【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
思った以上に多くの反響を頂けたのでまだ返信など出来ておりませんが、頂いた感想は全て目を通しております。
お待たせしておりましたグガランナ編後半部(というかグガランナはもういないので実質エルキドゥ編)の始まりです。
ちょっと考えがあり、投稿時間を毎日一話18時にして投稿致します。
それと名誉ガルラ霊の皆さまに一つお願いが。
話の頭に推奨BGMの記載がある回は、可能であればBGMを視聴しながらお読みいただけますでしょうか。
読者の感情を動かすことが小説の役割なら、思い切り感情を動かしてほしい。
音楽の力を借りつつ、BGMタイトルにマッチしたシーンを書き上げたつもりです。
どうか、お聞き届けて頂ければ幸いです。
出会いがあれば別れがある。
それは神々であろうと避けようのない
だが歩む先にどんな結末が待ち受けていようと、いまこの瞬間を必死でやり抜く以上のことを誰が出来ようか。
大切な
だがそれでも手のひらに残るモノは確かにある。
故に人よ、出会いと避け得ぬ別れを恐れるなかれ。
人の繋がりが紡ぐ奇跡を
そして
◇
勝利である。
紛うことなき大勝利である。
英雄は、ウルクは、人類は
エレちゃん様の遠視でいち早くそれを知ったウルクの民は歓呼の声を上げた。
勝利を収め、程なくしてウルクまで帰還した英雄達を、ウルクの民は大歓声とともに迎え入れた。
これには英雄王もご満悦であった。
なおエルキドゥはそんなギルガメッシュ王を見て苦笑していた。
「我、勝利の凱旋である! 称えよ、我が民よ!!」
ギルガメッシュ王、渾身の高笑いを上げながらドヤ顔晒しての凱旋である。
とはいえドヤ顔をかますだけある大戦果なので、ウルク民に混じって俺もギルガメッシュ王の名を叫ぶシュプレヒコールに参加していた。
なおあの巨体では邪魔になるので通常のガルラ霊サイズまで縮小している。
いや、可変式なんだな、コレ。自分でやっておいてなんだがビックリだわ。
まあ民衆に混じりながらのシュプレヒコールも、すぐにエレちゃん様に頭を叩かれて民衆の間から引っ張り出されてしまったのだが。
いや、これは浮気とか二股とかではなくてですね。あくまで尊敬の念というか、なんだかんだでけっこうあの王様のことは好きだし…。
苦し紛れに捻り出した言い訳を聞いたエレちゃん様の機嫌が激おこぷんぷん丸から激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームにワープ進化したのは予想外だったな。
よりにもよってあの男に盗られるくらいならいっそ…! とか据わった目で呟かれるのは死ぬほど怖かったです(小並感)。
「おお、珍獣。何故隅で小芝居をしている? エレシュキガルともども道化に徹するならば我の前に来るが良い。思うさま指を差して笑ってやろうではないか」
「誰が道化か!? そのネジくれた性根、いい加減に矯正してやるのだわ!!」
と、そんな俺達を見咎めた王様が余計な一言を投げかけ、更なるひと悶着があったりもしたのだが。
その後、民衆を落ち着けてから何とか無事だった玉座の間に主だった人物が集まり、諸々の被害報告を交わし合った。
「……やはり被害は免れぬか。長きに懸けて建築した城壁は全損。内部の建造物も七割超が倒壊か。やれやれ、再興にまた人手を取られるな」
『申し訳ございませぬ。全力を尽くしたのですが…』
「勘違いするな。叱責のつもりはない。
下げた頭を再び上げ、交わる視線に一瞬だけ共感が混じる。
ギルガメッシュ王は最前線で、俺は後方のウルクでと大きな違いはあるが、ともにグガランナという規格外の神獣を相手取った苦労が互いに共感を与えた。
いや、
「エレシュキガルもご苦労。同盟者として一応礼を言っておこう」
「女神を相手に相変わらずの上から目線。罰が当たるわよ、英雄王」
「大戯けが! 女神だからなぞという理由で頭を下げてはイシュタルめにも頭を下げなければならんだろうが。貴様を労うはウルクの同盟者であり、此度の功労者であるからだ。
「……ふ、ふんっ! ちょっと持ち上げたくらいで機嫌が取れる安い女神と思わないことね!?」
と、言いつつ結構嬉しそうな女神様であった。
エレちゃん様って責任感が強くて誇り高いのに自己評価は低いという独特過ぎる精神構造をしているからなぁ。
女神だからと持ち上げるのではなく、その功績と人品に敬意を表する。
誰が相手でも上から目線なので分かりにくいが、ギルガメッシュ王なりの最上級の礼がかなり心に響いたようだ。
「話は聞いたが、こちらも随分と荒れたようだ。まさか貴様が神霊と化し、エレシュキガルが地上へ顕現するか。まさに世界存亡の危機でも無ければ訪れぬ珍事よな」
そんな百年に一度の異常気象みたいなノリで言われてもこっちも対応に困るんですが…。
「加えて
と、呆れたように俺の宝具について評された。
論評される本人としてはそこまで大袈裟とは間違っても思わないのだが…。
「
『……ご忠告、胸に刻みまする』
でもですね、ギルガメッシュ王。
俺の横で同じセリフを聞いているエレちゃん様も分かって無さそうなんですがそれは…?
「まあこれ以上はよかろう」
あ、流した。
なお俺の宝具は現在進行形で展開中である。
よって今もなお地上に出張中のエレちゃん様であった。
本来冥府の魔力は生者にとって毒なのだが、俺の宝具は限定的にだが地上と冥界の境界を取り払う機能を持つ。
故に俺が展開する冥界の領域に限り、死者と生者は平等に変わることなく過ごすことが出来るのだった。
……冷静に考えてこの宝具ちょっとヤバくないだろうか。
現時点ではあくまで机上の空論で実現性ゼロだが、馬鹿みたいな技術的・エネルギー的問題をクリアすれば、地上・冥界・天界の三界全ての境界を取り払って
いや、やる意味もないし意志もないし興味もないから無駄な仮定と言えば無駄な仮定なのだが…。
「まあ良い。我らは生き残った。それに比べれば全ては些事よ」
考え込む俺を他所に、ギルガメッシュ王は一つ頷いてそう呟いた。
そのまま玉座の間を出ていくと、聖塔前の広場を見下ろす。
既に夕暮れ時となり、そこかしこに焚火が組まれ、夜を照らす準備が整えられている。
そして広場には所狭しとウルクの民が集まり、凱旋したギルガメッシュ王の言葉を今か今かと待ち構えていた。
そこに負傷者はいれど、死者はいない。笑顔はあれど、悲嘆はない。
彼らは骨の髄までウルクの民だった。
「聞け、ウルクの民よ! かの
ウルク中央の広場に集まった民衆に、ギルガメッシュ王は大音声で宣言した。
即ち、此度の戦は
「戦勝の宴だ! 明日からまた忙しくなるが、いまこの時ばかりハメを外すぞ! 何よりグガランナを相手に戦い抜いたのだ。息抜きの一つも無ければやっていられるか!?」
間違いなく最後の辺りが本音だろうと思われる宣言と共に、ウルクの各所に設置されていた蔵の扉が開かれ、貯蔵していた麦酒と食糧が後先考えずに大放出される。
宴が始まった。
生者も、死者も、王も、女神も、兵器でさえも肩を並べて笑い合う、混沌と歓喜が極まった宴が。