【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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「え…ぇ? えぇぇ??? な、なにこれ? 今の今まで冥府にいたと思ったら地上から呼ばれて…。飛び出てみたら眷属(アナタ)が大きくなっていて…!? ウルクはボロボロだし、い、一体何がどうなっているのだわーっ!?」

 

 と、そこには絶賛混乱中の女神様(可愛い)のお姿が。

 うーん、いつも通りのエレちゃん様でぼかぁ安心しましたよ(魂ピカ―)。

 

『エレシュキガル様、エレシュキガル様』

 

 なおこの会話はウルクの衆にも聞こえているので、外聞のためエレシュキガル様呼びである。

 え、もう手遅れ? そうねぇ…。

 

「な、なに? なんなの? 私いま落ち着くのに忙しいのだけど!?」

『いえ、実はこの会話もウルクの民に全て聞こえておりまして…』

「ちょっ…!? そういうことは早くいうのだわーっ! 私の女神としての威厳が台無しじゃない!?」

 

 両手を胸の前で可愛く握りしめつつ、顔を真っ赤にしてプンプンと怒るエレちゃん様。

 可愛すぎかよ。

 あと威厳云々言うならエレちゃん様の場合、根本的なところから見直す必要が…。

 どうですか皆さん、今ならこんなに可愛いエレちゃん様を愛でる…もとい信仰するチャンスですよ?

 なおウルク民の反応はというと…。

 

(可愛い)

(可愛い…)

(可愛すぎか)

(惚れそう。というか、惚れた)

(冥府の女神とは一体…)

(俺、ガルラ霊になる)

 

 大成功ですねぇ(ガッツポ)。

 あと近い将来同志になりそうな君、地上での生をたっぷり満喫してから冥界に来てくれ。自分に会うために死んで来ました、とか言われてもエレちゃん様は絶対に喜ばないので。

 

『実は()()然々(しかじか)で―――』

 

 と、俺は端的に事の経緯を語った。

 もちろん()()然々(しかじか)の中に色々と言葉が圧縮されていたことは言うまでもない。

 

「そう、そうなの。そんなことが…。だから私が地上に出てくることが出来たのね」

 

 話を聞き、納得したように頷くエレちゃん様。

 

「頑張ったのね、眷属(アナタ)も、ウルクの民も。私、エレシュキガルはその生命(イノチ)の輝きを称賛します。素晴らしき死はよく生き抜いた者にのみ訪れる特権。このままその生を全うし続けなさい。その果てにある死を私は看取りましょう」

 

 ふわり、と春風のように穏やかにエレちゃん様が笑みを浮かべる。

 そこにあったのは女神からの労わりと称賛。

 

(女神…)

(女神か、女神だった)

(信仰したい…)

(結婚したい…)

(好き…)

 

 一部なんかヤベーのが混じっている気がするがスルー安定である。

 いまはウルクの危機だからね、しょうがないね。

 とはいえ彼方の激戦は佳境を迎えているようで、鳴り響く轟音も遠ざかり、弱まりつつある。ギルガメッシュ王達が優勢であると信じたいところだ。

 

『このまま待っていれば、恐らくは決着も着きましょうが…』

 

 とはいえ燃費が良いとは言え宝具を展開しっぱなしというのも辛い。

 早めにケリがつくならそれに越したことはない。

 

「それじゃ貴方を散々痛めつけられた私の気が済まな…ゴホンッ! ええっ、でも念には念をという言葉もあるしね! 万が一ギルガメッシュに当たってもそれはそれで…」

 

 おおっと気のせいかな? 一瞬エレちゃん様の目のハイライトが消えたような…。

 気のせいだな!(記憶忘却によりSAN値チェック成功)。

 

(ヒエッ…)

(いま、一瞬)

(内臓が根こそぎ引っこ抜かれたかのような寒気が…)

(気のせい…気のせい???)

 

 なんかウルク民もざわついているがスルーしますよ? うーん、今の一瞬が無ければ地上の信仰がもう少し増えたような気もする。惜しい。

 

「まあ、此処(ウルク)から天の牡牛(グガランナ)まで大分距離もあるし、冥府から直接放たれる一撃とはいえ威力も大幅に減衰するでしょう。ギルガメッシュ達が巻き添えになって死ぬ心配がないことだけは安心ね」

 

 安心……安心とは一体? 哲学かな?

 と、ツッコミの言葉を探す間も容赦なく話を進めるエレちゃん様。

 

「では、冥府の女神による裁定を下します。我が一撃を以て地上の騒乱に決着を齎しましょう。この尊ぶべき美しい世界に平穏を」

 

 エレちゃん様が纏う空気が、変わる。

 素面かつ大真面目な時のエレちゃん様は女神の威厳を纏う峻厳なる裁定者と化すのだ。

 その手に握った槍状のエネルギー体を一振り。零れ落ちる魔力の一欠けらすら神々が脅威を覚えるほどのエネルギーを秘める。

 胎動する魔力の奔流がその手に持つ槍へ宿り、恐るべき神威の先触れとなる。

 

「天に絶海、地に監獄。我が踵こそ冥府の怒り!」

 

 手中の槍を突き刺した大地が震撼する。

 この時、古代シュメルの大地を脅かした天の牡牛が、大地の底から襲い掛からんとする大いなる女神の怒りに震えた。

 それは天の女主人イシュタル様が大いなる天から大いなる地へ放つ『山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)』とは同格にして真逆。

 その不吉にして破壊的な気配だけは古代シュメルに生きる全ての生命が感じ取っていた。

 そしてその先触れは当然のように地平線の彼方でグガランナと戦う英雄たちにも届いている。

 

「ちぃっ、今度はなんだ!? またイシュタルめの横やりか!?」

「超抜級の魔力の胎動を感知。エレシュキガルのものだ。それも……驚いたな、冥府にある時の彼女が放つ全力規模に近い。理論上地上でこの出力を維持することは不可能なはずだけれど…」

「何を悠長にしておるかエルキドゥ! 仔細は分からんがイシュタルの片割れ(エレシュキガル)が放つ渾身の()()()()()だぞ!? 女神(オンナ)の情念なぞに我らまで巻き込まれてたまるか!!」

 

 いやに真情の籠った魂の叫びであった。

 まさにこうして女神の理不尽に付き合わされているギルガメッシュ王こそ、あるいは最大の被害者でもあるのでやむを得ないのかもしれない…。

 

「道理だね。全力退避の後、最大出力で防御壁を形成する。遅れずに合わせてよ、ギル?」

「驕るなエルキドゥ! 貴様の方こそ付いてこい!!」

 

 互いに挑発と軽口を叩き合う。

 そのまま言葉通りの最大速度で戦域から全力退避。

 宝具の射程から逃れたと判断するや否や、大地から創り出した無数の守りに王の蔵から取り出した無数の防御宝具を重ねに重ねる。

 不世出の英雄二人が繰り出す最大の守り。

 金城鉄壁が霞む万全の守りが完成したその一瞬後、最後の詠唱を以て女神の宝具が撃ち放たれた。

 

「愚妹と鈍牛はいい加減反省するのだわ! これが私の『霊峰踏抱く冥府の鞴(クル・キガル・イルカルラ)』!!」

 

 女神の檄に呼応し、地の底から地続きに放たれるはエビフ山を崩壊させる規模の激烈なる怒りの鉄槌(アースインパクト)

 天の牡牛の巨体を支える大地が突如として隆起する。まるで地の底から噴出する莫大なエネルギーに耐えかねたかのように!

 地の底から溢れ出す破壊的なエネルギーが迸る槍状の赤雷と化し、大いなる地から大いなる天へ向かって爆裂した。

 火山の噴火を何百倍の規模にスケールアップしたかのような激烈なる衝撃がピンポイントでグガランナの巨体を撃ち抜く!

 その衝撃により文字通りの意味で雲を衝くグガランナの巨体が()()()()()()()()()()()()、ゴロゴロと横倒しになる程の威力。

 当然、馬鹿げた巨体との削り合いに付き合いながら好機を虎視眈々と狙っていた英雄達にとって願ってもない機会だった。

 

「ええい、余計な手出しをしおって。どうせ眷属めの危機に何がしかの裏技を駆使して地上に顔を出したのだろうが…これだから女神という奴は度し難い。が、良かろう。我は寛大故許してやるわ!」

 

 盛大に巻き込まれかけ、あまつさえただの余波で自分()の万全の守りを崩されかけたのだから腹立ちのまま怒り狂ってもおかしくない状況である。

 二人の英雄を守る防壁は見るからにボロボロで、あと一押しで崩れ落ちるのが目に見えていた。

 それら諸々の腹立ちをなんとか、半ギレではあるものの、本人が言うように脅威的な寛大さで飲み込むギルガメッシュ。

 

「弱らせはしたものの、決着を付けられずに攻めあぐねていたところだからね。ここは好機と考えよう」

「言われずとも分かっておるわ! エルキドゥ、この一撃を以てこの死闘を幕とする。今度こそ我に合わせよ!!」

「承知した。さあ、限界を超えた先の限界駆動だ。僕も知らない僕の性能を見させてくれ、天の牡牛(グガランナ)―――!!」

 

 英雄たちから魔力が吹き荒び、天井知らずに猛らせていく。

 地の底から繰り出された鉄槌により遂に大地へ横倒しとなって無防備な横っ腹を晒している天の牡牛(グガランナ)に向けて放たれるは無論、宝具と呼ばれる英雄達の()()である。

 

「裁きの時だ。世界を裂くは我が乖離剣。受けよ!」

 

 ギルガメッシュの握る乖離剣(エア)を構成する三つの円筒が回転を始め、世界に満ちる風を飲み込んでいく。

 その一撃はかつて混沌とした()()を天地に分けた対界宝具。

 圧縮され鬩ぎあう暴風の断層が疑似的な時空断層の嵐となって、世界の命運を決するに相応しい絶大なる威力を生み出す。

 

「呼び起こすは星の息吹。人と共に歩もう、僕は。故に―――」

 

 もう一つの宝具もまたこの世界の命運を賭けた決戦を終らせるに相応しい。

 自らそのものを神造兵装と化し、アラヤ・ガイアの()()()を流し込み撃ち放つ極光の槍。膨大なるエネルギーを変換した楔と化し、対象を貫き、繋ぎ留める。

 抑止力の具現であり、人類と星を害する破壊行為に対して威力が爆発的に上昇する対粛清宝具。

 人類の脅威であるグガランナもまた、この対象に入っていた。

 

「『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!

「『人よ、神を繋ぎとめよう(エヌマ・エリシュ)』!!」

 

 それ一つで世界を滅ぼしうるほどの宝具が重なった()()で果たして何が起こったか―――理解不能、計算不能、算出不能。

 直にその結果を目にした二人の英雄は生涯黙して語ることなく。

 あとにはただ天の牡牛(グガランナ)が塵すらも残さず消え去ったという結果だけが在った。

 世界を滅ぼすに足る災厄(グガランナ)が、世界を滅ぼしうる力によって打ち倒された瞬間だった。

 




 ここまでがグガランナ編、前半部となります。
 後半部分はまた執筆中です。
 書き溜め完了したらまた投下します!

 それと作者ってのは読者からのリアクションが無いと筆を折る儚い生き物でして…。
 執筆速度ブーストのためにも感想・評価頂けますとありがたく!

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