【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 此処は本陣。

 俺こと《名も亡きガルラ霊》と大神ネルガルが向かい合うここ一番の大勝負。

 この戦場の趨勢によって全ての勝敗が一瞬でひっくり返る、互いの命運を賭けた戦場だ。

 

「クハハ…。どうやら余の眷属どもは尽く敗れたようだな。『十四の病魔』も大したことが無い。所詮、大した智慧も持たぬ輩に軍を率いるは荷が重かったか」

 

 ネルガル神もまたある程度自身が率いる眷属達の様子を伺えるのだろう。

 互いに牽制を続ける小競り合いの後、呆れたようにそう零した。

 もちろん俺も此処を除く六つの戦場、その全てで冥界側が勝利を得たことを察していた。

 軍勢を立て直す時間が過ぎれば、ほどなく他所の戦場から援軍が駆けつけてくるだろうことも。

 そして既にこの戦場も俺がネルガル神を惹きつけている間に、他の眷属達は『十四の病魔』の『稲妻(ムタブリク)』『追跡者(ティリド)』を含めて倒れつつある。

 そのままの意味でネルガル神は孤立しつつあった。

 

「……彼らを雑兵と呼ぶのなら、崇める者のいない神、天から見下ろすだけの強者を何と呼ぶべきだ? 孤独な神様」

 

 自らの配下へ余りに情の無い言葉を賭けるネルガル神への反発からかける言葉は自然と冷える。

 その冷ややかさを笑い飛ばし、あくまでも傲岸にネルガル神は答えた。

 

「孤独にあらず、孤高と呼ぶが良い! 余は大神ネルガル、天上にてただ一つ燦然と輝く太陽なり! 元より奴らは『十四の病魔』も含めて数合わせの雑兵に過ぎぬ。余が打ち倒した冥界を支配するために必要だから数を揃えただけの()()()()()よ」

 

 一片の虚偽も混ぜることなく、ただ傲慢さと無自覚な酷薄さを覗かせながら言い切るネルガル神。

 繋がり、広げ、手を取り合う冥界とは真逆のその在り様。

 己という個を至上至尊の存在と規定し、他を憚らずに何処までも自分の意を押し通す傲慢。

 ある意味で 真の神とはこのような存在であるのかもしれない。

 

 そして()()()()()()()

 

 ただ一人我こそ尊し。

 洒落の一つもなくそう言い切り、現実と為すだけの力がネルガルにはあるのだから!

 その直感を裏付けるように、ネルガル神は自らの神力を爆発的に高め、増幅させる聖句を紡いだ。

 

「余はネルガルなり。地上を照らす大いなる光にして灼熱と病魔を矢とする者! 余は余の神威と権能を以て天上に燃え盛る火の欠片を地の底に遣わさん!!」

 

 ()()()()()()()()

 ネルガルの背後に幾つも、幾つも、計十四にも上る天を衝く火柱が燃え上がった。

 火柱から現れるは巨大な人影。

 その巨体は『十四の病魔』を上回り、燃え盛る炎は冥府の大気を焼け焦がす。

 溶鉱炉の前に立ったかのような強烈な熱波に、意気軒高な戦意を保っていたガルラ霊達も溜まらず退いた。

 

 ―――雄雄於(オオォ)……雄雄雄雄雄於(オオオオオォ)ッ……―――!

 

 巨大な人影の咆哮が陰々と冥府に木霊する。

 それは燃え盛る炎から成る巨人。

 『十四の病魔』に勝るとも劣らない一線級の戦力だ。

 名付けるならば安直だが『火の巨人』とでも呼ぶべきか。

 更に『火の巨人』から零れ落ちる火の粉から次々と巨人のミニチュア、通常の人間サイズの兵隊『火の尖兵』が産み出される。

 その生産速度はまるで噴水が溢れ出すかのよう。

 『火の巨人』は彼ら自身が『火の尖兵』の生産ユニットでもあるのだろう。

 何と言うべきか、神格…特に大神ともなれば色々とデタラメ過ぎる。

 

「見よ、余の神威を以てすれば『十四の病魔』と眷属なぞ幾らでも代わりを用意できる、ただの木偶に過ぎん」

 

 意気軒昂な様子で燃え盛る炎の巨人を示し、自慢げに語るネルガル神。

 その言葉、表情に虚飾は見て取れ無い。

 幾らでも用意できるというのは決して誇張ではないのだろう。

 もちろん限界はあるだろうが、その限界は当初冥界側が予測していたよりもずっと遠くにあるはずだ。

 

「余はネルガル! 太陽の化身にして都市の支配者! そして冥府を征服する者である!! 覚悟せよ、エレシュキガルのしもべ。冥府の副王を預かる者よ!!」

 

 これこそが神秘と魔力満ち溢れる神代に大神と崇め、威を誇った神格の底力!

 自らをただ一柱で冥界が誇る全ての輝きをかき消して余りある暴威(ヒカリ)と称するに足る、絶大なる神威の化身である。

 

 ―――雄雄於(オオォ)……雄雄雄雄雄於(オオオオオォ)ッ……―――!

 

 咆哮し、進軍する『火の巨人』。

 ネルガルが持つ王笏に似た燃え盛る炎の杖を構え、ゆっくりとだが恐ろしく威風堂々とした足取りでこちらへ向かってくる。

 『火の巨人』が一列横隊で足並みを揃えて進軍する様は、さながら『神々の黄昏』に巨人王に従い進軍する巨人の軍勢さながらだ。

 世界を亡ぼすに足る、進撃の巨人である。

 

「この程度…!」

「抑え込んでやるわ!」

 

 対し、応じるように俺の背後にいたはずのガルラ霊たちが前に出た。

 万のガルラ霊が()()()()()、合体し、無数の骨が組み合わさった巨大な骸骨竜へ変じたのだ。

 暴君竜(ティラノサウルス)三角竜(トリケラトプス)に似た二体の骸骨竜が驀進し、真正面から『火の巨人』の隊列へと突っ込んでいく!

 

「ヌ、ウ、ウウウゥゥ…ッ!」

「ガアアッ! 貴様らなんぞに、冥界を渡すものかああぁっ…!!」

 

 何とか押し留め、押し返さんとするガルラ霊達。

 だが二体の骸骨竜に対し、巨人は十四体。数の劣勢は明らかだった。

 抑え込んだ『火の巨人』から噴き出す強烈な炎が巨大な躯を形成する骨を焼き、どす黒い焼け跡を総身に刻む。

 ジュウゥ…! と、硬い物を焼け焦がす音とともに筆舌に尽くし難い苦悶の声を上げるガルラ霊達。

 生きながらにして火あぶりにされているようなものだ。

 苦痛の叫びを上げるのは当然だった。

 

「もう良い、下がれ!」

 

 と、思わず大声で怒鳴りつけ、撤退を命じる。

 

「なれど…!」

「いま少し…!」

「抑え込めて二体じゃ無駄だ! いいから下がれ!」

 

 そう反論の声を上げるガルラ霊を倍する叫びで無理やり黙らせた。

 痛みよりも悔しそうに骸骨竜の眼窩から青白い炎を吹き出しながら、二体の骸骨竜が後退した。

 二と十四、文字通り桁が違う。止むを得ない判断だ。

 

「強い…!」

 

 果たしてこの慨嘆を零すのは今日何度目か。

 だがこれ以上なく強烈に実感させられる事実に、弱音と分かっていてもそう零すしかない。

 各戦場で苦労して屠った『十四の病魔』と眷属達に匹敵する戦力をこうも事も無げに生み出されては、こちら側の士気にも関わる。

 どの戦場でも楽な勝利など一つも無かった。

 相応の戦力やリソースを注ぎ込んでの『十四の病魔』撃破だったのだ。

 

(止むを得ないな…)

 

 切り札を一つ、切る。

 本当ならばもっと天秤を傾けてからダメ押しで使いたかったのだが、下手に出し惜しんで負けても仕方がないだろう。

 傾きかけた天秤を押し返す。

 そこから先は……出たとこ勝負に出るとしよう!

 

「敵ながら、見事…。まさに大神の称号に相応しき業」

「フッ、そう褒めるな。この程度余にとっては児戯のようなもの。だが偉大なる余に敬服を示したいのならば構わんぞ。存分に余を賛美するが良し」

 

 隠す気のないドヤ顔が色々と鬱陶しい。劣勢であるだけになおさら。

 敵対者としては腹立たしいことこの上ない相手だが、その強大な神威は認めざるを得ない。

 

「お返しに冥界が誇る第一の切り札、とくと御覧じろ!!」

 

 切り札その一。

 一頭目(オリジナル)に比べれば完全に育ち切っているとは言い難いが、それでも大概の神格を相手に真正面から蹂躙可能な大戦力を呼び招く。

 そのために俺の冥界権限を最大限に行使、かの大怪牛が佇む戦場とこの本陣の空間を繋げ始めた。

 霊的・物理的な超質量を呼び出すために無理やりこじ開けた空間が()()

 俺の背後に巨大な裂け目が現れ、百億の硝子を砕いたかのような甲高い音と共に、『火の巨人』に数倍する巨大な影が現れた。

 エレちゃん様から与えられた冥府の全権と聖杯に満ちる魔力が無ければこの難行は叶わなかっただろう。

 つくづく偉大なるは我が女神様と古今無双の英雄王だ。

 

「『十四の病魔』と万の眷属を鎧袖一触に蹴散らしたその力、見せてみろ―――地の底にて吼えよ、天の牡牛(ナム・アブズ・グガルアンナ)!!

 

 呼び招くはかの災厄の後継、天の牡牛(グガランナ)マークⅡ。

 イシュタル様の置き土産、恩讐の女神がギルガメッシュ王への復讐戦に向けて生み出した、()()()()()()()()()である。

 

『■■■■■■■■■■■■――――――――――――!!!!』

 

 第六の戦場を瞬く間に蹂躙しつくした天牛が、再び天地を揺るがす咆哮を上げた。

 

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