【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
生まれ変わったような、という言葉がある。
今の俺を包んでいる感覚は、
澱のように積もり積もった疲労が綺麗に拭い去られ、異常な程に調子が良い。
見える視界の広さが違う。
振るう力の規模が違う。
そして最も分かりやすい変化として―――視点の高さが違った。
「ガ、ガルラ霊殿…なのですか?」
聞き覚えのある声が随分としたから耳に届く。
その声の主を見下ろせば、そこには随分と小さくなったシドゥリさんの姿が。
『……なんじゃこりゃ』
思わず疑問を呟き、自らの姿を見る。
全体図は知れないが、女性としては背の高いシドゥリさんが見上げるほどに巨大な骸骨がそこにいた。
というかぶっちゃけ、俺だった。
『ふぅむ…』
確かめるように呟きを一つ。
最大の違和感は変わり果てた己の姿だが、より本質的な違いは俺の
これまでよりもはるかに多く、濃い冥府の魔力を、手のひらの上で転がすかのように自由に扱える。
戯れに自身の奥底に湛えた魔力を一滴分ほど解放すると、
「きゃっ…!」
『これはとんだ無作法を。許されよ、シドゥリ殿』
不思議と魔力の波に煽られたシドゥリさんやウルクの民達に悪影響がないのが救いか。
冥府の魔力は本来生者にとって毒のようなものだが、どうも俺に限っては例外となるようだ。
「い、いえ…。しかしこれは一体どうしたことなのでしょう…? 《名も亡きガルラ霊》殿、なのですよね?」
『無論、私ですとも』
「そのお姿は一体…?」
『はてさて…。私自身も心当たりがなく。なれど確かなことが一つ。いや、二つ』
「それは…?」
『この奇跡、間違いなくウルクの衆の祈りによるもの。そして不肖の身なれど、今度こそウルクの護りとなってみせましょう』
俺の身に何が起こったのか…正直言って俺自身掴みかねている。
だがこの
故に彼らのために俺の『力』を振るうことに一切の躊躇はない。
「ガルラ霊殿…。はい、改めて一心にお頼み申し上げます。どうか、ウルクを…!」
『任されませいっ! ハハハ、この《名も亡きガルラ霊》、シドゥリ殿とウルクの民の力となれることまっこと嬉しく思いますぞ!』
美人に頼られると言うのは気分が良いものだ。そこにウルクの民がいるとなれば尚更に。
宣言したように全力を尽くそう。とはいえ…。
(当然ながら格はエレシュキガル様にははるか及ばず、陽光の下では相変わらず十全にその力を発揮できず…か)
俺の
太陽の下では十分な力を発揮できないことには変わらないのだ。
が、問題はない。
元より俺程度の存在に力押しや力尽くという贅沢が許されるはずもなく、智慧と勇気と無理無茶無謀で押し通す以外に道は無いのだ。
そして幸いと言っていいのか、神性を得たことで新たに一つ、振るうべき武器に当てが出来た。
『これが、
自らの霊基に新たなる力が宿ったことを知る。
霊基昇格によって自らにまつわる逸話が昇華された
その効果は、それ単体では非常にささやかなもの。
ただそれだけ。
冥府のガルラ霊でありながら地上へ上がり、人間との間に数多の交流を積み上げた。その到達点となる、六日六晩を超え七日に至るまで破滅から
地上と冥府、本来交わらぬはずの二つの世界を繋いだ功績が昇華された、ささやかなれど俺には過ぎたる宝具である。
それをいま、魔力に満ち満ちた身で存分に行使する。
『護りしは人、招きしは主。いま呼び起こすは冥府の息吹。人とともに歩もう。故に―――』
後の世にそう呼ばれることとなる、今は名も無き宝具の初開帳であった。
轟々と、どこからともなく呼び込まれた冥府の風がウルクに吹き荒れる。
さらに晴天の下に突然黒闇が湧き出し、黒き繭のようにウルクを覆う。都市の隅々、生きとし生けるものを余さず覆ったその暗闇は不思議と暖かい。
暗闇に包まれたウルクの民は直感的に知る、この闇は我らを害すものにあらず。いいや、この闇こそ冥府の女神から下された護りの恩寵であると。
事実、不朽の加護が消滅してから幾度となくウルクを襲った激戦の余波による衝撃、轟音がはるか遠くに遠ざかった。
ウルクを覆う闇が今も続く衝撃波を防ぎっていた。
ウルクの民は暗闇に包まれ、幼子の頃に母に抱かれていたかのような安堵に浸る。
彼らの耳に魔力を通じて俺の声を届かせる。
さあて、俺の
『さあおいでませ、偉大なる我らが女神! 地の底に縛られるが故に絶対無比なる冥府の女王! 厳格なれど慈悲深きお方!』
かくしてウルクはほんのひと時だが冥府の領域と化した。
そして冥府においてエレシュキガル様はほとんど万能の存在だ。
その万能性を当てにして、
『
地の底でいまも俺の無事を祈っているだろう、愛すべき我らの女神を呼び招く。つまりは本来冥府にあるべきエレシュキガル様の神体直接顕現。
『―――
即ち、俺こと《名も亡きガルラ霊》が辿り着ける限り、地上だろうが天界だろうがあらゆる場所を冥府として占拠し、冥府の絶対者としてのエレシュキガル様を呼び出せるという特級の禁じ手である。
かくして裏技禁術インチキペテンを通じて呼び奉ったエレシュキガル様は―――。
「え…ぇ? えぇぇ??? な、なにこれ? 今の今まで冥府にいたと思ったら地上から呼ばれて…。飛び出てみたら
と、そこには絶賛混乱中の女神様(可愛い)のお姿が。
うーん、いつも通りのエレちゃん様でぼかぁ安心しましたよ(魂ピカ―)。
《名も亡きガルラ霊》
主人公。
この度めでたくクソ雑魚ナメクジ霊基から低位の神格まで大出世(ガチ)を遂げた。なお真名は無く、変わらず無銘である。
一応英霊として登録される程度の格はあるが、戦力的には三流英霊にも劣る。
もしこの時点の彼が聖杯戦争に召喚された場合、クラスはキャスターのほぼ一択。
高位の陣地作成で工房を作成してひたすら引き籠る産廃キャスターと化す。
なおまかり間違って召喚されたエレちゃんとタッグを組んだ場合、作成した工房は神殿と化し、踏み込んだサーヴァントの
古代シュメル世界においては、冥府の女神の無害な
こいつがいる限り、冥府による地上・天界侵攻が可能となる最悪の戦略兵器。
誰でも良いからこいつ殺してくれねーかなと思われつつ、実行に移すと冥府の女神の逆鱗に触れる(穏当な表現)ので、密かな殺意を買うにとどまっている。
なお当の本人と冥府の女神だけは全く気付かず、思いつきもせずに日々を過ごしている。
最終形態まであと2回の変身を残している。