【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 一年間の謹慎。

 あの後、エレちゃん様と色々と話し合ったのだが、地上の諸々を引き継ぐ猶予期間を設けた上で実施することとなった。

 まーこれは仕方ない。成果を上げたからとスタンドプレーを許していては周囲に示しがつかない。第一の臣だろうが罰する時は罰する。

 エレちゃん様の信賞必罰が問われることがあってはならないのだ。例え冥界を回しているガルラ霊たちがほとんど身内のようなものだったとしても。

 

「……それじゃこれが神殿から預かった粘土板だから。それ以外の言伝はさっき伝えた通りだよ。何か質問はあるかな?」

『いえ、現状特には。ご配慮、ありがとうございます』

 

 とはいえ地上の事柄を司る役職で最も高位なのはエレちゃん様を除けば俺である。

 よって地上の重要人物や出張中のガルラ霊から相談が寄せられることも多々ある。

 そしてその相談を地上に出られない俺の元へ誰が届けるかと言えば…。

 

『冥界まで足繫く通って頂き、感謝の言葉もありません。まっことエルキドゥ殿には足を向けて寝れませんな』

「構わないよ。トモダチの役に立つということは、兵器の僕にとっても嬉しいことだから」

 

 意外なことに、と言うべきか。

 エルキドゥ殿がその手を上げ、こうして冥界と地上を足繫く行き来する任に就いてくれた。

 かなり頻繁に冥界まで足を運んでくれるお陰で、現状地上における冥界の活動に大きな支障はきたしていない。

 エルキドゥ様様であった。

 

「それよりも」

『はい?』

「ナナシ、僕はこれまでの君との交友を考慮し、君との関係性を知り合いからトモダチへ再定義した」

『ええ、光栄でありますとも』

「そこだよ」

『?』

「トモダチとは対等な関係だ。僕はギルからそう教わった。ならば敬語はボクらの間に相応しい言葉遣いではないと想定される。僕の考えは間違っているかな?」

 

 淡々と。

 どこまでも理詰めで、どこかズレた物言い。

 エルキドゥ殿らしいなとどこか納得しながら、その言葉の意味を考え込む。

 まあ、これまでの自分の物言いが随分と他人行儀なものであると指摘されれば、頷く他ない。

 

『……間違っては、いませんな』

「だろう? なら君には、ギルと同じように僕に対し接してほしいな」

『ギルガメッシュ王と同じように、ですか…」

 

 それは別ベクトルで難易度が高いな。

 ギルガメッシュ王が妙な方向にへそを曲げないとも限らないし…。

 とはいえ、エルキドゥ殿…いや、エルキドゥが言うことも尤もなのだ。

 あくまで俺らしく、という方向で接するとしよう。

 

『ん…。ならば、遠慮なく。君の友になれて嬉しい。これからもよろしく頼む、エルキドゥ』

「ああ。やはりこっちの方がしっくりと来るね。君、敬語には慣れていないんじゃないかな?」

『バレたか』

 

 呵々(かか)と笑い、エルキドゥの言葉を肯定する。

 上位者たる王や神々へ抱く敬意はあるし、畏怖の念もある。

 それを示す振る舞いをしているつもりでもある。

 が、内心ではどうにも据わりが悪いといつも考えていたりする。そういう性分であるとしか言いようがない。

 

「ならば僕に対してはそれを気にする必要は無い。トモダチだからね。君という在り方を僕は受け入れよう」

『……ありがとう』

 

 あー…。

 なんだろうな、これ。

 こう、いつものアルカイックスマイルを浮かべたままスッとこちらの懐に入ってくるような。

 どこまでも自然に、悠然と、いつの間にか隣に佇んでいるような。

 それでいて縄張りを侵された不快感が一切湧かず、ただ森の奥で深々(シンシン)とした空気だけを味わうような、そんな快さがある。

 

「気にすることじゃない。僕らはトモダチだろう?」

『……もしかして今まで他人行儀に接していたことを気にしていたりする?』

「どうだろう。君が思うのならそうなのかもしれない」

 

 韜晦なのか、とエルキドゥの顔を見るもいつも通りのアルカイックスマイル。

 わざわざ韜晦などする理由も思いつかないから、正解はきっと言葉通りなのだろう。

 

『「……………………」』

 

 ふと、互いの間に沈黙が落ち、見つめ合う。

 嫋やかで中性的な美貌に、フ…とあるかなしかの微笑が浮かぶ。

 対し、電球体質であるガルラ霊の俺も、一瞬淡い光を放つ。

 うーむ、対比が色々と酷いが、アレだ。

 やっぱり俺、エルキドゥのこと結構好きだわ。友達的な意味で。

 

「それじゃあ、次は三日後に」

『ああ、待っているよ。用事が無くても来てくれ。冥界じゃ歓待も難しいが、出来るだけのことはするから』

「再会を待つ友へ会いに行く。これほど喜ばしいことは無い。君がいるだけで十分だとも」

『……頼むからギルガメッシュ王の前でその類の言葉を使うなよ』

 

 洒落にならない、との思いから注意すれば。

 

「その類、とは? 明確な定義が無ければ兵器の僕にそうした言動の制限を掛けることは難しい。詳細な回答を求める」

 

 またもやズレた返答が来る。

 情緒を解する、というのは兵器である彼/彼女にとって難題らしい。

 もちろんエルキドゥが求める詳細な回答を定義することは無理なので、適当にあしらうこととする。

 

『それじゃ、次に会った時までの宿題と言うことで』

「しかし」

『頑張れ、進化する兵器殿。大丈夫、お前なら出来る』

 

 かくして、エルキドゥはいつものアルカイックスマイルにどこか困ったような空気を纏って地上へ戻っていった。

 多分いまも頭の中では俺の出した宿題で頭が一杯なのではないだろうか。

 我ながら大分雑な扱いだが。まあ、いいだろう。

 もし誰かにそんなぞんざいな対応でいいのか、と聞かれればこう答えよう。

 

 いーんだよ、友達なんだから。

 


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