【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
変動座標点0号、柳洞寺地下大深部へ突入する前の作戦会議にて。
俺は大前提となる確定的な事実を告げた。
「結論から言えば俺では聖杯のバックアップを受けたアーサー王には勝てません」
断言する。本当なら勝てると断言出来れば良かったのだが、出来ないのだから仕方がない。
「最初は小競り合いでも十中八九どこかで宝具の撃ち合いになります。かの聖剣の最大出力を相手に競り勝つのは困難。仮に一度は引き分けても、向こうは二度三度と叩き込める以上私に勝ち目はない」
「ダメじゃない!?」
「言い換えます、私だけでは勝てません」
ここでジッ、とマシュを見る。みなもそれに倣った。
一秒、二秒が経ち。彼女は自分に視線が集まっていることを自覚し、途端に慌て出した。
「待ってください、アーチャーさん。勝機とはまさか――!?」
「もちろんマシュ、貴女です」
「無理です!? 私では到底名高きアーサー王には太刀打ちできない。勝てるはずが」
「いや、ンなことはねえぜ。自信持ちな、嬢ちゃん」
「もし自分を信じられないのなら、あなたに霊基を託した英霊を信じなさい。なに、あなたに任せたいのは倒すことではなく守ることです」
「そーゆーこった。うじうじ悩まずマスターを守ることだけ考えてな」
「――はい。それならば分かります。少しだけですが……」
俺とキャスターからのお墨付きにも自信なさげに俯くマシュだったが、マスターの名を出すと途端に顔を上げ、その目に光が宿った。
その在りようからも分かる通り彼女は本来戦う者ではなく守る者なのだろう。
「マスター、あなたからもマシュに言葉を」
「……うん」
”誰か”がいてこそ最大の力を発揮できる、その点において俺とマシュは近いタイプだ。そしてその”誰か”からの言葉が時に無理無茶無謀を突き通す力になることも知っている。
「マシュ」
「……はい」
一対の主従が見つめ合い、視線を絡ませる。未熟な二人はどちらも不安げで、頼りなく、儚い――なのに互いへ向ける思いだけは驚くほど温かく、ありふれていて、純粋だ。
「俺はマシュを信じてる」
「――はいっ、マスター!」
見ろ、マシュの顔を。ついさっきまでの自信なさげに俯くおどおどとした様は欠片もない。ただマスターを守ることだけを考え前を見据えている。
いい二人だと心から思う。もちろん俺とエレシュキガル様のコンビも負けるつもりはないけどな。
◇
聖杯からの莫大なる魔力供給によって騎士王の宝具は数秒で臨界に到達。
零れ落ちた赤黒い光が刀身をなぞるように極大の赤色黒十字を形成。そして使い手たるセイバーは両の足で大地を踏みしめ、握り締めた聖剣の柄を――渾身の力で振り切った!
「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!
視界一面を黒と赤に染め上げる究極の極光が眼前に迫る。この大深度地下構造体を崩壊させないよう手加減した一振りで
「マシュ!」
「はい!」
これまで後方でみなを守っていたマシュが盾を構え、前に出る。俺を背に庇うほどに前へ、前へ。僅かに覗いたその横顔に恐れはあれど、怯みはない。
「令呪を以て命ずる――守れ!」
「イエス、マイマスター! 宝具、展開します。
マシュの盾がひと際眩く輝き、その正面に魔力で作られた城塞にも似たビジョンが出現する。
ビジョンの輝きはマスターから令呪を受けることで更に増していく。まるで堕ちた聖剣の光を諫めるように強く――強く!
今は脆き盾の守り――だが単純にして明快なほどに効力を増す令呪の恩恵を受け、黒き極光を見事に受け止めた。
「あ、あああ、あアァああああああああああああああああああぁぁぁぁ――――――――ッッッ!!」
衝撃の奔流に押し流されながらマシュが喉も裂けよと絶叫する。負けないと、負けられないと背に守る者達のために彼女は叫び続ける。
「マスターの、信頼に応えることが
そうだ、マシュ・キリエライト。新雪のように真っ白な君よ。
君はきっと恐怖に慣れることも呑み込むことも出来ないだろう。大切なモノが増えるほどに抱える恐怖も増していくはずだ。
だがその盾で庇う大切なモノが増える程、必死に振り絞る勇気は一層眩く輝く。それは小さく、弱く、儚くとも―――鮮烈で、眩く、尊い
「マシュ……頑張れ!」
「はい、マスター!」
マスターが檄を飛ばし、マシュが応える。
漆黒の奔流が勢いを失っていくのと対照的に清廉なる盾の輝きはどんどんと増していき――、
「――見事」
騎士王がそう断ずるに相応しい程、白き守護の盾は聖剣の極光にすら揺るがず在り続けた。
残るはエクスカリバーを振り切った姿勢で静止するセイバーだけ。
「好機」
聖杯の魔力供給が如何に膨大でも、渾身を込めた聖剣の一振りを即座にリチャージ出来るほどデタラメではない。
故に無防備なまま隙を晒す今がチャンス――俺の第二宝具を使う。
「
天照灼眼、走査開始。対象の霊核を炙出――
《玻璃の天梯》を展開・生成した
同時に俺の背に現れたウジャトの眼に似た走査術式がギロギロと周囲を睥睨するように蠢きセイバーの霊核を発見。その眼からレーザーポインターに似た一筋の光が放たれる。
「!? なんだ、この光は――」
セイバーが戸惑い聖剣を構え防ごうとするが照射したレーザーはそれを透過してセイバーの霊核、すなわち心臓を指し続ける。動き回り、回避しようとしても執拗に追い続け、決して逃がさない。
レーザー単体は威力のないただの照準器だが、この光線を阻むことは尋常な手段では叶わない。
「特異点全域の熱量掌握完了。有意選択した供儀魂魄を順次充填……第一、第二ライン突破! 出力安定、臨界状態到達のため追加魔力を要請」
この宝具を使うために必要な莫大なる魔力を賄うため、マスターの魔力とカルデアから供給される電力、特異点全域から搔き集めた熱量を残さず余さずぶち込んでいく。
だがそれでもまだ足りない。必要熱量まで圧倒的に届かない――故に。
「マスター、私にも令呪を!」
「分かった!」
不足分は令呪という高密度の魔力リソースで補填する。宝具を使うたびに令呪が必要となる馬鹿げた仕様だが、その分火力は折り紙付きだ。なにせ太陽の中心温度1600万度だからな。
「令呪を以て命じる――」
マスターの手の甲に刻まれた令呪が一画虚空へ散じる。瞬間、俺に流れ込んだ莫大な魔力を全てを陽光砲身に装填された
「霊子チャンバーへ令呪装填を確認、チャージ完了。術式の生成を確認」
これで全ての準備は整った。
「――撃て、アーチャー!」
マスターの命令を
「是、
放たれるは光の鏃。小さく、眩く、しかし文字通り閃光の如き速度をもってセイバーを狙い撃つ。
「猪口才。その光、搔き消してやろう!」
刀身から溢れ出る黒の光が巨大な斬撃となり、光の鏃を迎え撃つ。だが結局光の鏃は黒の斬撃によって砕かれも阻まれもせず、ただ透過して真っすぐに突き進み、セイバーの心臓に着弾する!
瞬間、太陽が炸裂した。
比喩ではない。セイバーの霊核を中心にした一立方センチメートルに満たない空間だが、俺の権能で
その余波で空間を埋め尽くす爆炎が、マシュの防御スキル越しに皮膚を焦がす熱量が、瞼の裏から眼球を焼く白光が溢れ、地下空間は一瞬で煉獄と化した。
「是なるは我が必殺。冥府の太陽が放つ最強の”矢”。その輝き、とくと御覧じろ」
そして紅蓮の煉獄に成り果てた地下空間に最後まで立っていたのは――、
くらやみてらすめいふのひかり
必ず殺すと書いて必殺技と読む。実際ゲイボルグ並みに殺意が高い宝具である。
莫大な熱量を玻璃の天梯による仮想砲身を用いて収束・砲撃する極大ビーム兵器――ではなく。
太陽神の霊眼を用いた走査術式『天照灼眼』で対象霊基のコアである霊核を発見、誘導用のレーザービーム(物理)で照準を固定、仮想バレル『陽光砲身』を用いて敵の霊核に射出したコア術式を起動。
術式着弾後、霊核を中心に一立方センチメートルに満たないごく限られた範囲を刹那に満たない時間だけ具現させた太陽の中心温度1600万度の概念火炎で焼き尽くす。繰り返す、1600万度である。相手は死ぬ。
物理的にどう考えても地上が無事では済まないが、そうした諸々は全て太陽の権能を用いて処理している。
宝具開放後に炎が爆裂するが、比較的無害な範囲の余波に過ぎない。
なおこれらの効力はサーヴァントの枠内に収まるようデチェーンされている。
本来はネルガル神撃退戦後に整備された冥府防衛計画の一端を担う兵器だったが、タカ派から見てすら火力過剰とのことで後に解体された。が、最終的にキガル・メスラムタエアの宝具に流用されたあたり実は懲りてない疑惑がある。
実際(神代の全盛期限定だが)太陽が照らす範囲及び『天照灼眼』の走査範囲約数十キロメートル以内なら神でも魔獣でも都市でも無関係に焼き尽くすことが可能な殲滅兵器であり、自重を忘れたガルラ霊達ですらやりすぎたかなと自重を覚えた曰く付き。
人理焼却の黒幕を相手取るために持ち込んだメソポタミア冥府が保有する最大火力の一つである。