【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
「――来たか。門番を買って出たアーチャーはどうした?」
柳洞寺の秘された入り口から入り込んだ冬木市地下大深部に鎮座する超抜級魔力炉心、大聖杯。
その前に門番の如く立ち塞がる黒いセイバー、アーサー王。
「本人の希望でキャスターが相手を。じきに追いつくでしょう」
「そうか」
シャドウアーチャーはキャスターが相手をしている。曰く「さっさとブチのめして追いつくから先に行っとけ」らしい。
因縁ありげなやり取りから素直に任せて来たが……アーサー王、予想以上の圧力だ。時間をかけても全員で来るべきだったかな。
世界に名を知られた英霊の霊基に聖杯のバックアップが加わればこうもなるか。
「では殺し合うか」
黒の騎士王は情緒も何もなく莫大な魔力を込めた剣を構え――、
「ま、待ってください、アーサー王!」
「……面白い娘を連れている。いいだろう、好きなように囀ってみろ」
「何故ですか!? 誉れ高き騎士王が何故世界を壊すような企みを――」
マシュに宿る英霊の叫びが彼女の口を吐いて出る。円卓に連なる騎士の言葉は、しかしアーサー王の気を削ぐだけだったらしい。
「愚昧。我が意図を察せぬ輩と語るに能わず。盾を構えろ、弓を引け。我らに許されるのはただそれだけだ」
つまらなさそうに頭を振るとただ一言で切り捨て、戦端は開かれた。
「蹴散らす」
「目障りだ、疾く失せろ弓兵」
俺の目前に迫った黒の剣士が無造作に黒い魔力で形成された大斬撃を横薙ぎに振るう。
(狙いは俺、しかも速い――!)
極めて高いスペックの暴力、最速最短の斬撃で最も邪魔な障害物を排除にかかったのだ。
反転しても流石は騎士の王、その剣の切れ味にいささか曇りなし。
だが、
「
第一宝具、開陳。
途端俺が手にした水晶の大強弓が分解・分裂・膨張を果たし、水晶から成る無数の
振り抜かれる聖剣の一撃を――しかし花弁にも似た一欠けの
パキン、と硬く甲高い破砕音を奏でる
「!? 水晶風情が我が聖剣を防ぐか!?」
「我が弓をただの水晶と思うな、騎士王」
冥府のあらゆる場所に張り巡らせた水晶群を個人携行兵器のサイズにまで圧縮し尽くした超質量だ。多少分けたところでその質量と硬度は余りある。むしろ一刀で砕きかけた騎士王こそ異常と言うべきだった。
「焼き、払え」
至近距離で火花が散る睨み合い、次いで迎撃の一手を打つ。
散らばった数多の
「チッ!」
放射、屈折、追跡。
無数無量の
薄暗い地下空間が突然光り輝く舞台になったような変わりよう。ただし演目は捕まれば終わる死の
「しゃらくさいっ!」
「足を止めたか、なら――!」
「はっ、力比べと洒落込むか!」
足を止め、莫大な魔力が形成する巨大な剣を構えた騎士王に向けて無数の太陽光線を全て収束・増幅・放射。大地を沸騰させるほどの熱量を秘めた極大の光線を黒き聖剣が正面から迎え撃ち――黒が白を両断した。
それでも迎撃に相応の魔力を消費したのだろう、セイバーは攻勢に移ることなく聖剣を構えたまま静かに息を整えている。
「悪くない。私とこうまで渡り合えた英霊は久しぶりだ」
嘘偽りなく楽しげに笑うセイバー。
「戦いはいい。少なくともただここで案山子の役を務めるよりもはるかにな」
「生憎とその意見には賛同しかねる。競うのはさておき、争いは苦手故に」
「ほう? それほどの宝具を持ちながら惜しいことだ。だが……確かにあなたは戦士ではないらしい。時に私すら上回る能力を見せながら、どこか詰めが甘い」
「ハハハ、バレましたか。元より文官の類。どうにも切った張ったには向かない」
隠すまでもない事実に頬を歪め、苦笑する。
そもそも俺のまともな戦歴ってウルク防衛戦とネルガル神撃退戦くらいなんですよね。スペックならば最上位の英霊に劣らない自信があるが、それを戦闘で十全に使いこなせるかと言えば、まあ、うん。
「ならばどうする? 尻尾を巻いて逃げ出すか?」
「実はどうしたものかと悩んでいるところです」
「フフ、あなたは戦士ではない。だが随分と曲者の気配がする。花の魔術師に似た匂いだ」
「風評被害は止めて頂けますか???」
思わずガチトーンで抗議してしまった。いや、マジで止めて頂きたい。
ギルガメッシュ王から伝え聞き、後代のブリテンを覗き見て知ったかの夢魔の所業、まさに人でなしとしか言えない代物なのだから。
「失敬。確かに謂れのない侮辱であった。許されよ、太陽のアーチャー」
ああうん、分かって頂けたならいいんです。しっかりと反省してもらったようだし。
しかし一応は自身の宮廷魔術師だろうにボロクソですね。いや、冷静に考えるとアーサー王こそマーリンの被害者筆頭ではあるのだけど。
「息も整った。続けるとしよう」
「お付き合いしましょう」
騎士王は聖剣に黒の極光を纏わせ、俺は義兄殿より授かった太陽の権能を行使する。
「炎熱掌握」
「ほう」
俺が持つ権能は太陽。即ち、光と炎と熱を司る自然の大権。その本質はただ炎熱を生み出すのではなく、司る事柄に権利を主張し、行使しうる能力。
当然この特異点Fで何時果てることなく燃え続ける炎すら例外ではない。セイバーが聖杯のバックアップを受けるならば、俺はこの街にくべられた炎の全てを味方とできるのだ。
「我が元へ集え、汚れ濁った火群の陽炎」
さながら人魂の如く無数無量の炎の塊が特異点のあらゆる場所から俺の下へ集っていく。
重油に着火したかのようなどす黒く粘ついた炎。これでもかというほどに汚濁と呪いがぶちまけられた黒炎は生者に触れれば一瞬でその肉体を侵しつくす呪いの炎だ。
「凄まじいな。まさに黒き太陽の化身。その熱量、サー・ガウェインすら上回るか」
「騎士王の賛辞、我が義兄、そしてともにこの”弓”を作り上げた同胞達への自慢としましょう」
俺を
かつて俺と仲間達が冥界へ太陽光を取り入れるために《宝石樹》とともに作り上げた魔術霊装――その最終発展形である。
ネルガル神との大戦を終え、俺という太陽を手に入れた冥府が防衛兵器として発展・完成させた疑う余地なきゲテモノ。
仔細は省くがエレシュキガル様が放つ冥府の雷撃に匹敵する太陽光線を放つための砲台にして砲身である。
「義兄、同胞。それに水晶の弓と濃い死の気配……なるほどな。かの名高き大神ならば世に知られぬ秘密や裏技の一つや二つ持っていようか」
ふむ、ある程度は俺の正体も察せられたか。恐ろしく勘がいい。俺自身に明確な弱点はないが、手の内を測られたかな。
「だが、いかなる光でも我が聖剣の輝きには及ぶまい。我が極光で貴様の黒炎をさらなる黒で塗り潰そう」
担い手の魔力を光に変換し、収束・加速させるという最高位の聖剣。最強の幻想。星が生み出した神造兵装――
魔力が胎動する。聖杯から引き出した魔力を遠慮呵責なく聖剣にぶち込み、零れ落ちる黒の光が加速度的に圧力を増していく。
「たとえその背に弱者を庇おうと躊躇はするまい――食らうがいい」
言われるまでもなく俺の背後にマスター・マシュ・オルガマリーがいることは把握している。このまま聖剣エクスカリバーを振るわれればみんな仲良く全滅だ。
厳密には多少射線から外れる位置関係だが、かの聖剣が振るう火力ならば俺の背後全てを焼き尽くして余りある。
「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!
光すら呑む黒き極光を宿した聖剣が、いま全力で振り抜かれる。
ランキング4位継続、もう一歩!