが己の部下に追加で指示を下す。
「ルーラー、貴様は藤丸達と一緒にORTの足止めを――」
「いえ、私も御身とともにエネルギー充填の役割を。今は一秒でも早くORTとの戦闘を切り上げることが肝要かと」
その提言に一秒考え、道理と認める。
現有戦力でルーラーの霊基出力は己に次ぐ。タキオンジェイルの維持も考えればサブエンジンがあれば想定より早く終わるだろう。それが結果的に藤丸達の安全にも繋がるはずだ。
「仕方ないわね……。藤丸、聞いての通りよ! サポートがある分こっちは爆速で終わらせるわ! そっちも出し惜しみはしなくていいから!!」
「了解、所長!」
「所長って……相変わらず訳が分からないことを。ああ、もうORTに向かってるし」
ボーダー艦首付近の甲板上に立ち、UFO状のORTと戦い始めた藤丸達と会話する余裕はもうなさそうだ。
同じ甲板上にいるが、できるのはいざという時のフォローくらいか。
「なに、帰ってから聞けばよろしいでしょう。閣下、今は」
「皮肉を言わないで。
軽やかに笑うルーラーの台詞をU-オルガマリーが切って捨てる。
重い、重い沈黙が二人の間に降りた。
「閣下」
「なんだ」
「このままタキオンジェイルを維持しながらストーム・ボーダーへ魔力を供給し続けた場合、閣下の霊基は確実に消滅します」
「知っている。だからどうした」
謹厳実直な忠言に笑って返すU-オルガマリー。だが強気な言葉とは裏腹にその指先は震えていた――彼女だって怖いのだ。
「……ただひと時の友諠のために命を
「違うな。間違っているぞ、ルーラー。私はただ私がやりたいことをやりにきた。……ただそれだけよ」
地球大統領の仮面を外した素顔をほんの僅かに覗かせて、U-オルガマリーはそっと優しく微笑んだ。
なんて魅力的な笑顔なのだろう、とルーラーが息を呑む。
「私は人ではなく、地球大統領。
少しだけ寂しそうに、でも誇らしそうに。
「だが人からすれば私は人外……怪物に映るのでしょう。それが悲しいという訳ではないけど。けど!」
そしてなんでか怒りっぽく。
大切なものをそっと胸に抱くように彼女は語った。精一杯の勇気を振り絞って胸を張り、だからカルデアを助けるのだと見栄を張ったのだ。
「カルデアはたとえ怪物が相手でも怪物であることを理由に排斥しなかった」
「はい」
「……面倒な生き方よね。でも私はそれを評価する。生命の多様性は重要ですもの」
それでいいと尊大に頷くU-オルガマリーへルーラーは微笑ましい視線を向ける。
「閣下」
「なによ」
「素直に友達のために頑張ると言ってもいいのですよ?」
「ドやかましい! 最後くらい地球大統領らしく格好つけさせなさいよホント!!」
茶化すように笑うルーラーへ青筋を浮かべたU-オルガマリーが怒髪天を衝く。
心臓を奪われたままのU-オルガマリーに聖剣兵装を撃ち放つだけの魔力を供給できる訳がない……彼女の霊基そのものを砕き、魔力を搾り取りでもしなければ。
だからこれはきっと最後の会話だった。だというのに! この男は最後まで、という怒りはあまりにも妥当だった。
「ハハハ、これは失礼。ですが決して最後ではありませんよ」
「どういう意味よ、それは――待ちなさい、なにその
だがルーラーの方は少しだけ心持ちが違っていた。決して最後ではない、ないのだ。
軽く笑うルーラーの顔を何の気なしに見たU-オルガマリーの血相が変わる。見過ごせない
「止めなさい、何をするつもりかは知らないけどとにかくその
感情を
「大体最初から気に食わなかった! 見たことのない
かつてルーラーを失った記憶に存在しないと断言できたのはあまりにも皮肉な理由からだ。
初めてだったから。
これまで見たことがない、出会ったことがない
「止めてよ、ルーラー……お願いだから、私を置いて逝かないで」
――泣いていた。
ボロボロと眦から涙を零し、顔をクシャクシャにして泣いていた。
痛がり屋で怖がり屋の彼女は、
それが彼女の大切な人であればなおさらに。
どこまでも皮肉な話だ。彼女が
「やはり貴女は優しい
咎めるのではなく窘めるように柔らかく、だが有無を言わせず押し留める。
実力行使が一瞬脳裏に過ぎるが、彼女は今も聖剣兵装へ向けて全力で魔力をボーダーへ注ぎ続けている。そんな余裕は一切ない。
「
迫りくるどうしようもない絶望の具現と相対し、ルーラーは声を張る。届かぬと知って己を奮い立たせるために。
ORTを前にすれば
「私ではお前に勝ち目がない。元より勝つ必要すらない」
そうだ。
元よりこの異聞帯においてルーラー、キガル・メスラムタエアは余分であり、余計。不要とすら言っていい。
彼がいなくても物語は回る。ORTの打倒に必要不可欠な存在では決してない。
だから、
「一点、ただ一点を為しに来た」
彼がこの
「我が真名はキガル・メスラムタエア。
かつて偉大なる勇者王カマソッソが穿ち、マィヤが捉えたORTの心臓から産み出された第二の太陽。ルーラーはこの地底の太陽を司る権能をククルカンから一時的に譲渡されていた。さらにカマソッソからも許しを得た今、憚るものはなにもない。
『えっ!? あなたも地底の太陽なんですか!? はー、ふーん、へー……。つまり私の先輩ということですね!! いえ、むしろ義兄妹と呼んでもいいのでは!?」
『義兄妹…………え、義兄妹???』
『はい、お義兄さま! これからよろしくお願いしますね!!』
『お義兄さま??? これから???』
ミクトランを照らす太陽の化身、ククルカン。彼女とキガル・メスラムタエアの間には幾つもの共通点があった。ともに異邦から来た異物であり、地の底を照らす太陽であり、その世界に生きる者達を愛していた。
先達としてその在り方を学ぶ。そしてミクトランの秩序を乱さない。二つの縛りに加えて彼女との友諠によって太陽権限を借り受けた。異聞帯の王にも等しき霊基の由来はここにあったのだ。
それでも発揮できる出力は本来の十分の一にも届かない。ルーラーの
「地底照らす太陽と繋がる我が
その権限をORT――ミクトランの秩序を乱す怪物を討つために譲り渡す。ミクトランの世界観に則った儀式手順を踏襲することでルーラーはこの上なく効率的に、致命的にU-オルガマリーへ己の炉心を捧げた。
「……ッ。グ、ガ……ハ、アアアアアァァァ……ッ!?」
血飛沫が舞い、苦痛を押し殺した呻きが漏れる。
「な、にを――何をしているのあなた!? 狂ったか、ルーラー!!」
「正気ですとも。とても痛い。実はちょっぴり後悔していますが……ええ、やはりこれでよかった」
「止めなさい! これ以上無茶を――」
「失礼を。どうか、受け入れてください」
胸元を鮮血で汚しながらグイと右手に握った己の心臓をU-オルガマリーの胸の上から押し付ける。心臓は溶けるようにU-オルガマリーの霊基と重なり、失われた臓器の代わりとなって停止していた機能を賦活させていく。
超級英霊が持つ炉心がU-オルガマリーの霊基と繋がり、さらに炉心を
「ァ、ア……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ――――!!」
燃えるように
一度は失われた
「いきなさい、
行け、か。生きろ、か。口にしたその心はもう分からない。
ゴボリと溢れ出す鮮血を口元から零しながらルーラーが
魔力に満ちるU-オルガマリーと反比例するかのようにルーラーの霊基から魔力が加速度的に抜け落ちていく。
「待っ――」
「嗚呼、やはりこの響きが貴女には似合う。その旅路に、星見の祝福があらんことを――」
祝福の名こそ彼女に相応しいと言い遺し……どこまでも優しい微笑みとともにルーラーは消滅した。
人理でも、カルデアでもなく、ただ彼女の幸せだけを願って。
束の間、ルーラーに置いて逝かれたU-オルガマリーが喪神し、すぐに宙をキッとにらんだ。
「――ッ! ――何よッ! ――何なのよッ! 勝手にズカズカ私の心に入り込んでッ、無遠慮に搔き回して!! 言ってやろう、やり返してやろうと思っていたのに――」
地団太を踏む。涙が眦から零れる。悲しみと怒りで息が苦しくなり、胸の内で燃え盛る思いを吐き出すように喘いだ。
■があった。伝えたい言葉があった……もう永遠に伝えられなくなってしまった言葉が。
「……私はまだ何も、あなたに返せていないのに」
甲板に力なくへたり込む。取り返しのつかない大切なものを失った喪失感に次から次へと涙が流れた。
知らず知らずのうちに出来ていた、彼女の
初めての体験、初めての喪失に彼女の心が折れかけた。
『U、立って! 戦って、みんなと!』
「藤、丸――」
異変に気付いた藤丸が通信機越しに叱咤の声を投げる。戦いながらの切れ切れとした声。だがその声には力があった。幾度の死闘を、幾度の喪失を乗り越えた者に宿る重みがあった。
『世界を救おう。ルーラーと、あなたと、私と、みんなで!』
かつて交わした他愛のない、今となってはあまりに重い約束をともに果たそうと。
だがまだ喪失を受けいれられないU-オルガマリーは泣きながら首を横に振った。
「――でも。でも、ルーラーが。ルーラーはもう」
『いるよ、
「っ!?」
ドクリ、と心臓が脈打つ。熱い熱い魔力が全身を駆け巡った。まるでその存在を示すように――戦えと語り掛けるように!
(ああ、そうね。まだなにもかも、終わってなんかいない)
だから立とう。立って、戦え。私。藤丸とともに、ルーラーとともに!
「そうね……勝ちましょう、藤丸」
膝に力を籠め、立ち上がる。涙を拭い、前を向いた。
だってルーラーは彼女の終わりなど望まなかった。その未来を繋ぐことこそ望んでいたのだから。
全身を血が、熱が巡る。有り余る程の魔力が迸り、バチバチと音を立てた。
ストーム・ボーダーに叩き込まれる魔力が加速度的に増し、惑星から引き出す火力の桁を際限なく増していく。一射必滅、その威力は一射目と比べて倍に近い。
「これだけの魔力を捧げられ、挙句負けるなど地球大統領の恥! だから私は勝つ。私の誇りに懸けて!!」
全てはルーラーが遺した贈り物があってこそ。
聖剣兵装に関わる全ての魔力を賄いながらもU-オルガマリーが消滅する気配はない。ルーラーから譲渡された炉心を経由して地底の太陽から注ぎ込まれるエネルギーが完全に消費を上回っていた。
エネルギー不足による
「征け、カルデア! 救星の光をここに振るえ!!」
爆発的に注ぎ込まれるエネルギーに当初の想定よりはるかに早くチャージが完了する。
全ての準備が整った。第二射のトリガーを、再びキャプテン・ネモの号令が打ち下ろす!
「「「いっけぇぇぇ――――――――!!」」」
声を揃え、張り上げる。
放たれる二度目の聖剣兵装。測定された人類への脅威度に比例して星からエネルギーを吸い上げ、撃ち放つ