【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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「オレはキャスター、真名をクー・フーリン。おっと、なんで槍を持ってないんだなんて言うなよ? 俺が一番そう思ってんだからな」

 

 キャスター、クー・フーリン。

 あの後オルガマリーの発言で弛緩した空気に結局緊張感が戻ることはなく。

 気が抜けたようなため息を吐いて現れた青年が名乗った名である。フードを深く被った野生的な気配の持ち主の手には言葉通り槍ではなく杖が握られていた。

 

「クー・フーリン! アイルランドの光の神子、魔槍ゲイボルクの担い手と名高いアルスターサイクル最強の英雄です!」

「ケルト神話のヘラクレスとも呼ばれる大英雄じゃない! なんでキャスタークラスで現界してるのよ!?」

「驚いた、アーチャーに続くビッグネームの登場だ」

 

 遠隔通信のドクター・ロマン達を含めカルデアのみんなも大興奮だった。オルガマリーの指摘にキャスターは大変嫌そうな顔をしていたが。

 それから数少ない話の通じる生存者同士ということで情報交換となり、俺達は互いの事情を話すこととなった。

 カルデアの事情はもちろんこれまでの通りだが、

 

「――ま、そういう訳でな。この街の聖杯戦争はいつの間にか異常なモノにすり替わった。街は燃え上がり、人間は消え、英霊は発狂した」

 

 生存者であるキャスターが語る聖杯戦争の様相に、一同の顔は緊張と困惑に包まれた。

 あまりに異常、あまりに不可解。当事者であるキャスター本人にすら分からないこの街の異常事態。

 だがそれでもカルデアはこの事態に立ち向かわねばならない。

 

「この街で何が起こっているのか正直オレにも分からん。だが生き残ったセイバーは真っ先に英霊を狩り始め、今は聖杯を守っている。この街で生き残ったサーヴァントはオレとあいつだけ」

「ならセイバーを倒せば……」

「おう、()()()()()()()()。この街の惨状がどう転ぶかまでは分からんがな」

 

 そこまで聞いたカルデア一同は自然と顔を見合わせ、オルガマリーが口火を切った。

 

「……この話、どう受け取るべきかしら?」

「発言の真偽ですが、おおよそは信じていいでしょう」

 

 まず真っ先に俺がキャスターの発言の信頼性を担保する。

 

「彼はチマチマと謀略を練る英霊ではない。隠し事はしても嘘は好まず、真っすぐに生きて駆け抜ける。そういう類です」

「人を見透かしたように語るじゃねえか、アーチャー」

「これでも人を見る目はあるつもりでして」

 

 神代の冥府でどれだけ人を見てきたと思ってるのだ。その中には歴史に名を遺した英雄も数多い。

 ある種英雄の典型とも言えるクー・フーリンの人物像、大きく外れているとは思わない。

 

「ありがたい保証をどーも。精々足元を掬われないよう気を付けな」

「と、敢えて悪人ぶって注意を促してくれる程度には裏表のない人格です。彼が信頼できるかは各自の判断に任せます」

「……オレ、ちょっとお前苦手だわ。弓兵ってえクラスと相性悪いのかねぇ」

 

 と、俺を通して誰かを思い出したのかビミョーな顔をするキャスター。よく分からんがスマンな。

 

「確かにかのクー・フーリンがつまらない噓を吐くとは思えません。私もキャスターさんは信頼できると思います!」

「なるほど! マシュが言うならきっとそうだね!」

「……こいつらはこいつらで心配にならぁ。おい、大丈夫なのか大人ども」

 

 そうは言いつつ無垢すぎるマシュの信頼と賛同するマスターへ居心地悪そうに頭を掻いている。うーん、人のことは言えんけど嘘や謀略に向いてないですねコレは。

 

「藤丸君とマシュ、チョロくないかな?」

「いやでもなんだか有効な精神攻撃になってるっぽいし。あれはあれでありじゃないか?」

 

 と、外野も中々に姦しい。逞しい連中である。

 

「はい、そこまで! 色々考えられるけど、アーチャーの言葉もあるわ。ここは彼の言葉を信じて話を進めましょう」

「おお、話が早いね。決断力のある女は嫌いじゃないぜ」

 

 パンと手を打ち合わせて空気を引き締めたオルガマリーが場の意見を取りまとめ、決断を下す。

 するとキャスターが陽気に笑ってオルガマリーのすぐそばに近づこうと――

 

「……なんだよ、アーチャー。俺の女に、とでも言い出すつもりか?」

 

 ――するのを、俺が通せんぼして止める。一瞬、互いに視線が宙でぶつかり合った。

 

「いや、彼女は少々パーソナルスペースが広いタイプなので。どう接するにせよその点は留意頂きたい」

「な、なによ。私は別に……」

 

 遠回しに人見知りなんで気遣ってあげてね、とキャスターへ伝えれば後ろのオルガマリーから抗議の声が上がる。

 いや、あなた近づくキャスターにピャッ! とか可愛い悲鳴を上げつつ俺を盾にしようとしたでしょうが。

 今も微妙に膝がプルプル震えてるの見逃してないからな? 英霊という戦術兵器相手に無理もないことではあるけれど。

 

「過保護だねぇ。己のマスターでもあるまいに」

 

 そんな俺と彼女を呆れたようなジト目で見るキャスター。

 そう言われてもな。

 

「俺が彼女を守るのにマスターかどうかは関係がない故に」

「へえ?」

 

 そう言いきれば今度は俺とオルガマリー双方にジッと視線を向けてくる。悪意はなく、ただ見定めるように。

 

「未練か?」

「いや、()()だ」

 

 かつて果たした祈りと誓い。神霊として役目を終えた今でも捨ててはいないのだから。

 

「……いいね。死ぬまで筋を突き通した馬鹿野郎の気配だ。戦場で肩を並べる相手としちゃ悪くない」

「それはどうも。まあ、俺の場合死んでからが本番だった訳だが……」

「ハハハ、お前も中々難儀そうな身の上らしいな。当ててやるよ、お前女で苦労したクチだろ」

「自分で望んだ苦労は苦労じゃない。それにそちらほどでもない」

「痛いところ突くねえ。ま、俺もタチの悪い女ばかりでも無かったさ」

 

 このやり取りを機に一気に言葉が砕けた。

 何とも言えない共感を頼りに薄っすらとした信頼が繋がったことを感じ取る。

 

「これならセイバー相手でもそう悪くねえ勝負が出来そうだ。数もこっちが上だしな」

「あの、それなのですが……」

 

 と、俺達の会話に割り込み、申し訳なさそうな顔で肩を落とすマシュ。

 

「すいません。私は英霊として未熟なようで……宝具が使えないのです」

 

 そう言えばマシュが宝具を使っているところを見たことが無かったな。

 




 マシュの宝具回りなどカットできるところはガンガン切ってくのでよろしく。
 描写しなかった部分は概ね原作通りになっていると思ってください。
 

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