【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
推奨BGM:賑やかな旅路(Fate/Grand Order Original Soundtrack I)
「キガル・メスラムタエアが実は《名も亡きガルラ霊》だった……。凄いです、これは文学史上の重大な発見です! 情報ソースがご本人という反則故に、愛読者達とこの感動を共有できないのが残念でなりませんが……」
「ふーむ、なるほど。元人間にして大神ネルガルより権能を預けられた義弟、冥府の女王エレシュキガルの夫。純粋な神霊ではないからこその裏技か。確かに理屈だけは通る、理屈だけは」
「……いや、おかしいでしょ!? 神代とはいえなんで元人間が純正の神霊に勝てるのよ!? 奇跡が幾つ起こったら可能だっていうの!?」
なんかものすごい勢いで質問攻めにあったのでものすごく端折って端的に《冥府の物語》で起こった事実だけ伝えたところこのような反応が返ってきた。
多分落ち着いたらまた質問攻めだろう。来て早々なんだが、ちょっと
「まあ、みんな落ち着いて。彼の話はとても興味深いけど、いまは本筋とは関係がない。この特異点を解決することが先決だ。彼との会話は余裕がある時の楽しみに取っておこう」
一人冷静な青年の言葉にみなが落ち着きを取り戻した。渋々と言った風にだが、各々が興味を抑え、その隙に青年が話を進めていく。
「キガル・メスラムタエア、改めて召喚に応じてくれたことに感謝を。あなた程の英霊が助力に駆けつけてくれたのは本当に心強い。こちらの驚きもそのせいだから、不作法を許してもらえると嬉しいかな?」
頭を搔いて困ったように笑う青年にこちらも異存はないと頷く。その言葉に嘘はないと思ったから。
「こちらこそ。では改めて話を続けても?」
「そうだね、自己紹介からやり直そうか。僕はロマニ、ロマニ・アーキマン。カルデアの医療スタッフだ。ドクター・ロマンと呼んで欲しい」
「ちょっとロマニ! 私を無視して勝手に仕切らないで頂戴!?」
「では貴女からお名前をどうぞ。私も是非貴女の尊名を伺いたいところ故、美しきお方」
「え、え? ……え?」
今度はロマンへ噛みつく少女に水を向けるとわたわたと慌てている。
こう、外向きには威厳を保とうとする割に攻め込まれるとよわよわなのもまたエレシュキガル様に似ているな。またエレちゃんポイントが上がったぞ。素晴らしい。
(……意外とプレイボーイなのかな?)
(……ど、どうなんでしょう。彼が《名も亡きガルラ霊》ならば相当な愛妻家と推測できるのですが)
(……躊躇せずに口説きにかかったね。所長の威嚇を歯牙にもかけてない)
(……奥さんの嫉妬が怖くないのか? 僕が知る限りエレシュキガルは滅茶苦茶嫉妬深い女神なんだが)
そこ、声を潜めているつもりかもしれないが聞こえているぞ。
それと口説いているつもりはない。ただちょっと美点を褒めて名前を聞いただけじゃないか。なんか本体がさらにギリギリと頬を抓られている気がするが、召喚された俺にそんなことが分かるはずがないので気のせいですね。
「わ……私はオルガマリー・アニムスフィア! 人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長よ。この特異点を解決するために協力しなさい! あなたはそのために来たんでしょう!?」
「もちろん。そして貴女の身も守り抜くことも誓いましょう。ご安心あれ」
「は、はぁ!? 別に怖いなんて思ってませんけど!? 私は、私は人理を守るアニムスフィアの当主であり――」
「それは重畳。ところでオルガマリーと呼んでも?」
ヤバいな、ドチャクソ可愛くて尊いぞこの娘。からかいたくもあり、愛でたくもある。
むっちゃ難儀で面倒臭い拗らせ気質なのは魂を見れば分かるが、それでもと歯を食い縛って立ち続けているところは高ポイントだ。
自然と助けたくなる娘だ。かつて冥界で一人孤独に、誠実に職務を果たし続けて来たエレシュキガル様を見た時のように。
何故か、彼女に報いあれと、そう思ってしまうのだ。
「な、な、な」
「馴れ馴れしい? ではワンクッション置いてレディ・オルガは如何?」
困惑と羞恥でどう答えていいか分からず真っ赤になってプルプル震えてるオルガマリーは大変可愛らしかったです(小並感)
(置いてません、全然ワンクッション置いてません! 先輩、これは!?)
(グイグイ来てるね、凄いグイグイ来てる)
(
(私達は一体何を見せられてるんだろうと一瞬疑問に思ったけどまあ所長が可愛いからいいか!)
あ、俺この面子結構好きだわ。可愛い女の子はいるしノリがいいメンバーもいるし。俺達の冥府程じゃないがいいところじゃないか。