【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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「遅いわ、たわけ! 貴様、手土産の一つも持ってきていような!?」

 

 何時どんな時だろうとギルガメッシュ王(暴君)ギルガメッシュ王(暴君)だった。

 結論を言えばそれに尽きる。

 一応は大ピンチの中の救援だ。もうちょっと暖かい言葉を期待しても罰は当たらないと思うんですが…。

 

『えぇ…』

 

 思わずちょっと内心が漏れたわ。

 エルキドゥも王様の横でさもありなんと呆れ気味に首振ってるしさぁ。

 流石だ友よ。

 是非もうちょっと直接的に暴君王にツッコミ入れてくれ。

 

「どうした、何故黙る? 我の言葉に不服でもあると申すか?」

 

 おおっと、隠す気もないダイナミックパワハラですよ。時代を先取りし過ぎでは? 流石はギルガメッシュ王。文明の闇に身を浸しているだけのことはあるっすね。

 

「ハッ、しかし貴様も大概計算の出来ぬ阿呆よな」

 

 なお俺の皮肉と批判の籠った視線を無視して話を進める王様。やっぱりこの人色んな意味で自由過ぎでは?

 それはさておき、台詞とともに浮かべる笑みが露悪的、つまり殊更に悪ぶっているのがなんとなく分かる。

 いや、素で趣味の悪い真似をやらかす人でもあるのだが、機嫌の良い時にはこの人なりにねぎらい、褒美を与える人なのだ。

 そしてなんでか知らないがいまやけに機嫌が良さそうな気配がする…。

 

「見よ、あの神威を。主の趣味が悪すぎる欠点こそあるが、その力は疑う余地なくこのシュメルの地にて最大の脅威よ。

 貴様なぞ木っ端の如き吹き飛ばされような、ん?」

 

 違うか? とばかりにねめつける王。

 機嫌が良さそうなくせにこちらへ向ける威圧は本物だ。

 何でこの人援軍(総勢俺一名)に度胸試しとばかりに(ガン)付けてくるんですかね?

 

『我が非力、我が弱さは百も承知。なれど、歴戦たる王の言葉とも思えませぬ』

「ふん?」

 

 だがなあ、こちらもこちらで遊びに来たわけではないのだ。

 エレシュキガル様の制止を振り切って戦場に来た以上、逃げ帰るという選択肢はない。

 我が女神の顔に泥を塗るくらいなら死ね、むしろ殺す(女神信仰過激派)。

 こちとらそんなキチガイ揃いのガルラ霊を纏める元締め(大元締めはエレちゃん様である)だぞ?

 人類最強にちょいと脅された程度で引っ込めるものかよ。

 

()()()()()()()、などという贅沢が許されるのはほんの一握り。多くの場合、人は()()()()()()()()()()()()()()のでありましょうや』

 

 もちろん任を果たせずギルガメッシュ王の言葉通り木っ端のように吹き飛ぶ未来もかなりの確率であるだろうさ。

 それでもやらなきゃならないことがあって、それをなんとかこなせる目があるからそれに()()。結局人はそれだけしか出来ないのだ。

 そんなことを考えていると、二ィと英雄王の頬に刻まれた笑みが一層深くなった気がした。

 

「ほう、()()と貴様は言うか」

『我が勝利とは即ち冥界の盟友であるウルクの守護。御身が勝利を掴む暁までウルクを我が主の加護を以て庇護することこそ勝利と心得ておりまする』

(オレ)の勝利を信じるか。あの暴威を目にしても尚」

 

 と、俺から顔を逸らし、グガランナを視線で示すギルガメッシュ王。

 当然俺の視界にいまもウルクに迫り来る天の牡牛が映る。

 うーん、改めて見ると色々と頭がおかしいっすわ(真顔)。

 アレとタメ張れそうなの、冥界で自らの全能を振るうエレシュキガル様くらいのものでは?

 つまり人間だろうと神々だろうとあれに抗うのはほぼ無理ゲーである。

 

『恐れながら王の勝利を心から信じることは叶いませぬ』

「―――ほう」

 

 絶対零度の呟きに首筋が冷える。

 あ、やっべ本心ぶっちゃけたら逆鱗に触れた気配がする。

 このままだと死ぬっていうか殺される(確信)。

 

『しかしながら!!』

 

 ここは勢いと更なる本心で凌ぐのだ…!

 

『王とその友が揃い、乗り越えられぬ困難無し! 其処に一切疑いを以てはおりませぬ!』

 

 これは混じりっ気のない本心だ。

 ギルガメッシュ王が偉大なる英雄王であること。

 そしてエルキドゥがギルガメッシュ王に負けないくらいの英雄であることを()()()()()()()

 故に信頼、信用というよりもそれは()()と呼ぶべき感情(モノ)だった。

 

「クハッ!」

 

 俺の啖呵を聞き、最早こらえきれぬとギルガメッシュ王は吹き出した。

 そのまま腹を抱えて哄笑する。

 おいおい、こちとら大真面目に答えたつもりなんですがね?

 

「だからだ阿呆(アホウ)が。まったく、つくづく笑わせてくれる珍獣よ」

 

 片手で顔を覆い、おかしそうにクツクツと笑うギルガメッシュ王。

 

「最後の最後で他人任せだのに威勢だけは一人前よな。が、良い。その愚かしさも我が興趣を満たすものよ」

 

 だからそのやけに機嫌が良さそうな気配はほんと何なんだ。

 もう(ギルガメッシュ)の心が分かりません。ああ、元からか?

 

「我が戦列に加わることを許す。随分と過大な恩寵をその身に宿したようだな。ふん、エレシュキガルも己が眷属に重荷を課すものだ」

『どうか誤解なきよう。主が私の我が儘を聞き届けてくださった結果です』

「……よかろう。もとより貴様ら主従の間に立ち入るつもりは無い故な。ならば我が命じるはただ一つ」

 

 威儀を正して令を下すギルガメッシュ王に、俺も改めてかしこまる。

 

「我が同盟者の臣に命ず。ウルクをその身に余る加護で以て守り抜け!」

『我が女神に賭けて。が、懸念が一つ』

「分かっている。貴様らの本領は夜だ。夜明けを過ぎれば、貴様が示す不朽の加護もまた弱まるというのであろう」

 

 話が早くて助かる。いや、マジで頼みますよ。

 冥界の領域である夜が過ぎ去り、朝日を迎えてしまえばウルクを守るために張った結界の強度が途端に劣化する。

 そうなればグガランナの前にはあまりに脆い藁の壁だ。余波を受けきる程度ならどうにかなると思いたいが、正直に言えばそれも心もとない。

 それを恐れ、エレちゃん様から出立直前に更なる加護を授かった。その身に余る加護を十全に駆使すれば、ウルクを守ると言う一点ならば不可能ではないはずだ。俺の霊基(カラダ)が持つ限りにおいて、だが。

 

「最善を尽くす。いまはそれしか言えぬ」

『……やはりグガランナは』

「我とエルキドゥの力をもってしても勝てると言い切れぬ。それほどの怪物よ」

 

 傲岸不遜を絵に描いた暴君に相応しからぬ弱気な発言。

 やはりギルガメッシュ王は暴君であっても無能や見栄という言葉から程遠い。

 が、この王様が一切の油断を捨て去った時の恐ろしさはエレちゃん様やエルキドゥから伝え聞いている。

 勝ち目がなくても作り出す。この王様はそれが出来るだけの力量を持った英雄だ。

 

『私もまた、最善を尽くしましょう』

 

 ならば俺に出来るのは、言葉通り最善を尽くすことのみ。

 

「良きに計らえ。(オレ)が勝利の暁を迎えるまでの間、我がウルクを任せる」

『お任せあれ! 王におかれましては、どうか後顧の憂いなく戦士の勇を振るわれませ!!』

 

 ギルガメッシュ王が、ウルクを俺に任せると言う。

 その意味が分からぬ俺ではない。

 無理だとか、ダメだった時はなどという弱気な言葉は喉の奥に押し込み、王の令にただ頭を下げて応えた。

 

「お前も文句はあるまい、エルキドゥ」

「……好きにすればいい」

 

 と、ここまで黙っていたエルキドゥに話が向けられると、プイと顔を背けてぶっきらぼうな返事が返ってくる。

 おおっとこれは珍しく拗ねてる気配がしますねぇ…(愉悦)。

 ねえねえ、どんな気持ち? いまどんな気持ち? どうだコラ助けに来てやったぞ。

 ドヤ顔でエルキドゥを煽り倒すために口を開こうとした瞬間、ギルガメッシュ王が再び言葉を継いだ。

 

「賭けに勝った以上、約束は履行してもらうぞ、エルキドゥ」

「だから僕はそもそも賭けなんて―――」

「ならば兵器の主として命令だ。さっさと整備を済ませて来い。余人の立ち入らぬ空間が必要と言うのなら、聖塔の玉座の間を使え。しばらくの間、誰にも立ち入らぬよう命じてある」

「…………」

 

 エルキドゥはなんか凄まじく不本意な気配を沈黙と共に撒き散らすと、無言のまま光と共に聖塔へと飛んでいった。

 ……えーと、もしかして俺ってばアウトオブ眼中な感じですかね? くそぅ、エルキドゥの悔しそうな顔が見れるチャンスだったんだが。

 

「全く世話の焼ける兵器よな。あれで感情が無いと自らを評するのだから腹が捩れてたまらんわ。そうは思わんか、珍獣」

 

 などと本人は供述しており…。

 いや、台詞の割に目を細め、仕方ない奴だとばかりに笑みすら浮かべている辺りからなんとなくその裏腹具合が見て取れるといいますかね。

 

「我もまっこと面倒な類の親友(とも)を持ったものだ。が、一度親友(とも)と認めたのならば、多少のお節介も男子(おのこ)の度量の内というもの。

 行ってこい、珍獣。我の親友(とも)たるエルキドゥの友よ。我らとは違う小さく、弱き者よ。アレが知らぬアレを思う者達の思い、存分にぶつけてこい。(オレ)が特別に差し許す」

『はっ!』

 

 と、威勢よくギルガメッシュ王の言葉に応じるものの、事情がさっぱり分かりませんよ?

 なんとなく思うことをそのまま話してこいというニュアンスは分かるんだが、其処に至るまでの経緯が不明瞭と言うか…。

 そんな俺の困惑を知ったことかとばかりにギルガメッシュ王はどんどん話を進めていく。

 

「まったく…。兵器を自称するならば友を持つ必要も、小さき者達に心を揺らす必要も無かろうが。

 面倒な心の内を察し、呼ばれてもいない貴様がしゃしゃり出てくるのを待ち、挙句賭けの代価をひと時の会話で済ませるなど我の慈悲深さは留まることを知らんな。貴様もそうは思わんか?」

 

 ちょっとそこのドヤ王様なに一人で悦に入った呟きで同意を求めてきてるんですかね?

 んーと、今の呟きから察するにだ…。

 エルキドゥの内心に配慮して冥界に救援要請を敢えて出さず、しかしその内心では救援要請が無くとも冥界から援軍が来ることを見切っており、その上でエルキドゥを強引に賭けという土俵に乗せてそれに勝つことで、俺と素直でないエルキドゥが話す機会を作り出した?

 

(……め、面倒くせーっ!!)

 

 思わず内心で大絶叫である。

 気遣いが回りくどすぎるというか、実は煽ってるんじゃないかと邪推するレベルの独り言だ。

 

『…………。見事なお気遣いかと』

「そうであろう、そうであろう」

 

 俺としては応じる前に挟んだふた呼吸分の沈黙で遺憾の意を含ませたつもりなのだが、気付いた様子もなく我が意を得たりとばかりに呟く王様。

 ああ、うん。ほんと流石っすわ。王様って面の皮が厚くないとやってられないんだって良く分かる一幕だったな。

 




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