【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 と、言う訳で新章にしてラストエピソードである冥陽神話大戦キガル・エリシュの開始です。
 時間軸的には幽冥永劫楽土クルヌギア①の、10年が過ぎ去った日の後くらい。
 面倒な前置きは最低限に、最終決戦直前のアイデア募集まで最短で行きたい。

 追記
 これまで投稿したお話のタイトルや章分けを変更・修正しました。





冥陽開闢神話キガル・エリシュ


「―――反対致します」

「そうね、貴方はそう言うと思っていました」

 

 頭を下げ、出来る限り声に意を込めて女神へ応じる。

 だが困ったように笑うエレちゃんさまは、決意を込めて再度決定を伝えた。

 

「でも、ごめんね。もう決めたの。私は天界のネルガルの呼びかけに答え、彼の元へ向かいます。その間、どうかこの冥界を貴方の手で治めて頂戴」

 

 あまりに予想外で、納得しがたい決定。

 何故こうなったのかと、俺はキツく唇を噛み締めた。

 

 ◇

 

「ネルガル神が冥府の開拓に関心を示し、協力したいと使者を寄越しました。彼が天界に持つ領域で歓待するのでそこまで向かうようにと招待を受けています」

 

 と、そんな爆弾発言がエレちゃん様から告げられ。

 

(うっ…………………………っさんくせえええぇぇ―――っっ!!)

 

 たっぷりと間を取っての絶叫を胸の内で叫ぶ。

 いや、騒がしくて申しわけないが、それくらいに胡散臭い。

 

「率直に申し上げます。罠では?」

 

 そもそも云千年も冥府に無関心だった神々が今更エレちゃん様へ協力の呼びかけ?

 数年前にグガランナの騒動で神々の企みを潰したばかりなのに?

 ネルガル神の評判、多少なりとも聞いている。

 強大なれど、その力に傲り尊大な性格であるという。

 いっそ急速に発展中の冥界をその手に収めようと言う野望と考えた方がまだしっくり来るぞ。 

 

「ネルガル神の心底定かならず。ならば此度の呼びかけは見送っても良いかと思いますが…」

「そうね、私もそう思います」

「ならば…」

「それでも行きます。行かなければなりません」

「……行かなければならない、とは?」

 

 問いかける。

 現状、ネルガル神の呼びかけに答える必要は何処にもないはずだ。

 

「いま、ネルガル神の手中にはイシュタルの身柄が握られている。強い言葉は使っていませんが、それを匂わされました」

 

 天界襲撃から音沙汰のなかったイシュタル様、よりにもよってネルガル神に撃退された挙句に囚われの身になってたのか。

 囚われのお姫様を大人しくやっているタイプでもないから、ネルガル神も持て余してそうだが…いま重要なのはそれではない。

 

「それはほぼ脅しでは…? 元より怪しい誘いでしたが、ますます胡散臭いものが」

「そう、ね。私もそう思います」

 

 エレシュキガル様とイシュタル様、表裏一体の女神であるお二人。

 その片割れが害されれば果たしてどのようなことになるのか。

 ネルガル神が果たしてどこまで把握しているかは不明だが、わざわざ言及してきたあたりお二人の関係を多少なりとも知っていると考えるべきだ。

 

「でも、行かないという選択肢も無いわ。イシュタルという私の片割れがネルガルの手にある以上は、ね」

 

 確かに、エレちゃん様が言うことにも一理ある。

 相手に自身の生命線を握らせたまま、というのはよろしくない。

 なにがしかのアクションが必要なのは確かだが…。

 

「きっと大丈夫よ。ええ、私はまずネルガルの言葉を信じたい。近頃の冥界の活気を高く評価し、協力したいという言葉を」

「……恐れながら、もしその後期待をネルガル神が裏切るようであれば」

「その時は私も女神として堂々とその不義を糺し、戦を仕掛けましょう。私がただの手弱女でないと思い知らせてあげるのだわ」

「……は」

 

 応じる言葉が鈍くなる。

 戦った結果を容易に想像できるからだった。

 

「恐らくその時は私は亡き者になっているか、囚われの身となっているかもしれないけどね」

 

 そう、冥界というホームグラウンドの外でエレちゃん様が大神ネルガルに敵うはずがないのだ。

 本来エレちゃん様は冥界以外では中堅格の神格に過ぎないのだから。

 

「例え冗談でもそのようなことは仰らないでください」

 

 個我持つガルラ霊の大半がネルガル神目掛けて自爆特攻しかねん。

 いや、洒落でもなんでもなく。

 

「とはいえ流石にエレちゃん様を亡き者にすると考えているとは思いたくありませんが。エレちゃん様を殺めると言うことは天地冥界の一角を崩すことに等しい…。世界が壊れます」

「そうね。その程度の道理はネルガルも弁えていると期待したいところだわ」

 

 ああ、やはりエレちゃん様も本音ではこの呼びかけを信用していないんですね。

 

「……やはりお考えを翻していただけませんか」

「ダメね。あの愚妹を見捨てられないし、どの道ネルガルはこの先もちょっかいをかけてくるでしょうし…」

「しかし」

 

 もしエレちゃん様が亡き者になってしまったことを考えると…心の底からどす黒い感情(モノ)が湧いてくる。

 胸の内で燻る熾火も再び燃え盛ってしまうかもしれない…。

 そんな未来は絶対に嫌だった。

 

「ありがとう、私の身を案じてくれて」

「当然です」

「でも、行きます。それにこれはただ愚妹や自分の身可愛さだけで行くわけじゃないの」

「と、おっしゃいますと?」

 

 エレちゃん様は俺の問いには答えず、冥界を見た。

 俺達ガルラ霊とともに発展させてきた、この冥界を。

 

「美しい光景だわ」

「はい、まことに」

 

 穏やかな活気と、苦しみのない世界。

 死者達はひと時の安楽を得ると、その魂は虚空へと還っていく。

 区切りを付けた魂が『次』へ向かうまでの時間を過ごす場所が冥界だ。

 

「………………」

「如何されましたか?」

「いえ、なんでもないわ」 

 

 酷く憂鬱そうな空気で押し黙ってしまったエレちゃん様に問いかけると、大したことではないと首を振られてしまった。

 その様子にそれ以上の問いかける気が失せてしまった。

 

「ともかく、私は行くわ。その間、どうか冥界をお願いね」

「……分かりました。最早止めは致しませぬ。しかしどうかこの身も共にお連れ下さい」

 

 俺の宝具があれば例え地上だろうが天界だろうが十分な牽制となる。

 本当ならやりたくはないが、向こうがその気ならやむを得ないだろうさ。

 

「ダメよ。私と貴方の双方が冥界を不在にするわけにはいかないわ。何より貴方を供としてはあちらを刺激し過ぎる」

「お言葉ですが、向こうは半ば戦になると見据えて誘いをかけているようにしか見えませぬ! 幾重にもご用心が必要かと」

「では貴方がいれば戦は避けられるかしら?」

「それは…」

 

 どうだろうか。

 確かに俺が付き従うことで一定のプレッシャーをかけられるだろうが、ネルガル神が本腰を入れて神争いに挑むつもりなら多分大した障害にならないだろう。

 基本的に冥界としては専守防衛というか、こっちから喧嘩を売る訳にはいかない。

 となると先手を相手に譲るしかないわけだが、俺が宝具を展開するまでの間無事でいられる保証はない。格上相手に先手まで譲るとか普通に完封負けして終わりそうだ。

 

「しかし……。いえ、仰る通りかもしれません」

 

 ……やはり()()なった時を想定すると、分が悪い。

 心情的には反対だが、主が意を定めたのならばそれに従うのが従者の役目である。

 

「大丈夫よ、勝ち目はあるわ。……間違いなく賭けになるけどね」

「誰に、賭けるのですか?」

 

 まさかネルガル神じゃないよな。

 危惧とともに問いかけた言葉に、エレちゃん様は不敵に笑って答えた。

 

「決まっているじゃない。冥界(ワタシタチ)が積み上げた成果(モノ)に、よ」

 

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