【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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原作におけるメソポタミア冥界の時系列にて大幅な齟齬がストーリーの展開上発生しますが、剪定事象という便利な用語もあるので気にしないでください。
もっと言うとそもそも時代背景的におかしいんじゃないかという描写も
あるかと思いますが、気にしたらストーリーが止まるので気にしないことにします(断言)。

なお本作におけるギルガメッシュ王のメンタルは賢王寄り。
暴君期の我様とうちのガルラ霊(根は凡骨)じゃ交渉しても成功判定すら発生しない気がする。





 古代メソポタミアの都市国家ウルク。世界最古の文明発祥の地にて随一の規模を誇る。

 そしてウルクに君臨する王の名はギルガメッシュ。

 最古の叙事詩に名を刻む、人類最古の英雄王である。

 

「王よ、また職人達から嘆願が…」

「分かっている」

 

 玉座に腰掛け、詰まらなさそうに握りしめた粘土板に視線を送るギルガメッシュ王。

 既に日は落ち、夜も半ばとなるが、ウルクの祭司長シドゥリとともに遅くまで王の務めを果たしていた。

 話題はここ数日、ウルクが各地に有する坑道で報告が相次ぐとある異変についてだった。

 

「シドゥリよ、此度の騒動で死者は出ているのか?」

「……いえ、そのような報告は上がって来ていません」

 

 一呼吸程思索に費やして返答するシドゥリ。明晰な記憶力を持つ彼女の言葉

 だろうな、とどこか確信を得た達観さで呟くギルガメッシュ王。

 

「では()()()()()()()()()()()()はどうだ?」

「……いえ、そちらも特には。強いて言えば転んで足を挫き、しばしの間休みを取るものがいたとは聞いていますが」

「坑道で起きた事故ではなく、其奴(そやつ)個人の不始末だろう? 捨て置け」

 

 解けたパズルを眺めるような、無関心な横顔。

 

「…チッ、あの根暗の引きこもりめ」

 

 (オレ)を煩わせるか、とやや不機嫌そうに呟く。

 

「…………」

 

 若干の沈黙。

 

「シドゥリ」

「はい」

「……もうしばし経てば、使いの者が我がウルクの城門を叩く。速やかに門を開き、使いを我が前まで案内しろ。この時間まで騒ぐ不届き者達へは速やかに家へ帰り、扉を固く閉めておけともな」

「承知いたしました、手配いたします」

 

 全てを見た人とも呼ばれる賢王の言葉にただ諾と応える。その意味するところの半分も汲み取れずとも、訪れる使いが誰であろうとも。

 シドゥリは誰よりも王の近くで仕える臣下だった。

 

 ◇

 

 深々(シンシン)と静まり返るメソポタミアの夜。

 溢れんばかりの原始的な生命に満ちた大地にはありえざる静けさ。

 人は夜に眠り、休む生き物。

 だが夜こそ活発に活動し、暗闇こそその狩場とする魔獣の類も事欠かない。

 普通なら魔獣の咆哮や小さな生命が紡ぐざわめきにもっと夜の静寂は揺れているはずだ。

 

「……気味の悪い夜だ」

「ああ、普通の夜番ならもうちょっと色んな音や影があるんだがな」

 

 ウルクをすっぽりと覆う巨大な城壁。

 その城門の内側で栄えある門番の任に就くウルク民達がそう囁きを交わす。

 尤もその精神に微塵も緩みは無い。

 あくまで感じ取った不審な気配の相互確認と、気にしすぎないよう適度に気分をほぐす目的での会話だった。

 ギルガメッシュ王が自ら治めるに足ると断じたウルクに弱卒、無能はただの一人も存在しない。

 

「―――異変確認。クタ方面の街道上。夜のため距離判断は困難」

「こちらでも目視した。現時点では正面以外に異常は認められず」

 

 彼らもまた精鋭。

 それを証明するかのように異変を確認すると矢継ぎ早に情報交換を行い、認識を共有する。

 

「しかしアレは…」

「なんだってんだ。まさか冥府の先触れか」

「悪い冗談だ…。と言えれば良かったんだがなぁ」

 

 囁きを交わし合う門番たちの目に映るのは、一体のガルラ霊を先頭に、青白い光を放つ死霊が十数ほど隊列を組んでウルクへと進む姿だ。

 行儀よく整列して、静々と歩む姿は何処か静謐な神々しささえあったが、構成するのが死霊であるという時点で不吉極まりない。

 

「まず俺が下の連中を叩き起こして王の下まで走らせる。お前は緊急の八点衝を連続だ。いいな?」

「ああ。死霊の訪れなんて俺が生まれてから聞いたこともない。それくらいが妥当だろう」

 

 互いに視線を交わし、頷き合う。

 彼ら自身の判断で躊躇いなく大胆な行動に移ろうとした門番達は間違いなく優秀だった。

 しかし結果としてそのやり取りは無駄に終わる。

 

「お待ちなさい」

 

 今にも行動に移ろうとした彼らを止めたのは一人の女。

 何時の間にか城壁に上がり、門番達と肩を並べるように立つ祭司長シドゥリだった。

 

「王の命です。扉を開き、あの方々を迎え入れます」

「祭司長!?」

「正気ですか!?」

「王の命です。正気を疑うのなら私以外にしてくださいね?」

 

 クスリと微笑み、茶目っ気を込めた毒舌を振るう。

 その一見優雅で嫋やかな仕草に、あ、これ祭司長(シドゥリ)もロクに話を聞かされていないやつだと察する門番達。

 

「ギルガメッシュ王のご命令ですか」

「では仕方ありませんな」

「然り然り。では王の命通りに彼らを迎え入れるため、我らは開門の許可を取って参ります」

 

 君子危うきに近寄らず、と云千年先に全く異なる地域で唱えられることわざよろしく速やかにこの場を去る門番達。

 彼らは有能だった。それは怪しい気配を感じて脱兎と逃げ出す危機感知能力にも現れていた。

 

「……この夜更けに訪れる使者と聞き、尋常の報せではないと覚悟していましたが」

 

 幾ら何でも事前の説明もなしにこれは酷いのではありませんか、王よ…という呟きは夜の風に消えていく。

 彼らが玉座に戴く英雄王は有能極まりない暴君であり、とかく周囲を振り回すのだった。

 

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