【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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幕間の物語 その頃、世界の裏側で

 

「――弁解をさせて頂きたく」

 

 ここはカルデアならざる世界の裏側。地上を退去した神霊が行き着く果て。

 つまりは、俺と彼女の終の棲家である。故に――、

 

「いいのだわ、聞きましょう。さあ、どうぞ?」

 

 と、思わず総身に震えが走る程の美しさと苛烈さを身に纏うエレシュキガル様が俺の前で仁王立ちしているのも当然である。

 激おこである。それも久方ぶりに見る激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。英雄王がグガランナ討伐から凱旋した時を思い出すな。

 

「えー、まずアレなる分霊(サーヴァント)はあくまで分身であり、その場の状況で我が意から逸れたることを口にしたり実行することもありましょう。それはもう座の本体(わたし)にはどうしようもないことでして」

「うんうん。それで?」

「……加えてあのオルガマリーなる女性(にょしょう)の身の上、些か以上に気にかかります。彼女自身に裏はなくとも彼女自身に潜む闇は大分焦げ臭く」

「そうね、分かるわ」

「…………えー、あのー、エレシュキガル様?」

「で、本音は?」

 

 ()()()()と。

 恐ろしくも可愛い我が妻が目の前で眼光を輝かせながら満面の笑みを浮かべて凄んでいる。こうなると俺にはもう両手を上げて降参し、全部吐くしか選択肢がないのであった。

 

「ぶっちゃけアレだけエレシュキガル様と似た部分のある薄幸の美女を放っておくとか俺には無理と言いますか――」

 

 あんな娘を知らん顔で放っておけるならそもそも俺は冥界に来てエレちゃんに仕えてねえんだわ。こればっかりはエレシュキガル様に言われても直らん俺の根っこだ。

 

「やっぱりか――!! 貴方のことだからどうせそんなことだと思ったのだわ!! この無自覚女ったらし!」

「ですが! 誓って! 誓って、浮気などではございません! 俺は貴女一筋です!」

 

 いやマジで。数千年来のパートナーを放って単身赴任中に浮気とかねえわ。ただそれはそれとしてあのオルガマリーという少女を放っておくこともできないだけだ。

 その過程で俺は必要なら何でもやるだろう。たとえそれが傍目から美少女を口説いているナンパ野郎に見えようともだ。

 

「そんなことは最初から分かっているのだわ! 貴方の妻を舐めないで頂戴! ただちょっとあの娘にデレデレする貴方を見て情緒不安定になっただけよ!」

「エレシュキガル様!」

 

 なんて可愛いんだ、エレシュキガル様。

 

「ええ。もし、万が一、本当に、浮気なんてしてたら八つ裂き程度で済ませる訳がないのだわ? だからこの程度は愛情表現よね?」

「エレシュキガル様……」

 

 ……なんて恐ろしいんだ、エレシュキガル様。

 曇りのない眼で徹頭徹尾本気で言っているのが分かるからなおさらおっかない。

 

「……ま、あなたがそういうタチだってことはもうずっと昔に思い知ってるからね。それにあの娘を放っておけない気持ちも分かるし」

 

 が、なんとか落ち着きを取り戻してくれたらしい。

 他人を見ている気がしないと、懐かしくも寂し気な声音で呟くエレシュキガル様。

 

「いいでしょう、あの娘のために心を砕くことを許します。そうと決めたのなら中途半端はダメよ。ちゃんと最後まで面倒を見ること」

「はい。ありがとうございます、俺の女神(エレシュキガル)

 

 流石は我が女神、理解がある。

 

「ただし! 私が――わ、た、し、が! 貴方の一番ってことは忘れないように。ええ、忘れたら酷いんだから」

「それはもちろんです。いえ、俺に言われてもちょっとどうしようもないのはさておき」

「あ、な、た?」

「イエス、マムッッッ!!!」

 

 嫉妬にしては随分と()()()()()()釘刺しに俺は直立不動となって返事を返した。

 

(まあ、大丈夫だろ。多分、きっと)

 

 いやまあ、女房妬くほど亭主もてもせずというし万が一アーチャーの『俺』が入れ込みすぎてもオルガマリー嬢の方がそんな状況じゃないし大丈夫だろ(フラグ)。

 でもな、あのアーチャーの『俺』は俺から生まれた分霊であり、少しずつだがここにいる俺から外れていく訳だ。浮気はなくてもちょっと入れ込みすぎとか……うーん、ありそう。自分で言うのもなんだが俺ってチョロいところあるからな。

 




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