戦艦<武蔵>艦長 知名もえか(High School Fleet & Red Sun Black Cross)   作:キルロイさん

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【祝 RSBC復刊決定】\(^o^)/



何と、中央公論新社様の公式Twitterにて、'20/6/25に「レッドサンブラッククロス」の再販が告知されました。

https://twitter.com/chuko_bungei/status/1276049545273569280

現在はオークションサイトか図書館でしか読めない仮想戦記小説の金字塔が、再び手に入れることが出来るのですよ(゚∀゚)

この機会を逃す訳にはいきません! バスに乗り遅れてはいけないのであります! と言う訳で興味がある方は是非どうぞ。












第一七話

シエンフエーゴス市南方、シエンフエーゴス州、キューバ島

同日 午後二時

 

 

 

 トリニダー市北方にある交差点で戦闘が始まる前まで遡る。

 

 シエンフエーゴス市南方で敵中に取り残されたアスカリのコンド軍曹と、奇怪な兵器を実地試験するためにキューバ島にやってきた少佐たちの一行は、トリニダーにいる友軍へ合流しようとしていた。

 

 彼らは少佐たちが用意したトラックに乗り込み、自然に還る寸前のような林道、コンゴ軍曹たちが守備していた小道という順で走り、街道に合流した。

 

 その街道を南方に進めば友軍に合流できる。

 

 街道は砂糖きび畑や林の中を突き進んでいくと小川を超える。ここまで平野だった地形はこの川を境に大きく変化し、丘陵地帯が西側の海岸線まで迫るようになる。街道はこの丘陵に押し出されたかのように海岸線に沿って南下していき、トリダニー市街に到着する。

 

 その街の北方にある交差点では、コンゴ軍曹が所属する英連邦陸軍の部隊が即席の防衛線を築いている。そして、ドイツ軍機甲大隊はそれを突破するために、その準備と補給作業を行っていた。

 

 攻撃開始点からここまでの走行距離が短いのに、その準備と補給作業に時間を割くのは無意味な行動と捉えるかもしれない。だが、ドイツ装甲大隊の指揮官は防衛線の突破だけではなく、それを救援しようとする枢軸軍の戦車隊に備えて、万全な体制を整えようとしていた。

 

 この指揮官は北米戦線で、それを怠ったことで手痛い被害を経験していたからだ。

 

 さて、キューバ島での激戦を生き抜いてきたコンゴ軍曹は、軍人としての直感でその先で待ち受けているであろう脅威を予想していた。だからといって、それが街道を走り出した途端に出現すると、敬虔なキリスト教徒であるけれど神を罵倒したくなる。

 

 そこにドイツ軍が居たからだ。

 

 この街道が小川を超えるところには橋が架けられている。その橋の手前に、何故かドイツ軍がいるのだ。だから、コンゴ軍曹は、ただちにトラックを後退させる。

 

 幸いながら、彼らはドイツ軍に発見されずに生い茂る灌木の影へ、トラックを隠すことに成功した。

 

 問題なのは、その後の行動をどうするかである。

 

 敵がいる以上、敵情把握は欠かせない。そのため、コンゴ軍曹はゴメス上等兵を連れて、ドイツ人が何をしているのか偵察することにしたのだ。

 

 

 

        ◇◆◇◆◇

 

 

 

 俺は双眼鏡でキャベツ野郎の様子を伺ったが、俺とは別の視点からの意見が聞きたかった。

 

 だから、俺は双眼鏡をゴメス上等兵へ渡して意見を聞いた。

 

「ゴメス上等兵、あれは何をしているか分かるか?」

 

「擲弾兵が見当たりまっせん。戦車の乗員だけでっす。壊れた戦車の修理を待っているか、戦車回収車が来るのを待っているみたいでっす」

 

 ゴメス上等兵の推測は俺のと同じだった。パンテルⅡはエンジンの点検用ハッチが開いている。そのパンテルⅡをキャベツ野郎が取り囲んで、何かを待っている様子だった。

 

 どうやら、()()()()()()に戦車が壊れたらしい。

 

 軍人でも誤解している者が多くいる。特に戦車に触れたことが無い者なら、殆どの者が誤解している。それは、戦車は走れば壊れるものだという事実だ。

 

 戦車は民用のトラックやバスと異なり、主砲や分厚い装甲板といった大質量の部品を搭載している。これらは車両の走行能力の向上に関係なく、むしろ走行装置に大きな負担を与えるものばかりなのだ。

 

 そんな車両で舗装されていない悪路や斜面を走行するから、整備員が丹念に整備しても操縦員が無理な運転をしなくても故障しやすい。

 

 だから、俺たちのような陸軍兵にとって、戦車が故障して立ち往生するのは日常的なものだ。

 

 この機会を利用しない手は無い。問題はどのように攻撃すべきかだ。それを俺たちは相談していく。

 

「軍曹、キャベツ野郎が車外に出ているから、片っ端から小銃で狙撃しちゃいまっしょう」

 

「うーん……。目測で一キロ弱だから小銃ならぎりぎり届きそうだな。けれど、この銃には狙撃用の光学照準器が取り付けられていないからなあ。撃っても当たらないぞ」

 

「じゃあ、バズーカ砲で撃っちゃいまっしょう」

 

「駄目だ。あの砲の射程距離は最大でも二〇〇メートル程度しかない。だから、匍匐前進で射程距離まで近づかなければならない。そもそも、あの砲は伏せた態勢で撃ってはいけない」

 

 俺にとってバズーカー砲は身体を伏せた態勢で撃つものではない。

 

 今まで使用していた英軍の対戦車兵器ピアットならば、バネの反発力で砲弾を撃ち出すので伏せたの姿勢でも射撃可能だ。

 

 それに対して、バズーカー砲ではロケット弾発射時の噴流によって火傷し易くなる。さらに、発射機の後部が地面にぶつかるので必要な射角が取れない。

 

 それ以前の問題としてロケット弾の射出が完了するまで、射角を維持し続けなければならない。これが簡単そうで意外に難しい。

 

 その理由としてロケット弾は初速が遅いのだ。そして、ロケット弾が点火して発射機を進んでいくと、重心が筒先に寄っていく。この時に発射機の保持方法に問題があると筒先が地面を向いてしまう。

 

 そうなると、目標の遥か前方に着弾することになる。ロケット弾を無駄に消費するだけで終わってしまう。俺はバズーカ砲の訓練を受けて経験を積んできたが、そのような展開になるのは避けたかった。

 

 バズーカ砲より長射程で、戦車を撃破できる火力。俺はその条件に合致する火器を求めていた。

 

 面白いことに、そのような兵器が偶然にも俺の近くにある。これを使わない手は無い。

 

「上等兵。少佐殿ご自慢の試作兵器で戦車を撃破出来そうか?」

 

「出来まっす。あの兵器は戦車だろうがジェット機だろうが、確実に撃破できる万能な兵器でっす」

 

「じゃあ、それを使わせてもらおう。携帯無線機を貸してくれ」

 

「軍曹、通信回線(チャンネル)は二番でお願いしまっす」

 

 俺は少佐を呼び出すと、状況を説明して試作兵器の使用を願い求める。俺の予想通りに少佐は快諾してくれた。

 

 俺は携帯無線機を返すと、ゴメス上等兵に敵情監視を依頼して少佐たちの元に向かう。そして、トラックに戻った時に俺は思わず目を丸くした。

 

 正面と側面のドアに描かれた白い星(ホワイトスター)は、鉄十字(アイアンクロス)が描かれた旗で隠されていた。おまけに、その旗は新品ではなく使い込んだ汚れまである。

 

 さらに、ナンバープレートまでドイツ軍制式車両の表記になっている。ドイツ軍が遺棄された合衆国のトラックを、再使用しているように偽装していたのだ。

 

 それだけではなく、トラックの荷台に乗っている少佐だけがキャベツ野郎の将校用軍服に着替えていた。

 

 何故、着替えたのか理由は知らん。だが、その姿は良く似合っていた。だから、俺は反射的に身体を動かしてしまった。

 

 そうさ、俺は少佐の眉間に向けて銃を向けて、引金を引いたのさ。

 

 俺の暴走を止める奴はいなかった。出掛かった小便は止められん。暴走自動車を赤信号如きで止められたら苦労しねえ。可愛い女の子から往復ビンタを受けても、キスしてベッドに押し倒そうとする俺を止めるなんて一〇年早いぜ! 

 

 だから、数秒後には少佐の後頭部に穴が開く……筈だった。

 

 俺を最後の一線で止めたのは銃の安全装置だった。俺は人間特有の論理(ロジック)が通用しない、機械的な冷静さに制止されたのだ。

 

 

 

 ふんっ、少佐殿、アンタは幸運だな。だがな、紛らわしい行動したら次は間違いなく撃つ! 

 

 

 

 俺は言葉にしないで宣言するとトラックの周囲を見渡した。少佐は一人でトラックの荷台から部品を降ろし、何かを組み立てている。例の試作兵器だろう。

 

 不思議なことに、研究者の助手のような風貌をした二名の白人のうち一人が見当たらない。そんな俺の表情に気づいたのか、少佐が答えた。

 

「スミス中尉は地雷を埋めに行った。三個しかないから、もうすぐ戻ってくる」

 

「何のためにですか?」

 

「塹壕で隠れていた時にドイツ軍のトラック隊が、後方の補給処に物資を取りに行ったじゃないか。そろそろ戻ってくる時間だと気づいてな。奴らに心がこもった贈り物を渡してやろうかと思ったのさ」

 

「ああ、そういうことでしたか。ところで、もう一人は何をしているのでありますか?」

 

「<バッグス・バニー>を走らせる準備をしている。ミッチェル中尉、準備は終わったか?」

 

 ミッチェル中尉は返答すると、バッグス・バニーのスタータースイッチを捻った。すると、内部のエンジンが起動して勢いよく紫煙を噴き出していく。

 

 その兵器は全体的にゴツゴツとした印象を与え、名前のようにウサギをイメージ出来ない超小型の装甲車であった。ウサギ一羽を搭乗員として想定しているような大きさだ。

 

 車両の中央部を占める箱型構造体の側面には、左右一対のラバー製履帯が装備されている。

 

 前面には光学照準器のような筒型の部品が埋め込まれており、後部にはガソリンエンジンが収められている。さらに、その後ろには電線ドラムが装備されていた。

 

 上面には合衆国陸軍の制式兵器であるM2 60ミリ迫撃砲が固定されている。

 

 少佐が俺へ簡単に説明してくれたが、元々はドイツ軍の無限軌道式自走地雷<ゴリアテ>を合衆国陸軍が鹵獲して、改造した兵器だそうだ。

 

 主な改造点は履帯をラバー製にしたり、炸薬を取り除いて撮像管(イメージオルシコン)を装備したりしたという。

 

 ここまで観察させてもらったが、この試作兵器はどう使うつもりなのか見当がつかない。それを、ミッチェル中尉が実演で教えてくれた。

 

 中尉はエンジンが温まった頃を見計らうと、肩紐で吊り下げたジョイスティック型のコントローラを前後左右に倒す。そのようにして、それを自由自在に操作していた。

 

 そのコントローラは四本の信号用電線でバックス・バニーに接続しており、余長電線は車体後部の電線ドラムに巻き取られている。

 

 どうやら、遠隔操作が可能なこの兵器で敵戦車へ体当たり攻撃しようとしているらしい。

 

 しかし、どう好意的に捉えてもこの兵器に積める爆薬は少ない。これでは、パンテルⅡの転輪を吹き飛ばすのが精一杯だろう。それでは、現状と変わらない。

 

 だからといって、少佐たちがやろうとしている事を尋ねてみたら、面倒なことになりそうだ。だから、深く考えないことにする。

 

 それより、名称が気になったので質問してみた。

 

「バッグス・バニーとは何ですか?」

 

「一〇年前から合衆国のテレビジョン放送で放映されている、アニメーションの有名なキャラクターだ。そいつは二本足で歩く賢いウサギで、動物だろうが人間だろうが敵対する者には容赦しない」

 

「面白いウサギですね」

 

「だろぉ? だがな、かなりの方向音痴なので誘導してやらなきゃならん。その兵器の名前にピッタリだと思わんかね?」

 

「はぁ、そのとおりだと思います」

 

 俺は感情が籠っていない声で答えたが、それはバッグス・バニーをまったく知らないからだ。俺にとって二本足で歩くウサギはピーターラビットだけであり、ウサギパイとなって人間に食べられる運命にある野ウサギでしかない。

 

 一体全体、どうしたもんだろ? 

 

 何気なく呟いてしまうが、特に答えを求めている訳ではない。

 

 動作確認を終えたミッチェル中尉は、試作兵器の組立が終わって動作確認を始めた少佐に声を掛けた。

 

「少佐、動作確認と暖気運転が完了しました。出撃可能です」

 

「よし、コンゴ軍曹はバッグス・バニーを誘導してくれ」

 

「誘導ですか? どのように?」

 

「軍曹はゴメスの所へ案内してくれるだけでいい。そこから先はミッチェルが誘導する」

 

「はい、分かりました」

 

 バッグス・バニーのコントローラは、ミッチェル中尉からタイミングよく戻ってきたスミス中尉に引き渡される。そして、コントローラが荷台にある小さな箱に結線されると、ミッチェル中尉は俺に声を掛けた。

 

「軍曹、敵はどっちの方向だい?」

 

「あっちです。キャベツ野郎に見つからないように、頭を下げてください」

 

「おう、気を付けるよ」

 

 そして、俺と中尉はバックスバニーに追いかけられるように走り出した。バッグス・バニーは時速一〇キロ以上で走れるので、ジョギング並みの速さで走らないと追いつかれてしまう。

 

 俺らは砂糖きび畑を走り、木立の中を駆け抜けていく。そして、ドイツ軍に見つからないように腰を屈めながら、雑草だらけで未開墾の平地を走りゴメス上等兵の元に到着した。

 

「上等兵、パンテルⅡの状況は?」

 

「変化なしでっす」

 

「ミッチェル中尉、これからどうされますか?」

 

「うーんとねぇ、少佐からの信号(シグナル)を受けてから、僕のバニーちゃんを走らせるよ」

 

 へっ? バニーちゃん? 妙な名前で呼ぶなあと思っていたら、中尉はスイッチを操作して待機(アイドリング)状態にした。そして、携帯無線機で状況報告しながらバッグス・バニーを丹念に掃除し始めた。

 

 短い距離を走行しただけなのに、至る所に履帯が巻き上げた泥が付着している。それを軍手で払い落としていた。それだけならまだしも、中尉は掃除を終えると携帯無線機を俺に渡してから、それに頬を擦りつけたのだ。

 

 その姿は、モテないお兄さんが小さな女の子へ、何度も頬ずりする様子にそっくりだった。

 

 この兵器に愛着がある技術士官だと感心するべきか、超えてはいけない一線を越えてしまった哀れな男と捉えるべきか……。

 

 はてさて、どうしたもんだろ? 

 

 誰に対して尋ねているのか俺も分からないが、思わず口にしてしまう。

 

 そんな事をしているうちに、携帯無線機から雑音混じりの指示が聞こえてきた。これが攻撃開始の合図だった。

 

「ミッチェル中尉、攻撃開始の合図です。お別れの挨拶をお済ませください」

 

「うん、そうだね……」

 

 俺の軽い冗談を真に受けたのか、ミッチェル中尉は別れを惜しむかのように撫でる。

 

 そして、意を決してスイッチを操作した途端、バッグス・バニーは一気に駆け出していったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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