【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 俺がオルガマリーの心臓を射抜いた直後。

 聖杯が失われた特異点Fの時空の歪みが頂点に達した。

 

「!? 地下空洞、崩れます。いえ、それ以前に空間が異常な不安定化を……!?」

「レイシフトを至急実行する。全員一か所に集まってくれ」

「私もそこに含んで頂けましょうか、ドクター・ロマン」

「……もちろんだ、アーチャー」

 

 ロマンの言葉は固い、が無理もない。

 オルガマリーは俺の矢に射抜かれ、焼失した。最初からいなかったように、幽霊だったかのように。

 

「……君の判断は間違いじゃない。オルガマリー所長にとってもあのままカルデアスに飲み込まれるよりずっとマシな最期だったはずだ」

「冷静な判断に感謝を」

 

 オルガマリーの最期を語るロマニは俺ではなく、マスターとマシュの二人に言い聞かせているようだった。

 

「お二方、無事に帰還出来れば全て、全ての言葉を受け止めます。しかし今はお見逃し頂きたい」

「アーチャー……うん」

「……分かりました、アーチャーさん」

 

 俺を見る目に不信感が入り交じりながらもなんとか頷いてくれた二人によしと頷く。後はレイシフトでカルデアまで帰還するだけ。

 そんなタイミングで無粋な口を挟まれる。

 

「ふん、つまらん最期だったな。慈悲の一撃とは甘いことだ、キガル・メスラムタエア」

「……死に損ないかと思えばとっくに人外に堕ちていたか、レフ・ライノール・フラウロス」

 

 肉体の半分を熱線で穴だらけにされ、血まみれになっても苦痛に顔を歪めることもないレフ。その顔にはありありと失望が浮かんでいた。

 

「そうだ。私は我が王の寵愛で魔術師より更に偉大なる存在へ変性した! 故に、この程度の火遊びなど児戯も同然」

「ならばもう少し遊んでみるか? 怪物(モンスター)

「お断りしよう。こう見えて忙しい身でね。これ以上貴様らにかかずらっている暇はない」

 

 奴はクルクルとステッキを弄びながら宙に浮かび……徐々にその姿は薄くなっていく。

 

「故に、貴様らがこの場を脱し、人類史の歪みを正さんとするならば……いずれまみえる機会もあるだろう」

「そうか――失せろ、外道。貴様の顔など見たくもない」

「ハハハハハッ! 嫌われたか? 嬉しいよ。ならば敢えて言おう――また会おう、とな」

 

 その言葉を最後にレフ・ライノールは消えた。

 そして空間の震えとしか表現できない非物理的な震動が更に大きく、強くなっていく。

 

「ドクター・ロマン! これ以上は危険です、早くレイシフトを!」

「分かってる、もう実行中だ! だけどそっちの崩壊に間に合うかは……タッチの差かも!」

「そんな!?」

「その時は潔く諦めて意識を強く保ってくれ! 意味消失さえしなければサルベージして――」

 

 ロマンの言葉の最後にピシリ、と何かが決定的に砕けたような震えが走り、

 

「マシュ、こっちに――」

「先輩、手を――」

「お任せを、マスター。()()、必ずやカルデアまで――!」

 

 世界が暗転した。

 

 ◇

 

【推奨BGM:不屈の覚悟(Fate/Grand Order Original Soundtrack I)】

 

 ◇

 

「――結論を言おう。人類史は燃え尽きた――人理の焼却だ。レフ・ライノール・フラウロスを操る黒幕の手で」

 

 ここはカルデア。

 レイシフトは成功し、カルデアのマスター、藤丸立香は意識を取り戻した。そしてドクター・ロマンを含むほぼ全てのカルデアスタッフが管制室で対面を果たした。

 

「だがまだ打つ手は残っている。人理焼却の起点となった七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。それが人類を救う唯一の手段だ」

 

 人類史は燃え尽きた。歴史の流れを決定づけた七つの特異点(ターニングポイント)の改竄によって歪曲され、どうしようもなく破綻した。

 

「これが不条理な強制と理解した上で言おう――この未曽有の災厄を解決するため、君はこれから人類史そのものと戦わねばならない」

 

 個人(ヒト)の身に余る大任、人類史を救うために人類史と戦わねばならないこの難行。なんという理不尽か。

 

「その覚悟があるか、君に問う。人類最後のマスター、藤丸立香」

 

 ドクター・ロマン自身が不条理と苦く語る問いかけに藤丸は、

 

「――はい」

 

 ただ一言、諾と答えた。握った拳を、震える足を押し隠して。

 その姿をマシュが、ロマンが、カルデアのスタッフ達がしっかりと見ていた。

 

「ありがとう。これからの旅路で君に助けられない時はないだろう。その事実に心からの感謝を」

 

 若者に重荷を背負わせることにか、一瞬だけ瞑目したドクター・ロマン。だがすぐに決然と顔を上げ、管制室に集ったカルデアの全スタッフに向けて宣言した。

 

「これよりカルデアは前所長オルガマリー・アニムスフィアが予定した通り、人理を守る尊命を全うする」

 

 人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図。これを魔術世界では人理と呼び、尊命として守ることをカルデアは宣言する。

 

「カルデアの使命、人理守護指定G.O(グランドオーダー)を発令。その目的は人類史の保護――奪われた人類の未来を取り戻す」

 

 覚悟はいいかとみなに問えば――スタッフ達は不安と迷いを抱えながらもはっきりと頷いて見せた。

 その根底にあるのは藤丸が示した決意。そして願わくばオルガマリーの叫びも関わっているのだと信じたい。

 

「――その覚悟、感服仕る。カルデアの意気、確かに見せて頂いた」

 

 神代が終わり、人類は変遷した。幼年期を終え、明かりなき荒野を歩み続け、今この時に辿り着いた。取り返しのつかない過ちを重ねながら、その選択を正解とするために最悪の中でせめてもの善を積み重ねた。

 それは俺達が示し、エレシュキガル様が尊び、義兄殿が愛した人類(ヒト)の輝き。

 

「アーチャー、キガル・メスラムタエア。僕らに残されたカードはあまりに少ない。カルデアの最大戦力となるあなたにも協力を願いたい」

「無論、問われるまでもなし。元よりそのために呼ばれた身の上なれば」

 

 彼らカルデアは俺達が手を貸すのに一片の不足もない今を生きる者達だ。例えその成立目的や経緯に後ろめたく、血生臭い秘密が隠れていようとそれは変わらない。

 

「故に私も一丁気張りて――ささやかながら奇跡をお見せしましょう」

 

 ま、奇跡というより詐術の類だがカルデアのみなには奇跡と呼んでも許されるだろう。

 ロマンは疑問に思ったのか、首を傾げて訝しそうな様子で問いかけてくる。

 

「奇跡? 神格であるあなたが言うと中々不穏な単語だけど何をするつもりだい?」

「ハハハ、実を言えば種も仕掛けもある手品の類。しかも一片の傷なく完全にとはいかなんだ。だが――()()()()()。ダ・ヴィンチ殿、映像を」

『OK、OK。はい、こちら医務室からお送りしておりまーす! イエーイ、ダ・ヴィンチちゃんだよ。みんな見てるー?』

 

 と、俺の声に応じて管制室の中心に巨大なビジョンが現れる。

 そのウィンドウには真っ白な清潔感が保たれた医務室と、片目を閉じて悪戯っぽく微笑んでいるダ・ヴィンチの姿があった。

 

「レオナルド!? どうして医務室に……全員呼集していたはずだよ」

「私から頼みました。ある方の容態を看ていて欲しいと」

「ある方? 馬鹿な、カルデアのスタッフはこれで全員だ。これ以上人がいるはずが――!?」

 

 と、ロマンの言葉が途切れ、その顔が驚愕に染まる。

 アングルを変えて医務室を映すビジョンに映り込んだのは、ベッドに眠る少女――オルガマリー・ア二ムスフィア。その幼き姿である。

 

『全員驚くがいい、なにせ私も存分に驚いたからね!』

 

 みなが驚く顔を愉快気に笑うダ・ヴィンチ。なんとも嫌味がなく朗らかな人柄だった。

 

『正真正銘本物、かつ無事だ! 少なくとも肉体的にはね。どういう訳だか幼女(ロリータ)になってしまったようだが、我らが所長、オルガマリー・ア二ムスフィアは生きている。アーチャーの尽力でね』

 

 宝物を扱うような手つきで彼女の髪を梳くダ・ヴィンチ。

 彼女とて人理を守る英霊の一騎、彼女が叫んだ悲鳴に思うところがあっても不思議ではない。

 

『彼女にはこれまで結構困らされたし、これからもそうかもしれないが――私はこの奇跡を歓迎する。カルデアスタッフの一人として、君に最大の感謝を捧げたい。冥府の太陽、キガル・メスラムタエア』

「なに、カルデアの者なれば当然の――」

 

 ダ・ヴィンチからの最大級の賛辞を面映ゆくも受け取ろうと一礼し――、

 

「アーチャー!」

「アーチャーさん!」

「ぐはっ!?」

 

 俺の懐へ豪快にフライダイビングしてきた藤丸とマシュに圧し潰された。いや、英霊のスペックだろうと不意を突かれたらそりゃね?

 

「ゴメン! 俺、アーチャーのこと誤解してた!」

「私もです、ごめんなさいアーチャーさん! でも所長が無事で、本当に良かった……」

 

 ドンガラガッシャンと。

 管制室の計器類が壊れかねない勢いでのタックルだったが、スタッフの誰も咎めることはなく、それどころかガッツポーズや隣の者とハイタッチを交わして快哉を上げていた。なんというカオス。

 

「「ありがとう!!」」

 

 笑っていた。

 みなが、藤丸とマシュが、ロマンが、ダ・ヴィンチが、スタッフ達が最悪の中の幸いを笑っていた。

 

(ああ、カルデア(ここ)に来て良かったな)

 

 自惚れかもしれないが、きっとあの状況で俺以外にオルガマリーを助けられる英霊は多くあるまい。

 例え俺の存在がこの聖杯探索の旅路(グランドオーダー)に不利となることがあっても、それだけはきっと誰憚らず誇れることを、俺は嬉しく思ったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

【イメージ】

 

【名前】

 オルガマリー・ア二ムスフィア(幼女の姿)

 

【来歴】

  人理継続保障機関フィニス・カルデア所長、オルガマリー・ア二ムスフィアが『継承躯体』によって肉体を得、蘇生した姿。

 

 レフ・ライノールの謀略によって肉体が四散し、魂だけになって特異点Fにレイシフトしたオルガマリーはそのままでは救いようがない。

 だがカルデアスへ墜とされる前に”殺す”ことでその魂をキガル・メスラムタエアが掌握。自らの霊基から3%程度分離した『継承躯体』にその魂を移すことで強引に復活させた。

 冥府の霊魂に『継承躯体』の劣化コピー品を用いて仮初めの肉体を与えていたメソポタミア冥府の副王(キガル・メスラムタエア)だからこそ可能な離れ業である。

 

 覚醒後、レフに与えられたショックで幼児退行とキガル・メスラムタエアへの依存を起こしていることが判明。その魂の(カタチ)を映し出す『継承躯体』の特性から『幼女の姿』へ変性したと推測される。現状治療法はない。

 

 見かけは愛らしいがその来歴は悲惨の一言。最後の悲痛な叫びを聞いたこともあいまりカルデア職員の大半が同情的なのもむべなるかな。

 さらに上記施術の影響か限定的なマスター適性を獲得、キガル・メスラムタエアのマスター権限が彼女に移ってしまう。

 なおカルデアに最大戦力であるキガル・メスラムタエアを温存する余裕はない。

 

 冠位指定(グランドオーダー)発令――――報われぬ者に報いあれ。

 

 我が身に眠る同胞よ、苦難を歩む覚悟は十分か?

 

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