【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 投稿再開します。第六特異点までは執筆済み。

 思うところあり、ここから幾つかのポイントを意識して執筆しております。読み味が変わるかも。
 ご意見ご感想ありましたら頂けますと幸いです。変わった、でも変わらない、でも。


封鎖終局四海オケアノス①

 

 第三特異点封鎖終局四海オケアノス。

 終わりなき海に無数の島々が浮かぶ、これまでと比べてもひと際異様な特異点である。

 

「ダメッ!」

 

 その海を渡る一隻の海賊船の上で、悲鳴のような否定が響く。

 ダビデ王の宝具にして聖遺物、聖櫃(アーク)が眠る島の近くであった。

 

「ダメダメダメッ! 絶ッッッ対にダメなんだから!」

 

 涙が零れ落ちそうなほど眦が潤んだオルガが両手を広げ、絶対に行かせないと俺を制止する。

 その頑なさはそのまま俺に向ける思いの表れで、不謹慎な話だがそこまで思われているということが嬉しい。

 

「お願いです、聞いてくださいオルガ」

「ダメッ、絶対聞かない!」

 

 両耳を手で塞ぎ、梃子でも動かないと全身で示すオルガ。

 子どもの聞き分けのなさ、()()()()。第一、第二特異点の出会いを経て、彼女は成長した。

 ならば何故彼女はここまで俺の言葉を拒絶しているのか。

 

「あー、みなはどう思われますか?」

『……霊基出力ならアーチャーも負けていない。だが』

『そう、「だが」だ。アーチャー。君を侮る訳じゃない。しかし相手が悪いと言わざるを得ない』

「俺はアーチャーを信じるよ」

「私は……すいません。私もアーチャーさんを信じたいのですが、相手がその、あまりにも」

「マシュの言う通りよ!」

 

 困り果てて周囲に意見を求めてみれば、断固反対のオルガを除き賛成一、消極的反対が三。

 協力者であるドレイク船長やサーヴァント達は首を振ったり沈黙を保っている。こちらも否定よりの空気だ。

 厳しいな。さて、どう説得したものか。

 

()()()()()()()()()なんて絶対許さないんだから!」

 

 つまりはこういうことだ。

 世界に名だたるギリシャ神話の大英雄たるヘラクレス。目下、最大の脅威である敵サーヴァントへ俺は決闘の意志を示し、大反対を喰らっていた。

 

 ◇

 

 この場面に至るまで様々な出来事があり、海を渡る旅路があった。

 大海賊フランシス・ドレイクとの出会い、血斧王エイリークとの戦い、アステリオスと女神エウリュアレとの邂逅。月女神アルテミス/狩人オリオン、アタランテ、ダビデの加盟。

 海賊サーヴァント率いる“黒髭(ヘンタイ)”ことエドワード・ティーチからの襲撃を辛くも逃れつつ、逆襲によって聖杯を手に入れるあと一歩まで追いつめる。

 しかし黒髭側であったはずのヘクトールが裏切り、聖杯を奪取。本当の陣営である世界最古の海賊団(アルゴノーツ)へ帰還。首魁であるイアソン、魔女メディア (リリィ)、そして大英雄ヘラクレスが登場した。

 

 彼らの狙いは女神エウリュアレ。詳細不明だが聖櫃(アーク)に女神を捧げることを目論んでいるらしい。

 

 聖櫃の持ち主であるダビデ曰く、それを為せば聖櫃はエラーを起こし、この特異点が消滅――すなわち人理が崩壊する。何故そんな愚行をするのかまでは分からないが、絶対に実行させてはならない。

 同時に最大の脅威であるヘラクレスの排除にみなが頭を悩ませているところに俺がこう提案した。

 

「私がヘラクレスを討ちます」

「絶対、ダメ!」

 

 イアソンのヘラクレスへの信頼は絶対と言っていい域にある。

 ならばそれを逆手に取り、俺が一対一の決闘を申し込めば拒絶することはまずない。決闘に乗じてヘラクレスを討ち、後は数的優勢を使って奴らを倒せばいい。

 そう考えての提案。だが蓋を開けてみればみなそろっての大反対、という訳だ。

 

 ◇

 

 夜半、聖櫃が眠る島に設置したキャンプ地にて。

 俺は膝を抱えて焚火を眺めているオルガに視線を送りつつ、こっそりため息を吐いた。

 

「あはは。難しい顔してるね、アーチャー」

「明日はどう説得するか考えていたもので」

 

 俺の下へ歩み寄ってくる藤丸に答えながらチラリとオルガを見る。意を察した藤丸が苦笑した。

 

「所長、凄い剣幕だったね」

「取り付く島もありませんでした」

「あはは」

 

 両手を上げて降参のポーズを取れば藤丸も困ったように笑い、頬を掻いた。

 その様子に俺の方が申し訳なくなり、自然目を伏せた。

 

「勝つと信じてもらえなんだ私の不徳です。お恥ずかしい」

「ううん、所長はきっとアーチャーが心配なんだよ」

「私がサーヴァントでなければ素直に喜べたのですが」

 

 苦みの籠った笑みを頬に刻む。

 サーヴァントは兵器だ。心配されるとはつまりマスターの信頼を得られていないということ。

 

「アーチャー、それは違うと思う」

 

 だが藤丸は首を振り、強い口調でそう言い切った。

 

「大切な人が危ない目に遭うなら心配するのは当たり前だ。そうでしょ?」

「そう、そうですね。……忘れていました」

 

 ため息を一つ吐き、思わずガリガリと頭を掻いた。

 まさかはるか年下の藤丸に今更『当たり前』を教わるとは。

 従う者であり続けた弊害か。どうやら俺は俺自身を軽視するクセがあるらしい。

 俺とオルガはサーヴァントとマスターだが、決して()()()()ではないのだから。

 

「ですが困りました。どうやって説得するかますます分からなくなった」

「うん、きっと大丈夫だと思うよ」

「? と、言うと?」

「所長は怖がりだけど公平だから。きっともう一度アーチャーと話しに来ると思う」

 

 もう一度オルガを見る。焚火を向いて膝を抱えた姿勢のまま微動だにしていなかった。

 

「昼はともかく、夜になってもこちらを向いてもくれないのですが」

「一度間を置いたから頭が冷えて自分を責めてるんじゃないかな」

「確かに」

 

 理解度の高いその解説に思わず頷く俺である。藤丸はオルガのことを随分とよく分かっているらしい。

 

「所長とアーチャーはいいコンビだから二人で話し合えばきっと大丈夫」

「ありがとう、藤丸」

「気にしないで。それじゃ」

 

 力強い笑顔でグッとサムズアップを向けられる。心強いエールに力付けられ、丁寧に一礼を返すと藤丸は手を振って焚火の方へ戻っていった。

 

「……」

 

 そのまま少しの間、立ったまま空を眺める。だがすぐに夜空の観察は終わった。

 生い茂る草を踏みしだく音が俺の耳に届く。

 そして……足跡の主は無言のまま俺の背中にコツンと額を当てた。この小さな背丈は一人しかいない。

 

「オルガ」

「振り向かないで、そのままでいて」

 

 制止に従い振り向こうとした動きを止める。

 

「……話したいことがあるの」

 

 夜闇の中で互いに顔を合わせぬまま、俺とオルガの会話が始まった。


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