【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 推奨BGM:絆(Fate/Grand Order Original Soundtrack I)

 このBGMはなんとなく明るい別れ、あるいは互いの道が別れる分岐路でさようなら、また会おうと別れを告げるようなイメージがあります。
 物悲しいだけの離別ではなく、去っていく者が別れを告げながら()()を託していくような不思議な味わいのある名曲ですよね。

 一度目の別れと二度目の別れ。
 同じ別れでも流れる曲も、感じる想いも異なっているのです。





 ところ変わって冥府のある一画。

 今回の大戦で生き残った数少ないガルラ霊達が集まったシェルター的な建造物にて、俺とエレちゃん様はエルキドゥとの再会を果たしていた。

 エルキドゥ。

 美しい緑の人。

 そして俺の親友。

 今回の争乱でも彼がいなければ冥府は敗北していただろう。

 彼はいま首から下の殆ど全てを喪失した状態で、俺達を待っていた。

 ふわふわと首一つだけで浮遊する姿はホラーさながらだが、今更そんなことで騒ぐような者は冥界にいない。

 俺とエルキドゥの視線が合い、お互いよく生き残ったなと苦笑が浮かんだ。

 

「……酷いザマだな」

「ハハ、言ってくれるね。まあ見た目がよろしくないのは自覚しているよ。なにせ今の僕は首一つっきりだ」

 

 あの黒い炎、呪詛と病魔の属性宿す邪炎に首から下のほとんどを焼かれたエルキドゥ。

 本来なら呪詛の炎に焼かれ死に果てるはずだったが、首一つでも問題なく稼働出来る特性を生かして躯体の大半を呪詛ごと分離(パージ)することで生きながらえたのだ。

 だがその猶予時間は刻一刻と減り続け、最早消え去るまで僅かな時間しかない。

 

「……冥界総出の大宴会は間に合いそうにないな」

 

 本当なら冥府の闇に還ったガルラ霊達の帰還を待ち、再会と再びの別れを記念した大宴会を催したいところだった。

 だが第二宝具《いまだ遠き幽冥永劫楽土(コール:クルヌギア)》の効果時間も無限ではない。リソースの限界もある。

 時間はもうさして残っていなかった。

 

「ああ、それだけが本当に残念だ。もう少し冥府の皆とも語らいたかった。僕が死んだ時は地上のみんなに別れを告げるだけで精一杯だったからね」

 

 残念そうに、それでいて悟ったような静かな喜びを湛えて語るエルキドゥ。

 心残りはあれど悔いや無念はないからなのだろう。

 穏やかに笑うエルキドゥへエレちゃん様もまた精一杯の感謝の念を込めて礼を告げた。

 

「……ありがとうね、エルキドゥ。此度の助太刀、本当に助かったのだわ」

「礼には及ばない。友を助ける。それは特別でも何でもない、当たり前のことだろう?」

 

 当たり前と語るソレを、あのネルガル神相手に貫き通せる者がどれほどいるというのか。

 エルキドゥは相も変わらずエルキドゥだった。

 

「私の眷属は本当に良き友を持ったのだわ」

「止めて欲しいな。女神の貴方にそう言われるのは中々むず痒い」

「言われるだけのことをしたのよ、貴方は。甘んじて受け入れなさい」

 

 互いにクスリと笑い、それで二人の会話は終わった。

 優しい彼女は残り少ないエルキドゥとの時間を俺に譲ってくれたのだ。

 

()()、な」

 

 俺は敢えてそう言った。

 最早『死』ですら俺達の縁を完全に断つことは出来ない。

 別れが避けられないのだとしても、再会の希望はあるのだと知ったから。

 

「フフ…。ああ、()()だ、友よ。この世界ではもう再会が叶わなかったとしても。それでもきっと僕らは出会えるさ。あるいは戦場で、あるいは敵同士という形かもしれない」

 

 英霊の座に登録されたエルキドゥならば可能性はある。

 敢えて英霊の座から呼び起こす気も無く、偶然再会する確率が極小とは互いに分かっているけれど。

 それでもきっと、俺達は再び出会うだろう。

 ロクでもないもしもを語りながら、その顔には笑みがある。

 ああ、そうだなと俺も頷く。

 どんな形の再会だろうが、互いが互いに抱く友情(モノ)は変わらない。

 それだけは確かであると俺達は知っているからこその頷きだった。

 

「例えどんな再会であっても僕らが友である事実は一片も揺らぐことはない。その時は気負いなく、全力でお互いの性能を競い合おうか」

「勘弁してくれ。荒事は苦手な部類なんだ。大体そういう分野でお前に敵うとは思っていないさ」

 

 今回の争乱での出陣はやむを得ずの非常手段だ。

 俺の職分は文官寄りであり、武張った方面は是非別の奴に任せたい。

 

「そうかな? 真正の太陽神と合一したいまの君は神代でも屈指の神性だ。英霊という規格で召喚される場合、一定の上限で性能限界が設定されるから少なくとも性能ではそう大差は出ないと思うよ?」

「嬉しくない保証をどうも。そもそも俺が英霊として座に登録されるかも不明なんだ。今からそんな心配しておく必要は無いだろうしな」

「……それは冗談というやつかな? 中々諧謔というものは理解が難しい」

 

 冗談でも諧謔でもねーよ。

 とぼけたような無表情でなに言ってんだお前、という視線を寄越されるのは中々に堪えるから止めろ。

 

「君が為した偉業で足りなければ少なくない英霊がその資格を失うことになるね。大神ネルガルの討伐、神話になってもおかしくない大偉業だ」

「……まあ、そうだな。そうなんだよなぁ」

 

 冷静に考えればエルキドゥが言う通りなのだ。

 とはいえ自分が神話になってしまうとか考えるだけで背中が痒くなるというもの。

 

(善し…。気にしないということで)

 

 未来のことは未来の俺が考えればいいのだ。

 今からどうにもならないコトを考えても建設的なものにはならないだろう。

 なお今回の争乱が《冥府の物語(キガル・エリシュ)》という題で粘土板に刻まれ、遠い未来まで残ることを今の俺は当然知らなかった。

 

「……そろそろ、本当にお別れだ」

 

 そんな益体の無い話を続ける間に、どんどん終わりは迫ってくる。

 

「ああ、分かっている」

 

 エルキドゥがそう静かに告げると、霊基を形作る魔力の粒子が少しずつ霧散し始める。

 一夜に満たない再会の時が終わりを告げる。

 奇跡が終われば待っているのは再びの別れだ。

 

()()()、笑顔で別れることが出来る。それが僕にとってどれほどの喜びか」

 

 だが俺とエルキドゥの顔に悲嘆は無い。

 最期の後に再会し、言葉を交わし合うことが出来た。

 エルキドゥとの別れから俺の中に燻っていた黒い炎は遂に鎮火した。

 俺の中の呪いが解かれたのだと、何となくそう感じた。

 

「僕の身に余るほどの奇跡だった。あるいは奇跡のような一夜だったと言うべきかもしれないね」

「本当に、な。だからこそ…聞かせてくれ」

 

 真剣に、想いよ伝われと念じながら言葉を紡ぐ。

 エルキドゥに悔いや無念はなくとも、絶対に心残りはあるはずなのだ。

 僅かでも親友の心残りをほどくことが出来るのなら、俺はなんだってするつもりだった。

 

「……何か出来ることはないか? あの方に、ギルガメッシュ王へ宛てる言葉はあるか? 何でもいい。言ってくれ」

「……心残りは当然あるさ。でも伝えるべきは全て地上にいた頃に伝えた。賢王となったギルに僕はもう必要ないから」

 

 俺からの問いかけに、答えを返す横顔は余りにも寂しげで。

 だがそれが彼らが迎えた結末で、エルキドゥが選んだ道ならば俺から言えることはもう何もない。

 

「そうか」

 

 だから、そう一言だけ返した。

 

「そうさ」

 

 エルキドゥも心得たように一言だけ応じた。

 二人の間に心地よい沈黙が下りる。

 互いが互いの心に通じたからこその沈黙だった。

 

「最期に、一つだけ聞かせて欲しい」

「ああ、なんだって答えるさ」

 

 その真剣な顔での問いかけに、俺も真剣に応じる。

 

「君はいま、幸せかい?」

 

 その問いかけは…嗚呼、全くこいつは。

 最期の最後までソレかと、涙で滲む眦を押さえながらせめて笑顔で答えようと不細工に笑った。

 

「俺は誰より幸せなガルラ霊さ、お前のお陰で…な」

 

 その答えに、エルキドゥは。

 

「そうか」

 

 相槌を一つ打った。

 

「それは、良かった」

 

 そうしてこぼれるような満面の笑みを浮かべ、本当に満足そうな顔のままその霊基(カラダ)は魔力に還った。

 あっけない程に儚く、ひと時の夢幻であるかのように、エルキドゥは去っていった。

 その魔力の残滓に触れた俺は……泣いた。

 泣きながら、笑った。

 悲しいからではなく、嬉しくて泣いて、笑った。

 悲嘆と落涙の別れではなく、寂しさを湛えながらも笑顔とともにまたなと言い交わすことが出来た。

 其れは本当にあり得ないような奇跡で、身に余るほどの幸福だった。

 泣いて、泣いて、泣きながら笑い続ける俺を優しい女神様がそっと抱きしめて、その優しさにまた泣いた。

 

「さよなら、エルキドゥ」

 

 別れの言葉を告げる時、もう悲しみに襲われることは無い。

 いいや、ささやかな再会の希望を胸に抱くことすら出来るのだ。

 それはほんの少しの、でも暖かすぎるほどに暖かい、俺に与えられた奇跡だった。

 奇跡はある。確かにある。

 思いが繋ぐ奇跡はここにあったのだ。

 

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