【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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「驚いたな、おい。偶然か必然か、随分とこの街向きの戦力が揃ってんじゃねえか」

 

 とはマシュが開眼した宝具、疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)を見たキャスターのコメントである。

 どういうことかと一瞬首を傾げるも、

 

「セイバーの真名はアーサー王。かの騎士王殿がこの街の狂気に汚染された姿だ」

「なるほど……」

 

 納得した。マシュに霊基を譲渡し、消えた英霊の真名はおおよそアタリが付いている。

 その宝具は一切の敵意を寄せ付けない破邪の城塞に等しい守りを秘める。堕ちた同胞に対してまさに特効と言うべき威光を見せてくれるだろう。

 

「あの……?」

 

 よく分かっていない様子のマシュを置いて始まったセイバー討伐の作戦会議。最終決定はさておき、戦術の立案は自然俺とキャスターで音頭を取る形となった。

 

「敵戦力はシャドウアーチャーとセイバーの二騎で相違なし、と?」

「おう。後はシャドウバーサーカーが郊外の城を守ってるが、刺激しなけりゃわざわざこっちには来ないだろ」

「ふーむ。配置的にもこちらが攻め込む形になるか。バーサーカーに触る意味もない」

 

 一瞬、狂戦士を戦況に利用できないか考えるがすぐに却下。最低限の戦力を確保できている以上制御できないファクターを増やす必要はない。

 

「で、あるならば随分と話は単純だ」

「だろう?」

「ちょっと、どういうこと? 二人だけで納得していないで説明して頂戴」

 

 互いに顔を見合わせ、ニヤリと笑う。互いにだけ意を通じ合う俺達に不服を覚えたのか、オルガマリーは腰に手を当ててお怒り気味だ。

 まあそんな難しい話じゃないですよ。簡単な話でもないけど。

 

「下手な小細工は要らねえって話だよ」

「このまま正面から討ち入ってアーサー王の首を取ります。というか、それしかありません」

「時間をかけても事態が改善する見込みはねぇ。ま、妥当な結論だな」

 

 単純明快な提言に、しかしオルガマリーを筆頭としたカルデアは面食らった様子だ。

 

「ちょ、ちょっと! 本当に大丈夫なの!? 相手は()()アーサー王なのよ!」

 

 血相を変えて問い詰めるオルガマリーに内心で頷く。気持ちは分かる、乾坤一擲の大博打など自分からやりたいものでもない。義兄殿(ネルガル神)はホントさぁ……。

 

「僕も所長に同感だ。現状では不確定要素が多すぎる。このミッションに失敗は許されない。慎重になるべきだ」

「あるいは君達はかのアーサー王に勝てる確信があるということかな?」

 

 オルガマリーに続くドクター・ロマンとダ・ヴィンチの問いかけに俺達は揃って首を振った。

 

「あ? 分かるかよンなもん」

「遺憾ながら勝利は約束できません。相手は()()アーサー王なのだから」

「な、なら……」

 

 露骨に腰が引けた様子のオルガマリー。前進も後退も選べない。そんな表情(カオ)だった。だが今はそれが一番良くない。

 

「この街に召喚された七騎の英霊は既に敵と味方、敵対的中立に分かれた。戦力は出揃っているのです」

「俺達は配られたカードで勝負するしかないってわけだ。援軍のアテもなくただ時間をかけるのは悪手だぜ? それともあるのか、援軍?」

 

 キャスターが逆に問いかければオルガマリーは俯いて首を振った。

 

「無理よ。事故でカルデアは半壊。ここで撤退すれば次にレイシフトできるのは何時になることか……」

「それまでこの特異点が無事かは分からん。なら、前に進むべきだろう?」

「それ、は……そうかもしれない。けど――!」

 

 英雄の顔をしたキャスターがカルデアに決意を問う。彼の言葉は正しい。俺もそう思う。

 だから迷いは悪手だ。ここは前進すべき時。

 だが、

 

(だからといってここで無理に決断を迫るのは違うわな)

 

 同時に俺はオルガマリーの気持ちも分かる。彼女は本当に真面目で、責任感が強く、人一倍、どころか三倍ほどのプレッシャーをいまも感じているだろう。なにせよく似た女神が俺の妻なのだから。

 

「マスター、レディ・オルガ」

 

 だから呼びかける。

 迷い、俯く二人の前に跪くとそっと顔を上げた。

 唐突に背負わされた人類の未来という重み。彼らは歯を食いしばり、顔を歪め、逃げ出したいと願いながらも重荷を捨てようとしていなかった。

 それがどれだけ尊く、凄いことなのか。きっと彼ら自身すら分かっていないのだろう。

 

()()()()()()()は分かりません。ですが」

 

 だからせめて俺の全力を尽くそう。全身全霊を以てカルデアの味方となろう。

 理解が追いつくよう、ゆっくりと彼らに告げる。

 

「仮初めの命を賭してお二人を守護(まも)ります。我が妻に誓って」

 

 二人と視線を合わせる。

 怯まず、逸らさず、真っすぐに。

 

「どうか信じて下さい」

 

 前を向き、ただ真心を込めて頼む。

 元より俺の一番の武器は宝具ではない。ただ誰かと繋がり、伝えようとする魂こそが俺の始まりだった。

 

「オルガマリー所長」

「……なに?」

「みんなを信じましょう。きっと、大丈夫です」

 

 この場でマシュと並んで年若い、未だに事態を飲み込み切れていないだろうマスターが笑った。

 覚悟ではなく、信頼を以てともに前に進もうとオルガマリーに語り掛けた。

 そしてオルガマリーは、

 

『…………………………………………』

 

 沈黙が長く、続いた。

 一言も発さないまま、オルガマリーはずっとプイと真横に視線を逸らしていた。

 

「……ずるいわ」

 

 やがて、ポツリと。

 視線を合わせないよう目線を逸らしたまま独り言のように語り続ける。

 

「貴方が妻をどれだけ愛しているかなんて《冥界の物語(キガル・エリシュ)》を少し読めば分かる*1。なのに、ここでその名を出すなんて――」

 

 手の動きで立ち上がるよう促され、互いに向き合った彼女と俺の視線が合わさった。

 その表情(カオ)を見て、驚く。

 

「――信じない訳にはいかないじゃない」

 

 泣いているような、笑っているような。

 胸の内で一体どんな感情が渦巻いているのか掴めない、不思議な表情(カオ)だった。

 一つ言えることは、彼女も俺に賭けてくれたということ。

 

「わ、私も……私もお二人を守ります! アーチャーさんには及ばないかもしれませんが、きっと、必ず!」

 

 幼く、怖がりな少女が自分以外の誰かのために必死で振り絞った勇気。その尊さに勇気づけられた二人は完全に意気を取り戻した。

 

「ありがとう、マシュ。頼りにしてる」

「マシュ……ええ、お願いね。頼りない所長かもしれないけど、私を助けて」

「はいッ!!」

 

 笑い合う三人の姿に、俺は懐かしい光景を見た気がした。

 時代は流れ、世界の様相は移ろい、それでも人は変わらない。そういうことなのかもしれない。

 

「カルデア、か。いいチームじゃねえか」

「ええ、本当に」

 

 不意に視線の合ったキャスターとともに、頼もしい後輩達の姿に俺達は笑い合った。

 

*1
ネタバレ:オルガマリー・ア二ムスフィアは《冥界の物語》の愛読者だ




 隠れざる赤心:
 キガル・メスラムタエアの持つスキル。
 偽りを語れば露呈し思いを語れば心に響く。決して嘘を吐けず真心を示す、ただそれだけのスキル。交渉に正負双方の影響を大きく与える。
 なお本人はこのスキルの存在を自覚しておらず、ガルラ霊であった頃のようにピカピカ光ったりはしない。

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