【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
天を衝く肉の柱、地に突き立つ魔神柱がスパルタクスの剛力によって豪快に投げ飛ばされた。惚れ惚れするほど見事なスープレックスを決めて見せたのだ。
サイズ比で言えば蟻が人を投げ飛ばすようなもの。何かの冗談のような光景に一同は各々が驚きを叫んだ。
『う、わ……あっ!?』
『おいおい冗談だろ、
「豪快ぃ、これ俺がカウント取っていいかな!?」
「す、すごいです。スパルタクスさん!」
「アレはまさか
スパルタクスが魅せた絶技へ一様に感嘆の念を叫ぶ一行。
「いや、だがあの程度では彼奴は倒せぬぞ! あくまで体勢を崩しただけだ!」
その中でいち早く冷静さを取り戻したネロの指摘通り、フラウロスにダメージはない。直立する姿から横倒しに投げ飛ばされた衝撃から満足に反撃できていないが、すぐに気を取り直して襲い掛かってくるはず。
「おお、
闘争の渦中に立つスパルタクスが叫ぶ。
彼は投げ飛ばした魔神柱から離れることなくその両の
「聞け、我が
そしてフォールを続けながらアーチャーを見遣り、後を託す言葉を紡いだ。
「!?」
「スパルタクスさん!?」
「一体なにを――
一同が絶句し、眼を見開いてスパルタクスへ叫ぶ中一人、ネロだけが何かに気付いたように俯いて考え込んだ。
「――承知!」
ただ一人、アーチャーだけが既に準備を始めていた。
カルデアとオルガマリーから供給されるエネルギーを根こそぎひっくり返す勢いで
巨大な
「そうか、そういうことか!? スパルタクス、なんという捨て身の技を!?」
第二宝具では時間がかかりすぎ、かつスパルタクスを
『ちょ、ちょ、ちょっと!? 味方ごと撃つって? どうして!? 何故そんな――』
「宝具だ、奴の宝具を思い出せ」
「宝具――
「まさか――」
「スパルタクスは敢えて己を狙い撃たせることで宝具の威力を最大まで高め、魔神柱を撃破するつもりなのだ! その決意、まさに
「待ってください、それは!?」
『効果的だがなんて無謀な――!?』
「止めたい、けどそれがスパルタクスの望みなら……!」
ネロの解説に各々が複雑な心情を吐露する。だが止めようとはしない。
だが唯一人、スパルタクスと心を交わしたオルガマリーはアーチャーを制止しようと反射的に口を開いた。
「アーチャー、ダメ――」
「止めるな、幼き叛逆者よ!」
「スパルタクス、なんで」
その制止を止めたのは他ならぬスパルタクス。満身の力を込めて魔神柱を抑え込みながら、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「これこそ我が望み、我が叛逆。
「――あなたは」
そうだ、
ならば彼女がすべきはアーチャーを止めることではない。涙を流し、悼みながらオルガマリーは命じた。
『アーチャー』
『ハッ!』
パスを通じての呼びかけに、彼女のサーヴァントが謹厳に答える。
『……スパルタクスの言う通りにして』
『仰せのままに』
一呼吸分の迷いを代償に、スパルタクスの消滅とほぼ同義と知りながら彼女は命じた。眦から零れる少女の涙を見ながら、アーチャーは従った。
故に、勝敗はこの時決したのだ。
『ぐ、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!? ふざけるな、
無論
十字紋が刻まれた赤黒い眼球から魔力砲を無茶苦茶に乱射しながらスパルタクスを引きはがそうとするが、
「フハハハハハハハハハハハハハッ! 圧制者の悲鳴が耳に心地よい! 快なるぞ!」
『放せ! 離せ! 話せ! おお、言葉の通じぬ悍ましき害獣め! せめて、会話を、しろ!?』
凄まじい
「
アーチャーが
黒き太陽の具現。これなるはただの炎にあらず、ネルガル神が司る呪詛と死を振りまく災禍の火だ。
生ける者、死せる者ことごとくを滅ぼし尽くす一矢を、
「是、
撃ち放つ!
あくまで模倣、あくまで偽。だが義兄ネルガルがかつて繰り出した
着弾、そして爆裂。
黒き炎が溢れ、大気を焼く。その勢い、天に届くとすら思える黒き火柱が立ち昇った。
まさにそのただ中で、
『貴様あああああああああああああああぁぁぁッ! 放せ、
「フハハハハハハハハハッ! 素晴らしい! この痛みこそ我が誉れ! 不屈の力が泉の如く湧き上がってくるぞ! 我が愛はここに爆裂する!」
極限まで集中し、収束された火柱に包まれたスパルタクスが大笑いに笑っていた。対してフラウロスは虫の息、あと一押しがあれば倒せる。
文字通り自身を燃やしながら練り上げたスパルタクスの魔力は最早導火線に着火した爆弾も同然だ。
『――!? とんでもない魔力数値だ! このままじゃ都市ごと吹き飛ぶぞ! 全員、防御態勢を!!』
「出来る限り私で熱と衝撃を焼き尽くします! 各々方、後は任せる!」
一足早くオルガマリーの下へ戻ったアーチャーが防御のために
「――
この一瞬に懸ける命の輝きを見よとスパルタクスが
極限のダメージを極限の宝具出力に変換し、スパルタクスの
◇
【推奨BGM:消えない想い(FGO)】
◇
建造物がことごとく消し飛び、さながら爆心地と化した連合ローマ帝国首都の中央部。
「スパルタクス――スパルタクス!?」
呼びかけられ、揺すられ、揺蕩うスパルタクスの意識が覚醒する。
瞼を開けた目に映るのは、泣きじゃくるオルガマリー。頬に零れ落ちた彼女の涙が、スパルタクスの傷ついた霊基に温かく染み入ってくるようだった。
「んん……あぁ、小さき
「馬鹿ッ! 馬鹿、馬鹿、ほんとに馬鹿!? あなたの方がよっぽど酷い怪我よ!?」
力なくポカポカと胸を叩かれる。優しい痛みだ、疲弊しきった彼の肉体になんと心地よい痛みであることか。
そして自分で自分の横たわる身体を見下ろせば、それは酷い有り様だった。なにせ無事な手足は一つもなく、
「圧制者は……」
「虫の息だ。今は他の皆が追っている。あなたのお陰だ、スパルタクス殿」
「そうか。我が叛逆、完遂せり。満足である」
自身の負傷に頓着せず、満ち足りたように目を瞑るスパルタクス。
魔力の光がスパルタクスを優しく包む。優しい光とは裏腹に、特異点からの退去は既に始まっていた。
「馬鹿! なんで……なんで死んじゃうの? あなたとはまだ、もっと、たくさん話したかったのに……!?」
「死なぬさ……スパルタクスは滅びはせぬ」
スパルタクスは
「その小さき胸に宿る不屈の闘志こそが我が命、我が魂。私と語らいたければその胸に問いかけるのだ」
「あ……」
最期の力を込め、今にも砕けそうな手をゆっくりと持ち上げるスパルタクス。小鳥よりも弱々しくなってしまったその手をオルガマリーは咄嗟に胸に抱きしめた。
光がハラハラと散っていく。どんどん手から力が抜け、しかし燃え上がるように熱い
「あ、あああ……!」
「我が魂を連れて前へ進め。忘れるな、
「スパルタクス!」
「行くのだ、小さき叛逆者よ」
その言葉を最後に、スパルタクスは魔力の光となって宙に霧散し、祝福のようにオルガマリーに降り注いだ。
「……オルガ」
「大丈夫」
案じて声をかけたオルガマリーから思ったよりもずっとしっかりとした返事が返ってきたことにアーチャーは驚く。
「スパルタクスは死なない。わたしが忘れない限り、ずっと」
零れ落ちる涙を拭いて、胸を張り、顔を上げる。彼から伝えられた叛逆とはそういう在り様なのだから。
「だから、絶対に忘れないわ」
彼女はまだ強くない。いいや、一朝一夕で強くなれるはずがない。これからも彼女は驚くし、恐がるし、慌てるだろう。
それでもその胸に宿る叛逆の闘志が揺らぐことはない。スパルタクスの魂は確かに彼女の中に息づいているのだから。
活動報告で募集していた
『水星の魔女』のイメージが強い楽曲ですが、改めて歌詞を読みこむとオルガリリィの
完結したら是非『祝福』を聞きながら通しで読んで欲しい。
この星に生まれたこと、この世界で生き続けること、その全てを愛せる様に。
目一杯の祝福を、君に。
P.S
エレちゃん出演の二部七章後半が延期になったので失踪します。
エレちゃん出演の二部七章後半をプレイするので疾走します。そのうち戻るのでしばらく探さないでください。