【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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「ここしばらく坑道に潜る者達から引っ切り無しに嘆願が届く。坑道の奥から少なからずガルラ霊どもが湧き、とても仕事にならんとな。これは貴様の仕業か、雑種」

 

 その問いかけに来るものが来たか、と覚悟を決める。

 

(誠実に、堂々と、話すべきことを話す…。やるべきことはそれだけでいい)

 

 こうして幾らか言葉を交わしたが、誇り高き暴君という初対面の印象は深まるばかりだ。

 そしてギルガメッシュ王と相対する時に、頭を垂れて恵みを乞うのはむしろ逆鱗に触れる行為というのが俺の見立てだ。間違っても侮らず敬意を持って、そして自分の職位と職掌を忘れずに堂々と対するのが恐らくは一番まともに扱ってくれる…と思う。つまり自分に出来ることを出来るだけ精一杯にやり切るということだが。

 そこまでやっても向こう側の地雷を踏み抜いて即死する気配が感じられるのが救えないが、逆にその協力を得られた時の見返りも大きいはずだからファイトだ俺(自己暗示)。

 

『は…。ギルガメッシュ王の仰ること、全て事実です』

「ほう? つまり、これは我がウルクを脅かす意図の()()か?」

 

 享楽に歪んだ笑みはそのままに、半ば殺意の滲む言葉が投げつけられる。先ほどまでの威圧がお遊びに思えるような、凶悪というも生温い殺気。

 

『―――――――』

 

 無いはずの胃袋の奥から強烈な気持ち悪さが湧いてくる。卒倒しない自分を褒めてやりたかった。

 坑道奥から湧くガルラ霊は決して悪意を以てしたことではない。むしろ危害を与えないように細心の注意を払った()()()()()()()()()()だ。

 だがここまで強烈な悪意に晒されると、無条件で膝を折り、慈悲を乞いたくなる小胆な自分がいた。

 忘れるな、と己に言い聞かせる。今の己はエレシュキガル様の名代なのだ。ここで無様を晒すことは即ちエレシュキガル様の顔に泥を塗ることと同義。自身の無様であのポンコツで尊い主を傷つけるなど、それだけは絶対に許されない。

 

『……ギルガメッシュ王も、お人が悪い』

 

 なんとか、一言ずつ言葉を絞り出していく。

 

『我が主、エレシュキガル様の版図は冥府。そしてエレシュキガル様が比類なき冥府の支配者たりえるのはかつてあの方が誓ったその誓約故に。それを知らぬギルガメッシュ王ではありますまい』

 

 我が権能は全て冥府のために。

 決して自分のために使わないという誓約がエレちゃん様を強力に縛り付け、それに比例する強力な支配力を与えている。

 その誓約ゆえに仮にエレちゃん様が地上の支配を企もうと、そもそも実行は不可能だ。

 え、いま地上でガルラ霊を使って悪だくみしているじゃないかって?

 ガルラ霊を遣わせているのは地下坑道という冥府の端っこかつ全ては冥府の発展のためという大義名分があるのでセーフです。世の中には拡大解釈という言葉があり、誓約と言っても多少ガバいところはあるみたいだし。

 

「ハッ! 物は言いようよな。裏を返せば、冥府のためであれば多少地上に干渉することも許されるということだろうが」

 

 うーん、こっちの内情もバレバレですねコレは。間違ってもこの王様とは喧嘩したくねぇ。エレちゃん様の存在を加味しても、地上では勝ち目の一つも見える気がしない。

 

『畏れながら申し上げます。ギルガメッシュ王のご慧眼、まこと端倪すべからざるという言葉が相応しくございます』

「世辞はよい」

 

 いいえ、残念ながら本心です。

 

『確かに此度のガルラ霊たちは私がエレシュキガル様に献策を奏上し、実行に移した者たち。しかしその意図に誤解が生じているように思われます』

「ほう、誤解か。ならば精々その舌を囀らせることだな。貴様の言う誤解が解けなんだ暁には、その処遇…分かっていよう?」

 

 殺気を押し込めたのはありがたいが、ニヤニヤ悪趣味な笑い浮かべてプレッシャーかけるの勘弁してくれませんかね? リアル危機一髪の綱渡りに挑む道化に外野から野次を飛ばす類の悪趣味さを感じるぞ?

 この王様、有能なんて言葉では収まらないくらいに有能で辣腕かつ人の心を見透かす洞察力の持ち主だがそれ以上に性格が悪いな、魂を賭けても良い。

 

『では幾つか質問を。ガルラ霊によって死者は出ているのでしょうか?』

「いいや、死者として冥府へ入った者はおらん」

 

 問いかけると即座に答えが返る。

 

『ならばガルラ霊に関わらぬ死者は如何(いかが)?』

「そちらも死者が出たとの報告はない」

 

 当然という顔で即時のレスポンスが返ってくる。

 何となく分かっていたが、この反応からして全て承知の上で掌の上で転がされているのでは?

 

『ならばその死者0人という数字こそが我らがウルクに提供できる()()となります』

「ああ、そうだろうよ」

 

 まるで分かっていたことであるように、当意即妙と言葉が返される

 

「坑道の採掘は実入りも多いが危険も多い。貴様が言う通り、暗闇に精神をやられる者や崩落で押しつぶされる者。気配なき瘴気(みあずま)に一瞬で死へ連れていかれる者も後を絶たん。

 貴様ら冥府の手の者が絡まずとも、坑道は死と隣り合わせの場所なのだ。ならばその道の達者である貴様らの助力があれば、随分とその死者が減らせるであろうよ。

 此度のガルラ霊どもはそうした危険が潜む坑道から採掘職人どもを遠ざけていたのだろう?」

 

 一から十まで台詞を取られた…じゃない。

 ちょっと? 途中で向けられた殺気は必要でしたか? これはパワハラ案件では? エレちゃん様に訴えますよ(最終兵器)。

 

「女神の座に胡坐をかいて分け前をよこせと駄々をこねるならば聞き入れる義理なぞ一欠けらもない。何ならあの強欲なイシュタルめをけしかけてやるわ」

 

 仮にも女神を相手に堂々とそれを言えるのは本当に凄いと思います、洒落抜きで。エレちゃん様はポンコツかつ尊いという女神とは思えないほど人畜無害な属性の持ち主だが、同時に近くにいるとその強大さが否応なしに肌身で分かる。なんなら自分がミジンコになった気分が味わえるくらいだ。

 

「だが我が民に加護を与え、その見返りを求めるのなら一考の余地はある」

『お言葉、ありがたく』

「勘違いするな、雑種。まだ考えると言っただけだ」

 

 フンと鼻息を漏らし、言葉通り思索にふけるような沈黙が下り…。

 

「解せんな」

 

 やがて唐突にそう呟いた。

 




感想…、感想クレメンス…。
評価もクレメンス君。
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