【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 オルガマリーの逆ハーメンバー、エントリーナンバー2!


永続狂気帝国セプテム①

叛逆(こんにちは)。ところで君は圧制者かね?」

 

 その男は筋肉(マッスル)だった。

 まさに筋骨隆々。その巨躯ははち切れんばかりの筋肉でみっちりと詰まっており、見るからに逞しい。全身の戦傷はまさに戦士の風格が漂う。

 だがその男から感じる第一印象は頼もしさより恐ろしさが強い。

 笑っているのだ。

 にこやかに、朗らかに。だがその笑みはむしろ男の不気味さを増すのに一役買っていた。

 端的に言って目がイっていた。誰がどう見ても危険人物だった。

 邪竜ファヴニールの天災を間近に感じるような恐怖とはベクトルが異なる、もっと生々しい恐ろしさだ。

 

「い、いやああああああああああああぁぁぁっっっ――――!?」

 

 故にオルガマリーが絹を裂くような悲鳴とともに泡を食って逃げ出そうとしたのもまあ、やむを得ないことだっただろう。

 それが一応は味方と言えるサーヴァントへの礼儀にかなうかどうかは別として。

 

 ◇

 

 時は少し遡る。

 第二特異点、一世紀の古代ローマにレイシフトしたカルデア一行はほどなくして時の皇帝ネロ・クラウディウスに出会う。

 彼女は連合ローマ帝国を名乗る集団と戦争中であり、そこに助太刀する形で彼女の知己を得ることとなった。

 そしてこの特異点の異様さをネロから語り聞かされる。

 

 時の皇帝ネロ・クラウディウス率いる正統ローマ帝国に対し、謎のカリスマで歴代のローマ皇帝を束ねる連合ローマ帝国が突如戦争を仕掛け、領土の半分を奪ったのだ。

 

 人類史に燦然と輝く“ローマ”が真っ二つとなって戦い続ける、ありえざる古代ローマの大地。それこそが第二特異点の正体。

 そしてカルデア一行はネロに同行し、重要な戦線であるガリア遠征軍に合流。

 ガリア遠征軍を預かる将にしてはぐれサーヴァント、ブーディカとスパルタクスと顔を合わせ――ああなった、という訳だ。

 

 ◇

 

 わたわたと、あわあわと。

 見るからに動転しきった様子で転がるように俺の後ろに回って盾としながら涙目で訴えるオルガ。

 

「あ、アーチャー! 敵よ、怖いやつがいるわ! すごく危なそうなひとよ!?」

「えー、あー、オルガ? 彼らはネロ皇帝から紹介された味方でありまして――」

 

 できれば微妙な言い方は止めて頂きたい。前半は不賛成だが、後半は頷かざるを得ないじゃないか。

 

「でも見るからに怪しいじゃない!? わたし、こわいわ!」

「オルガ。落ち着いてください、オルガ」

 

 気持ちは分かるしなんだったら俺も怖いが、流石にそれを表に出すのはダメだろう。

 俺はムキムキの巨漢に向き直り、頭を下げた。

 

「我がマスターが失礼をした。代わってお詫びを申し上げる」

「ふぅむ……どことなく圧制の気配が香るぅ」

 

 ジロリ、と。

 妙に寒気がする目つきで見つめられた。こちらの無礼に怒ったという感じではない。もっと単純に、敵かどうかを見定めている気配。どうやら俺が彼の中のなにがしかの基準に引っかかってしまったらしい。

 

「……俺が、なにか?」

「問おう。君は圧制者かね?」

 

 圧制者。それが彼を動かすキーワードか。

 そして会話が通じているようで全くそんな感じのしないこの言動、ほぼ間違いなく狂戦士の類。うちの冥界にも同類が大勢いたからな、似たような気配はなんとなく分かるのだ。

 

「どうなのかね?」

 

 ズズイ、とさらに圧を込めて重ねて問いかけてくる巨漢。

 

(はてさて、俺が圧制者、か)

 

 どうだろうか。客観的には俺は彼女の夫として冥府の副王の地位にいた。その過程で冥府の霊魂達を差配し、支配することもあっただろう。

 圧制者と言われれば首を傾げるが、支配者であると言わざるを得ないだろう。

 その上で言おう。

 

()()()

 

 否と。

 

「強いて言うなら……俺は代表者だ」

 

 冥府の太陽、キガル・メスラムタエア。その在り様は俺一人が築き上げたものでは決してない。俺と、俺を助ける仲間達がいたからこそ。

 冥界を支配したのもあくまで結果であり、俺は皆によって上に立たせてもらったと言った方が正しい。

 故に俺は自らを代表者であると名乗った。

 すると、

 

「おお……おおぉぉぉっ!? 素晴らしい、素晴らしいいいぃぃぃっ!!」

 

 なんか、ぶっ壊れた。

 精神の均衡が崩れたとしか思えない勢いで両の拳を天に突き上げ、勝利宣言のように高らかに絶叫し続ける。

 

「見た、我が眼がしっかりと見たぞ! 汝は我が同胞、ともに圧制に立ち向かう同志であると!」

 

 勘違いじゃないですかね(真顔)。

 

「いいや、この目に狂いなどないとも! 君の心に灯るのは叛逆の光! 理不尽、逆境、絶望に立ち向かう勇気である!!」

 

 口にしてないことまで読み切られてしまった。怖い。

 狂気的ですらあるハイテンションに俺達を遠巻きに取り囲む周囲は完全に一歩退いていた。そんな中彼だけがハイテンションを維持し、膝を折って俺と目線を合わせる。

 否応なく視線が合うと彼はこれ以上ないほど親しみを込めてニコリと微笑んだ。正直背筋が総毛だった。

 

「名を聞かせてくれたまえ、スパルタクスの同胞たる君」

「……あー、スパルタクスがあなたの名で?」

「…………」

 

 無言のまま返ってくるニコニコと菩薩のようなアルカイックスマイルがむしろ恐ろしい。俺の背中に縋りつくオルガは完全に怯えて縮こまっていた。

 気持ちは分かる。というか俺も出来るならそうしたかった。誰か丁度いい盾いねえかな。

 

「……私はアーチャー、キガル・メスラムタエア。よろしくお願い申し上げる、スパルタクス殿」

「ほう! 聞き慣れぬ響きだが良き名だ! 叛逆の色濃い香りがするぅ」

「そう言って頂けると重畳。我が名は我が誇りでもある故に」

 

 若干変態臭い物言いをされるが、無理やり褒められていると解釈し、一礼した。

 

「素晴らしい。愛を以て互いを抱擁しようではないか、同胞(トモ)よ」

「ちょっっっ……!?」

 

 ガバリと頭三つは高い巨漢に全身を使ってハグされてしまった。筋肉に包み込まれ、物理的に押しつぶされそうになりながらせめて呼吸だけは維持する。

 

「マシュ! たすけて、マシュ!」

「お、オルガ……」

 

 なお我がマスターは薄情なことに俺という盾を見捨て、遠巻きに見守っていたマシュの後ろに逃げ込んだのだった。

 

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