【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 推奨NGM:異説地球紀行O・X -ORT 4




 戦いの火蓋が切られ、オルト・シバルバーが無造作に動く。

 初手、激烈なる太陽風。

 イオン化した粒子の放出がボーダーを襲い、艦首装甲の一部が剥離する。

 出力こそ宇宙嵐に劣るが、目と鼻の先の距離から放たれるそれはストーム・ボーダーを電磁障壁越しに溶解し、圧壊させる熱量と圧力を備えていた。

 

「やらせるかっ!?」

 

 無論U-オルガマリーが黙ってみているはずがない。

 オルト・シバルバーとボーダーの間に割って入り、超高出力の重力場を展開。

 重力場で捻じ曲げた空間を盾に、太陽風を明後日の方向へ逸らし切る。それもストーム・ボーダーを覆う規模で。ORT程ではないが彼女もまた規格外。

 

『おお……。敵に回せば絶望だが、味方にするとなんとも頼もしいな!』

 

 なおブリッジでゴルドルフが思わず漏らした生体波動(感嘆の念)にピクピクと得意そうに頬が緩みそうになったのはご愛敬だろう。

 付近にいた藤丸にはバレていたが、彼女は賢明にも見なかったことにした。

 ともあれ、しばしオルト・シバルバーの太陽風とU-オルガマリーの重力場が拮抗する。

 

『 ―― ―― ―― ―― 』

 

 無音。ただキン、キンと甲高い耳鳴りがこの宙域にある全ての生き物に届いた――ORTの圧力が増す。

 拮抗した天秤をオルト・シバルバーが崩す。無造作に、天井などないとばかりに出力と範囲を倍加した。なんという桁違いの出力か。

 限りなく本来の出力に近づいたU-オルガマリーの顔が苦渋に歪む程の圧力だ。

 

「ちぃ、カバーしきれん! ネモ艦長、艦体はバイタルパート以外庇わんぞ!!」

『こちらネモ。構わない、乗員の生命と最低限の航行機能さえ守ってくれればいい――旗艦の奮戦に期待する』

「ハッ、任せろ! 今の私は無敵だ! 今だけだが!」

 

 もっと頼もしく請け負ってくれないかなぁ、と管制室のネモは思った。

 とはいえU-オルガマリーにも言い分はある。

 

(自信満々に請け負ったけど私一人じゃ重要箇所(バイタルパート)に絞ってもボーダーを庇えない! せめてあと一人私がいれば――)

 

 無いものねだりに首を振り、自身も効率性度外視で出力をフルスロットルに入れる。

 

「この程度がなんだ! 私は地球大統領だぞ!」

 

 太陽風に対抗するように重力場の出力が上昇。ボーダーに迫っていた太陽風の圧力を押し返す。

 崩れかけた天秤が拮抗し、ブリッジのクルーが快哉を上げた。

 

『 ―― ―― ―― ―― 』

 

 そしてオルト・シバルバー、()()()()()()()()

 その極彩色の極光はまさに宇宙規模の太陽風の嵐(ソーラー・ストーム)

 

「ぐ、が、このおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉ――!!」

 

 押し返したと思えば更なるパワーゲームを強いられたU-オルガマリーが自身を奮い立たせるために叫ぶ。

 出力にはまだ余裕がある。だが押し返した瞬間に出来た心の隙を突かれたことで立て直しが遅れ、ズルズルと押されていく。

 

(く、そ――! ダメだ、このままでは――)

 

 U-オルガマリーが立て直すよりボーダーに致命的な損傷ができるのが早い。

 一瞬藤丸が、スタッフが死に絶えた光景が目に映る。悲鳴が喉から漏れかけた――その瞬間!

 

「とぉ――――うっ!」

 

 天空より翡翠の閃光が降り来たる。

 その閃光の正体は――芸術的なまでに美しい両足を揃えた飛び蹴り(ドロップキック)

 かつてユカタン半島に墜落し、大絶滅をもたらした隕石の如き一撃がオルト・シバルバーへ叩き込まれる!

 

「よっし、間に合ったー! 遅れに遅れてごめんなさい――じゃない。ゴホン。カルデアよ、大事はありませんか」

「ククルカンっ!? 来てくれたの!?」

 

 オルト・シバルバーの身体が「く」の字に折れ、超音速で吹き飛ばされる。挙句その躯体が大地に突き刺さり、地平線の彼方へ続く深々とした傷跡を刻んだ。ブリッジのムニエルが思わず口笛を吹くほどに芸術的な飛び蹴りを為した者。

 それは異聞帯(ミクトラン)の王、ククルカン。驚異の味方率100%を誇る頼れる助っ人の姿だった。

 

「ええ。ミクトランが生み出したモノはミクトランで討つ。それがマィヤの総意です」

「随分と遅い登場ね?」

「……テペウやディノス達の最期を看取り、願われましたから」

「ORTを討て、と?」

「いいえ。カルデアを、私達の友人を助けて欲しいと」

「なるほど。()()()こと」

 

 確かに彼らならばそう言い遺すだろうとU-オルガマリーも思う。

 

「それにお義兄様――じゃない、ルーラーには返し切れない恩がありますので」

「恩? ルーラーに?」

 

 聞き逃せない名に思わず問い返すと視線を合わせ、はっきりと頷きが返った。

 

「ええ。かつてマィヤが犯した罪を彼が拭った。そんな義理も、意味もないというのに、それでもと彼は背負った」

「マィヤが犯した罪。それって……」

 

 マィヤが犯した罪と語る行いに、U-オルガマリーは一つだけ心当たりがあった。

 ククルカンもやるせない顔で頷く。

 

「そう、勇者王カマソッソ。彼が抉り取ったORTの心臓をマィヤは第二の太陽として加工した。カーン王国がORTと戦い討ち果たした時も援護することすらできませんでした。

 生命とは正しくあるべきものと規定したマィヤが世界を存続させるために犯した過ち、自己矛盾は解決すべき命題であり続けた」

 

 だが600万年の末期、カーン王国最後の王であり勇者たるカマソッソは()()()

 マィヤではない。だが己が為した偉業の証、第二の太陽をルーラーへ預け、ミクトランのために振るうことを許した。

 それが――マィヤにとってどれだけ救いであったか。

 

我々(マィヤ)はミクトランで生まれた命の全てを愛しています。もちろんカーン王国を成したヒト型人類(プロコンスル)も、また」

「……そうか」

「私達はルーラーに二重の恩があります。それを清算せずただ終わる(ORT)に任せるのは……()()()()。そう思います」

 

 ストーム・ボーダー(カルデア)を見、彼らを通してルーラーを見るククルカンの姿に裏はないと判断。彼らは元よりそんな機能を持たない生命なのだから。

 

「タッグマッチといきましょう、U-オルガマリー。たとえあなたでも()()を相手に手が足りないなんて贅沢を言う余裕はないのでは?」

 

 ククルカンが差し伸べた手を――U-オルガマリーがしっかりと掴む。ありえざる異聞と異星の星が手を組む奇跡の共闘が成立した。

 

「いいでしょう。ともに星の頭脳体である以上星喰らい(アレ)は共通の敵。手を貸せ、ククルカン」

「……あ、バレてました?」

 

 その指摘に気まずそうに頭を搔くククルカン。対し、得意げになるでもなく当然と頷くU-オルガマリー。

 

「材料は最初から揃っていたわ。後はピースをハメればいいだけ」

「ああ、優秀ですね。あなたは。うーん、ここは同じ頭脳体としてお義姉様と呼んでも?」

「なんでよ!?」

「え。ですからお互い同類ですし汎人類史的にもお義兄様の……ならそう呼ぶのが妥当かなって」

「いや、違わなくもないけどそんな事実はないというか……」

 

 食い違う純情と現実にモゴモゴと口籠る恋する乙女に不思議な顔をする箱入り娘。彼女が感情の機微を理解するのはもう少し先の話。

 そしてそんな風に呑気に話をできていたのもここまでだった。

 

『 ―― ―― ―― ―― 』

 

 大地が爆発する。

 オルト・シバルバーが大地に刻んだ傷跡が火山噴火さながらに()()()()。無造作な太陽風放出の余波だった。

 そして噴煙の奥を突き破って出てきたマグマを纏う黄金色の触腕が数多、彼女達めがけて無造作に振り回された。

 

「ククルカン!」

「はいっ!」

 

 周囲を取り囲むように伸ばされた無数の触手。その特性を彼女達は一目で見抜く。

 あらゆるものを取り込み、捕食するORTの特性を保持している。つまりは接触、即、致死の打撃がU-オルガマリーとククルカンを全方位から襲う。

 

「――侮るな、アルテミット・ワン!」

 

 だがククルカンもまたただものではない。

 オルト・シバルバーが振るうものと遜色ない規模の太陽風の嵐が無数の触腕を焼き尽くし、吹き飛ばす!

 

「ORT、虚空より呼ばれしもの。宇宙樹を食らい、600万年もの間、ミクトランの礎であったもの」

 

 同質にして異物の攻撃を食らった触腕がしばし、戸惑ったように停止した。

 

「我が同胞、我らの恐怖。我らが絶滅であることを推して処罰を下す。

 汎人類史に汝の爪痕は不要なり! 太陽神ククルカンの名の下に、汝を殲滅する!」

 

 ククルカンが見得を切ると同時に触腕が攻勢を再開。

 大本であるオルト・シバルバー本体も高速飛翔し、三体の脅威が互いに目視可能な空域に集った。

 

『『『――――――――』』』

 

 三者三様、睨み合い。

 そして激発。

 苛烈な空中戦が始まった。

 

 ◆

 

 戦いは続く。その中でひと際眩しい輝きを魅せたものがいる。

 星は宙から降り来たり、風は天より降り来たる。

 そして汎人類史の原型、ケツァルコアトルは自由なる風となった。それを見習い、学習した彼女もまた自由なる闘争(ルチャ・リブレ)の系譜に連なる一翼となるのは必然だ。

 

「とっておき、くれてあげマース!」

 

 オルガマリーが重力場で拘束した隙を狙い、ククルカンが()()()()()をしかける。

 フランケンシュタイナー。

 縛られたオルト・シバルバーの首に両足をクロスして引っ掛け、敢えて地底の重力に囚われる。さらに自由落下のベクトルを超加速。ベクトルを維持したままオルトを荒れ果てた大地へ豪快に叩きつけた!

 大地に隕石墜落もかくやと思わせる衝撃、轟音、粉塵が走る。キロ単位の直径が抉られ、続く打撃に桁が更新され続ける。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――!!」

 

 メキシカン仕込みの空中殺法(ルチャ・リブレ)――からのマウントポジションを取ってタコ殴り。20tオーバーの山脈を易々と持ちあげる膂力がオルト・シバルバーへ容赦なく襲い掛かった。

 大地に刻まれたクレーターの()()がキロに達する程の衝撃を、秒間数百発の乱打(ラッシュ)を叩き込む。

 オルト・シバルバーも無抵抗ではない。星喰らいの補食特性を用いて接触部分からククルカンを取り込もうとするが、

 

「無駄です。私はあなたであなたは私。そして私は私の意志であなたと戦っている!」

 

 この世でただ一人、ククルカンにだけはそれが通じない。

 あらゆるモノを捕食・吸収してきたオルトをして初めての事態。事象の解析と善後策の検討に数秒。その間を無防備に殴られ続けた。

 打撃のインパクトで巨大なクレーターが刻まれ――ククルカンが飛びのく。

 

『 ―― ―― ―― ―― 』

 

 再びキン、キンと耳鳴りが響く。オルト・シバルバーの活動が活性化している証だ。さらにオルトの全身に埋め込まれた眼球状の部位が危険な光を瞬かせる。

 解析詳細を行動に反映。

 極めて重要な捕食対象とカテゴライズ。あらゆる抵抗を排し、細胞の一片すら残さず吸収すべし。

 

「私に狙いを定めましたか。イヤーな視線デスねー」

「失った心臓の代用品としては最上級だからね、あなたは」

 

 オルガマリーの方は所詮ルーラーの炉心を通じて太陽からエネルギーを引き出しているに過ぎない。

 太陽(心臓)の化身であるククルカンの方が優先度は高い。

 

「上等です。お義姉様、私が囮になりますのでオフェンスよろしくお願いしまーす!」

「待ちなさい、その分担だとボーダーの防御も私の役割では……というかその呼び名を既成事実化――」

「ちぃ、オルトが動きました。迎撃します!」

「待てこの! ああもうほんと人の話を聞かない奴らばかりなんだから! ちょっとは私を労われ! 地球大統領なのよ!?」

 

 ゴーイングマイウェイが過ぎる自称妹分へ苦情を叫ぶが聞く耳持たず、敵めがけてカッ飛んでいく。『異星の神』に相応しい力を取り戻しながら彼女は彼女のままだった。

 

『大丈夫だよ、帰ってきたら私が一杯Uを褒めてあげるから!』

「藤丸ぅ!」

 

 遠方のボーダーから藤丸のエールが届く。

 超感覚でそれをキャッチしたU-オルガマリーが叫んだ、もちろん単純な喜びからではない。これもまた彼女らしかった。

 

「どいつもこいつも! 覚えてなさいよ、勝利の暁には地球大統領の万歳三唱を叫ばせてやるんだから!?」

 

 それで世界が救われる(ORTを倒せる)なら喜んでスタッフは応えるだろう。からかいを交じえつつ本心から万歳と感謝と勝算を表すに違いない。

 最早宇宙的スケールとなった戦いはまだ、続く。

 




 【新作紹介】
 カクヨムで新作の投稿を開始しました。

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