【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
明日からは同じ時間に一日一話のペースとなります。
あれからまたなんやかんやのあれこれがあったものの。
俺という戦力を得たカルデアはこの特異点F、冬木市を調査する方針を打ち出した。
そして――、
「つっよ……」
「
「ふ、ふーん……中々やるじゃない。褒めてあげるわ」
素直に驚きと感心と見せるマスターと同輩の少女。そしてそっぽを向きながらお褒めの言葉をくれたオルガマリーの額には冷や汗が一つ。
あれは俺をこれまでの暴言で怒らせてないか今更になって心配してる顔ですね。(主が主なので)俺は詳しいんだ。
「ライダーは正面から火力で殲滅。アサシンの奇襲を見抜き逆襲。ランサーを先んじて発見し、狙撃。お見事な手際です、アーチャーさん!」
ちなみに真名バレを避けるためクラス名呼びだ。元々そういうものだしね。
「ハハハ、そうも真っすぐに称賛を頂くと面映ゆい。しかしマシュがマスター達の護衛をしっかりと果たしていたからこそ私も攻めに集中出来たのです」
「い、いえ。私なんて立っていただけで……」
「常にマスター達に気を配っていたことはこちらも把握しています。マスターは良きサーヴァントを得られましたな。おっと、わたしのことではありませんよ」
「うん、それは本当に俺もそう思う」
「せ、先輩……ありがとうございます」
うーん、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めて俯く同輩が中々愛らしい。うちの冥界にあまりいなかったタイプだ。大体テンションが振り切れてる馬鹿野郎ばかりだったからな。
(マシュ・キリエライト。カルデア職員であり、この特異点へのレイシフトでデミ・サーヴァントに覚醒。今はマスターの盾として奮闘中。……やれやれ、鉄火場には向かん子を矢面に立たせるのは気が引けるが)
この娘に罪はないが人間の業の深さを感じる身の上である。やるせなさを覚えた俺は見えないようこっそりとため息を吐いた。
(しかし、マスターとの相性は相当に良さそうだ。あまり心配は要らないか)
互いに手を取り支え合うこの二人はマスター、サーヴァント等関係なく人として相性が良いのだろう。タイプは全く違うがかつての英雄王と天の鎖、あるいは俺とエレシュキガル様を思い出す良いコンビだ。
「いかがでしょう、レディ・オルガ。私も少しは信に値する力を示せたでしょうか」
「……さっき褒めてあげるって言ったわ。それじゃ不満?」
「まさか。一層の信頼を得るべく奮起しましょうとも」
ブスリとした顔で言葉少なな彼女の事情など知る由もないが、針で突けば割れる張り詰めた風船というか、いつか何かのキッカケで爆発しそうな苦労人の気配を感じる……!
「……なに? 私に取り入るつもりなの? 私なんかの機嫌を取ってどうするのよ」
腕を組み、眦を細めた狷介な目つきでこちらを睨みつけてくるオルガマリー。これは周囲に信頼できる人間がいないリーダーがよく見せる目つきだ。
ここ、冥界ゼミでやってた! ……まあ真面目な話、有史以来冥界に来た人間の数は万じゃ効かないので人を見る目はあるつもりである。
「同行者と気心が知れているに越したことはないというだけのこと。それに失礼ですが、既に
「それはそうだけど、私が言いたいのはそういうことじゃなくて――」
「一身上の都合で貴女を放っておけないのですよ。ええ、現世に彷徨い出た死霊のささやかな我儘と思い、お付き合い下さると嬉しいですな」
プライドが高く、責任感が強く、それでいて自信と余裕がない。彼女のような人種との付き合い方は多少なり心得ているつもりだ。
常に実績と好意を示し、彼女を立て、味方であることをアピールし続ける。そうして彼女に心を許してもらい、やっと半分。そしてそこから先はそれまで以上に難しい道のりだろう。
(それでもこの
なにせ死んでからも曲がらなかった筋金入りで、俺の誇りだ。
報われぬ者に報いあれ――それこそ俺を動かす絶対指針。魔術師が言う
「……ねえ、アーチャー。貴方が言う一身上の都合って」
不意に狷介さが薄れ、どこか窺うような上目遣いに変わったオルガマリーがそう切り出し――、
「失礼、前方に敵影です。あれは死霊ですな」
「ッ! 全員戦闘態勢! やりなさい、アーチャー!」
敵発見の報告に気持ちを切り替え、魔術刻印を励起させ前方に腕を上げるオルガマリー。彼女にならってマスターとマシュも構えを取った。
(まあ、気長にいこうか)
長年かけて降り積もっただろう心の澱が一朝一夕で祓えるはずもなし。時間があるかは分からないが、時間をかけねばどうしようもない。ならば無為に焦るべきではないだろう。
「死霊、か。不幸中の幸いと喜んではいけないのでしょうが、この死都に私が召喚されたのは僥倖でしたな」
「ちょっとアーチャー! 何を悠長に――」
槍を抱えて迫る複数の死霊を前に、水晶弓を下ろしたままの俺に顔を真っ赤にした怒号が飛ぶ。
「レディ・オルガ」
「う……な、なに?」
呼びかける。真っすぐに見つめると言葉に詰まってしまった彼女に向け、言葉を継ぐ。大丈夫と彼女に示すために。
「どうか、私にお任せあれ。必ず貴女の期待に応えます」
「そ、そこまで言うなら任せるけど……でも」
「そも戦うまでもないのです。なにせ冥府に近いこの街はすでに我が縄張りも同然」
「どういうこと?」
首を傾げるマスターへ向け、俺の来歴を語りかける。
「マスター、私はこれでも冥府を統べる神の一柱でした。故に――死者とは我が
手のひらから地に落とした一滴の冥府の魔力を弾けさせる。波紋のように冬木の街を走った魔力は死に近きモノ、冥府に近きモノへと干渉していく。
「なんだ、この感覚……」
「魔力です。アーチャーさんの魔力が街へ……それに骸骨達が大人しくなっていきます!」
マシュの言葉通り、冬木の街に動く命亡きモノ達が俺の魔力に触れるや否や大人しくなり、
「
オルガマリーの叫びがドンピシャリだ。冥府に近き場所、冥府に近い住人達だからこそ俺の権能が十全に働いたとも言える。
「流石に
俺のスキル、千里眼(冥府)。死者と生者の気配を捉える眼に引っかかった存在。この街で唯一まともな気配を醸し出す英霊へ声をかける。
遠く離れた場所で、しかし目と耳を向けていることを確信して。
「まーな。が、俺への呼びかけには役立ったぜ。出迎えご苦労、とでも言うべきかねぇ」
そして返ってきたのは不敵な若い男の声、だけ。魔術でもって声だけを送って来たのだ。
この男が味方となるかは不明だが、どの道他にアテはない。し、この男に悪意はない。それだけは分かる。
「ならこちらは待っていた、と言うべきか。ともあれわざわざ声をかけたのは話し合いが希望と受け取っても?」
「……さぁて、この街に突然現れた素性定かならぬ御一行だ。どう対処したもんかね? 名案はあるかい?」
探るような問いかけ。静かにこちらの出方を見ている。そう感じた。
姿を見せない新たなキーパーソンの登場にその場の空気は静かに張り詰め、
「ちょっとアーチャー、どういうことなの!? 誰よあなた、一体どこにいるの!?」
「……おーおー。元気だねえ、こりゃ気が強そうだ」
なお一人元気に騒ぐオルガマリーのお陰で張り詰めた空気は一瞬で緩んだ。
うーん、既視感。