【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 その後、俺達カルデアはガリアにてネロと協力しカエサルを討ち取り、古き女神ステンノの悪戯を潜り抜け、正当ローマ帝国首都に帰還。

 そこで別動隊だったアサシン・荊軻とバーサーカー・呂布と合流。ひと時の休息を得た。

 その後、ステンノからの情報を元に見つけ出した連合ローマ帝国の首都へ正統ローマ帝国の兵とともに侵攻を開始したのだった。途中、軍師諸葛亮孔明(ロード・エルメロイⅡ世)を連れた若き征服王アレキサンダーからの問いかけにネロが喝破、さらに真っ向勝負でも実力を証明し、撃破。

 

 そして始まる最後の決戦。

 

 表の戦いは呂布とブーディカに任せ、俺達は連合ローマ帝国の首魁とその宮廷魔術師とやらを狙うために潜入。

 首都の最奥で待ち受けていたのは神祖ロムルス。ローマ建国の父、ローマそのものと言っても過言ではない大英雄だった。

 だが今この時ローマを統べる皇帝は己であると迷いを振り切った皇帝ネロによってロムルスは打ち倒された。

 

「藤丸、マシュ、みな。感謝を。神祖(ロムルス)に勝利したのはみなのお陰である」

「いえ、そんな……」

 

 ネロの感謝の言葉に藤丸が奥ゆかしく謙遜するやり取りもあったが。

 ともあれ後は聖杯を回収するだけ、となった段に至り――奴が現れた。

 

「ああ、下らない。下らない。下らない。心底下らない茶番だった」

「何者だっ!?」

 

 コツコツコツと硬い床に鳴り響く足音。視線を向ければそこにはいつか見た紳士の出来損ないが気取った仕草でステッキを構えながら奥から歩いてくる姿があった。

 冬木で負わせた傷はとうに癒えたらしい。それにわざわざひと段落ついてから顔を出すとは、高みの見物のつもりか。

 

「神祖ロムルス。器は大きくとも私が求める用途に適さない不良品だったか。召喚する英霊を間違えてしまったな。これは私の手落ちだ」

「レフ教授! 何故ここに――!?」

 

 マシュがその名を叫び、盾を構える。事情を知らないネロもまた敵と判断し、剣を構えた。

 

「久しぶりだね、カルデアの諸君。そして――オルガ。ゴキブリのようにしぶとく生きながらえているとは全く予想外だったよ」

 

 ニタリ、と牙を剥き出して嘲笑(わら)うレフ。その嘲りと悪意に満ちた視線は真っすぐにオルガを捉えていた。

 

『――――!』

 

 俺が、マシュが、藤丸が咄嗟にその視線からオルガを庇う。後ろの少女から戸惑いが伝わってくるが、後回しにせざるを得ない。

 ここで来たか、レフ・ライノール!

 

「ハハ、過保護なことだ。おめでとう、オルガ。首尾よく次の依存先に乗り換えられたようだ。()()()()、夢見る揺り篭が崩れないといいねぇ」

「黙れ、レフ。いや」

 

 初手必殺。俺が叶う最速で殺害し、黙らせる。

 攻勢端末を周囲へ展開、熱量を充填・収束・放出――、

 

「死ね」

 

 ――(ひらめ)く。

 大気を焼き焦がす十八閃のレーザーライトがレフの全方位から殺到する。

 並みのサーヴァントなら即座に四肢を炭化させ、霊核を貫くに足る一斉熱射だったが、

 

「手を抜いたつもりはなかったが、防ぐか。レフ・ライノール」

「ああ、無駄な努力だとも。キガル・メスラムタエア」

 

 奴が周囲に張り巡らせた魔力障壁によって熱線(レーザー)は完璧に防がれた。障壁の外側が赤熱するほどのエネルギーを散らしながら、熱の一片も障壁の向こう側に届いた様子はない。

 明らかに人の範疇を逸脱した規模の奇跡。聖杯か、はたまた奴が言う王の恩寵か。どちらにせよロクなものではあるまい。

 睨み合う俺達の間にオルガのおずおずとした問いかけが割って入る。

 

「だれ……? あなたは、だれなの?」

「悲しいな、オルガ。まさか忘れてしまったのかい。私を――このレフ・ライノールを」

 

 よく見ろと言わんばかりにモスグリーンのシルクハットを取り、わざとらしいほどに恭しく一礼しながら()()()と宙へ浮かび上がる。

 視線を遮れなくなり、その顔をはっきりと目で捉えたオルガが途端にビクリと身体を震わせた。

 

「レ、フ? ……レフ、れふ――いや、いや、いや、いやああああああぁぁぁっっっ――――!??」

「オルガ! しっかり、奴を見るな!」

 

 忘却……否、拒絶していた記憶が溢れたのか。心的外傷(トラウマ)の上にようやく張り付いたカサブタを無理やり引きはがされ、見えない鮮血がオルガマリーの心から噴き出した。

 ガクガクと全身を震わせて身体を折り、明らかに焦点があっていない眼球から止めどなく涙が溢れだす。明らかに精神の均衡が崩れていた。

 

「ハハハハハハハハハハハッ!! 本当に忘れて、いや()()()()()()にしたのか! いや、君らしい無様さだ! むしろ納得がいったとも! 実にみっともない! これほど唾棄すべき弱さが他にあるだろうか!?」

 

 腹を抱えゲラゲラと笑い続けるレフ。

 

「君に恥という概念はないようだ! ハハハ、まさに人類(オマエラ)の指導者に相応しい!」

「それ以上喋るな、外道」

 

 奴を覆う魔術障壁は半透明であり、恐らく物理攻撃や魔術、熱量など危険な範囲の脅威を選択的に遮断していると推測――つまり()()()()()()()()()()()()()

 

(確かガンマナイフ、だったか)

 

 召喚にあたり与えられた現代の知識、その一端を応用する。

 

「宝石の華々よ、花弁を散らせ」

 

 無数無量の攻勢端末を魔術障壁越しに奴の周囲を旋回させる。

 

「そして照らせ。焼き祓うべき醜悪を」

 

 そして熱量を光に転換、殺傷性を抑えた光線をあらゆる角度から一点(レフ)に収束放射。単独の光線では無害でも、無数無量の光線が一点で交わればその熱量は魔術師程度焼き切るのに不足なし。

 

「……なに? 熱い、バカな。熱いだと? これほどの魔術障壁越しにそんなことあるはずが――!?」

「間抜けと言ってやろう。頭でっかちの魔術師もどき」

 

 原理は異なるが、虫眼鏡で太陽光を一点に収束したようなものだ。その収束点の中心にいた奴からメラメラと炎が急速に燃え上がった。

 

「が、あ、ぁ……! 馬鹿な、燃え上がる!? 私が、王より恩寵賜りしこの、私がっ!?」

 

 俺はその後も容赦なく光線の放射を継続。熱量を注ぎ込む。レフは炎に包まれ、人型のたいまつと化して炎上し、轟々と燃え続けた。

 

「……死んだ、のか?」

 

 生けるたいまつと化した怪人にネロが半信半疑と呟くが、

 

「馬鹿な、なんという体たらくだ。猛省せねば、自戒せねば――これ以上は油断の欠片もなく彼奴等を抹殺せねば」

 

 自嘲と怒りがたっぷりと込められ、しかし痛苦の色は欠片もない声が響いた。その出どころは燃え盛りながら平然と喋り続けるレフ。

 

(ま、当然だな。あの程度で死ぬなら苦労はない)

 

 冬木では半身を焼き焦がされ、穴だらけにされても平気だった奴がこの程度で音を上げるなどと欠片も考えていない。

 

『顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり』

 

 なにがしかの呪文、詠唱の類か。

 ともあれ力ある言葉を鍵としてレフ・ライノールという人の殻を破り、醜悪な中身(フラウロス)が溢れ出る。

 

『――!? 気を付けろ、みんな! 計器が異常な数値を出力している。奴は、レフは、本当に人間なのか!?』

 

 ロマンから警告があった一瞬後、業火を突き破り、天を衝く巨体が姿を現す。その醜悪な姿を一言で評せば地に突き立つ巨大な肉の柱か。

 しかもその巨大な肉塊を覆い尽くすように無数の赤黒い眼球が嵌めこまれ、()()()()()()と蠢いている。

 

「なんと……! なんと醜悪な姿だ! これほどまでに醜い存在を余は見たことが無い!?」

「おおっ、見るがいい同胞よ! 醜悪なる圧制者が、ついにその醜悪さを曝け出したぞ!」

 

 戦場をともにしたネロとスパルタクスが次々に叫ぶ。恐れ、怒り。浮かぶ感情は異なれど、その戦意には揺らぎなく、変わりなし。

 

『この魔神柱フラウロスが貴様らカルデアを消滅せしめよう。来るがいい、キガル・メスラムタエア』

 

 魔神柱。それがあの醜悪な肉塊の名。

 しかも丁寧に俺を名指しで呼ぶか。冬木からそうだが、相当な怨讐の念を感じる。

 だがどちらにせよ戦術上俺の火力はあのデカブツの始末に必要だろう。参戦せざるを得ない。

 気にかかるのは、

 

「…………」

「ぁ……ぁぁぁ……」

 

 虚ろな目でただ意味のないうめき声を漏らし続けるオルガマリーか。

 

(すまない、オルガ……)

 

 また、彼女を傷つけてしまった。

 初手で宝具を使うべきだっただろうか。いや、奴の手の内が一切知れていない内に隙を晒すことはできない。

 だが、それでも……傷ついた彼女を置いて戦うのは、苦しい。振り切るべき迷いとは分かっているが……。

 

「行くがいい、同胞(トモ)よ」

「スパルタクス殿」

幼き叛逆者(オルガマリー)は私が守護(まも)ろう。弱者の盾となることが我が使命なのだから」

 

 膝を折って地面に這いつくばるオルガマリーの傍らに座り、その背を優しく撫でるスパルタクス。

 その顔に浮かぶのは慈父の如き愛と怒り。ああ、彼になら俺は安心して託すことが出来る。

 

「君は君がすべきことを為せ。ともに醜悪なる圧制者を打ち倒そうぞ」

「……感謝を。彼女をお任せする」

 

 逞しい益荒男の姿に勇気づけられ、俺は前線へ一歩足を踏み出した。

 マシュやネロと並び、展開した攻勢端末に魔力を送る。その姿に魔神柱に埋め込まれた剥き出しの眼球が無数の視線を向けた。

 

『茶番は終わったかね? では、死――』

()()()()

 

 いいことを教えてやろう、レフ・ライノール・フラウロス。

 

『が、あ、あああああああああああああぁぁぁっ!? 馬鹿な、この躯体が燃え上がるだと!? なんだ、この熱量(エネルギー)はっ!? 貴様、まさか、手を抜いていたとでも――』

「ンな訳ねーだろ。これまでも本気だったさ。ただちょっと後先考えずお前を殺そうとしている()()だ」

 

 俺はな、神代から人類史を通して三指で足りるくらい、俺自身に腹を立ててるんだよ。

 だから――ただの八つ当たりで塵芥(ゴミ)のように燃え尽きろ。

 


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