【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
言わずと知れたイシュタル様が誇る最強の随獣だが、実のところエレシュキガル様とも全くの無関係ではない。
より古くを遡った時代、エレシュキガル様は
その過去が果たしてどのような経緯があったのか、どのような真実があるのかを、俺は知らない。
エレちゃん様に一度戯れに尋ねてみたが、頑として答えてくれなかったからな。俺自身さほど興味のある話題でも無かったし。
重要なのは冥界とグガランナには決して浅からぬ縁があり、そうした縁を過去から発掘することで、イシュタル様の神殿から保護したグガランナの幼体をこの巨体にまで成長させることが出来たという事実だ。
冥界に金星のテクスチャを張り付け、急造したグガランナの生体パーツを走らせて魔力を蓄えさせ、イシュタル様の置き土産である幼体にガッチャンコして生み出したマークⅡ。
尤も流石に
そもそもネルガル神の冥界征服が無ければ、こやつは永遠に幼体のまま平和に冥界で暮らしていただろうからな。本人(牛?)も冥界に馴染んでのんびりやっていたのだが…。
が、オリジナルに劣るとはいえ
マークⅡ自身もやる気は十分だ。
獰猛に蹄を冥府の大地に叩きつけ、戦意を滾らせている。
ところで蹄を叩きつけることで起きる地震で地上にもかなり被害が出てそうなんだが……
「踏み潰せ」
気を取り直して一声命じれば。
「■■■■■■■■■■■■――――――――!!」
応じ、マークⅡが『火の巨人』の隊列目掛けて暴走するダンプカーの軽く数百倍の体躯と勢いで進撃する。
聳え立つ巨大な双角を『火の巨人』へ向けての
無造作に牛角を一本ずつ『火の巨人』に突き込み、突き刺し、そのまま頭を持ち上げて尋常ならざる巨体の『火の巨人』を
傍から見ていてなお現実感のない、とんでもない規模の怪獣プロレスだ。怪獣王にも引けを取らない暴れっぷりである。
更なる追撃で隊列の崩れた『火の巨人』へ突っ込み、追い散らし、蹴散らす。
そしてトドメとばかりに天へ向かって放り投げた『火の巨人』が冥府の大地に叩きつけられるや否や、瞬く間に駆けよっての強烈な
ひたすら執拗に繰り返される蹄の連撃の苛烈さは冥府の地形を変え、『火の巨人』を飲み込むほどに巨大な地割れすら生じせしめんとする程だった。
「ク、ハハ…! クハハハハハハハハァ―――!! 天晴れ、である! 見事なり、余は貴様達の奮闘に心からの敬意を表そう…!」
自らが直々に生み出した眷属を散々に打ち破られ、蹂躙されているというのにネルガル神は歓喜すら浮かべ、笑っていた。
なんという闘争心、なんという肝の太さか。
「素晴らしきかな! まさか
「冥界代表として一言言わせてもらう。勝手に一人で語ってろ!! 貴様に首を垂れる者など誰一人としているものか!!」
「その大言、差し許す! 嗚呼、
呵々と高らかに笑うネルガル神。
冥府の持つ底知れない力を認めながら、なお獰猛に笑っていた。
「だが天に在りて地上を見晴らす余の眼力は誤魔化せぬぞ! その巨牛、
頬に歪んだ笑みを刻み、その手に握った王笏を振るうネルガル神。
その総身からまた火山の噴火の様に強力な神力が溢れ出していた。
「太陽とは! 夕暮れには地平の果てに沈み、朝を迎えれば昇るモノ! 即ち『死と再生』もまた余が司る権能なり!」
この言葉そのものがネルガル神が自らの権能を称え、増幅する聖句に他ならない。
ネルガル神から莫大な神力が噴き上がり、呼応するかのように散々に打ちのめされたはずの『火の巨人』達が纏う火勢が猛烈に高り、天を衝く火柱となった。
―――
噴き上がる火柱を飲み込み、打ち倒されたはずの『火の巨人』が一人、また一人と復活する。
死した眷属の復活もまた、ネルガル神が有する権能なのだ。
復活した『火の巨人』は巨体に反する俊敏な動作で次々にマークⅡへ襲い掛かる。
「■■■■■■■■■■■■――――――――!!」
マークⅡが再び獰猛な咆哮を上げ、迫り来る『火の巨人』を迎え撃つ。
燃え盛る炎の杖で打ちかかる『火の巨人』を正面からの突撃でぶっ飛ばし、無防備な横っ腹へ向けて叩きつけられる猛烈な炎を天地を震わせる咆哮で吹き飛ばし、弱める。
倒れた同胞に目をくれることもなく、『火の巨人』は繰り返し繰り返しマークⅡへ果敢に向かってくる。
痛手を与えた『火の巨人』もネルガルが振るう復活の炎によって瞬く間に傷を癒し、戦線復帰していく。
マークⅡは何度となく巨人たちの攻勢を退けながらも、徐々に徐々に疲弊を重ねつつあった。
一体一体はマークⅡならば問題なく踏みつぶし、粉砕できる戦力差。
だが十四体纏めてとなると流石の天牛の後継も苦戦していた。
倒しても倒してもゾンビの如く復活する『火の巨人』に対して決定打を欠く形だ。
端的に言ってジリ貧という奴だった。
「クソッタレがぁ…! 死んだらキッチリ死んだままでいろ! ラスボスが回復技使ってくるんじゃねえっ!?」
「フハハッ! 仔細は分からぬが、弱者の泣き言が心地よいわ!」
ただでさえ手に余る強敵が瀕死から即座に戦線復帰するレベルの回復魔法を使ってくるとかとんでもないクソゲーである。
だがクソゲーだからと投げ出せないのが
ゲームならばやり直せばいい、無かったことにすればいい。
だが此処は皆の思いが懸かった戦場で、やり直しなど効かない一発勝負の大一番。
この戦場を引くことだけは絶対に許されない。
その思いで何とか精神的に立て直し、ささやかな希望の切り時について考えを巡らせる。
(切り札はもう一枚ある…!)
それもグガランナマークⅡに負けない強烈な奴が。
ネルガル神にも通用するとっておきがあるのだ。
(それさえ切れればまだ互角に持ち込めるはず…!)
もちろん問題もまたあった。
(けど時間が足りない…。全く足りてない。ネルガル神を押さえられるカードがこっちの手札に無い!)
本来ならばグガランナマークⅡこそがその役割を担うはずだったが、ネルガル神の底力にこちらの切り札を一枚割られた形だ。
そしてネルガル神も『火の巨人』に呼応するように縦横無尽に暴れまわり、俺が率いる軍勢を蹂躙しつつあった。
だがそれでも何とかしなければならないのだ。
それも、冥界最大戦力である俺自身というカードを切らずに。
(イケるか…?)
と自問し、すぐさま厳しいと自答する。
それでもやらねばと思考がループに陥りかけ、半ばやけっぱちに身を投げようとしたその時―――。
「第一軍、現着! 是は、冥府を救う戦いである! 奮え、皆の衆!」
天秤が傾きつつあった戦場に、希望の欠片が到着する!
そしてたどり着いたのは彼ら第一軍だけではない。
「第二軍、現着! 指揮権を副王殿に返上致します、我らに指示を!」
「第三軍、現着! みんな、ネルガル神をぶっ飛ばすぞ!」
「第四軍、現着! 吼えろ!
「第五軍、現着! さあ、ショータイムだああぁぁっ―――!」
待ち望んでいた援軍が現れた。
総勢にして五十万を優に超える大軍勢。見れば中にはネルガル神の元眷属達すら混じっている。
それでもまだネルガル神一柱の方がはるかに強いという事実は最高に笑えないが、心強い援軍には変わりがない。
その事実に芽生えつつあった弱気を払い、せいぜい不敵に思えるよう低く声を張った。
「全軍に告ぐ」
彼らの意気に比べればはるかに小さな俺の声に、皆は応え、傾聴の姿勢を取ってくれた。
これから下すのは非情の命令。
人でなしからのクソッタレな指令だ。
「―――ネルガルを止めろ。一瞬でも、一秒でも長く」
これは足止め…はっきり言えば捨て駒だ。
俺が切り札を使うまでの時間をガルラ霊達の命をすり潰して作り出す愚策に他ならない。
「まあ悪くない役どころだな」
「然様、然様。未来を繋ぐためこの一瞬に全力を尽くす。我ららしい役目ですな」
「人生で一度は言ってみたい台詞があったんだ―――ここは俺が食い止める…なんてな!」
「指令、確かに受け取った。これより命令を遂行する」
「何でもいいから早くネルガルをブチ殺そうぜ! 日が明けちまうよ!」
だが彼らは何でもないことのように笑い、喜んで死地へと向かった。
『
「―――応!」
ここで応える以外の選択肢など、あるものかよ!