【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
推奨BGM:天地砲哮(Fate/stay night)
そしてアルゴー号を待ち受ける時が過ぎ去り、三日後。
黄金の鹿号の船上で一枚の矢文を覗き込む一同がいた。
「イアソンが釣れたね」
「はい、ビックリするくらいあっさり釣れました!」
「アタランテが矢文を撃ち込んですぐ返事が返って来たわ」
「多少歪んでいても
カルデア勢が口々に評する中、サーヴァント達も相槌を打った。
「これで話は分かりやすくなったね」
「おうさ。あたしらはあんたに賭けたんだ。頼むよ、アーチャー」
「……どうでもいいけど。あの男には目に物を言わせてやりなさい。じゃなきゃ呪うわ」
「それじゃ頑張って! ね、ダーリン♡」
「あとよろしくみたいな軽いノリで言ってるけど俺らにもまだ仕事残ってるからね?」
水平線に姿を現したアルゴー号へ撃ち込んだ一対一の決闘の申し入れは、イアソンの嘲りに満ちた返答を以て受諾された。
「笑えるくらいにいつものイアソンだな、悪い意味で」
やれやれと肩をすくめたアタランテのコメントである。
だがすぐに同質の鋭い視線を俺に向けてきた。
「改めて問うが勝ち目はあるのか?
同じギリシャの英雄として骨の髄までその強さを知るアタランテの言葉には相応の重みがある。
それを知った上で俺は答えた。
「もちろん」
ただ一言に、俺ではない者への信頼を乗せて。
◇
聖櫃が眠る島の開けた大地にて俺とヘラクレスが向かい合う。
それ以外の者は全て各々が属する船に乗ったまま、海からこの決闘を見守っている。横やりを防ぐため、
「■■■■……」
筋骨隆々、膂力無双。
岩塊から削り出したが如き荒々しく巨大な斧剣を構えた大英雄が俺を睨んでいる。
英雄王や天の鎖と比肩する圧力に圧されながらも俺は敢えて笑みを浮かべた。
「私はアーチャー、キガル・メスラムタエア。オルガマリー・アニムスフィアのサーヴァント」
息を貯め、胸を張って堂々と名乗る。
なによりヘラクレスは敬意を表するに値する大敵。それを欠けばいつか再会した主や王、友に軽蔑されよう。
「……」
斧剣を地に突き立て、静かに名乗りに耳を傾けるヘラクレス。知性無き狂戦士なれど彼は正気までは失っていない。そのことを確信する。
「イアソンの愚行に付き従う理由など敢えて問うまい。互いが信じる者のため、あなたに決闘を申し込む」
「■■■■……!」
ヘラクレスが人よりも獣に近い唸り声で応じ、決闘は受諾された。
再び斧剣を構える彼に応じた俺もまた水晶弓を無数の攻勢端末にバラし、周囲へ展開。
睨み合うもしばし、互いに機を待つ時間が流れ。
――轟音。
太陽が頂天に達したその瞬間、二隻の海賊船が上げた号砲を皮切りに俺とヘラクレスの決闘が始まった。
◇
単純に最強。それこそがヘラクレス。
全てが突き抜けたステータス、
加えて十一の蘇生魔術を重ねがけし、ヘラクレスを限りなく不死身とする宝具、
「なるほど、まさに最強だ」
攻勢端末が放つ熱線を牽制に距離を空けつつその暴威をいなす。
その身一つで英雄王や天の鎖と比肩されるに足る大英雄。彼が繰り出す一振りで森が薙ぎ倒され、地が割れる。
一撃一撃が地形を変える程に剛力でありながらその軌跡は研ぎ澄まされた必殺。理性を失いながらその身に刻んだ武が失われることはない。
「■■■■……!」
大剛撃。
牽制合戦の上誘い込まれた死地。体勢を崩された俺にヘラクレスが大上段から回避不能の斧剣を振り下ろす!
「集え、水晶! 我が盾となれ!」
大量の攻勢端末を盾に使い潰して稼いだ時間で体勢を立て直し、辛うじて回避する。
斧剣が地に突き立った衝撃で弾ける地煙に紛れ、俺は素早く距離を取った。
爆心地の中心でヘラクレスは燃えるように熱い息を吐き、静かに俺を睨みつける。その瞳に称賛の色が宿っていることを感じ取った。
「見事。その武威、幾重にも敬意を表させて頂く」
まさに英雄、まさに益荒男。
狂戦士でなければ
単純な霊基出力ならば魔神柱が勝れど、より強敵なのはヘラクレスだろう。
「だが勝つのは俺”達”だ」
「■■■■――!!」
勝てるかどうかは分からない。それでも負ける気はない。
何より俺は一人で戦っているのではないのだから。
俺は言ったぞ、ヘラクレス。俺こそオルガマリー・アニムスフィアのサーヴァントだと!
◇
『アーチャー……』
一対一の戦争が繰り広げられる島の上空に漂う一基の攻勢端末がある。
それを使い魔として視覚を繋げ、俯瞰視点で戦場を見つめるオルガマリーは弓兵の身を案じてひっそりと呼びかけた。