【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 お待たせ致しました。
 ここ最近かかりきりになっていたオリジナル小説の方が本日、完結致しました。

 そのため本作もボチボチ再開したいと思います。




(エレちゃん様が冥界第二の創世にかける思い、イシュタル様にもご理解頂きたい。願わくばエレちゃん様のお心を汲み取り、助力頂けずともせめてその意思を認めて頂ければ…)

 

 イシュタル様はいわばエレちゃん様にとってもう一人の自分。

 一つから二つに分かたれた双子の如き関係のご姉妹だ。

 ならば自身の半身に自らの思いを肯定されれば、きっとエレちゃん様も心強いのではないだろうか。

 そしてその思いはこの一幕でより強くなった。

 きっとイシュタル様は強くエレちゃん様のことを思っているはずだ。

 俺は天と地に分かたれた姉妹お二人を取り持つべく、これからの謁見に気合を入れ直した。

 

『偉大なる天の女神へ恐れながら申し上げます』

「言ってみなさい。今日の私は多少寛大な気分なの。雑霊の言葉でも耳を貸す程度にはね」

 

 うん、照れ隠しの怒りを見せつつ頬を緩めている辺り、本心からの言葉なのだろうけどあんまり安心できないのが不思議だなぁ。

 この女神さまの機嫌は山の天気よりも変わりやすいのだ。

 

『過日、イシュタル様が私めに与えられた問いかけへの答えを此度は持ってまいりました。どうかお心を静かに聞き届けられますよう伏してお願い致しまする』

「……聞きましょう。あの愚姉の行状をね」

 そうして俺はイシュタル様に俺が知るほとんど全てを語った。

 俺との出会いやエレちゃん様が抱いた思い、そこから始まった冥界第二の創世に至った決意、ウルクを中心に地上でも影響を与えつつある信仰獲得の現状も。

 恐らく普通ならイシュタル様の地雷を幾つか踏み抜いていただろう。地上での信仰(シェア)獲得とか、神格にとっては間接的な攻撃に等しいからな。

 

(……今のところ、激された気配は無いか)

 

 下手に隠し立てをすることは未来に爆弾を設置するようなもの。

 いま、イシュタル様の機嫌は自己申告の通り良いように見える。

 そこに賭けての正直と誠意からなる全ブッパだった。

 

「なるほど、ね…」

 

 そうして全てを聞き終えたイシュタル様はただそれだけを返した。

 

「……………………」

 

 沈黙が落ちる。

 果たしてどれ程の時間が経ったか。

 

「雑霊、お前に一つ命じます」

 

 イシュタル様は深くため息を吐き、俺にそんな言葉を寄越した。

 

「この場のこと、細大漏らさず誰にも言わないこと。当然エレシュキガルにもよ。良いわね」

「は…。しかし」

 

 俺、エレちゃん様の第一の眷属でして。

 自分から言わないことは出来ても一度問われれば、答えざるを得ないんですが…。

 そんな意を含めた言葉を返すも。

 

「うっさい! 良いわね!?」

 

 と、こちらの反論を強引に押し切り、イシュタル様はこちらと視線を合わせずそっぽを向いて語り始めた。

 

「最初はね、呆れたのよ。エレシュキガルのこと。

 もう何千年も、何万年も冥界はずっと変わらなかった。エレシュキガルは変わることを拒否していた。そんな風に思ってた。

 なんで今更、冥界を比類なき楽土へ変えるなんて馬鹿なことを…ってね。ましてや失敗すれば全部台無しになってしまうのよ? 私のことは、まあ、良いわ。姉妹だけど別に仲が良いわけでもないし」

 

 確かに仲が良いとは言えないかもしれない。

 だがきっとお二人にとってお互いがお互いに唯一無二の存在だろう。

 それだけは間違いの無いはずだ。

 

「でも違ったのね。義務と責任にガッチガチの雁字搦めだったあいつは、ようやく自分がやりたいことを見つけられたのか」

 

 だってエレシュキガル様のことを語るイシュタル様の横顔は、こんなにも柔らかく、美しい。

 イシュタル様本来の魅力がこれでもかと放射されていた。

 彼女が愛の女神である由縁、その本質はきっと見た目の美しさではない。

 俺はいまそれを強く実感していた。

 

「全く、あの馬鹿。気付くのが遅いのよ。こっちの忠告を何千年だか、何万年だか無駄にしちゃってさ」

『……確かイシュタル様はかつて冥界に』

「そうよ。冥界下りに挑み、散々に弱体化して、最後にはあいつに串刺しにされた。まあなんとなくそうなるって分かってたけど、我慢できなかったのよ。 

 自分がやりたいようにやればいいじゃない、神なんだから。あの馬鹿にそう言ってやりたかったの。言っても何も変わらなかったけどね」

『……イシュタル様』

「いいのよ、別に。昔のことなんだから」

 

 イシュタル様の思いに僅かなりと触れた俺は、せめて何かを言いたくて語り掛けるが言葉にならなかった。

 全くもって気が利かないガルラ霊だった。そんな自分が少し嫌になる。

 だが当人であるイシュタル様はヒラヒラと手を振って、大したことは無いのだと語った。

 

「……お前が、私のやりたいことを代わりにやったのね」

 

 と、俺をほんの少しだけ慈愛の籠った視線で見つめ。

 

「よくやったわね。女神イシュタルが褒めてあげるわ」

 

 そんな風に不器用なお褒めの言葉を下賜した。

 そのお言葉を受けた俺は。

 

(イシュタル様、照れ隠ししているのが丸見えですよ)

 

 そんな風になんとか内心で茶化し、こみ上げる感情を誤魔化すのに腐心していた。

 そうしなければイシュタル様に強烈に惹きつけられた自分に引っ張られそうだったからだ。

 浮気、などでは断じてないが。

 この感情を引きずったまま冥界に帰るのは多分マズイ。エレちゃん様を刺激し過ぎる。

 

(たぶんいまの俺、かなり光ってそうだなぁ…)

 

 それでも俺の中でイシュタル様が占めるパーセンテージがググっと上がっていることを実感していた。

 現在、俺の中の女神様ランキングではエレちゃん様は不動の第一位として、今はシドゥリさんとイシュタル様が同率二位である。

 

「これからもエレシュキガルによく仕えなさい。私のありがたい言葉にも耳を貸さない頑固者だし、根っこが陰気だし、自罰的で鬱陶しいところもあるけど。

 あれで私の姉妹なんだから。まあ、仕え甲斐だけはあるはずよ」

 

 そう不器用に評するイシュタル様こそが、誰よりもエレちゃん様のことを分かっているように俺には思えた。

 




 お待ちいただいた方には申し訳ないのですが、本作は引き続き不定期投稿となります。
 よろしければ、次の更新までの時間つぶしに完結した『遊牧少年、シャンバラを征く』をどうぞ。
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