【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
各特異点はダイジェストというか、オルガマリーとうちのガルラ霊関係の描写に絞ります。それ以外は基本的に原作準拠とお考えください。もちろん細かい違いはあるとして。
身も蓋もなく言えば彼らがおらずとも人理救済は成ります(原作準拠)
究極的には第二部のダブル主人公ズは『余分であり、余計な』者達なのです。
夢を見ている、とオルガマリー・ア二ムスフィアは自覚する。
怖い夢、恐ろしい夢、悪夢。
闇の中にいる自分、闇に囚われた自分、抜け出せない恐怖、嘲り笑う声、八重歯を覗かせて笑う
(やだ、たすけて、
痛いほど知っている。身に染みている。だって、オルガマリー・ア二ムスフィアの人生は失敗ばかりだ。何一つ、たったの一つも上手くいったことがない。だから、誰からも必要とされたことなんてない。
動悸が痛いほど激しく高鳴り、顔から血の気が引き、手足は凍える程に寒い。思わずオルガマリーは自分の身体を掻き抱いた。
(やだ、やだ、やだ……)
こころが、いたい。
耳を塞ぎ目を閉じて、いつもの諦観に逃げ込もうとするオルガマリー。
『オルガマリー! オルガマリー・アムニスフィア!』
(あー……ちゃー……)
アーチャーが怖い顔で叫んでいる。必死になってわたしの名を呼んでいる。
わたしは彼にとても酷いことをしてしまったのに、彼は必死でわたしを助けようとしている。
そのことがとても嬉しくて――悲しい。
そして真っ白な光が闇を切り裂いて夢は終わる。
◇
「――――!」
目が覚めた。
息が荒い、心臓が痛いほど高鳴り、汗でグッショリと濡れた服が気持ち悪い。
起き上がって辺りを見渡すと夜の暗闇が広がり、すぐそばで小さな焚火が焚かれている。オルガマリー達はフランスのある平原で夜営中。
敵の首魁、ジャンヌ・ダルク・オルタが籠るオルレアンへ攻め込む決戦前夜であった。
「……ゆめ」
そのことを自覚した時、胸に去来したのは夢で良かったという安堵ではなく、何時また悪夢に魘されるのかという恐怖。
オルガマリーがどんなに優秀な魔術師でも、自分の心には勝てない。
「――大丈夫か、オルガマリー」
額の濡れた汗を手で拭ったオルガマリーに声をかける者がいる。
キガル・メスラムタエア――ではない。闇夜に左右されない特異な千里眼を持つ彼は夜営の間、見張りを買って出ていた。
代わりにオルガマリーの護衛を務めるのが、彼だ。
「すまない。魘されているので起こそうと思ったのだが、間に合わずにすまない」
随分と腰の低い英霊だった。巨躯をやや猫背気味にかがませながら、彼はもう一度すまないと謝った。
銀灰色の長髪と端正な顔立ちをした偉丈夫。だが背負う魔剣は一目で弩級の業物と知れる。
「……ううん、いいの。ありがとう、ジークフリート」
むべなるかな、彼の名はジークフリート。邪竜ファフニールを打ち倒した、魔剣バルムンクの使い手である。
「大丈夫ならば、いいのだが。何かあれば言ってくれ。あるいは必要ならばアーチャーを呼ぼう」
「……いいわ。アーチャーは呼ばないで」
「そうか。気が変わったならば何時でも言うといい」
「いいの。フランス中にいるワイバーン相手に見張りをするなら、アーチャーが一番だもの」
ここは第一特異点オルレアン。
復讐に狂った竜の魔女ジャンヌ・ダルク・オルタが操る無数の邪竜が跋扈するフランスの地。
人理修復のためにこの地へレイシフトしたカルデアは聖女ジャンヌ・ダルクを皮切りに、王妃マリー・アントワネットや音楽家アマデウス・モーツァルト、ジークフリートらを仲間に加え、竜の魔女討伐の旅に挑んでいた。
――多くの民の命を取り零しながら。
「……己の未熟が歯がゆいな。竜を斬るばかりでなく、悪夢を斬る修練も積んでおくべきだったか」
大丈夫とぎこちなく笑うオルガマリーを見てジークフリートの額に皺が寄る。オルガマリーではなく、自分の無力に怒っているのだ。
「未熟なんてあるはずないわ。だってあなたはジークフリートなのよ?」
そんな英霊の自嘲に首を横に振って否定するオルガマリー。
叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に名高き竜殺し、ジークフリード。その知名度はかのアーサー王にも劣らぬ世界屈指のドラゴンスレイヤーである。
彼を未熟で不足と呼ぶのならば、一体誰が英霊を名乗れるだろうか。
「そうであれば良かったのだが。俺は剣を振るう能はあっても、物事を上手く動かす才に恵まれなかったらしい」
そう言って不器用に笑うジークフリートからは謙遜以上の苦い思いが滲み出ているようで、オルガマリーは驚く。
だってジークフリートは英霊なのだ。それなのに――、
「どうしてそんなことを言うの? だってあなたは英霊よ? 最強のドラゴンスレイヤーなのよ? なのに――」
もう一度寝直す気分には到底なれず、心に生まれた疑問も相まってオルガマリーはそう問いかける。
ずっとおかしいと思っていた。ジークフリートはまさに英雄の中の英雄だ。オルガマリーから見れば天に輝く太陽のような、眩い存在。
(そんなの、そんなのおかしいわ。だって、そうじゃなきゃ――)
だというのに、彼にはいつも自分を責める影が付き纏っている。
ジークフリートを擁護するどころか、むしろ挑むように目つきを鋭く、どうしてと問う。
「……ああ」
そんなオルガマリーを見て得心がいったとジークフリートは頷いた。
彼女の目に宿る必死な光は彼が幾度となく見てきた、向けられたものによく似ていた。
「…………」
ジークフリートは迷った。
彼はオルガマリーの危うさが少しだが分かる。このままでは良くないことも分かる。
「……………………」
だが同時に自分が不器用で口下手なことも知っていた。
だから、
「
そう答えた。
「俺は言葉を選ぶのが下手らしい。故に、戦場で剣を振るい、その問いかけに答えよう」
「……わたしは魔術師よ。そんなことをいわれてもわからないわ」
「いいや、そんなことはないさ」
ジークフリートは首を振って否定する。
そう、彼が言いたいことは別に難しいことではない。
「……見ているだけでいいの?」
「ああ」
「なら、いいけど」
「そうか。感謝する、オルガマリー」
彼女に伝えたいのはただそれだけなのだ。